DX推進は「データ」活用が重要~実践的DX論

舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)

株式会社インソース 代表取締役

1988年株式会社三和銀行(現:三菱東京UFJ銀行)入行。システム開発や個人向け新商品(テレフォンバンキング・コンビニバンキング等)開発を担当。2001年店頭公開流通業で個人向けサービスを企画・開発。2003年コンサルティング会社として株式会社インソースを設立。後に社会人向けの教育事業に特化。2016年7月東京証券取引所マザーズ市場に上場、翌年同取引所第一部市場に変更。民間企業から官公庁・自治体まで幅広く、DX推進支援やDX研修を多数実施。



1.DX推進はデータ活用から~データ活用は細かい仕事の集合体

私は2002年にインソースを創業し、もっぱら社会人教育というレガシーでほとんど成長していない業界で、全くのゼロからDXの構成要素である「データ」と「IT」を利用し、一つひとつ「データ」を整備し、ITで活用できるようにし、コツコツと事業を拡大してきました。その結果、経常利益率30%超の高収益企業になり、2017年には社会人教育専業の企業としては珍しく東証一部上場の企業となっています。

経験的にDX推進は細かい仕事の集合体であり、日本企業が最も得意な分野だと考えます。私でもできたDX推進ですので、この大チャンス活かして欲しいものです。

望んだ訳ではないのですが、学生時代から現在までずっとデータ活用と縁がありました。それを踏まえて実践的なDX論を書いてみました。

2.大学で学んだデータ活用の基礎~神戸大学経営学部田村ゼミの思い出

私は1988年に神戸大学経営学部を卒業しました。ゼミは流通システム論の田村ゼミに在籍しておりました。自分で言うのはなんですが、目立たず、優秀でもなかった学生でしたのでゼミ生として私が在籍していたことは、田村先生は憶えてらっしゃらないと思います。それでも、今の私にとって田村ゼミで学べた事は有意義でした。DX推進に関して、また私の人生に影響を与えたことが、2つあります。

1)情報は減らない財~DXの本質を田村先生の講義から着想した

田村先生の商学基礎論の講義で『流通には3つの機能がある、商流、物流、情報流だ』というお話がありました。その時、ぼんやりと、「この中で情報だけはいくら使っても減らないな」と思った事を今でも鮮明に覚えています。まさに、これがDXの本質であると考えています。社内外にあるデータをどれだけ使い倒せるか、滞留させることなく、情報流のスピードをどんどん上げていくことが、事業業績を上げていくカギだと考えます。

2)データ解析を田村ゼミで学ぶ~インソースでのDX推進に大いに役立つ

データ解析の基礎は大学時代に学びました。学部の授業で初等統計学を学び、ゼミでは因子分析や重回帰分析などを利用した市場調査を学びました。卒論はマーケティングに関して、自由に課題を選んで良かったのですが、田村先生から私に「因子分析を使った論文にせよ」とご指導があり、「学生におけるクレジットカードブランドのイメージ分析」に取り組みました。当時はコンピューターが1人に1台ある時代ではなく、大学の計算センターで、職員の方に一つひとつ操作を教えてもらいながら、統計解析ソフトであるSPSSを使い、なんとか卒業論文を書きました。

インソースは主として研修サービスを提供していますが、人事評価へのIT活用などいわゆるHRテックも提供しています。また、セミナーの来場予測にAIの機械学習を活用し大幅に利益率を向上しています。学生時代に学んだデータ解析が事業に大いに役立っています。

3.経験的「データ」論~私の経験からデータに関するいろいろ

■ 収益を生む価値ある「データ」が少しの方が収益化しやすい~銀行時代の経験より

私は大学卒業後、銀行に就職しました。その当時、90年代はITによるデータ活用、データベースマーケティングが流行していました。ここでもデータ活用に縁があり、SEとしてIT部門でデータベース構築とデータ活用の仕組み作りを担当し、その後、個人金融部門に異動し自らが作ったデータベースを活用したダイレクトマーケティングを担当する事になりました。

当時、銀行の1600万顧客の取引データを分析し、一定の仮説を立てて、DMを打ったり、セールス企画を立てていましたが、残念ながら、誇れるような成果は出ませんでした。金融商品販売の決定要因は、顧客のフロー収入と金融資産の額の2つでした。これらのデータは、取引データの中にはありませんでした。つまり、1600万人の取引データを持つことが重要なのではなく、必要なのは、銀行の取引データでは分からない10万人ほどのお金持ちのフロー収入の捕捉と金融資産データでした。昨今、データは多ければ多い方がいい、データ解析は重要と言われてますが、実際は、価値あるデータが少しの方がビジネス上は成果を早く上げやすいというのが実感です。

■ 独自の営業スタイルからインソースのDX経営をスタート~創業期のある発見

インソースは現在、3万社以上のお客様とお取引いただいております。未経験の社会人教育業界でゼロから創業したので、まさにゼロから開拓したお客様です。この営業活動の中からインソースのDX経営がスタートしました。

●6回電話するとお客様に会える、150通メールを送るとお問い合わせが来る

創業期、ある発見がありました。同じお客様に対して、だいたい6回ぐらいお電話すると会っていただけることを発見しました。もちろん、毎日毎日、同じ先に電話を続けるとクレームになるので、1年ぐらいかけて、こちらがセールスに必要なお客様の情報を徐々にヒアリングしながら6回架電するのがコツです。また、その際にいただいたお客様のメールアドレスに数年かけて150通ぐらいメールを送ると、お問い合わせをいただけることも発見しました。

●お客様の「データ」を集めることで業績が拡大~記録システムPlants開発

その結果、営業のミッションが「売上をあげること」から「お客様にアプローチし、情報を取る」ことに変わりました。バリバリ売上を上げていくのは熟練したベテラン営業担当でないとなかなか難しいですが、コツコツとアプローチを稼ぐのは、営業に慣れていない若手営業でもできます。スタートしたばかりのベンチャー企業には適した営業スタイルでした。

そんな営業方法を取っていると、お客様に何回アプローチして、どんな内容を話したかの「データ」を記録しておくことが重要になります。紙でのデータ管理の手間が大変だったのでシステム化しました。植物を育てるようにお取引を育てていこうという意図で「Plants」と名づけました。売上確保に先んじて、Plantsでお客様のデータを集めることに集中した結果、業績が安定的に拡大しました。

●集めるデータを絞れば「データ」は集まる~データ収集は最低限から

「Plants」を開発した後、工夫したのがいかに営業担当者の負担感なくデータ登録させるかでした。そのため、入力項目はわずか6項目としました。

入力項目を厳選する際、他のデータから内容が容易に推測できるものや、営業活動に貢献する可能性が低いデータは入力対象から外しました。例えば、営業訪問に際し、商談時間はだいたい1時間なので、開始日時は入力だけ入れてもらうようにしました。また、データ入力のモチベーションを上げるため、データ入力すれば、封筒の宛名印刷が自動化されるなど、目に見えて営業担当者が実感できるメリットを作ることも工夫しました。

営業支援のASPを導入しているが、なかなか業績が上がらないという話をよく聞きます。入力項目が多すぎて、営業担当者がまじめに入力しなかったり、データ入力に時間を取られ過ぎて本来の営業活動がおろそかになり、業績があがらないのではないかと思います。

DX推進においてデータは不可欠ですが、データ収集という手間のかかる仕事は重要な経営課題と考え、収集するデータを選別し、最低限からスタートするのが成功のポイントだと思います。

■ 業務プロセス上で発生する「データ」は使い倒す

業務プロセスで出現するさまざまな「データ」に一つひとつ注目し、「何か利益を生む事に使えないかな?」と考え、活用を考える事がまさにDXの本質です。ポイントは社外の「データ」を社内で徹底的に流通させ、社内のデータを積極的に社外公開する事が高い価値を生むことを全社で理解し、推進する事です。

研修サービスは組織の課題解決を目的として実施されます。インソースが研修サービスを提供するプロセスは、受講者の「悩み」を集め分析して、それに対応した研修カリキュラムを作成し、講師を選定し、受講者の研修に対する評価を収集分析し、研修内容の改善に努めるというものです。このプロセスで発生する「データ」はすべてデータベース化し、できるだけWebで公開し、大きな利益を生んでいます。

●100万件以上の働く人の「悩み」データベースは新商品開発に利用

インソースでは、多様な業界で研修を実施しているため、あらゆる業界で働く人の悩みデータを保有しています。今では100万件以上になり、スピード感をもって新商品開発に活用しています。昨今ではコロナ禍におけるリモートワークの悩みを蓄積しつつあります。

●3千件の研修カリキュラムのWeb公開でがお問い合わせ増加につながる

研修カリキュラムは営業機密情報であり、創業当時も今も公開する同業者はほとんどありませんが、現在、3千件を超える研修カリキュラムをWebで公開しています。創業期はなかなか研修受注が獲得できなかったので、やむなく広告宣伝のため、カリキュラム公開に踏み切りました。その結果、Googleの検索順位が大幅に上昇し、お客様のお問い合わせが増え、売上に貢献しました。

●研修アンケートのWeb公開は受講者数拡大に効果絶大

受講者満足度アンケートの結果(図表1)について、研修内容、講師に対する評価、年間総受講者数などをWebに掲載しています。オープンに受講者を募る「公開講座」の受講者評価をWebで詳細に開示した半年後、一気に受講者数は50%増加しました。顧客評価を開示するのは勇気がいりましたが、結果は吉と出ました。

図1:研修受講者アンケートと研修受講者評価(例)

■ 組織内でデータ流通を阻害しない~流通経路を整備し、流通スピードをアップさせる

大企業では、各部門がコンプライアンス遵守を理由に、「触らぬ神に祟りなし」とばかり、情報漏えいを恐れ、あらゆる「データ」に社外秘、部外秘というラベルを貼り付け、上手に活用すれば、業績拡大だけでなく、業務改善、リスク管理に活用できるデータを隠匿していることが多く見られます。これはDX最大の阻害要因となります。

特に懸念されるのは外部データの社内流通が部門、事業、階層で遮断される事です。事業の外部環境は変えられません。できることは外部環境の変化に適応し俊敏に行動することです。リアルな外部データがスピード感を持って全社流通しなければ、適応行動は遅れる事になります。至急ITを活用し、データ流通の仕組みを構築すべきです。

その際、経営トップが「情報は原則流通させる」と宣言し、祟りを恐れる社内の人々を説得する事が重要です。宣言するだけでなく、チェックすることも大事です。

●社員全員お客様ニーズにリアルタイムに触れる~情報共有はリスク管理にもなる

インソースでは、お客様からのお問い合わせは情報展開の担当者を設置し、全社に即時展開しています。そうすることで、営業部門以外の部門もリアルタイムにお客様のニーズを把握することが可能となり、新サービスの開発スピードを飛躍的に上げる事が可能となりました。

2020年から続くコロナ禍で研修が中止となる中、昨年は一時、売上が4割減、単月2億円の赤字と絶体絶命の大ピンチとなりました。開発部門が在宅勤務対応の研修やeラーニング・動画の開発をスピーディーに実施し、その結果、最終的には昨年黒字で乗り切る事が出来ました。

4.DX中核人材を育成する~新人・若手にプログラミングを教えるべき

スピード感を持って、社内をDX化していくには、やはり、プログラミング経験を持つ人材を多数社内で養成する事が重要だと思います。「このデータはこう使える」とか「業務改善はこんなシステムがあればできる」等、プログラミング経験があれば容易に分かります。若い方ならごく短時間でプログラミング技術を身につけます。例えばExcelなどと親和性の高い簡便なプログラミング言語であるPython(パイソン)なら、2週間程度で充分習得します。

インソースでは、2021年春入社の新人30名全員に対し、Pythonの研修を受講させましたが、一人の脱落者もなく終了し、配属先で私もびっくりするぐらいのレベルのプログラムを開発し、業務改善に活用しています。この成果は想像以上であり、来年以降も新人全員プログラミング教育を実施していこうと考えています。

最後までお読みいただき感謝いたします。

◆舟橋孝之氏との出会い
舟橋氏は、私が在籍していた神戸大学経営学部田村ゼミナール時代の先輩です。田村ゼミでは卒業後も人的交流が活発で、舟橋氏ともたびたびお会いする機会がありました。インソースを立ち上げた後は、熱く夢を語られ、それが実現化していくことに驚かされたものです。インソースの強さは、環境の変化に適応したスピード感のある商品開発と、圧倒的なコンテンツ量で他社の追随を許さないところにあります。最初は3千件を超える研修カリキュラムをWebで公開することに抵抗があったようですが、Googleで「オンライン営業研修」「DX研修」「リスク管理研修」といった研修関連のワードで検索すると、ほとんど1位を占める成果を生み出しています。導いたのは、商流、物流に続く3番目の流通機能「情報流」を加速する考え方。社内外にあるデータを滞留させることなくどれだけ使い倒せるか、DXの本質の理解が経常利益率30%超の源泉になっています。

p_hirotomi.jpg

株式会社パワー・インタラクティブ 取締役/執行役員広富 克子

    
    デジタルマーケティングの成功体験をサポート