「キーエンス」をビジネスモデルキャンバスで紐解いてみた

2021年4月27日(火)

代表取締役 岡本 充智【文責】

製造業に携わる人ならよくご存じの株式会社キーエンス。キーエンスとは、「キー・オブ・サイエンス」。なんて美しい響きの言葉でしょう。技術に関わる人ならば、その言葉の響きに心酔してしまいそうである。さらにコーポレートメッセージは、「変化を支え、進化を加速させる」。この二つだけでキーエンスという会社が何を目的として、どのような行動を取っているかが想像できる。


そこでキーエンスをビジネスモデルキャンバスで整理してみた。ビジネスモデルキャンバスは、事業の成功を左右する九つの要因を一見して理解できるように、それぞれの関係性を見事に整理したビジネスフレームである。コンサルティングの現場では様々なビジネスフレームを駆使して、プロジェクトメンバーの理解共有や課題認識を進めることが多い。その中でも頻繁に活用しているのがこのビジネスモデルキャンバスである。ビジネスモデルキャンバスなくしては、効果的なコンサルティングが進められないと言っても過言ではない。

図表1:キーエンスのビジネスモデルキャンバス

※著者作成

キーエンスの経営スタイルはファブレスである。ファブレスとは、工場を持たない製造業である。アップルやユニクロ、任天堂なども代表的なファブレス経営である。工場を保有しないことで設備投資費用を圧縮したり、企画開発や営業活動に集中できるなどのメリットがある。急速に変化する市場に迅速に対応することが出来るのもファブレスのメリットである。一方で、ファブレスを支える協力工場との信頼関係に基づく情報管理や品質管理あるいはコスト管理は欠かせない。

キーエンスの価値提案がすごい。何と新たに生み出す商品の約7割が「世界初」「業界初」。ここで疑問が。なぜこのようなことが可能になるのか。まず他社と同じものはやらないとすれば「初」の選択肢は増える。ではどうやってこの「初」を生み出していくのか。中田有社長は次のようにメッセージしている。「当社の経営において、優先度の高い課題は、付加価値の高い商品を創造し続けることです。ものづくりの現場で何が起きているかを正しく把握し、先を見通すことで、お客様もまだ気づいていない課題を解決する新しい価値を持った商品が生み出されます。」

図表2:潜在的ニーズのイメージ

※著者作成

上記は潜在的ニーズのイメージであるが、顕在化したニーズよりも圧倒的に多くの市場が存在していると考えられる。潜在的ニーズは海面下にあり、お客様自身も気づくことのできない課題である。だからこそ、キーエンスは膨大な蓄積データや豊富な経験値をもとに、お客様の現場に深く入り込み、本質的な課題を捉え続けることにより革新的な商品を生み出し、最適なアプリケーションを提案できるのだ。加えて、代理店を介さないダイレクトセールス、いわゆる直販営業がお客様の現場に深く入り込むことを可能にしている。お客様と直接対話をすることで、問題点や要望をきめ細かく吸い上げることができる。

中田社長のメッセージに気になる内容を発見した。「もう一つの課題は海外での販売比率を高めることです。現在の海外売上高の比率は市場のポテンシャルに比べてまだまだ低いと言わざるを得ません。」キーエンスは海外市場においてもダイレクトセールス体制を根付かせていくと公言している。

キーエンスは「FACTORIST」という製造業エンジニアのための海外業務サポートサイトを開設している。

図表3:製造業エンジニアのための海外業務サポートサイト「FACTORIST」

※キーエンス 製造業エンジニアのための海外業務サポートサイトより引用
https://www.keyence.co.jp/global/special/other/

これがなかなかかゆいところに手が届いている。さまざまな視点で役立つ情報が満載されている。例えば、海外営業担当者や商社の担当者ならばビジネス英会話は問題ないが、エンジニアとなると苦手としている人が多いことが想像できる。ただ、最低限の英会話が出来れば、あとは現場での技術指導が中心になるので、むしろ専門的な技術用語を現地語で身振り手振りで片言で話せた方が信頼関係の構築に繋がる場合もある。ここで成長著しいベトナムで業務を行うエンジニアのための用語集があるか確認してみた。FA(ファクトリオートメーション)用語辞典に英語・中国語・ベトナム語として掲載されていた。FA、生産ライン、開発・設計を十分にカバーできる約2000用語が取り上げられている。

図表4:FA用語辞典 「英語・中国語・ベトナム語」

※キーエンス 製造業エンジニアのための海外業務サポートサイトより引用
https://www.keyence.co.jp/global/special/other/

海外に駐在もしくは長期出張で現場指導に当たるエンジニアにとってこれほど実践的な用語辞典はない。またキーエンスは業界に先駆けて日本人スタッフを常駐させて、日本語対応を推進してきた。海外でも日本と同じように豊富な在庫を擁して当日出荷を可能にしている。現場テストの出来るデモ機や突然のマシンダウンにも対応できる代替機の貸出も同じように対応している。他にもローカルスタッフへのトレーニングなど至れり尽くせりの対応体制が構築されている。まさに、ものづくりの現場へのギブアンドギブを徹底させている。現場に役立つ情報やサービスを徹底的に提供するからこそ、本質的な課題をあぶり出すことが可能になるのである。

このようにして、ものづくりの現場に精通した技術営業によって集められた現場情報はキーエンスのオペレーショナル・エクセレンスとして蓄積されていく。科学的営業と言われる独自の営業スタイルが競争上の優位性を確立できているのも、足で稼いだ膨大なものづくりの現場の課題データベースが基盤になっているのである。

オペレーショナル・エクセレンスに根付いたお客様の課題を解決すること、常に新しい価値を生み出し続けることを通じて、安定的な収益を上げることが出来ている。この10年間にわたり平均10%以上の売上高成長率、平均50%前後の営業利益率を達成し続けている。この収益が全社員に対する高い報酬として還元されている。そして研究所・クオリティラボ・ロジスティクスセンターを含む世界46ヵ国220拠点を健全に維持する原資にもなっている。キーエンスは今まで世の中になかった新しい価値を創造することで、社会に貢献し続けているのである。

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    代表取締役岡本 充智
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