コラム

新人向け社内塾 今年のテーマは「リサーチ!」

マーケティングコンサルタント 水野 友紀子【文責】

毎年、新人を対象とした社内研修『社内塾』を実施している。今年は企業のマーケティング課題の解決や、コンサルティングを実施するときに必要とされるリサーチ、すなわちマーケティング・リサーチの基礎を身につけるために行われた。今回のレポートでは社内塾の概要を参加者による体験談形式で紹介する。

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新人向け社内塾のねらい

今回の社内塾での課題は、『大阪本町に定食屋をオープンする場合どんなお店が良いか、リサーチをもとに提案を行う』である。参加者は3名。
設問設計や集計、分析・レポートなどといった実務的なスキルの習得、および仮説構築力などの論理的思考も併せて身につけることをねらいとし、出店予定地(仮)近辺のフィールドワーク(現地調査)や大阪在住の会社員へのアンケートなど、リアルな調査を行った。

社内塾の進め方

8月に2日間の集合研修を行い、そこから約2か月間、講師である森高とオンラインでやりとりをしながらアンケート調査やレポート作成などを進めていった。定食屋の提案は、集合研修からおよそ3か月後の10月のAll meetingで発表することになっていた。
フィールドワーク(現地調査)では、メンバー全員で協力してレポートを完成させるが、アンケート調査は企画から設問設計までを各々で行う。実査は、外部のモニター会社を利用。その後、アンケート結果のデータからレポート作成・提案を各自で考えた。
もちろん、各ステップの段階で講師のチェックおよびフィードバックを受けられるのだが、内容が一定の基準に達していない場合、容赦なく再提出となる。何度も再提出となるメンバーもいればスムーズに次へ進むメンバーもいて、個々の進捗に差が出ることとなった。

最初の難関フィールドワーク(現地調査)

出店場所に実際に赴き調査を行う、フィールドワーク。具体的には、出店場所の店舗確認、店舗前の通行量調査と近隣にある人気店の店内調査などを行う必要がある。まずはどういった目的で調査をするのか、そのためにはどんな項目を記録するべきかなどを、メンバー全員で話し合って決めた。そして、プレ調査として実際に30分ほど各自で店舗前の通行量調査を行うことにしたのだが、いざ30分後にお互いの調査内容を確認してみると、見事にバラバラな結果となっていた。調査項目が多すぎて、記録が追いつかなかったのだ。
そこで私たちは、もう一度調査内容を見直すことにした。そもそも私たちの仮説は『大阪の本町はオフィス街なので、周辺勤務の男性が外食に行くニーズが高いのではないか』である。この仮説検証を行うために再度考え直した調査項目は

 ●同行者の人数
 ●性別
 ●年齢
 ●持ち物の有無

だった。

以下結果である。

【同行者の人数】全体の約30%がグループで行動
【性別】全体の70%が男性
【年齢】「40歳~59歳」が最も多く47%をしめる。次に「20歳~39歳」が45%と続く。
男性は「40歳~59歳」が最も多い52%であり、中年層の男性が多い。女性では「20歳~39歳」が61%と最も多く、若年層の女性が多い。
【持ち物の有無】「持ち物なし」が僅かに多かった。

仮説設計に苦しんだアンケート調査

2日間の集合研修でフィールドワーク(現地調査)を行った後は、"定食屋の提案"に向けて調査の企画や設問設計、集計・分析を行った。私は最初のフィードワークの結果を受け、40~50代男性をターゲットに思い浮かべた。そして「男性がターゲットならボリューム重視で、かつ年齢が高くなるに従い和食が好まれるに違いない」と思い、和食のお店を候補とした。しかし調査企画を元に設問設計を講師のチェックを受けた際、お店の内容(仮説)が浅く、アンケートで検証すべき仮説があまり無いことを指摘されて断念。その後、スタミナ系をテーマとしたお店やヘルシーな蒸し料理メインのお店、ダイエット中でもデザートまでガッツリ食べられる店など、色々悩みながらどんなお店が良いか考えたのだが難航。
設問の提出期限を延ばしてもらってやっと決められたお店は、お味噌汁専門店だった。40~50代男性のニーズを捉えきれなかったため、ターゲットを大きく変更。男女で嗜好が異なるため、女性の中では最もボリュームの大きい20~30代女性向けのお店も需要があると考えた。素材にこだわった栄養バランスの良い食事、昼食時はゆっくりしたいというニーズがあるのではないかと仮定し、設問設計を行った。

実際のアンケート結果と提案内容

実際に調査したアンケート結果(抜粋)は以下の通り。

<普段お味噌汁を食べますか?>

普段お味噌汁を食べますか?

<地元の物を食べたいと思いますか?>

<飲食店に求めるものは何ですか?>

調査結果から、20~30代の女性におけるお味噌汁や地元食材へのニーズが確認できた。お味噌汁や地元の食材へのニーズは、30代の方がやや高い傾向にある。一方で飲食店に求めることについては、20代が「ゆっくりできる」の割合が高いのに対し、30代は「早く食べられる」の方が高い。大阪で働く30代女性には仕事に追われる"忙しさ"があるのかもしれない。そんな忙しい30代にこそ落ち着いた雰囲気で食事をして欲しいと考え、以下を提案した。

私の提案:「20分のお家タイム。定食屋いちじゅう」

コンセプト:「土鍋の味噌汁とご飯の定食屋」
価格:500円
メニュー:日替わり土鍋味噌汁+ごはん+漬物
食材:地元の野菜、お米
空間の演出:古民家風(畳)
座席レイアウト:一人席を複数作成

アンケート結果で地元産の食材を好む割合が高かったため、地産地消で栄養バランスの整った食事を、比較的安価で提供するお店を考えた。落ち着いた雰囲気で食事をしてもらえるよう、和風で落ち着く内装とした。

三者三様となった定食屋の提案

先述した通り私は具沢山のお味噌汁専門店を提案したが、ほか2名の提案も独自の視点を生かしたものだった。私が当初考えていた、40~50代男性をターゲットとした提案もあった。題して、『食べて引き締める 定食屋筋骨隆々』である。メタボ対策をテーマに、"高タンパク・低糖質"なヘルシーメニューを提供するお店だ。『ドリンクはプロテインに変更可能』という点を売りにしたいという構想だった。(残念ながら、アンケートではそこまでプロテインニーズはなかった。)
ラストを飾ったのは「早朝から本町を盛り上げる 定食屋スギタニ」。ご想像通り、提案者は杉谷である。モーニングからディナーまでを提供するが、お店の売りは"サブスク型朝食"だ。モーニング会員は月額1,900円(税抜)で毎日朝食を食べられるシステムとなっている。ターゲットは、アンケート結果で普段朝食を食べない割合が高かった『独身の男女』を想定していた。

研修での学び(まとめ)

現地調査では調査できる項目が限られるので、どのような目的でそれぞれの項目を調査するのかを明確にし、項目を絞り込まなければならない。街の特性やそこで働く人の属性など、事前に得られる情報はすべて調べ上げておくこと。そしてある程度の仮説を持っておくことが重要である。
また、調査の肝は調査企画の設計であると感じた。企画を作るには仮説を持っておかなければならない。それまでの調査から見えてきた事実を参考に、ターゲットの層のニーズと魅力的なコンセプトを考えるのだ。それもできる限り具体的である方が良い。私はこの工程で良いアイデアが浮かばなかったので、かなり苦しんだ。自分と属性が異なるターゲットを選ぶ場合は、ターゲット像に重なる人物にリサーチしてニーズを探ることも大切だ。ただ、どれだけ考え、リサーチをしていても、あらかじめ立てていた仮説とは違う集計結果が得られることもあり、そこが調査の面白い点なのではないかと思う。

水野 友紀子

マーケティングコンサルタント

水野 友紀子

マーケティングオートメーション活用支援

Adobe Marketo Engage、Account Engagement、Hubspotなど様々なMAツールの活用支援コンサルティングに関わる。
一方で自社マーケティング業務も担っており、Webサイトの運用や、MarketoとSalesforceを連携させた施策実行を行う。自社マーケティングでの成功体験をコンサルティングに生かすため日々奮闘中。
仕事部屋の近くに鳥が住み着いており、Web会議のBGMは鳥の鳴き声。

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