コラム

新分野進出は既存事業のビジネスモデル転換

代表取締役 岡本 充智【文責】

私事になりますがスポーツメーカーに在職していた時、かなり早い時期から新規事業にも取り組んできました。上層部を説得できずに社内で埋もれてしまった事業テーマもかなりの数になります。そのうちいくつかはトップの理解を得て市場展開しました。しかしことごとく事業撤退に追い込まれました。その理由ははっきりしています。その当時、市場そのものが存在しなかった。つまり早すぎたのです。業界にいると専門的になりすぎて思い込みが強くなります。常に業界のニッチを掘り出して、その市場で事業を立ち上げようとします。しかし自分たちが思うほど顧客ニーズは存在していないのです。本当は根気よくイノベータ層から掘り起こしていき、アーリーアダプター層まで何とか辿りつければ営業力を活かすことが出来るのです。しかしスタートダッシュが上手くいかなければ、営業の魂に火をつけることはできません。種火を灯すところまで開発が担わなければいけないということを何回かの失敗の後やっと気づきました。

そんな思いが積み重なってパワー・インタラクティブが誕生したと言ってもいいのかも知れません。コンサルティングファームにいた頃はひたすら新規事業や商品開発を意識してコンサルティング活動をしていました。そのおかげでいろいろな革新的な企業の新規事業に立ち会うことも出来ました。その中で新規事業や商品開発にはマーケティングが必須であることも身をもって体験しました。あの頃の失敗の連続がなければ今はないでしょう。

新分野進出は既存事業のビジネスモデル転換である

ここ数年、新分野進出のアドバイスをすることが増えています。一方で既存事業が成熟期から衰退期に向かう状況も加速しているようにも感じます。企業体力が弱まっている中での新規事業はほとんど成功の可能性がありません。新規事業は本業が利益を生み出しているときにこそ、種を蒔き水分や栄養を与えて育てていくものです。もし新規事業のサポートをしてくれないかという依頼があったときには、「新規事業」ではなく「新分野進出」という視点で考えましょうと提案しています。新規事業だと今までと異なる事業をしなければいけないという焦燥感に囚われます。それが焦りになりできもしない高い目標を掲げて自滅するということになります。事業を始めるということはそんな簡単なことではありません。千三つの世界に近いと言えます。そうでなければ成功した事業がカンブリア宮殿やガイアの夜明けで取り上げられることはありません。

新分野進出となれば既存事業から大きく道筋が反れることはありません。まず本業のリソースを活かすことを考えます。本業の収益性が劣ってきていればそれは本業の収益を上げる仕組み、つまりビジネスモデルが劣化していることを示します。企業活動から生み出される事業価値が、市場に受け入れられなくなってきていると言えます。ここで着手するのは事業価値の見直しと市場ターゲットに対するマーケティングの仕組みの刷新です。これを「既存事業のビジネスモデル転換」と名付けています。整理しますと、

 ●ビジネスモデルキャンバスをもとに現在の事業ビジネスモデル構造をまとめます。
 ●特にリソースの洗い出しを徹底して行います。バリューチェーンに沿って洗い出すのがよいでしょう。
 ●成長市場を視野に入れた事業価値を仮説立てていきます。
 ●その事業価値を享受できる市場ターゲットをペルソナで設定して見直します。
 ●ここまでの情報や議論をもとに新しいビジネスモデルキャンバスを描きます。

ここで成長市場をどう捉えるかということですが、新分野進出のアドバイスを行う際に必ず使用しているのが内閣府より出されている「未来投資戦略2017」です。未来投資戦略2017は、2012年の日本再興戦略から始まる成長戦略の最新版です。サブタイトルは、「Society5.0の実現に向けた改革」です。このSociety5.0は、蒸気機関による第一次産業革命、電力・モーターによる第二次産業革命、コンピュータによる第三次産業革命、そしてAI・ビッグデータ等による第四次産業革命の技術変化の中で、社会変化も工業社会から情報社会そして超スマート社会実現に向けた取り組みとしてSociety5.0が登場しました。このSociety5.0に向けた戦略分野として以下のものが挙げられています。

1. 健康寿命の延伸
 ・健康・医療・介護データの一元化の仕組み
 ・遠隔診療やAI開発・実用化の促進
 ・介護ロボットの導入促進
2. 移動革命の実現
 ・トラックの隊列走行の実現
 ・無人自動走行による移動サービスの実現
 ・ドローンによる荷物配送の実現
3. サプライチェーンの次世代化
 ・データ連携の制度整備
 ・スマート保安に対応する保安規制の高度化
 ・IoTによるネットワーク化による付加価値の創出
4. 快適なインフラ・まちづくり
 ・i-Constructionの対象拡大
 ・建設現場の生産性向上
 ・災害対応ロボットの開発促進
5. Fin Tech
 ・オープンイノベーションの推進
 ・キャッシュレス化の推進
 ・新たな決済サービスの創出

成長市場を視野に捉えた既存事業のビジネスモデル転換がネクストステージに入るための処方箋だと思います。第四次産業革命の核をなすIoT、ビッグデータ、AI、ロボットのイノベーションを取り入れた成長市場に向き合ったビジネスモデル構築を支援していきたいと思います。改めて、新分野進出は既存事業のビジネスモデル転換です。それは事業価値の見直しと市場ターゲットに対するマーケティングの仕組みの刷新がポイントになります。特にマーケティングの仕組みの刷新においては、進化を続けるマーケティングオートメーションを活用して新分野に楔(くさび)を打っていくこともぜひ考えたい秀逸な施策です。パワー・インタラクティブは世界最大のマーケティング専業ベンダーであるMarketo(マルケト)のパートナーとして60社以上の導入活用コンサルティング実績を持っています。ぜひ新分野進出のパートナーとしてお考えいただければ幸いです。

以上

岡本 充智

代表取締役

岡本 充智

中期ビジョン策定支援

京都⼯芸繊維⼤学繊維学部卒業。株式会社アシックス⼊社。アスレチック部⾨の商品開発・販売促進を担当。新規ブランド⽴ち上げやブランドマネジャーを歴任。その後、住友ビジネスコンサルティング株式会社に転じ、マーケティング分野のコンサルタントとして戦略デザインの構築・実⾏⽀援に数多くの成果を上げる。1997年2⽉、株式会社パワー・インタラクティブ設⽴。代表取締役に就任。現在に⾄る。

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