Brazeで実現する、AIと「信頼」を両輪とする顧客エンゲージメント戦略

顧客エンゲージメントプラットフォーム Braze は、2025年6月に大阪でオフラインイベント「変化を先取りする力:消費者動向とCX戦略の最前線 in 大阪」を開催しました。 本稿では、Braze株式会社の日本市場製品責任者である新田 達也 氏によるセッション「顧客と長期的に繋がる!Braze で実現するエンゲージメントマーケティング」についてレポートします。
多くの企業がデータ活用やDXに取り組む一方で、その成果が顧客体験の向上やLTVの最大化に結びついていない、という課題は少なくありません。今回のセッションは、その根本的な解決策が、単なるツールの導入ではなく、顧客との「信頼」を核としたエンゲージメントにあることを明確に示しました。そして、その理想的な関係性を大規模に、かつ効率的に実現する鍵として「AI」の戦略的活用を提言する、示唆に富んだ内容でした。
本記事では、このセッションで語られた顧客エンゲージメントの最新トレンドと、それをBrazeのAI機能がどう実現するのかを紐解きます。明日からのマーケティング活動のヒントとなる、実践的なインサイトをお届けします。
なぜ顧客エンゲージメントが重要なのか? その核となる「信頼」というキーワード
セッションではまず、現代のマーケティングが直面する厳しい現実がデータと共に示されました。72%の顧客が、一貫性のない体験を理由にブランドからの離脱を検討し 、90%もの顧客が自分に無関係なメッセージを不快に感じています。これらの数値は、一方的な情報発信がもはや通用せず、顧客一人ひとりとの長期的な関係性を築くこと、すなわち顧客エンゲージメントを高めることがビジネス成長に不可欠であることを示しています。
顧客エンゲージメントとは、企業と顧客との間に生まれる「信頼関係」そのものと定義できます 。たとえば、好きなブランドの情報をSNSでチェックしたり、商品のリピーターになるといった行動は、エンゲージメントの高さを示す具体例です。エンゲージメントを高めるために、最も重要なキーワードは「信頼」であると新田氏は強調します。
信頼を勝ち取るための3つの最新トレンド
Brazeが提言する「2025年の顧客エンゲージメントトレンド*1」は、この信頼構築への具体的な道筋を示しています。
トレンド1:透明性を通じて信頼を創る
高度なパーソナライゼーションを目指す上で、データプライバシーは避けて通れない課題です。経営層の99%がプライバシーに関する懸念が計画に影響していると回答しており、特に43%が「データ共有についてのユーザーの同意」を懸念点として挙げています。
ブランド側のわずか15%しか顧客との信頼関係を重要視していないのに対し、消費者側はその半数(50%)が重要だと考えており、ブランドと消費者の間に「信頼」に対する認識のズレが存在します。
この深刻なギャップを埋め、顧客に安心してデータを提供してもらうための鍵が、明確な価値提供です。セッションでは、その価値提供を4つの段階で高めていくモデルが紹介されました。これは、単なる金銭的なインセンティブから、より深い関係性を築くためのステップを示しています。
・トランザクション(金銭的価値): クーポンや割引など、直接的なメリットと引き換えにデータを提供してもらう。
・効率性(時間的価値): ECサイトのチェックアウト簡易化など、顧客体験をスムーズにすることで利便性を提供する。
・仲間意識の醸成: データを提供することで、ブランドコミュニティの一員として認められているという所属感を与える。
・自己実現の価値: 自身の生活や人生がより豊かになる、という高次の価値を提供する。
データをどのように利用し、顧客にどのようなメリットがあるかを透明性を持って明確に伝えることが、顧客の懸念を払拭し、長期的な信頼関係を築くための第一歩となります。
トレンド2:メッセージを適切に届ける
メッセージは「何を」伝えるかだけでなく、「いつ」「どのチャネルで」「どのような文脈で」伝えるかが極めて重要です 。現代の消費者は平均で14以上のデバイス、プラットフォーム、チャネルに接触しており 、企業とのタッチポイントはかつてなく多様化しています。特に日本ではLINEが9900万人以上のMAU(月間アクティブユーザー:2025年6月時点)を抱えるなど、メッセージングアプリの存在感が増しており 、顧客がいる場所に企業側から出向いていく必要があります。
そのため、プッシュ通知やメールといった従来のチャネルに加え、アプリ内メッセージ、LINE、広告メディア連携、ランディングページなど、多様なタッチポイントを統合されたプラットフォームでカバーする「クロスチャネル戦略」が不可欠です 。顧客が利用するチャネルよりも少ないチャネルでアプローチすることは、機会損失に直結します。
Brazeは2011年のプッシュ通知から始まり、継続的にチャネルを拡大し、現在では多様な顧客接点に対応しています。
トレンド3:AIを活用して顧客体験を向上させる
Brazeが調査したレポートでは、マーケティング幹部の78%がAI関連の支出増を予測しており、AIの活用はもはや選択肢ではありません。しかし重要なのは、AIはデジタルデータの生成はできても、「感情」そのものは創れないという点です。
セッションでは、人間とAIの得意領域を明確に区別することの重要性が強調されました。クリエイティビティ、戦略やビジョン策定、感情的知性は人間ならではの強みです 。一方で、高度なデータ分析、反復タスクの自動化、予測的インサイトの提供、そして大規模なパーソナライゼーションはAIが得意とする領域です。この人間とAIの役割分担を理解し、お互いの強みを活かすことが、AIを真に活用する第一歩となります。
【Brazeの神髄】AIが実現する次世代のエンゲージメント
上記のトレンドをテクノロジーでどう実現するのか。Brazeの基本思想は、「4つのR」に基づいたコミュニケーションにあります 。
・適切な相手に (Right User)
・適切なタイミングで (Right Timing)
・適切なコンテンツを (Right Contents)
・適切なチャネルで (Right Channel)
そして、この「4つのR」を人間の手だけでは不可能なレベルまで引き上げるのが、Brazeに搭載されたAI機能です。
Braze AIが「4つのR」をどう進化させるか
・創る (Create): AIが、ブランドの世界観を学習し、最適なメールの件名や本文を複数提案します。AI画像生成を使えば、クリエイティブ作成も効率化できます。
・パーソナライズ (Personalize): AIが顧客の購入可能性を予測し、スコアが高い人にだけ特別な割引を提示するといった高度な施策が可能になります。さらには、顧客一人ひとりに合わせた1to1の製品レコメンデーションも実現できます。
・最適化 (Optimize): 顧客が最も開封しやすい時間をインテリジェントタイミング機能が自動で判断して配信します。A/Bテストも、よりコンバージョンしやすいパターンをインテリジェントセレクション機能が自動で判別・最適化し、収益の最大化を支援します。
これらのBrazeAIがマーケターの戦略実行を加速させ、人間はより創造的で戦略的な業務に集中できる環境を創出します。
Forrester社が実施した調査レポートによると、Brazeを導入した企業は3年間で840%という驚異的なROIを達成したほか、顧客解約率の50%削減、施策作成における2,200時間以上の工数削減といった具体的な成果が報告されています。AIを活用した高度なエンゲージメントが、コスト削減と事業利益の両面に大きなインパクトを与えることを示す結果と言えるでしょう。
コスモ石油が実践する「リアルタイム・エンゲージメント」
テクノロジーが顧客エンゲージメントをどう変えたか、コスモ石油マーケティング社の事例が紹介されました。同社は膨大な顧客データを保有しながらも、画一的なメッセージ配信しかできていないという課題を抱えていました。
Brazeの導入により、顧客一人ひとりに合わせたアプローチを実現し、洗車プリペイドの購入数向上といった具体的なビジネス成果に繋げています。
特に先進的な施策は、ガソリンスタンドのカメラで来店した車のナンバープレートを瞬時に読み取り、顧客データとリアルタイムで照合する取り組みです。この施策では、顧客の利用履歴(例:過去に車検を受けていない)に基づき、その場で最適な車検の割引クーポンを配信するといった、まさに「リアルタイム・エンゲージメント」を実践しています。
顧客エンゲージメントへの第一歩
本セッションで一貫して語られたのは、未来のマーケティングの成功は、顧客との「信頼」に基づいたエンゲージメントが鍵であるというメッセージでした。新田氏は「まずは、今ある自社のファーストパーティデータをきちんと活用し、パーソナライズの知見を溜めていくことが近道です」と締めくくりました。顧客との信頼関係を築く旅は、足元のデータを見つめ直すことから始まります。
今回のセッションでは、顧客との「信頼」を軸にAIを活用する、新時代のエンゲージメントマーケティング像が示されましたが、Brazeの進化は続きます。
来る11月13日(木)、東京でグローバルイベント「Braze City × City Tokyo」が開催されます。詳細は下記のサイトでご確認いただけます。
Braze City x City Tokyo〜デジタル・ボディランゲージ x AI で実現する次世代CX〜
https://www.event-site.info/cbc2025/
今回ご紹介したAI機能が、今後どのように深化し、マーケティング活動をさらに革新していくのか。次世代パーソナライゼーションは、どのような顧客体験を可能にするのか。その最前線を、いち早く体験できるのがこのカンファレンスです。
Brazeという最先端ツールが描く未来、そしてAIが切り拓くマーケティングの新たな可能性にご興味のある方は、ぜひご参加ください。
※関連ページ・資料ダウンロード※
braze新田氏 インタビュー記事
【サービス】Braze支援サービス
【サービス資料ダウンロード】Braze支援サービス
<参照>
*1 Braze、「2025年 グローバル カスタマーエンゲージメントレビュー」日本語版を発表
マーケティングコンサルタント
佐野 陽子
コンテンツマーケティング
BtoB事業会社のインハウスWebチームリーダーとして、コンテンツ制作やWebサイトの運用改善、SEOなどを中心にコンテンツマーケティングを推進。その後、パワー・インタラクティブに参画し、現在は自社コンテンツのディレクションを担当。クリエイティブ分野への深い造詣とビジュアルデザインの知見を活かし、より魅力的なコンテンツづくりに日々取り組んでいる。



