【現地レポ#2】Braze City×City Tokyo 2024:クリエイティブ×テクノロジーの融合と高速PDCAの実践がビジネスを成長させる
Braze City×City Tokyo 2024の個別セッションでは、クリエイティブとテクノロジーの融合がビジネス成長にどのように活かされるかが深く掘り下げられました。OreoやSamsungの革新的なキャンペーン事例、PedigreeのAI活用によるプロモーション×社会貢献など、各社が実践するマーケティングの最新トレンドに加え、タイミー、ヤマップ、アイスタイルの迅速なPDCAサイクルの運用法まで、多くのマーケターにとってのヒントが詰まったセッションの内容をお届けします。
みなさんこんにちは。パワー・インタラクティブの川西です。本レポートでは、Braze City×City Tokyo 2024の個別セッションで私が聴講した内容をまとめます。イベントの前半に行われた基調講演の内容については、こちらのレポートで詳しくご紹介していますので、まだ読んでいない方はぜひ併せてご覧ください。
カンヌライオンズ 2024 クリエイティビティから学ぶ事業成長のヒント
このセッションには、電通デジタル ブランドエクスペリエンスクリエイティブ部門 部門長である潮田健一郎氏と、Brazeのストラテジックビジネスコンサルタントである佐藤洋介氏が登壇しました。二人は、今年のカンヌライオンズで掲げられたテーマ「Humanity and Humor」を軸に、グローバルマーケティングのトレンドの一つであるクリエイティブとテクノロジーの融合とビジネス成長についてディスカッションしました。
セッションの目的
このセッションでは、カンヌライオンズの役割や最近のトレンドを通じて、参加者に新しいアイデアや戦略を提供し、デジタルマーケティングの領域に関心を持つ人々にとってのインスピレーションの場を提供することを目的としています。
近年、マーケティングにおいて、データやAIを活用しながらも、より人間らしいアプローチとユーモアが求められるようになっています。今年のカンヌライオンズのテーマ「Humanity and Humor」には、ブランドの差別化が難しくなりつつある今の時代だからこそ、いかに人間らしさと独自のブランド価値を創り出すかが重要であるというメッセージが込められています。テクノロジーとクリエイティブの融合がどのように実現されているのかを伝えるため、受賞作品の中からお二方が選んだ3つの事例が紹介されました。
実際の作品はYoutubeにも上がっているので、そちらも併せて是非ご確認ください。
受賞作品の紹介
1. Oreo Calls-国民的イベントの熱狂を活用したOreoのエンゲージメント戦略
主にスナックや菓子類を製造・販売しているアメリカの食品企業、Mondelēz Internationalの「Oreo Calls」キャンペーンでは、アメリカで最も人気のあるカレッジバスケットボールトーナメントに合わせ、ブランドが試合の流れにリアルタイムで関わる独自のアプローチを展開しました。このトーナメントはNBAを凌ぐほどの視聴率と熱狂があり、各社熾烈な競争の中で宣伝枠を奪い合う一方、同社は試合の審判に目をつけ、彼らのコール(判定)を「甘いコール」に変換。試合中の審判の合図に合わせて、ファンはリアルタイムでOreoのオファーを楽しめる仕組みとなっています。
具体的には、審判のシグナルに応じてリアルタイムでオファーが発動し、審判のユニフォームをスキャンするだけでクーポンを取得できます。良い判定でも悪い判定でも、ファンが一緒に「Oreoを盗む」瞬間として盛り上がり、試合の場にOreoの存在感を示すことができました。SNSでは事前にこのキャンペーンがシェアされ、ファンの期待感を煽りつつ試合への関与を促す効果がありました。
また、他のブランドが平均2.2分間の広告放映枠を購入する中、Oreoは試合の40分間にわたり存在をアピールすることができました。これは最後の7試合で累計5時間を超える放送時間に相当し、無料で約15億ドル相当のメディア価値を獲得。多額の広告費やスポンサーシップを費やすことなく、イベントの熱狂に乗り、Oreoは他の競合ブランド以上に印象的な影響を残すことに成功しました。
試合観戦の熱気を借りてOreoという商品を自然に消費者の目に触れさせ、想起させることに成功したこのキャンペーンは、NBAよりも高い視聴率を持つイベントと融合させることで、顧客との接点を強化し、購買行動を促す絶好のタイミングを掴みました。カンヌライオンズではプロモーションにおける「モメンタム」や「連想効果」を最大限に活かした点が評価されました。
このキャンペーンの結果、10万回以上のスキャンが行われ、61%のクーポン交換率と前年比9.8%増の直販を達成しました。試合中に審判と共にOreoがファンの体験に溶け込み、イベントのエキサイトメントを借りてブランドエンゲージメントと売上を最大化したこの施策は、イベント型マーケティングの新たな可能性を示す非常に面白い試みだと思います。
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2. Adoptable-社会貢献とブランド価値を融合させたAI活用マーケティング
続いて紹介されたのは、ペットフードブランドPedigreeによる「Adoptable」キャンペーンです。このキャンペーンでは、自社商品の広告に保護犬の写真を使用するだけでなく、機械学習とAIを駆使して高クオリティな画像に変換し、デジタル広告用の広告枠に表示させます。広告に映る保護犬に興味を持った消費者が詳細情報を確認できるパーソナライズされたランディングページに誘導される仕組みになっています。また、犬が新しい里親に迎えられると、広告から即座に取り除かれ、次に里親を必要とする新しい犬が表示されるため、里親を必要とする全ての保護犬が次々と表示される流動的な構造となっています。
Adoptableでは、各犬の体の長さ、体型、色や模様の特徴などをAIモデルが正確に表現し、シェルターで待つ個々の犬に合わせたビジュアルを実現しています。さらに各犬の写真や動画はどのようなメディアフォーマットにも対応できるように拡張可能という非常に柔軟なシステムになっています。キャンペーンでは、地理データ(公園の近さや住居環境など)も活用され、里親ごとに最適な保護犬を見つけるためのマッチングプラットフォームとしての役割も果たしています。こうした高度なAI技術により、Pedigreeは「すべての犬に愛すべき家を見つける」というブランドの使命を社会課題の解決に結びつけ、広告の枠を超えた活動へと進化させました。
結果的に、このキャンペーンによってシェルターへの訪問数6倍、キャンペーン開始わずか2週間でシェルターにいる半分の犬に里親が見つかるという驚異的な成果を上げました。
Pedigreeのこの革新的なキャンペーンは、デジタル広告の予算が単なる商品プロモーションにとどまらず、保護犬を広く世間に知ってもらう取り組みにも貢献している点が特徴的です。広告が製品のプロモーションと社会貢献を同時に担うことで、Pedigreeはブランドの価値を更に強固にすることに成功しました。
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3. Throwback Deals-カート落ちリマインダーに斬新な視点でアプローチしたSamsungの革新的リターゲティング戦略
「カート落ちリマインダー」はECにおける鉄板施策ですが、Samsungの「Throwback Deals」キャンペーンはこの定番施策に斬新な視点を加え、劇的な成果を上げました。キャンペーンを行う前、Samsungはブラック・フライデーのオンラインショッピングキャンペーンで、カートに入った商品のうち80%が決済に至らず、翌週の売上が年間で最も低い週になるという課題に直面していました。
この課題に対処するため、Samsungは「Throwback Deals」キャンペーンを実施。従来のカート落ちリマインダーが購入の直後に送られるのに対し、Samsungはあえて2年前のカート落ち商品を対象にし、価格は当時のままで最新モデルを購入できる特典を用意しました。また、メールには「2年前のあなたのショッピングカートの亡霊です」といったユーモアのある件名を使うなど、ユーザー心理を考慮し、消費者の興味を引くディテールを散りばめました。こうして過去のカートを「復活」させるアプローチにより、ユーザーの興味を喚起し、購買行動を再度促した結果、「週ごとの売上が前年同期比で318%増」「5145%の投資収益率」「前年同月比85.3%の月間収益」を達成し、売上が最も低かった週を年間で2番目に売上が高い週へと変えることができました。
このキャンペーンはECの鉄板施策を別の角度から進化させ、顧客の関心と購買意欲を再度引き出す新しいリターゲティングの手法を示している事例だと思います。クリエイティブと過去データの活用で、停滞期の売上を劇的に改善するこの戦略は、ECを運用する方々には特に新しい刺激になったのではないでしょうか。
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妥協なくアイディアを成果に 世界最速PDCAマスターズ
このセッションには、アイスタイルのプロダクトグロース本部 グロース推進部マネージャーの奥家沙枝子氏、タイミーのプロダクトマーケティンググループ マネージャーの石鍋雄一郎氏、ヤマップの戦略推進部 データサイエンスチーム グロースハッカーの武藤匠氏、Brazeのソリューションコンサルティング部部長の森田恭平氏が登壇しました。各社でプロダクトの成長やデータドリブンのマーケティングをリードする方々が、アイディアを迅速に成果へと繋げるためのPDCAサイクルの実践について議論しました。
セッション全体のテーマは「最速でアイディアを成果に変えるPDCAの運用法」。厳しい競争が続くマーケットで成果を上げるため、どのように効率的にPDCAを回し、そのサイクルのスピードを上げられるかについての知見が共有されました。
タイミーの取り組み
タイミーでは、自社のPDCAサイクルを「P(施策立案)」「D(Brazeへの接客設定)」「C(インサイト収集と効果測定)」「A(改善策の抽出)」というプロセスで実行しており、高速でPDCAサイクルを回すための体制やプロセスの整備を進め、少数精鋭のプロダクトマーケティンググループがBrazeを活用した施策の管理・実行を担っています。チームは3名体制でありながら、営業やプロダクトチーム、ワーカー向けのマーケティングチームとも密に連携を取り、他部門からのフィードバックやデータを施策立案に反映しています。
また、他部門と連携して機械学習を活用したレコメンドの作成やBrazeのカタログ機能とのデータ連携を行い、より精度の高い施策の実現にも取り組んでいます。このように、社内の複数チームと協力しつつも、日々5~10件のアクティブな接客施策を展開できるように、フローや基盤のアップデートを進めているとのことでした。
キャンペーンの事例としては、テレビCMと並行して実施したアプリ内キャンペーンでBrazeのキャンバスの勝者パスという機能でABテストを自動化し、最も効果の高い施策が実行される体制を整えました。この仕組みにより、CMの放映期間という限られた時間内でも、複数のクリエイティブを効率よくテストし、最適な内容を即座にユーザーに届けることが可能となり、迅速な改善とPDCAの効果的な運用を実現しています。
ヤマップの取り組み
ヤマップでは、Brazeを活用して迅速かつ効率的なPDCAサイクルを実現するため、専任チーム「Brazeタスクチーム」を結成しています。このチームには、マーケティング部の部長やプロダクトマネージャー、データチーム、デザイナーが参画しており、幅広い視点から施策を進められる体制が整っています。こうした多様なメンバー構成は、マーケティングの施策だけでなく、プロダクト全体の利便性向上を目的として、タイムリーな通知や情報提供が求められる場面にも対応できるようにするためでもあります。例えば、登山ルートが土砂崩れで通行止めになった際に、タイムリーにユーザーに情報を届けるといったプロダクト面での施策もスムーズに実行できるようになっています。
PDCAを迅速に回すために、チームは運用フローを見直し続け、Slackを活用してコミュニケーションを完結させる体制を整えました。以前は毎週の定例会議で承認を得て施策を進めていましたが、Slack上で完結するフローに移行したことで、承認や修正のスピードが飛躍的に向上しました。また、施策の立案段階から「いかに自動化するか」を意識し、手動による単発の施策にとどまらない定常的なキャンペーン設計を心がけています。
実際のキャンペーン事例として、プレミアムプランを契約した顧客に3000円引きクーポンを提供する施策を展開した際、マルチチャネルでのリーチを確保すべくBrazeのキャンバス機能を活用し、キャンペーンの訴求力を高める施策を実施しました。しかし、キャンペーン開始から1週間経過しても反応が薄く、ユーザーに届いていない可能性があると判断したため、アプリ内にポップアップメッセージを出せるBrazeのアプリ内メッセージを使った「シンプルサーベイ」という機能で簡易アンケートを実施しました。結果、多くのユーザーがキャンペーン自体に気づいていないことが判明し、以降はより多くのチャネルで配信頻度を高めたことで、最終的には前年同月比約150%増の有料会員獲得数を達成しました。
ヤマップのこの取り組みは、柔軟な体制構築と、ユーザーインサイトのフィードバックを活用した迅速な改善が、高速なPDCAサイクルの実現に貢献している成功事例だと思います。
アイスタイルの取り組み
アイスタイルでは、Brazeを活用して顧客体験を向上させるため、複数の事業部からメンバーを集めた「Brazeプロジェクト」を推進しています。このプロジェクトは、販売や販促、メディア事業を担うメンバーのほか、新チャネル開発チーム、データ分析を行うチーム、BtoBサービス開発チームといった多様なメンバーで構成されています。こうした体制の整備により、EC、店舗、メディアそれぞれの専門性を活かしたキャンペーンを効果的に実行できるようになっています。
アイスタイルがBrazeの活用において特に重視しているのは、高速PDCAを実現するための「施策の振り返り」と「全体のコンディション把握」です。施策の振り返りにおいては、セグメント、インセンティブ、タイミング、クリエイティブなどの各要素を見直し、ABテストで最も効果的な内容を残す形で進めています。また、施策の「角度と量」も慎重に評価しており、コンバージョンやクリック率が高くても、サンプル数が少ない場合には信頼性を確保できないため、成果が偶然ではないかといったリスクも排除しています。施策の規模と信頼度の両面から判断し、精度を高めていく運用は理想と言えるのではないでしょうか。
さらに、全体コンディションの把握を重要な要素としており、注力KPIの変動やリテンション率、アプリのプッシュ通知許諾率などの全体指標をBrazeが寄与したアクションや購買の金額などと共に監視しています。また、ダウンロードの経路やそこからのユーザーのアクション状況も把握し、外部評価やユーザー行動データを基にコミュニケーションの過度な頻度にも気を配りながら施策を調整しています。
昨年、アイスタイルでは「Web to App」施策を強化し、アットコスメのウェブユーザーを成熟度別に分類し、ログイン状況やアプリ所有、購買傾向に応じて7つのセグメントに分けたシナリオテストを実施しました。ユーザーのアクションや購買傾向に応じた施策を行うことで、Webユーザーのアプリインストール率や会員登録率、ログイン率、コンバージョン率を向上させることができました。
アイスタイルのBraze活用は、多面的な視点とデータに基づくPDCAの徹底で、顧客体験を高め、事業成長を支えるマーケティング基盤として機能しているんだなと思いました。
成果を出しやすいベストプラクティス・コツ
最後に、各社が考える成果を出しやすいベストプラクティスについての知見が共有されました。ヤマップの武藤氏は「施策は自動化を前提に設計することが重要です。Brazeを活用すると、自動化した施策に対しても容易にABテストを回せるため、施策の最適化をスピーディに実施できるのが利点です。手放しで運用できる体制を整えておくことが、今後の施策運用においてベストプラクティスだと考えています」と、自動化を重視した効率的な運用法を紹介しました。
アイスタイルの奥家氏は、「やはりユーザー中心の顧客体験設計を行うことが基本です。そのためにファーストパーティーデータを活用し、ユーザーのニーズに応えた施策を実現していきたい」と語り、データに基づく仮説の設計力とPDCAをしっかりと回すことの重要性を強調しました。また、ユーザーの行動データを基にした施策の見直しとチェックが、効果を高めるポイントであると述べました。
一方、タイミーの石鍋氏は、「施策を展開する際には、まず解決すべき課題が明確に定義されているかを確認することが重要です。課題の定義が曖昧だと、効果検証で無駄な時間を取られる可能性が高まります」と、施策の土台となる課題の定義づけの重要性について触れました。加えて、「スピーディーに施策を展開し、その結果から得た学びを次の改善に活かすPDCAサイクルが、成果を出し続けるための重要な要素です」と語り、課題の定義付けと効果的なPDCAサイクルが重要だと述べました。
このセッションでは、各社が自社の取り組みを通じて培ってきた成果に繋がりやすいベストプラクティスが共有されました。顧客体験を中心に据えた施策設計、データ活用による精度向上、そして自動化や迅速なPDCAサイクルの運用による効率的な施策実行が、それぞれの成果を生み出しているんだなと思いました。PDCAに課題をお持ちの方は是非参考にしてみてください。
まとめ
個別セッションでは、マーケティングにおける新しい視点や、実践に基づいた革新的な取り組みが共有されました。カンヌライオンズの事例に共通する「Humanity and Humor」は、顧客の感情や人間らしさを大切にしつつ、デジタル技術の力でより洗練された顧客体験を提供することの重要性を再認識させるものでした。さらに、高速PDCAマスターズの各社が取り組むPDCAサイクルの高速化や施策の自動化の実践例から、変化の激しい市場で成果を上げ続けるためには、データに基づく柔軟で迅速な対応が必要なんだなと改めて感じました。
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マーケティングコンサルタント
川西佑奈
マーケティングオートメーション活用支援
新卒で営業、BtoB向けのデジタルマーケティング支援業務を経験した後、2022年にパワー・インタラクティブに入社。オペレーション支援も含めたAdobe Marketo Engage活用コンサルティング、Braze活用支援に従事。
地元の神戸を愛しています。