コラム

AIエージェントと暮らす: Brazeイベントで見た、新購買行動モデル「DREAM」が示すマーケティングの未来

文責:マーケティングコンサルタント 佐野 陽子

はじめに:AIが変える顧客エンゲージメントの最前線

はじめに:AIが変える顧客エンゲージメントの最前線

カスタマーエンゲージメントプラットフォーム Braze は、2025年6月に大阪でオフラインイベント「変化を先取りする力:消費者動向とCX戦略の最前線 in 大阪」を開催しました。
本稿では、株式会社博報堂 買物研究所の上席研究員である飯島 拓海 氏によるセッション「AIエージェントと暮らす時代の購買行動はどう進化する?~新購買行動モデル「DREAM」で考えるショッパーインサイトの変化~」についてレポートします。

BrazeがプラットフォームへのAI機能の実装を積極的に進めていることからも明らかなように、今やAI、特に生成AIはマーケティング活動と切り離せない存在です。今回のセッションは、その変化が単なる業務効率化に留まらず、生活者の購買行動そのものを根底から覆す可能性を秘めていることを、描き出すものでした。
データ活用のプロフェッショナルである私たちの視点から、このインパクトのあるセッションの内容を紐解き、これからのマーケターが何をすべきか考察します。

AIが"買い物"を変える

セッションは、生成AIがいかに私たちの身近な購買行動を変えつつあるか、具体的な事例と共に紹介するところから始まりました。

検索の変化:従来のキーワード検索とは異なり、「初キャンプで何が必要?」といった抽象的な問いかけにも、生成AIがニーズを汲み取って必要なアイテムを提案します。これにより、利用者は自身の潜在的なニーズに気づき、偶然の商品との出会いが生まれるのです。
確認の変化:ECサイトの膨大な口コミを、AIがユーザーの質問に合わせて要約してくれます。これまで多大な時間を要した口コミの確認作業が効率化され、生活者は迷いを減らし、より確信を持って商品を選べるようになります。
接客の変化:大手スポーツメーカーのECサイトでは、AIによるリアルタイム接客が実現しています。利用シーンや頻度といった、これまで店舗スタッフがおこなっていたようなヒアリングを、AIが時間や場所を問わずおこなってくれるのです。
購入後の変化:大手化粧品メーカーのアプリでは、購入後のアフターケアにもAIが活用されています。使用量や他の製品との併用順序など、分厚い説明書を読まなくても、AIに質問すればすぐに解決できます。

そして、こうしたAIによる個別のタスク処理は、やがて包括的なサポートを担う「AIエージェント」へと進化します。AIエージェントとは、私たちの目的を理解し、計画から実行までを自律的に一気通貫でサポートしてくれる存在です。
このAIエージェントの登場こそが、購買行動のルールを根本から変えると、セッションでは語られました。

未来の購買行動モデル「DREAM」とは?

では、AIエージェントと共存する時代の購買行動は、どのように変わるのでしょうか。博報堂 飯島氏は、その答えを導き出すために「2040年の未来にいるバーチャル生活者へのインタビュー」というユニークな手法で未来を予測しました。

2040年のバーチャル生活者とAIエージェントの関係は、単なる「人間とツール」という関係を超えた、日々の暮らしに深く根差した「パートナー」のような関係性として描かれています。
AIエージェントは人間相手ではないからこそ、見栄を張らずに何でも相談できる「相棒」のような存在になります。 この継続的な対話を通じて、AIエージェントは生活者本人よりもその人のことに詳しくなり 、生活者自身も気づいていなかった潜在的なニーズや趣味嗜好に気づかされる傾向が見られました。

セッションでは、具体的なインタビューの例として2名が紹介されました。

ケース1:橋本 葵さん(2040年に暮らす30代の母親)
彼女の「買い物のきっかけ」に関するインタビューでは、本人が能動的に商品を検索したわけではないことが分かりました。AIエージェントが彼女の日常の会話やウェアラブル端末のデータを分析し、「娘さんと一緒に楽しむために、このヘッドセットはいかがですか?」と提案したことで、初めて自身の潜在的なニーズに気づかされています。
ケース2:青山 正也さん(2040年に暮らす70代の男性)
彼の「買い物のきっかけ」では、従来のようにWeb検索で下調べをしつつも、最終的にはスマートスピーカーのAIエージェントに「予算はこのくらいで、こんな機能が欲しい」と具体的に相談して商品を絞り込んでいました。
ここでも、AIとの「対話」が重要な役割を果たしています。

このようなインタビューを25人分実施し、結果の分析から見えてきたのが、新しい購買行動モデル「DREAM」です。「DREAM」は、複数の買い物ジャーニーから共通のパターンを抽出し、体系化したモデルです。

DREAMモデル:5つのフェーズ

これは、従来の「AIDMA」や「AISAS」のような直線的なファネル構造とは全く異なる、ループ構造を持つモデルです。

D - Dialogue (対話)
買い物の起点は、AIエージェントとの日常会話になります。悩みや価値観といった本音の対話データから、AIは顧客を深く理解します。
R - Recommended (推奨)
対話に基づき、AIが潜在ニーズを満たす商品を提案します。生活者はそれを受け入れるだけでなく、さらに質問を重ねることで、共に最適な選択肢を見つけ出します。
E - Experience (体験)
検索の手間が省ける分、リアルとバーチャル(VR/AR)を駆使した「体験」の重要性が増します。五感を含めたリッチな体験が、購買の決め手となります。
A - Assurance (確信・承認)
十分な体験を経て「これこそが自分に合う」という強い「確信」を得て、購入を「承認」します。これにより、情報過多による“選べないストレス”から解放されます。
M - Management (管理)
購入後、どこまでの個人情報をAIエージェントに共有するかを自ら管理します。このフィードバックが、次の「対話」の精度を高め、エンゲージメントのループを強化します。

生活者の購買行動はどう変わるのか?

新しい購買行動モデル「DREAM」の登場は、これまでマーケターが前提としてきた「AIDMA」や「AISAS」といったモデルからの根本的な転換を意味します。AIエージェントとの協働により、生活者の購買プロセスは各フェーズで大きく変化していきます。

知る:「検索」から「対話」へ
AIDMA/AISASにおける「Attention(注意)」「Interest(関心)」「Search(検索)」という初期段階は、「DREAM」では「Dialogue(対話)」と「Recommended(推奨)」に集約・進化します。
これまでは、生活者自身がニーズを認知し、能動的に情報を「検索」するのが一般的でした。しかしDREAMの時代では、生活者はAIエージェントとの日常的な「対話」を通じて、自分でも気づいていなかった潜在的なニーズを自然に引き出されます。そして、その深い理解に基づいた「推奨」によって、商品やサービスを「知る」ことになるのです。情報のインプットが、能動的な“引き出し”から、受動的かつ継続的な“対話”へと変化します。

選択・試す:「行動」から「体験」と「確信」へ
「Action(購買)」のフェーズは、単なる購入決定や決済行為ではなくなります。その前段階である「Experience(体験)」の重要性が飛躍的に高まり、購入は「Assurance(確信・承認)」というプロセスに変わります。
VR/ARなどの技術を活用し、リアルとデジタルの垣根なく商品を心ゆくまで「体験」することで、購入後の失敗リスクを極限まで減らすことができます。そして、そのリッチな体験によって得られた強い「確信」に基づき、最終的な購入を「承認」するのです。これは、かつての“えいや”で決めていた購買行動とは質的に異なります。

共有:「シェア」から「管理」へ
購入後の「Share(共有)」は、口コミ投稿やSNSでの発信といった一過性のものから、AIエージェントとの継続的な関係性を育む「Management(管理)」へと進化します。 生活者は、商品の使用感といった感想だけでなく、利用時の感情データや対話の履歴といった、より多角的で質の高い情報をAIエージェントにフィードバックします。この「管理」された情報共有が、次の「対話」や「推奨」の精度をさらに高め、顧客とのエンゲージメントのループを永続的に強化していくのです。

生活者の変化に、マーケターはどう向き合うべきか

こうした生活者の購買行動の根本的な変化は、私たちマーケターに何を問いかけているのでしょうか。セッションでは、この新しい潮流にマーケターがどう向き合うべきか、4つの具体的な変化が示されました。

戦略の変化:「ファネル」から「ループ」へ
生活者の行動が直線的でなくなった以上、これまでの認知から購入までを捉える「ファネル構造」の考え方は通用しません。これからは、顧客との対話から体験価値を高め、そのフィードバックを次の対話に活かす「ループ構造」で戦略を思考する必要があります。

KPIの変化:「獲得」から「関係性の質」へ
戦略の構造変化は、追うべきKPIも変えます。購入数やコンバージョン率といった獲得指標だけでなく、AIエージェントとの「会話生起率」や「提案承認率」、購入後の「フィードバック率」といった、顧客との関係性の質や深さを示す指標が重要になります。

活用ツールの変化:向き合うべきAIエージェントの選択
AIエージェントの台頭は、マーケターが向き合うツールを、多くの人が使う「プラットフォーム型」と、企業が専門家として自社で提供する「個社提供型」の2つに分けます 。これらを共存させるため 、プラットフォームでどう推奨されるかと、自社の専門エージェントでどう顧客と深く繋がるか、両側面からの戦略が求められます。

組織の変化:「部門内」から「部門横断」へ
AIエージェントが顧客とのあらゆる接点に関わる時代では、マーケティング部門だけの取り組みには限界があります。顧客情報を活用したインフラを整備するシステム部門、AIの折衝範囲を規定する法務部門、顧客接点の知見を社員教育に活かす人事部門など、より強い部門間のシナジーが求められます。

まとめ:変化の時代に、マーケターが持つべき視点

今回のセッションは、「対話(Dialogue)」の時代の到来を明確に示唆するものでした。
AIエージェントが生活者の信頼するパートナーとなる未来は、決して遠い話ではありません。マーケターは、この不可逆な変化を真正面から受け止め、これまでの常識を疑い、新しい顧客体験の創造へと舵を切る必要があります。

そして、この大きな地殻変動の時代において、「いかに質の高い対話データを収集し、顧客理解に繋げ、次の対話(エンゲージメント)に活かすか」が、企業の競争力を左右することは間違いないでしょう。

Brazeが提供するカスタマーエンゲージメントプラットフォームは、まさにこのDREAMモデルで示された「対話」と「推奨」をデータドリブンで実現するための強力なエンジンとなり得ます。リアルタイムで顧客データを処理し、パーソナライズされたコミュニケーションを自動実行するBrazeのアーキテクチャは、AI時代に適したものと言えます。

私たちパワー・インタラクティブは、Brazeのポテンシャルを最大限に引き出し、この大きな変化の波を乗りこなし、未来の顧客エンゲージメントをリードしていきたいと考えています。

今回のイベントレポートが、皆様のマーケティング活動の一助となれば幸いです。

佐野 陽子

マーケティングコンサルタント

佐野 陽子

コンテンツマーケティング

BtoB事業会社のインハウスWebチームリーダーとして、コンテンツ制作やWebサイトの運用改善、SEOなどを中心にコンテンツマーケティングを推進。その後、パワー・インタラクティブに参画し、現在は自社コンテンツのディレクションを担当。クリエイティブ分野への深い造詣とビジュアルデザインの知見を活かし、より魅力的なコンテンツづくりに日々取り組んでいる。

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