インタビュー

BrazeでBtoC顧客の多様な行動をリアルタイムに把握、パーソナライズ発信へ

Braze株式会社 プロダクト&グロース本部 日本市場 製品責任者 新田 達也氏

Braze株式会社 プロダクト&グロース本部 日本市場 製品責任者 新田 達也氏

2011年にアメリカのニューヨークに設立されたBraze, Inc.。カスタマーエンゲージメントプラットフォームのSaaS製品「Braze(ブレイズ)」を提供し、北米やヨーロッパ、APACに10以上のオフィスを構えているグローバル企業です。2020年10月には日本法人が設立され、スタートアップから大企業まで、幅広い企業がBrazeを利用しています。パワー・インタラクティブは、2022年7月よりBrazeのオフィシャルパートナーとして、Braze社との協業に取り組んできました。

本稿では、Braze株式会社 プロダクト&グロース本部日本市場 製品責任者 新田氏に、Brazeの強みや今後の展開などについてお話をうかがいました。

日本法人の立ち上げ直後に入社、日本市場におけるBrazeのローンチを担当

御社の概要と新田さんの役割をお聞かせください。

私たちは、カスタマーエンゲージメントプラットフォームのSaaS「Braze」を提供している会社です。お客さまとの様々な接点において、リアルタイムかつ一貫性のあるコミュニケーションを実現し、お客さまと企業ブランド間のつながりと一体感を育んでいるのがBrazeです。マーケティング担当者やプロダクトマネージャーなど、お客さまとのデジタル上でのコミュニケーションを実現して自社製品の活用度合いを高めていきたいと考えている方に利用いただいています。

現在、日本法人には40名強の社員がおり、お客さまの数は80社を超えてきているところです。私は2020年12月の日本法人設立直後、2人目の社員としてBrazeへ入社し、プロダクトマネージャーとして日本市場における製品のローンチを担当しました。ローンチには製品のローカライズや、日本のお客さまが利用するうえで足りない機能を本社側にリクエストすることも含まれます。さらに、セールスチームへ製品情報を提供したり、ユーザー会やイベントで製品の説明をおこなったりしていました。

当時は会社の立ち上げ期で、現在ほど細かい役割分担がされていませんでした。社長が製品を売って、私が技術的なサポートをするといった枠組みしかなかったので、技術的な部分は何でも担当していました。未経験のことをやる機会は多かったです。

私が入社した翌月には営業担当が2名、その翌月に技術営業担当が入りました。商談の際には営業と技術営業が一緒に行き、製品の技術的な質問には技術営業が答えます。売上を伸ばさないといけないので、営業や技術営業を最優先事項として採用していました。

Brazeの強みは「残念な顧客体験を生まない」リアルタイムなパーソナライゼーション

Brazeの製品特長や強みについて教えてください。

Brazeの強みとして挙げられるのが、「リアルタイム性能」です。製品紹介の際には「残念な顧客体験を生まない能力を備えている」と説明しています。たとえば、ECサイトで商品を買った数時間後に同じ商品の割引クーポンが届くと、残念な顧客体験が生まれてしまいます。また、欲しい商品をようやく見つけてカートに入れたら在庫切れだった場合も、お客さまにとって残念な体験となります。

割引クーポンのケースでは、お客さまが買った情報をリアルタイムに分かっていれば、そのお客さまに対して同じ商品のクーポンを送らないことができます。在庫切れのケースでは、商品の在庫情報をリアルタイムに連携できていれば、お客さまがカートに入れる前に在庫切れを知らせることが可能です。Brazeを利用すれば、このような情報をリアルタイムに把握できます。

パフォーマンスやスケーラビリティが高いこともBrazeの特長です。リアルタイムにメッセージをパーソナライズし、それを多くの人へ同時配信するとなるとシステム負荷が高くなってしまいますが、Brazeなら問題ありません。

アメリカのブラックフライデー/サイバーマンデーでは、パーソナライズされたキャンペーンのメッセージを数千万~数億人に送ることもあります。期限の決まっているなかで送り切らなければなりません。Brazeの場合は自動的にサーバーを増やしてシステムを拡張する機能があるため、遅延なく期間内へ送り切れます。実際に2023年のブラックフライデーの期間中、Brazeを利用して送られたメッセージは370億通以上ありました。

マルチチャネルをBrazeという1つのプラットフォームで扱えることも強みです。すべてのチャネルからきた行動情報が、Brazeの一つのデータベースに統合されています。私たちは、他社製品を買収して連携するチャネルを増やしていくことはしません。すべて内製しているので、データが分断されることはありません。これは私たちのポリシーでもあります。

AIへの投資とチャネルの拡大を進行中

機能の開発は頻繁におこなわれています。月に1回のアップデートと年に4回の大型リリースがあります。施策を計画して実行し、結果を見て次のアクションにつなげるサイクルを早く回したいという思いがあります。

開発の大きなテーマの1つがAIです。Brazeの利用者が、キャンペーンや打ち手を増やせるしくみにすることを目指しています。マーケティング施策を実行して結果を見ないと次の施策をどうすればいいか分かりませんが、そのサイクルをできる限り短くしなければお客さまの態度変容についていけません。人手ですべてやるには限界があります。そこでAIの機能を実装し、AIが判断できるところはAIにしてもらい、高速に数多くの施策を回すための支援をおこなっていきたいと考えています。

たとえば、A/Bテストを実施した際、テスト結果がよかった施策Aを全対象顧客へ実行するようAIが自動的に進める機能があります。また、AIによって、属性や過去の行動をもとに配信時間や配信チャネルを自動で振り分けすることができます。アプリやメールを確認するタイミングは朝の通勤時間や夜の帰宅時間が多い人もいれば、昼間の時間帯によく見ている人もいます。AIが行動履歴を元に判別し自動的に配信しています。

BtoC顧客の多様な消費スタイル、行動履歴をBrazeで把握する

新田さんは前職でBtoBマーケティングを経験し、現在BrazeでBtoCマーケティングの対応をしているわけですが、BtoCマーケティングの特徴はどんなところにありますか?

BtoCでは多様な消費スタイルがあるため、態度変容がつかみづらいです。一般的な購買行動は、興味があるものを見つけて、いろいろ調べた上で購入すると見ていますが、Webサイトを見て興味が一気に高まってすぐ購入するパターンもあります。また、「メリハリ消費」と言って、興味のあるものには高くてもお金を出すが、興味がないものには極力お金を出さないスタイルもあります。

仮説をもとにカスタマージャーニーを作ってみても、多様な消費スタイルがあり、当てはまらないパターンがたくさん出てきます。そうすると、なぜお客さまが商品に興味を持つようになったかを見つける必要があります。Brazeを利用することで、アプリやメール、Webサイトでの行動履歴を捉えることができます。行動情報を把握したうえで、それに応じたメッセージを発信していくことが重要です。ただし、ここにも明確な答えがあるわけではないので、トライアンドエラーを重ねて高速にPDCAを回していくことが欠かせません。

BtoBとBtoCではチャネルの違いもあります。BtoBではメールやWebサイトがメインチャネルになりますが、BtoCではアプリやLINE、メールやWebサイト、さらにはチャットボットなど多様なチャネルがあります。お客さまがどのチャネルのメッセージを受け取るか、エンゲージしやすいのかという面でも、BtoBに比べて多様性が高いですね。思ってもいない顧客の行動パターンが出てくるのがBtoCマーケティングのおもしろいところです。

作業工数削減による打ち手増大で成果向上、クーポン利用率10倍の事例も

Brazeを利用している顧客層と具体的な活用事例を教えてください。

お客さまの業種や業態はさまざまです。ECやスーパーマーケット、ホテル、旅行業界、最近だとメディアエンターテイメントのお客さまにもご利用いただいています。Brazeの日本法人が立ち上がる前から、楽天様やメルカリ様にはご利用いただいています。メルカリ様のように、買い手と売り手をマッチングさせるサービスのお客さまも最近増えており、スキマバイトサービスを提供しているタイミー様にもご利用いただいています。

具体的な事例として、会員向けビジネスを展開するサイトを運用しているお客さまの事例を紹介します。お客さまには無料と有料のプランがあり、いかに無料プランから有料プランへ移行してもらえるかが重要でした。そのため、チャネルごとに様々な施策を実施する必要があったのですが、キャンペーンの設定やデータを抽出する際にエンジニアの工数が多大にかかるため、打つべき施策が未対応のままでした。

Brazeの導入後は、各チャネルがBraze内にまとまっているので、Brazeさえ設定すればすべてが完結できるようになりました。運用にかかる時間やコストが圧倒的に減り、打ち手が増えて有料プランの加入が劇的に増えたと聞いています。運用の時間が減ったことで、クリエイティブやキャンペーンのアイデアを考える時間が増え、良い結果につながったようです。

また、ECと実店舗を持つアパレルのお客さまがBrazeを活用した結果、クーポンの利用率が10倍になった例があります。アプリに訪問して買わずに離脱したユーザーに絞って、広告展開をすることで成果をあげることができました。

Brazeは広告プラットフォームと連携することが可能です。Brazeに蓄積されている顧客データを活用することでGoogleやFaceBookなどのリターゲティング広告に対し、より精緻なセグメントが展開できるようになります。このお客様では、Brazeで取得した「アプリに来たが購入しなかった」セグメントを抽出して広告展開をおこなったことで広告の無駄打ちがなくなり、コストパフォーマンスの向上にもつながりました。

コミュニティやトレーニング、情報発信によってお客さまの支援を進める

Brazeの今後の展開についてお聞かせください。

Brazeをご利用いただいているお客さまが増えてきているので、お客さま同士のつながりを強化していく「カスタマーコミュニティ」の活動を始めました。たとえば、データ分析などの特定のテーマに興味のあるお客さまを集めた分科会を開催し、お客さま同士で議論してもらいます。そこで知識を得るだけではなく、お客さま同士がつながり、コミュニティをより強いものにしていきます。まだ道半ばの状態ですので、地道に一歩一歩進めていきます。

また、お客さまのBraze活用を促進するために、御社の協力を受けている「トレーニング」を拡充していきたいと考えています。Brazeはアメリカの製品なので、日本のお客さまには扱いにくい部分があると思います。トレーニングを受けて製品を理解していただくことが重要です。契約直後のお客さまだけでなく、契約から時間の経ったお客さまも対象となります。時間が経つと担当者が変わり、うまく引き継ぎがされていないケースも結構あるため、トレーニングを薦めていきたいと考えています。

エンジニアを確保した推進体制を推奨

最後に今後の課題を教えてください。

Brazeはマーケティング部門で多く導入されていますが、エンジニアを巻き込んでの実装が必要です。マーケティング部門にはエンジニアがいないため、契約したもののエンジニアのリソースを確保するまで実装ができないケースがたまにあります。お客さまにはエンジニアスキルを持つ人材を確保してもらうよう提言していきたいと考えています。

たとえば、メルカリ様の場合は部門横断型プロジェクトチームがあり、マーケティング担当、プロダクトマネージャー、エンジニア、デザイナーが所属しています。エンジニアは、アプリの実装や、データウェアハウスからプログラムデータの抽出、分析のためのデータ統合や分析をおこなっています。異なる役割のメンバーが1つのチームとしてBrazeの活用を進めていくことが重要なポイントだと見ています。こうしたベストプラクティスの情報発信や事例紹介を進めていくようにします。

Brazeの活用を進めていくにあたり、体制の整っていないお客さまは多くいらっしゃいます。そうしたお客さまに寄り添い、伴走しながらプロジェクトを推進するパートナーは重要な存在です。御社にも大いに期待しています。

右はパワー・インタラクティブ砂

インタビュー実施日:2024年6月4日

プロフィール

新田 達也 氏
Braze株式会社 プロダクト&グロース本部 日本市場 製品責任者

名古屋大学卒業後、ロータス/IBMにソフトウェアエンジニアとして入社。その後、アドビ、マルケトにてB2B/B2Cのソフトウェア/SaaSの開発、品質管理、製品管理に従事し20年以上の経験を有する。創業1年目の2015年にマルケトに入社、Marketo Engage製品責任者として日本市場向けに最適化された機能の提案や実装、パートナーソリューションとの連携支援を主に務めた。マーケティングテクノロジーと製品管理の経験を活かし、2020年12月よりBraze株式会社日本市場プロダクトマネージャーに着任。

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