インタビュー

株式会社中外 100社を越えるBtoB企業の海外進出をサポート 〜フリー、フェア、グローバルの精神とCustomer Firstの観点で顧客を全力支援

株式会社中外 代表取締役社長
阪倉 敦 氏

株式会社中外は、1938年に大阪で創業した広告会社です。78年の歴史で培った経験と実績を活かし、現在はBtoBマーケティングに強い広告会社として、PR、広告、Web、イベント、SPなどのマーケティングコミュニケーション活動をワンストップで提供しています。2006年には上海中外を設立し、早い段階で日本企業のアジア進出をサポートする体制をつくりました。現在はアジア以外の国も含めグローバル展開を支えています。今回は、BtoB企業のブランディング、マーケティングサポートを行ってきた同社の活動の歴史と今後の展開について、代表取締役社長の阪倉敦氏にお話を伺いました。

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学術会誌や学会報の広告代理業でスタート

BtoBマーケティングを手がけるようになった経緯を教えてください。

BtoB業界とは78年前の創業当初から関わりがあります。創業者の遠山義夫は、学会や新聞社・出版社が発行する会誌や技術誌・紙の広告を手がけていました。その後、日本機械学会、電気学会などの学会が毎月発行する会報に掲載する広告の取り扱いを一手に任せていただけることになり、株式会社中外廣業を創立し、広告代理業をスタートさせました。当時、テレビはまだこれからの時代で、新聞が主な広告媒体でした。そのような中で会員の方が読まれる学術会誌や学会報は広告を見てもらいたい相手に確実に届く媒体であり、広告効果があると認識してもらい、産業財を取り扱う大手企業が一斉に広告を出稿くださいました。こうした活動を中心に、BtoB企業との幅広いお付き合いが始まりました。

創業50年目に広告代理店から広告会社へ、ワンストップで広告活動を支援する

これまでの歴史の中でターニングポイントとなった時期を教えてください。

ターニングポイントは3つあります。まず最初の大きな転換期は、1988年に社名を株式会社中外に変えた時です。50周年を迎えた年で、当時常務(現会長)であった遠山勝が「広告スペースを扱うだけで本当にお客様のお役に立っているのか?」と考え、クリエイティブ部門を立ち上げ、カタログや広告の作成、イベントの企画運営を外注ではなく社内スタッフで対応できるようにしました。

遠山はワンストップに強いこだわりを持っていました。広告原稿の作成やメディアの取り扱いを、それぞれ違う広告会社で分けて展開すると、お客様の思いがぼやけてしまい、エンドユーザーまで届かない。結果的にお客様の一番の目的である「顧客創造」に結びつかないまま終わってしまう。そういったもどかしさから、「川上」から「川下」までワンストップで対応する必要性を感じました。お客様の事業や製品、市場などを熟知した上で1つのコンセプトを構築し、様々な手法でブレることなく訴求していくことが最善と考え、それが実現できるよう、組織も拡充していきました。1980年頃からBtoBの展示会などにも本格的に力を入れ始め、イベント全体を専門に担当する部門もつくっています。展示会のサポートにおいても、装飾のみならず事前や事後のプロモーションをワンストップで提案する仕組みを構築していきました。

また、遠山は「広告としての掲載ではなく、取材記事として掲載されればお客様はもっと喜んで下さるのでは?」と考え、当時、PRと広告の融合に積極的に取り組んでいました。これは現在にも引き継がれており、最近では、入社2年目の営業担当者が、ビジネス雑誌を活用した、PRとADを融合したオリジナル企画を商品化しました。



広告業界ではいち早くWebに取組む

2つ目のターニングポイントは、Webの展開です。Webにも早くから着目し、1996年に取り組みを始め、Webの担当部門も設置しました。広告業界ではWebの取組みは早かったと思います。弊社独自のメディアである「ハイテクWeb」というポータルサイトを作り、産業財の新製品情報を掲載し、企業へのサービスとして展開していました。

また、同時期、お客様へ裏付けある提案を行うには、お客様の業界事情とその製品、プラスお客様のお客様(Customer's customer)の業界事情とその市場を熟知する必要があると考えました。そこで独自にリサーチ、分析できるようにと1997年に株式会社中外総研を設立しています。現在は、リサーチの精度も高まり、提案の内容もお客様に評価いただいています。

お客様の海外進出をサポートするために上海中外を立ち上げる

3つ目のターニングポイントは、2006年に現在専務執行役員国際事業担当の溝口裕康が中心となり、上海中外先智広告有限公司を独資で立ち上げたことです。海外の活動を見据え、広告業界では他社に先駆けての動きでした。お客様がアジアへの進出を進める中、「インドで展示会をやりたい」「タイでの知名度をあげたい」とおっしゃっているのに、中外ではサポートできませんとは言えません。日本で提供できることを海外でも変わらず提供することが、中外の思いです。裏付けのあるご提案をさせていただくためにも実際に現地にいく必要がありました。日本の企業が海外を市場として見ているので、我々の海外進出も必然であったわけです。上海に進出して10年になりますが、ありがたいことに最近では上海の地元の企業とのおつきあいも増えてきて、ノウハウも実績と共に確実に蓄積されています。

我々は、常にCustomer Firstの観点で、お客様に今何が必要かを考えながら取組んできました。ターニングポイント発生のタイミングは、常にCustomer Firstの結果と言えます。

図1:中外サポート内容・体制

広告活動のPDCAを強化するVMC(Value Marketing Comunication)を掲げる

現在、全面的に打ち出されているVMCについて教えてください。

VMCはValue Marketing Communicationを略したものです。今後、中外がどういう考え方で進んでいくのか、その根幹部分をシンボライズ化しようと、2010年に植田正也様※の監修の元、会長の遠山勝と現在専務執行役員でトータルソリューション統括の渋川容史が中心となってまとめました。 当時、広告活動の裏付けや効果の数値化が増々重要になってくると考え、PDCA(Plan/計画、DO/行動、Check/評価、Act/改善)で改善していく取り組みを、VMC(Value Marketing Communication)と独自に名付けたものです。(図2参照)

VMCでは、ワンストップ対応、リアルとWebを組み合わせたクロスメディア効果、ブランド価値の向上、メディア到達効率向上の実現を掲げています。簡単に言うと、きちんと調べて裏付けをとり、確実に実施して、効果測定を行い、数値化してフィードバックしますということです。

図2:VMC(Value Marketing Communication)の概要

イベントの集客から効果測定までワンストップ対応が活動の中心に

現在の事業別売り上げ構成を教えてください。

売り上げ構成は、広告が5割弱、イベント、制作、Webがそれぞれ1.5割、リサーチ・PR系が1割といったところです。広告が主ですが、最近は展示会、プライベートショー、カンファレンス、セミナーなどイベント関連の仕事をいただくことが増えてきています。AI(人工知能)やAutomotive(自動運転)などの活気のある分野ですと、プライベートカンファレンスでも3000人規模の人が集まります。弊社ではそういったイベントの集客から事務局、現場対応など、全てワンストップで対応いたします。イベント終了後は、アンケート結果やインタビューから浮かび上がった問題点や課題などを分析し、効果測定を行い、結果をいかにお客様の営業に活かしていくかなど、次につなげていくご提案も含めてお客様にご報告しています。

海外展示会出展を中心に、100社を超える企業の海外進出をサポート

展示会出展は、海外の対応も積極的に取組まれているのですか?

以前に比べ、現在は日本企業にとって海外進出は当たり前になっています。なかでも特化した製品をお持ちの企業は、規模の大小に関係なく海外進出を狙っているところが多いです。 現在、日本企業の海外進出サポートは100社を超えています。特長のある製品を持った日本企業の知名度アップやマーケティングのお手伝いを少しでもできればと取組んでいます。

海外進出サポートは、1990年代、中国に進出するお客様の出展にあわせて、ブース装飾の企画、施工を実施したのが始まりです。以降は中国のみならず、欧米、アジア各国で実施できるようになりました。現在では、ブースの企画、設営のみならず、事前の集客や事後のリストの営業化、メディアへのパブリシティ告知、プライベートショーまで、日本で実施できることは、ある程度各国で実施できるようになったと実感しています。

海外展示会サポートの成功例を1つ教えてください。

ある海外展示会では日本式の製品、パネルを設置する形式をやめ、営業クロージングの場としてのコミュニケーション空間を提案しました。お客様の営業ご担当者と、通年を通し、営業ツール、メール、Web等を駆使し、当該展示会でキーマンを含めた方々にビジネスプレゼンテーションの場をご提供しました。製品を見てもらうだけでなく、ユーザーの課題に対してその場で解決でき、かつお客様の売上げに貢献できた時は大変うれしく思いました。

国によって好まれる媒体、表現方法も変わってくるので、各国の特徴を把握しておく必要があります。例えばインドやタイの国民性、ドイツでのBtoB技術者の情報収集の特性なども 理解する必要があります。一言でグローバル展開と言っても簡単にできるものではなく、人の面でも他国に駐在することは大変なことです。中外では、お客様の進出国へ前もって調査をかけ、国の事情をふまえたサポートを行っています。

これからの海外展示会は、デジタルマーケティングの強化へ

今後の海外サポート展開についてお聞かせください。

これまで日本で培ってきたノウハウを海外でも活かしたいと考えています。海外ではまだまだ日本のBtoB企業の知名度は低いです。また、One to Oneマーケティングの展開もこれからです。ターゲットに合わせたブランディングの提案と、展示会、イベントなどで集めたリストを効果的に営業展開できるようなお手伝いができればと考えています。

ブランディングやマーケティング活動の数値化を

BtoB企業が今後取組むべき点については、どのようにお考えですか?

現在の見込み客の動きは、Webで調べた後、検討するのが通常です。今はWebで認知してもらうだけではダメで、具体的に理解してもらうことが必要です。従来のようにWeb経由の問い合わせを取り次ぐだけでは広がりがありません。もっとマーケティング部門や宣伝部門が営業や経営に入り込んでいくためには、効果を明確にすることが求められます。そのためにも我々はVMCを通じて施策の結果を明確にし、ブランディングやマーケティング活動の数値化を強化したいと考えています。

※植田正也氏:読売広告社、日本デザインセンター、マドラなど広告会社、広告制作会社を経て1990年よりフリーランサーとして独立。現在、早稲田大学大学院・アジア太平洋研究センター「早稲田大学ビジネススクール」非常勤講師、広告革新塾主宰・塾長。

プロフィール

阪倉 敦 氏
株式会社中外 代表取締役社長

1989年株式会社中外入社。以降大阪事業所ならびに1999年からは東京事業所でBtoB企業の営業に従事。2001年には株式会社オーセンティアに出向し、Web、デジタルとリアルの連携について学ぶ。取材記事も多数手掛けながらBtoB企業の現場を洞察し、顧客企業の事業活動をサポートする。2009年東京事業所長就任。2014年社長就任。

インタビュー後記

インタビュー中、阪倉氏の言葉の端々から「Customer First」という発言がありました。常にお客様にとって何をするべきかを考え、行動すること、これこそが"中外精神"だと伝わってきました。広告からイベント、さらにWebと、お客様にとって必要なことは専任のサポート部門を作って組織対応する。お客様から中国へ進出したいと要望が上がるならば、自ら上海に拠点を作って直接現地のメディアと契約し、下地を作った上でお客様を迎える。他の広告代理店の、海外進出サポートの成功事例を聞くことが少ない中、中外様が10年間海外進出のサポートを続け、ノウハウを積み上げてきた根底には、「Customer First」があると確信しました。

海外での展示会での失敗事例はないのか質問をしたところ、逆に海外のほうが国内よりも準備に慎重になるから、大きな失敗はないとの回答でした。ビジネスの成功は、お客様第一に考えること、改めて基本に立ち返る機会となりました。

※インタビュー実施日:2016年8月22日

(パワー・インタラクティブ 広富)

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