事例

株式会社ツムラ Adobe Marketo Engage導入でMR活動を支援。長期経営ビジョン実現のためデジタル化を加速

株式会社ツムラ Adobe Marketo Engage導入でMR活動を支援。長期経営ビジョン実現のためデジタル化を加速

株式会社ツムラ 医薬営業本部 医薬マーケティング部
デジタルコミュニケーション推進課 課長 石橋 茂 氏
デジタルコミュニケーション推進課 主任 吉川 悠太 氏

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、多くの製薬企業でMR(医薬情報担当者)による医療機関への訪問が難しくなりました。医療関係者への情報伝達手段の確保が大きな課題となり、各社がデジタルを活用した情報伝達に力を入れています。

漢方製剤や生薬製剤など医薬品の製造・販売をおこなう株式会社ツムラでは、2021年4月にデジタルコミュニケーション推進課を新設。マーケティング課から独立した形で立ち上がり、Web講演会の企画運営、動画コンテンツの作成、Webサイトの制作、MAの活用など、デジタルマーケティングに関する施策を担っています。

パワー・インタラクティブでは、ツムラ様のAdobe Marketo Engage(以下Marketo)導入ならびに活用支援を進めており、ちょうど1年が経とうとしています。本稿では、株式会社ツムラ 医薬営業本部 医薬マーケティング部 デジタルコミュニケーション推進課の石橋 茂 氏と吉川 悠太 氏に、同社のデジタルマーケティングの推進状況と率直な感想などをうかがいました。

コロナ禍を機にデジタルマーケティングを加速、増収に貢献

デジタルコミュニケーション推進課が新設された背景と、Marketoを導入しようと考えた目的について教えてください。

コロナ禍を機にデジタルマーケティングを加速、増収に貢献

(写真左から)石橋氏、吉川氏

石橋氏
ツムラの主力事業は、病院やクリニックといった医療機関で処方される医療用漢方製剤の製造・販売です。医療用漢方製剤を先生方や患者さんにお役立ていただくうえで、最も重要な活動と位置付けているのが、安全性や有効性などの情報をお届けする情報提供活動です。それを担う役割として、弊社には約750名のMRがいます。

コロナ禍以前は、医療機関へ訪問して対面で情報提供を行っていましたが、コロナ禍以降は訪問できない状況が全国的に増加しました。2カ月間ほぼ訪問できない時期もありました。そこで、医療関係者への情報提供を絶やさないために非対面の方法を重点的に考えるようになりました。その1つの手段として、2021年4月に医療関係者向けのサイトを大幅にリニューアルしました。それが「TSUMURA MEDICAL SITE」です。

このサイトは医師や薬剤師の方など、医療関係者が生涯に渡って漢方医学を学べる環境を作ることをテーマにしています。

ツムラグループが究極的に成し遂げる事業の志として制定しているパーパスは、「一人ひとりの、生きるに、活きる」です。医療関係者への情報提供においても一人ひとりを重視して、医療関係者が求める情報を、求める方法で提供することを目指しています。Marketoの導入は、情報提供をパーソナライズして、顧客体験価値を最大化する取り組みの一環です。

その加速化のために、「TSUMURA MEDICAL SITE」は4カ月で立上げ、Marketo導入も並行して進めていきました。従来の営業活動のスタイルに加え、デジタルマーケティングに取り組んだことで、厳しい外部環境の中、売上高の伸長トレンドに変化が生まれ、増収に貢献することができました。

Marketo運用は20名規模の組織横断プロジェクトで推進

一気にデジタル化を進めたんですね。Marketoの導入・活用は具体的にどのように取り組んできたのですか。

吉川氏:
Marketoの契約開始が2022年の1月です。そこから準備を進めて、私が正式に配属となった4月から稼働となりました。それまで私は、MRの仕事をしていました。

Marketoの導入については、御社の担当コンサルタントの山下さんに道筋を立ててもらいました。4月に配属されてからの2カ月間は、Marketoの使い方の基礎を教えてもらい、これまで外部に委託していたメルマガ配信業務を内製化できるようになりました。さらにその翌月からは、セグメント別に分けて配信を行っています。

進めている中で、1つ目の課題として生じたのが「個別化」です。メールを一人ひとりに合わせて作るには、コンテンツの量が必要です。そこで、社内に約20名規模の組織横断型のMarketo導入プロジェクトを立ち上げることにしました。私たちデジタルコミュニケーション推進課に加え、コンテンツ制作や営業管理、教育に携わっている部署からも参画してもらい、定期メルマガやイベント案内メールなど、プロジェクトメンバーがアイデアを出し合いながら進めました。

プロジェクトでは毎月の定例会議を開催して、そこで目標進捗の共有をおこないます。顧客体験価値の最大化につなげるには、「個別化」に加え「自動化」も重要なキーワードになると捉え、Marketoでどのように「個別化」と「自動化」を実現するのか、具体的な案をいくつか出し合い、プロジェクトメンバー内で担当付けをして実行していきました。

漢方の処方数をベースに習熟度を五段階でセグメント化

「個別化」と「自動化」の具体的な取り組みについて教えてください。

吉川氏:
個別化の観点では、セグメント別に区切ることが有効な手段です。セグメントは2つあります。1つは習熟度分類、もう1つが診療科分類です。弊社では、習熟度について処方数をベースに五段階に分けています。

石橋氏:
弊社では、全診療科の先生方にアプローチします。製薬業界では全診療科が対象になるのは珍しいかもしれませんが、あらゆる診療科の先生に医療用漢方製剤をお役立ていただいています。最終的には「習熟度」×「診療科」を掛け合わせてセグメント分けしたいと考えています。

吉川氏:
「自動化」の観点では、2つのパターンがあります。1つが社内に向けた自動化、もう1つが社外に向けた自動化です。社内に向けては、MRへ送る、有望医療関係者に関する通知メール(アラートメール)の自動化です。それぞれのリードをスコア化し、一定の点数を超えると有望医療関係者となります。例えば、ページ閲覧が1点、講演会への申し込みが10点です。点数が累計して100点を超えると有望医療関係者扱いとなり、MRへ医療関係者情報を届けます。

MRへ渡すのは厳選したホットリードのみ

「有望医療関係者を渡しても、営業がなかなか動いてくれない」という悩みを抱える企業も多いですが、御社では何か工夫をされていますか?

石橋氏:
MRへ送る医療関係者はスコアリングを通じて厳選されています。弊社には約750名のMRがいますが、1日に送る有望医療関係者通知メールは約5通です。これは一人あたりではなくて全体で5通なので、かなり絞っています。MRはやることが多いので、本当に有望な医療関係者だけを送っています。

MRへ渡すのは厳選したホットリードのみ

(写真)石橋氏

吉川氏:
私は可能な限りMRへの聞き取りを行っています。1件うまくいった大学病院担当MRの事例を紹介します。

大学病院はコロナ禍の訪問規制が厳しく、担当MRはアポイントの依頼メールを何度か送っていたのですが、返信の無い状態が続いていました。ある日厳選された有望医療関係者をアラートメールによってMRに自動でお知らせしました。MRへのアラートメールには、Marketoの興味スコアを活用して、該当する医師が閲覧しているコンテンツ情報を掲載しています。具体的には、「TSUMURA MEDICAL SITE」の「製品情報」「動画ライブラリー」「講演会・学会・研究会」「お役立ち情報」「品質と技術」の分類でスコアをつけて、各点数をアラートメールに載せています。MRはそれを見て、興味分野を把握し、関連した情報を添えてメールを出したところ、アポイントが取れたそうです。

Marketoによって、訪問者がどのコンテンツを見たのか分かるようになったことは、社内で高い評価を得はじめています。これまで「TSUMURA MEDICAL SITE」の会員登録数を目標としていましたが、登録した医療関係者が、その後どうなったのかをフィードバックできていませんでした。興味関心が分かるようになったことで、MRからも感謝の声をもらっています。

社外への自動化においては、いま設定を進めているのが休眠会員向けのメール自動化です。 休眠会員の定義を60日間「TSUMURA MEDICAL SITE」を訪問していない会員として、人気コンテンツとログインの方法を自動で送るようにしていきます。また、動画を見た医療関係者に対し、関連する処方の情報を自動で届ける取り組みも考えています。

会員向けメルマガの個別化で開封率47%、クリック率8%、Web講演会は320名の申込み

デジタル施策の数値目標と達成状況を教えてください。

吉川氏:
施策の目標では、メルマガの数値目標を設定しています。メルマガには大きく分けて「会員向け」と「非会員向け」があり、会員向けはWeb講演会の視聴を、非会員向けは会員登録をコンバージョンに設定しています。 会員向けのWeb講演会は、月平均10回ほど開催しており、Marketo経由で毎回300名の申し込みを目標にしています。現在は平均して320名ほどの申し込みがあるので、目標は達成できています。今後はさらに申し込み数を上げるために検証を重ねて参ります。

会員向けメルマガの個別化で開封率47%、クリック率8%、Web講演会は320名の申込み

(写真)吉川氏

集客ができている要因は、メルマガの開封率とクリック率の高さにあります。開封率は47~48%、クリック率は8~9%ほどあります。ただし、開封率の目標は50%、クリック率の目標は10%を掲げているので、目標にはまだ少し届いていません。

開封率を高める対策として、件名の個別化を考えています。たとえば、件名に送信先の名前を入れたり、診療科別にセグメント化を進めたりするなど、その診療科の方が興味を持ってくれそうなタイトルにして参ります。

非会員向けメルマガでは、1回の配信で20件の会員登録を目標にしています。現在は平均して18件ほどで、こちらもまだ目標に届いていません。

石橋氏:
メルマガの配信数は3万件を超えたところです。メルマガの配信頻度は、会員向けが月に4通、非会員向けが月に2通です。会員の内訳は、3分の2が医師、3分の1が薬剤師やその他の医療関係者です。

現在、コンテンツそのものの個別化を進めています。活動がデジタルになると、全てのデータが溜まっていきます。Marketoをはじめとしたデジタル施策によってデータが取れるようになりました。データをもとに、医療関係者一人ひとりの背景や行動を捉えて、それに応じた活動の推奨を考えています。

例えば、「TSUMURA MEDICAL SITE」のデータやアクセス履歴もそうですし、Marketoの他に、Web接客ツールも導入しています。MRが何をしたかという日報データなどは、Veevaを利用していますが、これらを1つのデータベースにしようと進めています。

パワー・インタラクティブでMarketo運用の道筋を作る

弊社が御社のMarketo導入・活用支援を始めて1年になりますが、サポートに対する感想をお知らせください。

石橋氏:
Marketoを提供しているAdobe社から、御社の推薦がありました。Marketoを入れた後、どう運用していくかは固まっておらず、吉川が配属される前から御社の山下さんに相談していました。弊社の事情をふまえて、山下さんには吉川のレベルに合ったサポートを行ってもらってます。まるで家庭教師のように月2回の定例で打ち合わせを実施しながら進めてもらい、本当にありがたいです。

パワー・インタラクティブでMarketo運用の道筋を作る

(写真左から)石橋氏、吉川氏

吉川氏:
山下さんには、Marketo運用はもちろん、それ以外の面でも助けてもらっています。Googleアナリティクスの使い方についても、タグに不具合が起きてダブルカウントされてしまった際には、原因を見つけて解消してもらいました。一人では絶対できていないので、助かっています。

Marketoは機能が多いため、どこから手をつければいいのか分からない中で、山下さんに道筋を作ってもらいました。Web講演会の申込数の集計方法や、他にもこちらが見たい項目に対して、さまざまな組み合わせで提案を受けています。

難しい依頼に関しては「できない」と回答する会社もありますが、山下さんの場合はできなくても別の案を提案してくれます。最近の例では、メルマガ経由で会員登録やWeb講演会の参加登録に至ったかを集計する際、パラメータの付与を提案してもらいました。パラメータを付与することで、Googleアナリティクス上で計測できます。さらにMarketo上にもパラメータ入りのURLを踏んだかどうかを設定することで、メルマガ経由で登録したかを正確に測れるようになりました。

2024年度中に10処方以上の漢方製剤を処方する医師を50%以上に

今後の課題と取り組みを教えてください。

石橋氏:
第1期中期経営計画の最終年度である2024年度中に、10処方以上の漢方製剤を処方される医師を50%以上にするという目標を対外的にも発表しています。臨床医師が32万人と言われる中、半数の16万人に10以上の漢方を処方してもらうことは、かなり高い目標です。それを成し遂げるためには、多くの範囲をカバーし情報をお届けすることが必要です。なおかつ、質においても一人ひとりに対応した情報をお届けしなければなりません。

デジタルコミュニケーション推進課がやるべきことは、いかに広くあまねく情報をお届けするかだと思います。そのためには会員数をもっと増やしていく必要があります。1本のメールで会員登録20名獲得ペースでは追いつきません。そのためには、さまざまなツールを活用していく必要があります。また、メールの自動化にフォーカスするとともに、ナーチャリング施策を進めたいと考えています。

2024年度中に10処方以上の漢方製剤を処方する医師を50%以上に

ツムラ医療用漢方製剤一覧(内服薬:128処方、外用薬:1処方)

プロフィール

石橋 茂 氏
株式会社ツムラ 医薬営業本部 医薬マーケティング部
デジタルコミュニケーション推進課 課長

2004年株式会社ツムラ入社。MR(医薬情報担当者)としてエリア担当、大学担当を経て、本社にて市場調査、マーケティングに従事。2021年に新設されたデジタルコミュニケーション推進課長に就任。現在はプロモーションのほか、データ利活用まで幅広い取り組みを行っている。

吉川 悠太 氏
株式会社ツムラ 医薬営業本部 医薬マーケティング部
デジタルコミュニケーション推進課 主任

2015年株式会社ツムラ入社。入社時は秋田・東京でMR(医薬情報担当者)を経験。
2022年にデジタルコミュニケーション推進課に配属。メールマーケティング業務に従事する。現在は、Marketoを中心としたマーケティングオートメーションの実現に向けて取り組みを行っている。

株式会社ツムラ https://www.tsumura.co.jp/
TSUMURA MEDICAL SITE https://medical.tsumura.co.jp/member/certification

担当コンサルタントの声

Marketo Engageの初期フェーズでやるべきことはたくさんありますが、ツムラ様のマーケティング方針に沿って施策を一つひとつ実行していくことに努めました。最初は施策の中心であるメールをマスターすることに集中しました。吉川様にとってはMRからデジタルコミュニケーション推進課に異動した最初の担当がMarketo Engageの運用でした。デジタルマーケティング業務自体初めてであったものの、メールを作って、配信して、検証レポートを作る一連の業務を楽しそうに取り組んでいて、私自身もサポートのやりがいがありました。
2年目に入る今期は、ナーチャリングに力を入れる予定です。吉川様にはナーチャリングのターゲットを決めて具体的な施策を設計するところから取り組んでもらいます。ナーチャリング施策の実施によリ、Marketo Engageの活用範囲もさらに広がります。吉川様はアドビ社が主催する「2023 Adobe Marketo Engage Champion」(※)へ申込み済とのこと。チャンピオン受賞という目標も加わり、私もより力が入ります。

※Adobe Marketo Engage Championプログラムは、アドビが年に一度、Adobe Marketo Engageユーザーの中からマーケターとしての情熱を持ち、高い目標に向かってチャレンジし、ユーザーコミュニティやイベント参加を通じて社内外でマーケター市場の活性化に貢献したAdobe Marketo Engage エキスパートに贈呈する賞です。

参照:https://business.adobe.com/jp/blog/how-to/community/dx-what-is-adobe-marketo-engage-champion
インタビュー実施日:2023年2月14日

山下 智

マーケティングコンサルタント

山下 智

マーケティング戦略策定

Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!

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