セミナーレポート

ABMに続く「ABX」を説き明かす

BtoB企業におけるマーケティング手法の1つとして「ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)」に取り組む企業が増えている。しかし、思うような成果に繋がらないケースも少なくない。そんななか、ABMに続く新たなコンセプトとして注目され始めているのが「ABX(アカウント・ベースド・エクスペリエンス)」だ。

2023年6月21日、ON24合同会社 カントリーマネージャーの上田善行氏をゲストに招いたLiveインタビュー形式のセミナーを開催。「ABMに続くABXを解き明かす」をテーマに、ABMを効果的に進めるためのヒントを探った。本コラムでは、当セミナーの内容をまとめている。

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プロフィール

上田善行 氏
ON24合同会社 日本法人 カントリーマネージャー

エンタープライズITの領域において20年以上のキャリアを持つ。アクイアジャパン合同会社セールスディレクター、CI&T株式会社取締役ビジネスディレクターおよび同中国法人総経理、株式会社ロココ取締役営業本部長を歴任。現在はON24合同会社 カントリーマネージャーを務める。

20年以上のキャリアのなかで、一貫して企業のデジタル顧客体験向上に関するソリューション提供に従事してきた。

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「ABM」はターゲットアカウントに焦点を当てたアプローチ

上田氏:ABMとは、企業が特定の「アカウント」、つまり潜在的な顧客企業を中心にマーケティング戦略を組み立てるアプローチのことです。マスマーケティングやリードベースマーケティングとは異なり、既存・新規を問わずに特定の企業や顧客に焦点を当ててアプローチをおこなうのが特徴です。ABMでは、ターゲットアカウントとの接点を増やしながら最終的な受注を目指していきます。

この取り組みの利点は、企業の営業・マーケティングリソースを最大限に活用できることです。アカウントを絞ることでリソース配分を最適化し、リードの質を向上させる。それによってROI(投資回収率)を高める効果も期待できるといわれています。

ABMへの取り組み手順は、以下の4段階に分けられます。
1.ターゲットアカウントの特定
2.パーソナライズされたコンテンツの提供
3.メール・ウェビナー・Webサイトなどのあらゆるチャネルを活用したアプローチ
4.施策の効果測定、コンテンツのさらなる最適化

ターゲットアカウントの特定方法

パワー・インタラクティブ広富:まずターゲットとなる企業を絞り込むということですが、直接アプローチするのは人ですよね。ターゲットアカウントを選定した後、どうやって担当者を絞り込んでいくのでしょうか?

上田氏:アプローチには、コンタクト(連絡先)が必要です。アメリカの場合、BtoBのコンタクトが売買されているので、アカウントさえ特定できればコンタクトは簡単に入手できるんですよ。しかし、日本には個人情報保護法があるので、そうはいきません。そのため、まずハウスリストからアカウントを特定して、すでに名刺交換をしている人たちを精査していく流れになると思います。

広富:企業、部署、人の順に落とし込んでいくようなイメージでいいでしょうか?

上田氏:そうですね。アカウント特定の段階で、企業だけでなく、部署・役職までを特定する必要があります。

ABMの推進にはテクノロジーの活用が欠かせない

上田氏:ABMのソリューションとしては、6senceやDemandbaseが有名ですよね。これらのソリューションは、AIやマシンラーニングの技術を応用することでアカウント企業の予測分析をおこなうレベルにまで到達しています。また、アメリカでは自然言語処理やディープラーニングによってコンテンツを自動生成するAIも多くリリースされています。さらに、マルチチャネルアプローチにはAPIでのデータ連携、成果測定やコンテンツの最適化には高速データベースが必要になります。

このように、ABMはテクノロジーなしでは成り立たないのです。

広富:そういったツールが日本にも入ってくる動きはあるのでしょうか?

上田氏:すでに外資系日本法人のほとんどが使っていると思います。6senceは、日本の企業データまで網羅しているので、アカウントレベルであればもう使えます。日本の企業もこの領域でどんどんサードパーティ製品を開発していくと思うので期待したいですね。

広富:これからが楽しみですね。

「ABX」はアカウントの体験に焦点を当てたアプローチ

広富:ABMの延長線上にあるコンセプトとして「ABX(アカウント・ベースド・エクスペリエンス)」の注目度が高まりつつあると思います。この2つのコンセプトの違いはどこにあるのでしょうか?

上田氏:実は、ABXのコンセプトとして掲げられているのは「全ての顧客接点で一貫した体験を提供する」といった至極当たり前の話です。メール、ウェビナー、ウェブサイトなどのあらゆるターゲットとの接点を全て個々のアカウントごとにパーソナライズしていくのがABXならではの特徴といえます。

広富:ABMが十分にできていないところをカバーしているのですね。ABMとABXの違いについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

上田氏:ABMは、「誰に対して話をするか」にフォーカスしています。一方でABXは、マーケティング活動だけでなく、アカウント全体のエクスペリエンス(体験)に焦点を当てています。つまり、「誰に対して、いつ、どのように話をするのか」がポイントです。ABXは、まさにABMの延長線上にあるもので、この業界が進んでいくべき方向性であることは間違いないと思います。

広富:ABMがフォーカスする「誰に対して話をするのか」に、さらに「いつ、どのように」が加わるのがABXというわけですね。

上田氏:そもそも、なぜ今ABXが重要視されているのかというと、顧客体験そのものがビジネスの成果に直接影響を与えるからです。アメリカではCEO(最高経営責任者)やCMO(最高マーケティング責任者)、あるいはCTO(最高技術責任者)やCIO(最高情報責任者)がそれを認識しています。

インテントデータを活用して適切なコミュニケーションを図る

上田氏:ターゲットに適切な体験を提供するためには、それぞれのターゲットの興味関心度合いやニーズをタイムリーに把握する必要があります。この顧客ニーズの把握には、全ての接点におけるユーザーのオンライン行動や関心を示す「インテントデータ」の収集が欠かせません。何をクリックしたのか、どんな発言や質問をしたのか、何をダウンロードしたのかといった情報からユーザーの興味関心は推測できます。加えて、あらゆるチャネルを利用し、適切なタイミングでターゲットアカウントとのコミュニケーションを図ることも大切です。

広富:受講者の方から「適切なタイミングはどのように判断するのでしょうか?また、どうやってパーソナライズするのでしょうか?」という質問をいただいたのですが、いかがでしょうか?

上田氏:エンゲージした瞬間や時間軸を把握すれば、適切なタイミングでのアプローチが可能ですよ。例えば、今回のようなウェビナーの視聴者をターゲットにアプローチしたいとします。視聴者の方がウェビナーを見た後すぐにWebサイトを見たのか、もしくは3日後に見たのかといった情報を追うことでタイミングが判断できます。

広富:関心を持っていただいたタイミングを逃さないということですね。

マーケティングオーケストレーションで一貫性のある体験を作り出す

上田氏:マーケティングオートメーション(以下、MA)によって良質なインテントデータを収集できたとしても、得られたデータを組織全体で共有しなければ、一貫した体験の提供には繋がりません。マーケティングオーケストレーションは、様々なチャネルで獲得したインテントデータを統合し、顧客に一貫性のある体験を提供することを指します。単にデータを連携するだけではなく、データを連携・統合した上で一貫した体験の提供に繋げるのがポイントです。

広富:一貫した体験というのは、常に相手が関心を抱いている情報を提供するという理解でいいでしょうか?

上田氏:おっしゃる通りです。例えば、ECで何か買い物をした後、すでに購入した製品の広告が目に入ったりすることってないですか?

広富:ありますね。

上田氏:一貫性がないというのは、そういうことなんです。これでは顧客満足度が下がってしまいますよね。こういった状況を防ぐために、ブランド、あるいは企業はオーケストレーションに取り組むべきです。それが結果として売上やロイヤリティの向上にも繋がります。

オーケストレーションにはマーケティングテックスタックが必要不可欠

上田氏:マーケティングオーケストレーションを実行するには、CRM、MA、データ分析ツールなどの複数の技術を連携・動作させる必要があります。「マーケティングテックスタック」は、全体最適を考えてテクノロジーを統合する運用のことです。一貫した体験の提供を目指すとき、まずはマーケティングテックスタックを作ることが求められます。とはいえ、よほどの大手企業でない限り、社内で1から機械学習やデータウェアハウスの仕組みを作るのは難しいですよね。現実的な策としては、SaaSを利用するのも一つの手だと思います。
日本では大企業であっても、MAとCRMが繋がっていないことは珍しくないのですが、アメリカでは考えられない話なんです。

広富:そのあたり、実は詳しくお聞きしようと思ってました。日本では「MAはマーケティング部門」「CRMは営業部門」といったように部門間に壁があることも少なくないと思います。アメリカではどうでしょうか?

上田氏:通常はマーケティング部門が全てを保有します。アメリカではすでにCMOの予算がCIOの予算を抜いています。基本的にマーケティングテックスタックの予算はCMOから支出され、営業が持つことはないですね。

ABM/ABXの導入ステップ

広富:最後に、これからABM/ABXに着手しようと考えている企業が優先的に取り組むべきことを教えてください。

上田氏:ABMを始める際の第1ステップは、ターゲットアカウントの決定と、パーソナライズされたコンテンツの提供です。このとき、成果のモニタリングと改善をおこなうことを忘れてはいけません。例えば、ウェビナーに100人が集まったら、その100人のうち何名がターゲットアカウントだったのかという割合をきちんと出すんです。そうすることで、コンテンツや集客方法をよりターゲットに適したものに改善できると思います。

広富:それをKPIにするということですね。ABXについては何から取り組むべきでしょうか?

上田氏:まずはABMに取り組んで、ABXに取り組むための道筋を立てるのがいいと思います。その上で、さらにインテントデータの収集やパーソナライズされたエクスペリエンスの提供に力を入れていくべきでしょう。この部分をサポートしてくれる様々なツールもすでに存在しますし、実はそれほど金額が高いものではありません。ただし日本の企業が海外のツールを使うとなると、やはり言語の壁は避けられません。

広富:インテントデータの収集に関しては、すでにMAツールを導入している企業も多いと思います。MAとCRMを連携させれば、成果検証まではすぐにできると思うので、ぜひ取り組みたい領域ですよね。お話を伺って、やっぱり成果検証が大事なんだと感じました。

顧客体験から競合優位性を生み出す

上田氏:インテントデータを活用したABXの取り組みが軌道に乗れば、顧客体験やROIの向上や顧客との関係強化に繋がります。さらに、企業としての競争力向上も期待できるので、まずはインテントデータの連携・統合、成果検証など、できることからぜひ取り組んでいただきたいです。

セミナー事務局より

「ABMでも推進していくのが難しいのに、その上位概念であるABXなんて実現できるのだろうか」。セミナー開催前はそんなことを思っていました。しかし、上田氏の話を聞き、ABXとは「ABMの上位概念」というより、ABMを推進するうえで欠かせない「顧客体験」に焦点を当てた考え方のことだと理解しました。

弊社は「マーケティングの半歩先を伝える」を掲げてコンテンツ発信をしています。今後も自社でABM/ABXへの取り組みを進め、皆様のお役に立てるような情報を発信していければと思います。

ウェビナーを手段としたマーケティングDXを提供|インタビュー
https://www.powerweb.co.jp/knowledge/columnlist/interview-29/

MOps(Marketing Operations)に関する実態調査資料|無料ダウンロード
https://www.powerweb.co.jp/knowledge/downloadlist/report-report-mops2023/

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