【特集記事 Vol.63】
パチンコ業界に見る顧客関係深化作戦
〜顧客の心をつかむ「10のチェックポイント」〜
プロデューサー 広富克子
日ごろ公私含めていろんな方とお話をする機会が多いが、プライベートの過ごし方でふと話題になるのがパチンコである。パチンコの話題になると、年代問わず結構話が盛り上がってくる。それだけユーザー層が広いのだと改めて気づくのだが、頻度は別として、パチンコユーザーでは、パチンコ歴が長い人が多い。先日聞いたある友人の話では、努めて自制しながら、それでもパチンコホールから案内がくると、ついつい足が向いてしまうとのこと。よくよく話を聞くと、パチンコホールには、店内外問わず、ユーザーの心理をくすぐる様々なしかけが展開されているようである。
話をしてくれた友人は、その間、目を輝かせ、ほんとに楽しそうに現在のパチンコホールのサービス、勝ち方等について語ってくれた。こんなにもユーザーの心をつなぎとめているパチンコホールとはいかなるものか、最近は、ケイタイによる案内・ポイントサービスなども加わり、ネットマーケティングも展開されていると聞くと、関心が高まる一方である。
今号では、パチンコ業界から学ぶ「10のチェックポイント」をあげ、顧客データを活用したリピート促進、さらにファン化へ導くためのノウハウを確認していきたい。
パチンコ業界の概要
(財)社会経済生産性本部の「レジャー白書2003」によると、パチンコ産業全体の市場規模は、1995年の30兆9020億円をピークに減少傾向が続いていたが、2002年には29兆22250億円まで盛り返してきており、ようやく回復傾向が見られるようになってきた。
顧客の目はシビアである。差別化のできないパチンコホールは淘汰され、どこかで新規出店があると、一方で静かに閉店している店舗もある。1、2年前までそのエリアでトップ3であったにもかかわらず閉店にまで追い込まれるケースも少なくない。
そんな激しい顧客争奪戦が繰り広げられる中、元気なパチンコホールのキーワードは、”顧客視点のサービス”。本来のレジャー産業の使命である、(勝負に負けたとしても)“楽しさ”“心地よさ”の提供が進んでいる。また女性、シニア、ペア(夫婦、カップル、女性同士)といった切り口からのアプローチも盛んである。
様々な仕組みの変更、作戦にて、差別化をはかるパチンコホールの競争力はアップし、顧客の期待も膨らんでいる。そこには、顧客全員に同じサービスを提供するのではなく、顧客の特性に応じたサービスの提供、しかもまた来店したくなる心憎いまでの恩典の設計が組み込まれているのである。
パチンコホールの顧客関係深化作戦
1. 会員カードの活用は会員化促進から
業界問わず、顧客情報を入手する手段として定着してきたのが会員カードシステムである。それはパチンコ業界でも例外ではない。むしろその活かし方については、他業界よりも先行する部分は多い。
会員カードを活かすには、まずは会員確保するところがスタートであるが、そのためのしかけについて、3つのチェックポイントをあげたい。
至るところでポイントが加算されるしくみをとり、
カード会員にならないと損をすると思わせる状況をつくる。
パチンコホールでは、ポイントの加算方法も様々であり、至るところでポイントが加わるしくみがつくられている。
例えば、
- 来店につき1ポイント
- 10:00〜12:00に来店で1ポイント
- パチンコ投資額が3000円で1ポイント
- パチンコ遊戯60分で1ポイント
- 誕生日に5ポイント
さらに
人気A機種においては、A機種専用のカードを別途発行。遊戯中の時間(分単位)に対してポイントが加算されるしくみもある。
顧客からみると、あちこちでポイントがつくため、自然と会員カードを持っていなければ損をしてしまうような気になり、カード会員になるのがいまや当然のようになっている。店舗側にすると、ポイントがつくたびに顧客情報が入手できるわけであり、互いのメリットが実現していると言える。
会員ポイントは来店促進のための有効手段。
貯まりやすく使いやすいしくみが重要。
来店を促すしかけ
- ポイントを貯まりやすくする。
- 前述の様々な面でのポイント提供は、ポイントを貯まりやすくし、せっかく貯まったポイントだからそれを使うために来店しようという心理に訴えるしかけとも言える。
- 来店メリットを常時準備。
- 店舗のイベントは、毎日のように、”○○の日”として展開。
例えば、”8(パチ)”のつく日、8日、18日、28日はパチンコの日。
”11、22など(ゾロ)”のつく日、11日、22日はパチスロの日。
毎週土曜日はお客様感謝デーなど、いつ来店しても何らかのメリットを準備 している。来店すればポイントも加算、誕生日に来店すると、50ポイント提供という恩典もある。
恩典には顧客がほんとに欲しくなるものを設定してこそ、ポイント制も生きてくる。
パチンコホールは、恩典の百貨店である。バラエティにとんだ恩典は、顧客のポイントを貯める楽しみを喚起する。
- ポイントに応じた恩典では、例えば、
- 10ポイントで「必勝栄養ドリンク」
30ポイントで「平日終日無制限」
100ポイントで「景品交換20%OFF」
200ポイントで「お米定期配送券」
300ポイントで「必勝!B機種 スペシャルシート券」
その他、「座席おとりおき券」「気分転換マッサージ20分券」「次の日も同じ設定のままでプレーできる券」etc
と、種々様々である。
ただし、コスト計算するがために、顧客がいらないものを恩典にしても意味がない。顧客自身が喜ぶもの、顧客の家族が喜ぶものなど、顧客の状況を考え、ポイントを貯めたいと思わせられる恩典が必要である。

2. 顧客データの分析
集まった会員データをどう活かすか。ここでつまずく企業は多いだろう。しかしながら、パチンコ業界では、顧客データを活用した顧客アプローチがきっちりと展開されている。
顧客属性だけでは、顧客の顔は見えない。行動履歴をクロスさせてこそ、
顧客の生活スタイル、嗜好が見えてくる。
ターゲットを明確にしたセグメント別アプローチ
カード会員化の際、顧客情報として取得する項目は、氏名、性別、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日、職業、ダイレクトメールの可否など、他の業界でもとられている基本情報であるが、その後の利用状況、例えば、曜日、来店時間、退場時間、遊戯機種など、各情報をクロスすることで、大方の顧客像が把握されている。そして、それに合わせた恩典の設計、案内のタイミングなど、セグメントに応じたアプローチが行われ、リピート客獲得につなげられているのである。
ヘビーユーザーへの恩典
パチンコホールにとって、特に、ヘビーユーザーをつなぎとめておくことは重要である。関心のある機種に対しての新台情報や、昨日・本日の出玉情報、最近の傾向レポートなど、ヘビーユーザーだからこそ喜ぶ情報の提供は最も効果的である。
顧客の基本属性情報と行動履歴がわかれば、ある程度、その顧客のライフスタイル、嗜好性が見えてくる。それを知って、反映させてのアプローチがあって、初めて顧客の目をこちらに向けさせることができるのである。
3. 顧客を動かすしかけ
顧客を来店まで動かすため、リピートにつなげるためには、気の引き方から、来店することの意味づけ、コミュニケーションの取り方まで、あらゆる部分での工夫が必要とされる。以下、4つのチェックポイントで確認したい。
情報提供の際は、あなただけに特別に提供しているという演出が重要。
特別感を強調したサービス案内。
“あなただけ”“いまだけ”のレア情報を提供している演出を行うと、顧客との距離感はぐっと縮まる。特に、ロイヤルユーザーに対しては必須である。
最近では、ケイタイメールの活用が増え、ターゲットを絞ったアプローチが行いやすくなり、ネットマーケティングも本格化すると思われる。チラシからメールへの移行は加速すると予想される。
また、郵送での案内は、封書ではなくハガキにして、赤などの目立つ色を使用し、まずは目にとめてもらえるようにしている部分も工夫が見られる。
目的とカスタマーシナリオが明確であれば、販促効果が充分出せる有効な恩典が設計できる。
来店してこそ、受け取れる恩典準備。
一例であるが、出玉の多い日を告知し、前日に来店して予約すれば翌日の優先入場券を配布するものとする。ここでは、わざわざ前日に来店して予約をとってこそ、恩典を受けられることがポイントである。すなわち、一つの恩典に対して、2度の来店促進を図っているのである。
顧客からすると、予約のためと言えど、入店してしまうと、つい台にむかってしまいたくなるものであり、特に、翌日は出玉の多い日であるとわかっていれば、わざわざ店に入って、そのまま帰る気になりにくい。まさに顧客心理をつかんだ作戦である。
顧客を自店に引き止めるためには、預かり物を持つと効果的。
リピートを促すしかけ
- 貯玉システムによる貯蓄化
- 近年は当然のサービスになっているが、貯玉システムというサービスがある。要は店内通貨として玉を位置付け、貯蓄もでき、また手数料を払えば換金もできるしくみであるが、これによって、まるで銀行でキャッシュカードを使うような使い方が定着しつつある。
店舗によって多少異なる部分もあるが、例えば、出玉すべて貯蓄が可能。1回引き出すのに、約400円分(玉110個ほど)の手数料が必要。(ちなみに換金率は、35個⇒100円)といったしくみがある。また、上記の手数料を、閑散期である月曜は不要、という施策もとれる。貯玉システムは、他店への流出を防ぎ、自店を引き留めておくための有効な手段といえる。
顧客の休眠化を防ぐには、時間を空けすぎないよう、
継続したコミュニケーションが必要。
継続した出玉情報の提供
顧客にとっては、一度勝って、満足すればするほど行きたくなるものであり、逆に負けると、それをとりもどしたいと、また心惹かれる状態になる。そんな中で、出玉情報は最も気になる要素であり、その情報がたたみかけるように流れてくると、そのうちの何日かはつい足を運びたくなるものである。この継続性が顧客を休眠させない効果的販促手段といえる。
4.顧客満足度アップ
さて、来店までなんとか誘導でき、来店後が、本当の勝負となる。特に新しいターゲット層を拡大しようと思えば、そのターゲット層に満足してもらえたかどうかが最も重要である。再度行きたいと思ってもらえるための努力は、店内設備のハード面から接客・サービスのソフト面まで、多岐にわたって展開されている。
ターゲット層拡大に向け、女性へはきめ細かいサービスで満足度アップ。
女性へのアプローチ
パチンコ人口が減少傾向にある中、女性客の獲得は重要課題である。女性層の取り込みについては、各店舗しのぎを削っている。
- トイレはホテルをもしのぐ、個別化粧台付き。
- においがつかないようにするため、台個別に空気清浄機を設置。
- 長時間でも疲れにくい、マッサージチェアに座りながらの遊戯。
- 玉5個(約20円分)で、有名ケーキ店のチーズケーキと交換。
- 冷蔵ロッカーや託児所併設も今やめずらしくない。
これまでのイメージが一新されるようなパチンコホールも登場している。さらに、ペア顧客へのアプローチも積極的であり、ペア遊戯権や、玉の共有化も実現され、ターゲット顧客層へ向けてアイディア満載のサービスが展開されている。
店舗の滞在時間を延ばすには、居心地のいい空間の提供が必要。
顧客の特性、心理を理解したサービス提供が差別化のポイントになる。
以下、現在パチンコホールで展開されている各種サービスをあげてみた。
単なるパチンコホールとはいえなくなった、エンタメ化加速。
- まるで百貨店のような景品ショーケーススペースあり。
- 通常の喫茶店に劣らないカフェスペース。リラックス空間にして本まで読める。
- ワゴンサービスも充実。台からひとときも離れたくない心理をつかむ。軽食サービスもあり。
異業種とのコラボレーションも加速。
- エリア内に露店を出展。ケーキ屋、靴屋他。ケーキ屋さんは1日でシュークリーム約2000個完売の人気。
- パチンコユーザーにはお店経営者も多く、また地域とのかかわりを深めるために「地域産業振興キャンペーン」として「コラボレーションしませんか?」の案内を店内にポスター掲示。エリアは無償で提供。
- パチンコホールに特化した、ワゴンサービス専門の会社(上場会社)も登場。
- 景品を宅配便にて自宅無料配送。
営業時間の拡大(9:00−23:00など)
全台無定量、玉を持ちながら台の移動OK、共有OK、等価交換など。
サービス力アップのための顧客によるスタッフ評価
- 今月のスマイル賞(仮)として、顧客の投票によって、最も顧客に支持されたスタッフを店内に発表。
良質なスタッフを集める
- 最近では、ワゴンサービスが充実。
ワゴンサービススタッフは勝負に熱くなっている顧客にひとときのやすらぎをわたす重要な位置づけとなっている。良質なスタッフ確保とその人の個性を活かすため、「ワゴンサービス部」を新たに設立するホールも増えている。また、「あなたのセンスで選んでください」といったキャッチで、ワゴンサービスにおける制服を各種ブランド(イタリアンティスト)から選び支給されるホールもある。
矢野経済研究所の2004年に実施されたパチンコ・パチスロ遊戯者を対象に実施されたアンケート調査では、60代以上では、全員接客サービスを重視するという回答結果が出ている。シニア層をつかむには、接客サービスは重要な要素と言えるようだ。
パチンコホールの顧客満足獲得のための努力は、今後ますます拍車がかかるであろう。これからどんなサービスが生まれ出すのか目が離せないところである。
パチンコ業界から学ぶ顧客育成シナリオ
以上、10のチェックポイントに従い、パチンコ業界における顧客アプローチをみてきた。
そこには、顧客情報の収集ノウハウからデータ活用、さらに顧客を来店まで動かし、店内では満足度を高めるという、一連の顧客育成の流れが確立されていた。

パチンコ業界が回復の兆しを見せてきた背景として、新たなユーザー層の開拓、そのための新機種の開発が大きくとりあげられているが、本当の要因は、別にあるのではないか。すなわち、顧客一人ひとりに対するカスタマーシナリオが確立されており、顧客の特性に応じて、いかに店に足を運んでもらうか、また来店の際は、いかに満足してもらうか、そしていかに再来店してもらうか、そのためのしかけ、工夫がしくみとして確立されているのが、回復の背景にあるように思われる。
各業界においても、リピート客を増やし、ファン化していくためのしかけづくりが課題となっている企業は多いだろう。まずは、顧客の顔を知ること、彼らを導くためにはどうすればよいか、ハード面、ソフト面を含めて、シナリオができているか、振り返ってみてはどうか。
※協力:森 義隆(営業担当執行役員)
以上
