このジャガイモと玉ねぎで、できることは何?

ここ10年間で、次のような質問をよくされます。

●「このデータで、できることは何?」
●「データはあるけど、何をすればいいの?」
●「どのようなデータで、どのような分析をすればいいの?」

なかなかの難問です。あなたの置かれている状況や、あなたの意思や、あなたが何をやりたいのかによって回答は変わってきます。
データ分析者はよく料理人に例えられます。料理人に次のような質問をした場合、どうでしょうか。

●「このジャガイモと玉ねぎで、できることは何?」
●「生卵はあるけど、何をすればいいの?」
●「どのような食材で、どのような料理をすればいいの?」

なかなかの難問です。あなたの置かれている状況や、あなたの意思や、あなたが何を食べたいのかによって回答は変わってきます。

先程の質問に回答するためには、「データを使って成し遂げたいこと」つまり「テーマ」を設定することが最低条件になります。
例えば……

●「最近顧客の離反率が高いので、工数をかけずに離反しそうな顧客を予知し、早め早めに離反対策をしたい」
●「新規顧客の契約継続期間が個々数年短くなっているので、リードの段階でLTVを予測し、LTVの高い新規顧客開拓をしたい」

……といったものです。

テーマを明確にしたのに、ビジネス成果がでない

データ活用のことはじめとして、あなたの置かれている状況や、あなたの意思や、あなたが何をやりたいのかを考え、「データを使って成し遂げたいこと」つまり「テーマ」を設定しましょう。
しかし、この「データを使って成し遂げたいこと」である「テーマ」が明確であっても、ビジネス成果がでないことがあります。

ビジネスの世界のデータ活用であれば、その成果はPL(損益計算書)の数字に表れます。PLの数字とは、例えば売上高や限界利益、貢献利益、営業利益などです。
ところが、データ活用が現場で実施し続けているのに、PL(損益計算書)の数字にその成果が表れないことがあります。
例えば……

●「データサイエンスだ!」
●「AIだ!!」
●「DXだ!!!」」

……でもPL(損益計算書)が良い方向に向かっている気がしない。

このようなケースは少なくありません。DXやビッグデータ、AI、ロボティクス、IoT、データサイエンスなどの流行のキーワードで何かを実施したこと自体が神々しいという感じでしょうか。

最悪の場合、PL(損益計算書)を悪化させるような無駄遣いをしているケースもあります。一時的に自社の株価を上げるためだけに実施したのではないかと、疑うようなケースもあります。

何がいけないのでしょうか。
多くの場合、設定したテーマに問題があります。成果の出にくい筋の悪いテーマを設定しているケースが、非常に多いです。

テーマ設定が雑すぎる

私の20数年のデータ分析・活用(データサイエンス実践)の実務経験から考えると、明らかに「テーマ設定の壁」が最大の壁です。私の印象では、そのテーマ設定が雑すぎると感じています。
例えば……

●「テーマが上から降ってきた」
●「声の大きい人の意見だから」
●「いつものテーマだから」
●「やれといわれたから」
●「なんとなく」

……など、いい加減な感じでテーマ設定しているケースが多い印象です。

会社のエライ人が考えたテーマが、正しいテーマとは限りません。社外パフォーマンスや社内アピールのための場合もあります。
いつもやっているテーマが、正しいとは限りません。時代とともに取り組むべきテーマは変化します。
そこで、私がよく作るのが「テーマ選定マトリクス」です。幾つかのデータ活用のテーマを、マップ上にプロットしたものです。この「テーマ選定マトリクス」上から、避けた方がいい筋の悪いテーマが浮かび上がります。筋の悪いテーマを避けつつ、取り組むべきテーマを俯瞰的に見て決めることができます。

テーマ選定マトリクス

テーマ選定マトリクスとは、次の2つの軸でデータ分析・活用(データサイエンス実践)のテーマを評価したものを、プロットしたマップです。

●容易性(ヨコ軸)
●インパクトの大きさ(タテ軸)

「容易性」とは、データを使ってどれだけ容易にデータ分析・活用(データサイエンス実践)が実現できるのか、ということです。 「インパクトの大きさ」とは、データ分析を活用したときに得られる「成果の大きさ」です。可能であればすべて「金額(円)」で表現するようにしましょう。

どちらの評価基準も、絶対評価(例:インパクトを金額で表現する、など)が難しければ、相対評価であっても構いません。 例えば……

●「テーマ候補Aに比べテーマ候補Bの方が、容易に実現できる」
●「テーマ候補Bに比べテーマ候補Aの方が、インパクトが大きい」
……といった感じです。

データ活用のテーマを決めるとき、絶対この2つでなければならない、というわけではありません。この2つの評価基準で考え整理すると、テーマ候補が俯瞰され選びやすく、さらに他者に説明しやすくなるので、少なくともこの2つの軸を含めた方がいいですよ、ということです。

筋のいいテーマとは?

テーマ選定マトリクスは、ざっくり4つのエリアに分かれます。右上・左上・左下・右下です。もう少し細かく分けてもいいですが、説明を簡単にするため4つのエリアに分けてお話しします。

右上にプロットされているのは、「実現が容易で、実現したときのインパクトが大きいテーマ候補」です。筋のいいテーマです。やらない意味が分かりません。ぜひやるべきです。

左上にプロットされているのは、「実現が難しいものの、実現したときのインパクトが大きいテーマ候補」です。時間がかかるため、組織として個人として忍耐力が必要です。短期的な成果を求めないように注意しましょう。

左下にプロットされているのは、「実現が難しく、実現してもインパクトが小さいテーマ候補」です。筋の悪いテーマです。やる意味が分かりません。絶対避けましょう。今取り組んでいるならば、やめた方がいいです。

右下にプロットされているのは、「実現が容易ですが、実現してもインパクトが小さいテーマ候補」です。経験を積むなら最適です。成果は小さいですが、テンポよく成果を出せるのでデータ活用の経験値をスピーディに積むことができます。成果は小さくとも、塵も積もれば山となる、ということでそれなりの成果の大きさになると思います。「積小為大なテーマ」です。成果と人財がどんどん生まれます。

どうせなら、「筋のいいテーマ」でさくっと成果をだしましょう?

理想は、テーマ選定マトリクスの右上にプロットされる「筋のいいテーマ」を選ぶことですが、そんなに多くはありません。
通常は、残りの3つエリアにプロットされるテーマ候補が多いです。このとき、左下の「筋の悪いテーマ」を選ぶのだけは避けましょう。

そうすると、残りは「左上」と「右上」にプロットされるテーマ候補になります。
お勧めは、小さいながらも成果がどんどん生まれ成功体験を積んだデータサイエンス人財をどんどん育成できる「積小為大なテーマ」です。組織としてある程度の経験値を積み、人財がそれなりにいるのならば「左上」のテーマ候補に挑むのもいいでしょう。

ちなみに、データサイエンスや機械学習、AI、DXなどに幻想を抱いているある程度大きな組織の場合、「難しいテーマに取り組むべき」という感じで、「右上」にプロットされた「筋のいいテーマ」があるにも関わらず、「左上」にプロットされたテーマ候補を選びがちなので注意しましょう。

何はともあれ、最悪なのは「筋の悪いテーマ」で頑張ることです。どんなにデータ整備や集計、分析、モデル構築などで頑張っても報われません。筋が悪いため、ビジネス成果が出にくいのです。どうせなら、「筋のいいテーマ」でさくっと成果をだしましょう。

高橋 威知郎(たかはし いちろう)

株式会社セールスアナリティクス 代表取締役

高橋 威知郎(たかはし いちろう)

データ分析・活用コンサルタント

中央官庁およびコンサルティングファーム、大手情報通信業などを経て現職。約20年間、一貫してデータ分析に携わる。現在は、営業やマーケティング、生産、開発などの現場における地に足がついたデータ分析・活用(データドリブン化)の支援を実施。

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