インタビュー

株式会社openpage カスタマーサクセスが製造業のビジネスモデルを変革する

株式会社openpage 代表取締役 藤島誓也 氏

株式会社openpage 代表取締役 藤島誓也 氏

株式会社openpageはカスタマーサクセスクラウドを提供するスタートアップ企業です。代表取締役の藤島様は、2018年の設立以降、デジタルコミュニケーションと顧客データの力で、カスタマーサクセスの課題を解決することを責務とし、活動を進めています。今回は、カスタマーサクセスが日本でも拡がりを見せている背景や、製造業における可能性、さらにカスタマーサクセスを推進する組織作りについてお話をうかがいました。

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カスタマーサクセスの潮流の背景に、SaaSやサブスクリプションモデルの普及あり

―近年カスタマーサクセスが注目されていますが、どのような背景があって注目が集まっているのでしょうか。

カスタマーサクセスは日本はまだ始まったところですが、米国で注目されるようになったのは2010年代の前半から半ばです。なぜ、カスタマーサクセスが重要視、注目されたかというと、背景にはSaaSのビジネスモデルがあります。セールスフォース・ドットコムが2004年に上場していますが、彼らはSaaSやサブスクリプションというビジネスモデルを世界で初めてスタートしました。2010年に同社CEOのマーク・ベニオフ氏が『クラウド誕生』」という書籍を出し、その中でカスタマーサクセスの紹介をしています。

日本のここ2〜3年のIPO市場を見ると、SaaSベンダーが次々と上場しています。例えばfreee、マネーフォワード、ラクス等のSaaSベンダーが上場できるということは、顧客にSaaSが受け入れられ始めているという証拠です。日本の大手も中小もSaaSを使っていない企業は少ないと思います。

カスタマーサクセスの仕事は、企業のSaaSやITツールの導入支援を行うことです。SaaSが日本の企業に普及すればするほど、カスタマーサクセスのニーズがどんどん膨らんでいくという構造になっています。カスタマーサクセスの潮流の背景にあるのは働き方の変化で、SaaSが普及し始め、クラウドベースでITを使って仕事をするのが当たり前になってきていることがあげられます。

Zuora社によってSaaS以外の業界にサブスクリプションモデルが拡がる

―最近は製造業でもサブスクリプションモデルが増えており、SaaS以外でもカスタマーサクセスが拡がってきていると感じます。なにかきっかけがあって拡がり始めたのでしょうか。

サブスクリプションという言葉を最初に作ったのは米国のZuora社の代表ティエン・ツオ氏です。元はセールスフォース・ドットコムの創業メンバーで、同社のCSOとCMOを兼務していた方です。Zuora社はサブスクリプションビジネスを展開する企業に最適化したソフトウェアを提供しており、見積書作成から契約管理、請求、会計仕訳まで、サブスクリプションビジネスの 全プロセスを1つのプラットフォームでカバーしています。

Zuora社を起業した当初は、米国のベンチャーキャピタルからは「サブスクリプションってSaaSの決済システムだから大きくならないよ。」という評価がされていたのですが、同社では、「サブスクリプションはSaaSに閉じた話ではなく、これからあらゆる産業で普及します。私たちが実績を示しますから見てください。」と言って、様々な業界にサブスクリプションの概念とZuoraの導入を促進していったのです。こうして自動車や公共セクター、メディアなど従来のSaaSとは離れた領域へ拡げていきました。

製造業のカスタマーサクセスは、IoTとセット

米国の製造業系企業の動きで最も大きな影響を与えたのはAppleです。iPhoneというサービスに加えて、Appleストアを作ったり、サブスクリプションモデルのApple Musicを展開したりするなど、メーカーとしてスマートフォンという端末の開発以外にWeb上で使えるクラウドサービスを独自で開発し、提供するようになりました。デジタルでサービスを提供するようになれば、顧客の趣味嗜好のデータやスマートフォンのデータが取れ、それをもとに改善活動が行えることが明らかになりました。これに追随したのがGEで、航空機エンジンの事例が有名です。これまでエンジンは納品すればおしまいの売切りサービスでした。これに対し、IoTのセンサーをつけて実際どのくらい使われたかを計測できるようにし、Zuoraと連携してエンジンの回転数に応じて従量課金し、決済するモデルに変えたのです。

そうすると、売上げを立てるにはどんどん使ってもらわなくてはいけない。一般的なBtoBビジネスのファネルは、マーケティング活動によるリード獲得があり、その後はMQL、SQLなどナーチャリング、営業が受注して完了ですが、サブスクリプションはそこでゴールではないのです。その先に実際に使われ、満足していただいて、エンジンをもっと長くつかってもらえないか、もっと高機能のエンジンに付け替えられないか、を追求していくので、ビジネスモデルが変わっていきます。これはメーカーでもサブスクリプションモデルとして起こり得る話だと思います。

例えば、テスラは従量課金の自動車を開発し、乗った距離に応じて課金するApple社のビジネスモデルを模索していますが、日本でも同様のビジネスモデルが普及すれば、自動車を買わなくなり、「買う」より「利用する」という考えに変わります。ただ売るというマーケティング活動ではなく、実際に乗ってもらっていかに満足する空間を提供できるか、利用後のサービス体験の磨き込みが企業の中で優先度が高くなっていきます。仕事の仕方、会社のサービス提供のあり方の変化につながっていきます。

―GEの話から、製造業にとってIoTとのつながりが大きな流れになるようですね。

製造業では、IoTとほぼセットの話だと思います。利用状況の把握を製造業企業が知る上では、インターネットに接続し利用データを取らなければならないので、そのためのIoTの仕組みづくりを明確にしなければいけない。家電メーカーを見ても、いろいろなモノがデータにつながっています。私も引越しするタイミングでエプソンのプリンターを買ったのですが、全てWifiで接続可能で、画像データの管理や、スキャンやプリントも全てネット環境で完結できます。将来的には印刷やスキャンの枚数に応じて課金するビジネスモデルを展開することもあり得ます。こうした抜本的な事業構造の変換の前触れみたいなものを、サブスクリプションやIoT、カスタマーサクセスという領域に感じます。

日本の製造業では、カスタマーサクセスは情報収集段階

―製造業でのカスタマーサクセスの取り組みは、日本でどのくらい進んでいるのでしょうか。

残念ながら、まだ情報収集段階だと思います。ある大手企業では、カスタマーサクセス専門のコンサルタント会社を招いて勉強会を行っていますが、DXやカスタマーサクセスを実際にやろうとすると、事業モデルの変化、すなわち製造やサービス、情報セキュリティ、インターネットサービスとあらゆるものが再構築されて実現するものなので、ただ勉強するだけでは進みません。まだまだ様子見の段階だと思います。実際に日本メーカーのサブスクリプションモデルでカスタマーサクセスを取り入れ抜本的に変わったというものは、私はまだ認識していません。

カスタマーサクセスは、用語にすると「お客様の成功」という便利なもので、「お客様視点」「顧客体験」という表現とほぼ同じようなものです。なんとでも言えますが、ビジネスモデルを変えたり、完全にDX化して利用状況を加味しながら提供内容を変えていったりするまでの変化はこれからだと思います。

DX化、カスタマーサクセス化の事例では、マイクロソフトのワードやエクセル、アドビのフォトショップなどがあげられます。どちらも元々インストール型ソフトウェアとして販売しており、値段の高い商品でした。フォトショップやイラストレーターは10万円~20万円もしましたが、現在は月3000円~5000円というサブスクリプションモデルに変更し、提供する中で顧客データを見て、LTVを伸ばすためにカスタマーサクセス活動をするというスタイルにシフトしています。これはかなり抜本的な変化で、カスタマーサクセスとSaaSのサブスクリプションモデルを実現しています。アドビはチェンジマネジメントに関する本を日本でも出していますが、相当の苦労で経営陣を巻き込みながら、いろいろな批判もある中でのプロジェクトだったようです。会社の中で反対の人がいるのを押し切って進めており、日本の中でここまで行っている企業はまだないと思います。

カスタマーサクセスの推進は、新商材で成功体験を作ることから

―日本の企業がカスタマーサクセスを進めるためうえで、何が障害になっているのでしょうか。

職種が部門ごとに分かれている中で、実際に取組んでいくには全ての部門を変更しなくてはなりません。お金の流れを変えるので経理や財務との交渉も必要でしょうし、デジタル化するには社内に開発できるWebエンジニアも入れなくてはなりません。かつ、流通上の卸も関わってきます。物の売り切りであれば、これまで通りで済みますが、サブスクリプションモデルになるとチャネルへの説明を考える必要があります。部分的に変える話ではないので、会社の中で交渉しなくてはならない部門が多すぎて大変です。やり方としては、新しくリリースする新規商品で、小さな部門で試しにやってみることが現実的だと思います。

―今までの仕組みの中にない新規商品で、小さな成功例を作るということでしょうか。

そうですね。私もベンチャー企業の経営者という立場なので、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の方々と話をする機会が増えています。CVCとは事業会社の中にあるベンチャー投資やベンチャー企業へのアライアンス部門ですが、彼らも今の事業に囚われてしまうと抜本的に変えるのは難しいので、新しい領域はベンチャー企業に投資したり、アライアンスを組んだりしてできないかと模索しているようです。

ただし、出来上がっている組織があるというのは素晴らしいことで、そこには様々な従業員が機能しているので、批判するつもりは全くありません。むしろ、サブスクリプション化して、カスタマーサクセス機能をもったときに、財務的に悪くなる可能性もあります。モノの売り切りの方が、財務面のキャッシュフローでは先に入金されるので、ファイナンスの観点では正しいという考え方もあります。どちらが良い、悪いの議論はできません。

新規顧客契約100%のコストをカスタマーサクセスへ20%シフト

―日本企業に、すぐにカスタマーサクセスが拡がるのは難しいと思われますか。

部分的にカスタマーサクセスの考えを活用することは簡単なので、そこは普及すると思っています。コストアロケーションを契約後とかアフターフォロー、アフターサポートへもう少し増やすという考え方なら可能だと思います。例えば、マーケティングや営業で効果が低くなっている広告宣伝費を既存顧客へのデジタルサービスにシフトできるかです。

米国のベンチャーキャピタルは、サブスクリプションモデルの初期は、カスタマーサクセスに20%くらいのコストを充てなさいと言っています。新規顧客契約に営業活動の人件費や宣伝費等のマーケティング活動のコスト100%をかける企業が多い中、既存顧客に20%のコストをシフトするのは大きな割合だと思います。

製品を使用してもらうお客様に価値を認識してもらい、効果を出せるものを作らなければならない。だから製品やサービスの磨き込みに投資しようという考えになるのです。カスタマーサクセスを経営の観点で本腰を入れることを考えると、財務責任者は新規の顧客契約に使っているコストと、既存顧客に対してサービスを提供するコストを天秤にのせて、どれくらいのコストアロケーションをするかを考えるべきです。

カスタマーサクセス組織作りの4つのステップ

―今後日本企業は、カスタマーサクセスの組織づくりをどのように進めていくべきでしょうか。

第1ステップとして、カスタマーサクセスの人員をどうするかです。米国の組織作りを見ると、最初はカスタマーサクセスの経験者はいないので、他の職種からスライドしています。営業職やカスタマーサービスといった導入コンサルティングの仕事をやっている人が担当してスタートするケースが多いです。日本企業も同様です。営業やカスタマーサポート、導入コンサルティングという既存の顧客折衝をしている人を一旦カスタマーサクセス職のリソースとして充てます。

第2ステップは、既存顧客も含めたカスタマージャーニーを作ることです。新規顧客を獲得するまでのジャーニーはよく見ますが、契約後に自社の製品提供によって実現できるマックスの価値を提供するまでのカスタマージャーニー、プログラム設計を行います。その期間は各企業のライフタイムによりますが、例えば、2年の契約期間があることを想定して、この2年間でこういうことをしてほしい、こういう風に使ってほしいといった設計を行います。カスタマーサクセスのプログラムを作る上で一番重要なのはオンボーディングです。すなわち購入してから実際に利用が継続的に行われるまでの情報ギャップを埋める作業です。顧客に聞かれる前に丁寧に説明する体制を作る必要があります。

第3ステップは、カスタマージャーニーの各々のプロセスのステップを、ツールを入れて利用状況を可視化し、レポートしてモニタリングできる仕組みを作ることです。米国のGainsightは、顧客の利用状況を可視化するツールを持っています。このお客様はここまで使ったから青信号、まだここまでだから赤信号というフラグ付けをするツールです。こうしたツールを入れて、契約後の動きをデジタルレポートとして可視化する仕組みを作るのが第3ステップで、少しハードルが上がります。

さらにその先の第4ステップは、デジタルでサービス情報を提供する仕組みを作ることです。第3ステップで、利用状況を可視化する仕組みができているので、MA(マーケティングオートメーション)を使ってOne to Oneでお客様へ案内をかけるようなデジタルの顧客接点を作ることが第4ステップです。ここまでやっている会社は米国でも少ないです。デジタルマーケターがこの役割を担っていますが、できる人材が少ないので、どう対応するか米国で議論されているところです。

図表1

―MA自体を使いこなしている会社はあると思うのですが、カスタマーサクセスで使いこなしている会社はまだこれからだということでしょうか。

その通りです。なぜ難しいかというと、マーケターは実際の商品の販売経験や、法人の顧客折衝の経験がない人が多いわけです。ただし、カスタマーサクセスでは、法人顧客折衝をやってきた業務をデジタルに落とし込む作業なので、総合の業務理解や顧客理解が必要とされる仕事です。さらにプラスアルファでデジタルマーケティングの知見がある人となると多くは存在しません。

―第1ステップでは営業経験者をリソースに充てるので、顧客折衝経験はあるわけですよね。しかし、デジタルを使いこなすにはハードルが高いということでしょうか。

営業担当者がデジタルマーケティングのツールを使いこなすのは難易度が高いと思います。逆に顧客折衝経験はないけれどデジタルを使いこなせる人が顧客対応の感覚を持つほうが近道だと思います。MAツールだけではなく、サイト内のポップアップ表示やサイト構築も必要ですし、新規顧客獲得で行っているマーケティング活動を丸ごと既存顧客向けに作る作業なので、デジタルマーケターの職能領域です。

第4ステップまで進むのは難しいと思いますが、国内の上場しているSaaSベンダーは、意欲的に挑戦しています。弊社が提供するOpenpageも、カスタマージャーニーの継続環境の整備や、デジタルコミュニケーションを助ける機能を備えています。お客様の中でレベルの高いカスタマーサクセスができるようにするのがむしろ私たちの責務だと思っています。

カスタマーサクセスの評価は、LTVと成果を出すまでの顧客体験

―最後にカスタマーサクセスの評価指標はどのように設定するべきだとお考えでしょうか。

カスタマーサクセスの評価指標は、一回きりの売上ではなくLTVです。理論式ではありますが、「平均継続期間」に「製品単価」を掛けるものです。長く使われてかつ高く支払ってもいいという状態をいかに作れるかということです。一回きりの売上がなくなってしまうので、なるべく長く使ってもらわなければいけない。それを実現するのが一番の指標です。裏返すと解約されないという意味なので、「チャーンレート(解約率)」も指標に加わります。どれくらい継続してもらうかという「継続率(解約率)」と「継続期間」が優先で、「製品単価」が続きます。

定性評価では、Gainsightが示す「CS(カスタマーサクセス)=CX(顧客の経験)+CO(顧客の成果)」を提唱しています。カスタマーサクセスは、ただ結果を出すだけではなく、結果を出すまでの経験、顧客体験を重視することを表現しています。例えば、美容室でオシャレにしてもらえたとしても、その過程で美容師の態度が悪かったり、何をやっても遅かったりするとその美容室には行きたくなくなりますよね。ただ効果を出すだけでなく、効果を出すまでのサービス体験をいかに磨いていくかが大事だということを彼らは言っていて、私はそこに共感しています。

プロフィール

藤島誓也 氏
株式会社openpage 代表取締役

エンジニアとしてキャリアをスタートした後、東大ベンチャーpopIn、大手女性誌出版社と共同でネイティブ広告やコンテンツマーケティング製品を新規事業として開発。その後、株式会社ビズリーチにて法人向け広告宣伝、CSM(カスタマーサクセスマネジメント)チームの立ち上げ、ビジネス部門の戦略設計、シード~ポストIPO段階のスタートアップ採用支援、コンテンツマーケティングを推進。2018年に株式会社openpageを設立。

インタビュー後記

日本でカスタマーサクセスが注目されるようになってまだ数年ですが、藤島様のお話から米国のSaaS、サブスクリプションモデルの流れから現在に至っていることがよく理解できました。単に言葉を訳せば「お客様の成功」ですが、継続使用していただき、しかも満足度を維持すること、これを組織的に対応することはビジネスモデルチェンジに取組むことであると認識しました。実現するにはDX化と一体となって推進する必要があります。顧客データをいかに蓄積し、見える化し、活用するか、データからいかに知識や知恵を創造するかが競争優位に立つ決め手になりそうです。



インタビュー実施日:2021年6月16日

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