インタビュー

MOpsはマーケティングプロセスを組織KGIに紐づけ利益を最大化する存在に

Ubie株式会社 ファーマイノベーション事業部 Marketing 渡邊 桃代 氏

Ubie株式会社 ファーマイノベーション事業部 Marketing 渡邊 桃代 氏

Ubie株式会社は、医師の阿部氏と元エンジニアの久保氏によって2017年に創業されたヘルステック企業です。日本の高い医療技術とテクノロジーを活用した問診エンジンを軸に、3つのプラットフォームを展開しています。1つ目が生活者向けの症状検索エンジン「ユビー」。2つ目が医療機関向けのソリューション「ユビーメディカルナビ」。3つ目が製薬企業向けの「製薬ソリューション」です。

「ユビー」は月間700万人以上の生活者が利用し、「ユビーメディカルナビ」は15,000件以上の医療機関と連携、「製薬ソリューション」はメガファーマの半数以上が活用しています。これらの事業を通して、「健康が空気のように自然になった世界」を目指しています。

本稿では、Ubie株式会社 ファーマイノベーション事業部 マーケティングオペレーション(以下、MOps)担当の渡邊 桃代 氏に、MOpsを立ち上げた目的や役割についてうかがいました。

「KGIに紐づいた施策のROIを測れない」という課題を解決するため、MOpsを立ち上げる

Ubieでの渡邊さんの役割についてお聞かせください。

ファーマイノベーション事業部のマーケティング組織に所属し、MOpsを担当しています。現在、マーケティング組織には9名が在籍しており、ブランドコミュニケーション設計や、顧客との接点創出、KGI・KPI管理やマーケティングオペレーション周りの最適化等の役割を担っています。

MOpsの担当は、私含め2名体制です。私はマーケティングオペレーションの全体設計と数値管理、各課題に対する改善案の設計をし、もう1名の担当が具体的な構築と実行を担ってくれています。

私は2023年8月にUbieへ入社し、そこからMOpsを立ち上げました。入社当時、マーケティング組織のメンバーが「KGIに紐づいた施策のROIを測れない」と言っていました。
事業KGIに貢献し得るマーケティング施策の費用対効果を測りたいという課題が顕在化していたのです。

どうしてROIが測れないのだろう?と思って調べると、管理する情報のデータベースがマーケティング部門とセールス部門で分断されていました。それぞれ管理しているデータベースへアクセス自体はできるのですが、各データベース間でリレーションを明確に持っていなかったのです。データのサイロ化がROIを測れない原因になっていました。

こうした課題を解決するためにKGIからマーケティングに紐づくビジネスプロセスを詳細に捉え、データリレーションをもってKGIにコミットするMOpsが必要だと思い、上長に相談して立ち上げました。

また、弊社のマーケティング組織にはプロフェッショナルな人材が非常に多く、入社したときから筋のよさそうな施策が多い印象がありました。例えば、ABM(アカウントベースドマーケティング)による顧客アプローチ、市場におけるステークホルダーとの関係づくり、ブランディングから顕在化顧客に対する幅広いコミュニケーション設計・企画などがあげられます。ただし、市場データや施策実施後のデータが活用を前提とした設計で管理されていないため、定量的に施策が有効かどうかを判断しきれなかったのです。施策の有効性を定量的にフィードバックしたいと考えたことが、MOpsを立ち上げた背景にあります。

社内のステークホルダーを巻き込みデータ定義や管理ルールを策定

MOpsを立ち上げてから取り組んできたことを教えてください。

MOpsでやっていることは主に3点です。

1. データの環境整備(定義構築・CRM環境構築)
2. データマート作成と管理
3.KGI/KPI可視化とアドホック分析

MOpsを立ち上げてからは、点在しているデータを集約してKGIに紐づく形で簡易的なリレーショナルデータベースを構築しました。さらにマーケティング施策でもある程度KGIへの貢献を可視化できるよう粒度を整え、蓋然性の高い情報とは言えませんでしたがROI評価ができる仕組みを整えていきました。まだ精度の高いネクストアクションを出すには参考になりにくい状態だったので、今後の記録データがより正しく活きるようSFAの用意やデータリレーションの仕組み化、情報の定義化などを進めています。並行して顧客とのタッチポイントや施策単位で可能な限りROIを算出し可視化によって分析業務も進み始めています。

入社当時、データの入力ルールが曖昧な点も課題でした。制限のない自由回答形式の項目が多く、同一であるはずの情報が入力者によって異なったり、入力すべき情報が入力し忘れたままになっていたりしました。その状態では意図した分析を行うことはできません。ある程度ルールや仕組みを作っても入力ミスや、入力忘れは起こり得るので矛盾を検知できるよう品質管理も重要です。品質管理のオペレーションの型化や情報の定義化などセールスサイドの戦略策定担当者やビジネスプロセス全体を最適化するビジネスアーキテクトと相談しながら進めています。

こうしたルール作りに関しては、マーケティング組織に限らずKGIへのプロセスに関わる社内のステークホルダーを巻き込みながら進めています。マーケティングの立場から見える課題や改善案はMOpsから提起し、最終的には各ステークホルダーと一緒に話し合いながらルールを決めています。

さらに、KGIや重要なKPIの可視化もマーケティング組織のみならずステークホルダーが共通認識で読み取れるよう進めています。目標に対し遅れをとっている部分があれば、その原因と対策を考えて、協議する場を用意することもあります。

他にも「こういう施策をやりたいのだけど、参考にしたいから過去の施策のROIを出してほしい」といった相談を受け、レポーティングすることもあります。このように、マーケティング部門に留まらず関係部署に向けた情報提供をおこなっています。

図表1:MOps立ち上げ後に行ったこと(渡邊様noteより)

HubSpotを活用し、リードと営業データの紐づけを進める

マーケティング活動を進めるには、まずはデータ整備ですね。データを集約するためのツールは何か使用しているのですか?

現在データを集約するプラットフォームとしてHubspotを採用し、情報基盤を構築・整備しているところです。
元々、マーケティング部門ではHubSpot CRMとMAを利用していたこともありSales Hubへ営業データを移管するプロジェクトを進めています。HubSpotに貯まっているリードと営業データを紐づけて、最終的にリードがどれくらいの売上につながったのか可視化し、評価できるようにしていこうと考えています。

プラットフォームは集約化したほうが、情報のリレーションも確固たるものになりますし、マーケティングやセールス組織の生産性を考慮した設計を活かすことで、入力負担や情報管理リスクを軽減し得る手段になるのではないかと期待しています。

これまでのマーケティング経験の言語化を目指すなかでMOpsに出会う

Ubieに入社して早々にMOpsを立ち上げることができた背景には、渡邊さんのこれまでの経験が活かされているのではないでしょうか。ここからは渡邊さんのキャリアについてお聞かせください。

私のキャリアは、BtoC向けのメディアを運営しているベンチャー企業から始まっています。そこで広告や市場調査、事業開発やコミュニティマーケティングなどの業務を幅広く担当しました。数年働いた後、BtoB向けのSaaS事業を展開する上場企業に転職しました。BtoB向けの事業はBtoCと比べて顧客の数が少ないので、顧客への向き合い方が変わります。そこでは「The Model型」の組織でマーケティングをおこなうという、新しい領域に踏み込みました。このころから、MOpsに近い活動をしてきた気がします。

1社目でプレイヤーとしての細かい業務を経験し、2社目でセールスとの協業を経験しました。2社目での経験によって、他部署との連携の重要さやKGIへのこだわりが培われたと思います。自分1人では成果は生まれないと気づき、セールスと協業することで全体最適が進み、マーケティングが成果につながるという定量的なエビデンスを作れました。

その後、転職したのがBtoB向けのSaaS事業を展開するスタートアップです。3社目では、2社目よりもさらに顧客が絞られ、ABMを担当する部署がありました。顧客との関係性をより綿密に作っていく必要があることに気づき、顧客の情報を貯めておくことの重要さを考えるきっかけになりました。加えて、CRMやMAなどのツールの理解を深める必要性が出てきました。2社目から引き続き3社目でも Adobe Marketo EngageやSalesforceなどを使用し、知識が深まっていきました。そして、Ubieに転職して現在に至ります。

これまでのマーケティング経験を言語化できないかと思い、外資系企業の採用情報を見ていた際にMOpsという言葉を見つけました。採用要件を見ると、自分のやってきたことに当てはまる部分が多くありました。ただし、国内企業にはMOpsの募集はありませんでした。

外資系企業に勤務している人に話を聞くと、外資系企業の定義するMOpsは、企業によっては柔軟性に課題を抱える可能性を感じました。私の知る限りではありますが、外資系企業のMOpsは、ツールのセキュリティを考慮した利用範囲のガバナンスが詳細に構築されているところが多く、データドリブンの意思決定もMOpsの承認を得なければならないケースがあるようでした。それで問題ない組織もありますが、場合によって企業成長スピードを鈍化させてしまう可能性があるので、もう少し柔軟にMOpsという役割を最大限利活用する選択肢も増やすことができないかと思い始めたところです。

MOpsはマーケティング基点でありながらも視野を狭めることなくKGIへのゴールラインを意識し、KGIへの細かな変数をも考慮できる俯瞰した位置づけにしていくべきだと考えています。

日本にMOpsの仲間を増やしたい

今後、MOpsとしてどのようなことを進めていきたいと考えていますか。

Ubieでは、HubSpotに情報が集約されていくことでデータが整い、より精度の高いデータ活用が目指せると思います。それが実現できたら、もう少しマーケティング組織へ細かい提案をしていきたいです。

マーケティングの細かな施策単位でKGI貢献値を計上できるようになってくるので、施策のROIが細かい粒度でも今よりは精度が高くなっていきます。そうすれば、施策起点で情報の可視化をし、各マーケターに対してKGIへの影響やデータインサイトをアイデアとして提供したり、課題点や改善案を出していけたらと思っています。これがMOpsの第一歩としてUbieでやりたいことです。

個人としては、Ubieだけではなく「日本全体でMOpsの仲間を増やしていきたい」と考えています。自分自身が成長できるだけでなく、課題や成功体験をシェアできるとより楽しいなと思います。私はこれまでマーケティングやBIツールのTableauのコミュニティに参加してきました。そこでその道のプロフェッショナルと意見交換し、いままで自分が持っていた固定観念を取り払い、学び直せる経験をすることができました。それをMOpsでも実現していきたいと考えています。

Ubieでの実体験や成功体験をアウトプットしていきながら、MOpsの事例を作っていきたいですし、コミュニティで仲間を増やしていきたいですね。

渡邊さんにとってのMOpsとは何でしょうか?

それぞれのマーケターに近い存在でありつつ、組織目標に明確に紐づいて事業成長に貢献する存在です。抽象度の高い定義ですが、この考えをしっかり持っておくことが大事だと思います。1つのオペレーションや細かいところだけに視点をあててしまうと視野が狭くなり、気付いたら組織目標からズレたり影響度が低くなるなど、本来向かっていた方向と異なる方向に進んでしまうことが起きてしまいます。ステークホルダーとのコミュニケーションを円滑にし、マーケティング組織から事業目標に紐付けできる形で全体感を掴みながら成長させられるような役割を目指しています。

MOpsに欠かせない「3つの要素」

これからMOpsを目指そうと考えている方へのアドバイスをお願いします。

視点をゴールに向けて、ゴールまでに関わる人たちとゴールへの登り方について、最良な選択を追求してほしいです。かつ、自分の業務に関わるマーケティングプロセスを、深く学んでほしいです。マーケティングプロセスに欠かせない3つの要素を、私のnoteに書いています。

1つ目が、戦略を構成する要素となる市場や施策情報の「マーケティング戦略プロセス」。2つ目が、さまざまな粒度で戦略策定と実施につなげる「マーケティング人材」。3つ目が、戦略を実現させるために欠かせない「テクノロジー」です。(図表3参照)

図表3:マーケティングプロセスを構成する「3つの要素」(渡邊様noteより)

この3つを深く理解しておくことが、MOpsにとっての強みになると思います。そして、最終目標のKGIからぶれることなく、柔軟にマーケティング活動を変化できることが重要です。

プロフィール

渡邊 桃代 氏
Ubie株式会社 ファーマイノベーション事業部 Marketing

データ活用を強みとするマーケター。WEB MarketingやABM(Account Based Marketing)、Brand Marketingなど幅広いマーケティング戦略に関わり、事業開発や市場調査、MarketingOps、コンサルティングなどにも従事。ファーストキャリアからTableau等の分析ツール活用を進め、現在は日本TableauPrepユーザー会の幹事を務める。2021年度にはTableau Social Ambassadorに専任され、日本Tableauユーザー会を広げる活動をしている。

インタビュー後記

渡邊氏は、マーケターのお手本のようなキャリアを積んでいます。まずはBtoC企業でプレイヤーとして経験を積み、2社目はBtoB企業で営業との連携の重要性を知ります。さらに3社目ではABMに取り組むことで顧客との関係構築、顧客データ蓄積の必要性を体感します。そして今、Ubieに転職後MOpsを立ち上げ、マーケティング施策のROI評価ができる仕組みづくりを進めています。

渡邊氏は、MOpsとは組織目標に明確に紐づいて事業成長に貢献する存在であること。組織目標を意識せず施策単位の細かい部分に気を取られてしまうと、視野が狭くなり組織目標から異なる方向に進んでしまうと指摘します。渡邊氏のこれまでのマーケター経験を言語化したものでもあります。

MOpsがいかに組織に貢献していくか、大切な視点をいただきました。

インタビュー実施日:2024年1月23日
取締役/執⾏役員
広富 克子

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