インタビュー

【後編】株式会社中川政七商店 活用できないビッグデータに意味はない!複雑かつダイナミックな組織こそが新たな粒を生み出す

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商品をきっかけに、セカンドはWebで"会社としての全貌"を訴求)
前編は、事業の中のWebの役割や組織体制、課題についてお聞きしています。

アクションにつながらない顧客購買情報は破棄

Webを通じてエンドユーザーのデータ収集は行われていますか?

エンドユーザーのデータ収集にはあまり興味がありません。小売りの方でも、一時カードシステムから顧客情報と購買情報を取っていましたが、使えないということがよくわかったので完全に放棄しました。結構な費用がかかりましたが、弊社では活用は無理です。情報をとったところで、その後のアクションが生まれてこないんです。モノづくりの根本がお客様の方を向いて行っていないので、モノづくりには使えないですし、顧客数が圧倒的に多くて購入額も小さいのでOne to One対応もできない。活用できないということが3~4年かけて分かりました。それで全部データを捨てて今はスタンプカードに戻しました。

ビッグデータは大企業は使えばいいと思いますが、弊社には関係ない話だと思います。カードシステムを導入したきっかけは、伊勢丹のiカードによる購買履歴を現場のバイヤーがドリルダウンしていろいろな仮説を見つける現場を見た時、「これは意味があるな」と感じて取り組み始めたのですが、弊社では使いこなすのは無理でした。

情報量に関しては、自社ブランドだけなので見える範囲が狭いんですね。伊勢丹だとフロアを超えていろんなことがつながってくるのですが、弊社では『遊 中川』の中でどれを買っているかだけの話なので、あまりつながらないんです。 結局弊社の場合はファッション並みに商品が回転するのに単価が安いので、データを取ったり、仮説に基づいて何かをやったりしても非常に効果が薄く、費用対効果が合わなかったのです。

それでは、新しい動きを起こすときは、顧客データに頼らず社長の感覚なのでしょうか?

そこを突き詰められると、結局はセンスでやっているのではということになります。説明のつかないものがあることは否定しませんが、どれぐらい説明がつくかというロジックは僕なりにはあります。ただ99%ロジックというのではなく、70%はロジックで30%は説明のつかないもの、場合によっては50%対50%かもしれませんが、全ての仕事は説明のつくものとつかないものが混ざると思っています。

人材育成はポジションを与えること

中川さんの人材育成のポリシーを教えてください。

基本的にポジションを与えてあげることでしか、人材の成長を望めないと思っています。持って生まれた能力の限界が来ることはほとんどないと考えているので、全てのメンバーに期待しています。僕自身、富士通在職中は「次のポジションまで10年かかる」と言われ、ポジションをもらえないことがきっかけで辞めようと思いました。ただ自社だけで、そうしたポジションを無尽蔵に生み出すことはできません。そのポジションを社内ではなく、外に求めていくのが実はコンサルティングの勘所でもあります。コンサルティングに出ていけば、ある意味では一人の経営者、小さく見積もっても部門長をやらなければいけないので、それだけの人材が社内にいなければなりません。また、コンサルティングという場に放り込まれればそのポジションに就くので、無尽蔵にポジションが生まれていきます。ある時までは優秀な人材を採用することに対して、「それだけのポジションを用意できるのか」という怖さがありましたが、コンサルティングをやり始めてからは、優秀な人材が出てくればいくらでも「コンサルティングをやってこい」と言えるようになりました。

秋の企業サイトリニューアルで中川政七商店の事業の「複雑さ」を伝えていく

企業サイトにおける今後の展開について教えてください。

この秋に向けて企業サイトの大リニューアルを始める予定です。まだ荒い構想ですが、今までと性格の違うものにする予定です。今の中川政七商店という会社は非常に複雑になっています。一昔前の全貌を分かりやすく伝えようとする時代は、当時あった3ブランドを中心に、全体を見せておけば大体伝わりましたが、今はコンサルティングのボリュームも大きくなり、業態も子会社なのかという会社が周りにふわふわいる状態です。かつニュースが多いので非常に複雑になってきています。今のページでは、それを伝えられていないのです。会社の全貌を伝えたいという欲求は変わりませんが、伝え方を根本的に変えなければいけません。

現サイトのように「人押し」でいくと主要ブランドのブランドマネジャーが前面に出てきますから、マネジャーたちが会社の中心に見えてしまいます。その形は控えなくてはいけないと思っています。いろんな粒があって、コンサル先のパートナー企業も10社ほどありますし、ブランド数でいえば10数ブランドあります。それをくくる大日本市伊勢丹という特殊な形がありますし、展示会としては大日本市というものがある、というように本当に複雑怪奇なんですよ。

理想としては、一つ一つの粒がいっぱいあって、その粒がすぐに増える感じを何とか表現したいです。例えばKITTEがオープンした1~ 2週間は粒が誕生する感じを出すのもいいでしょう。弊社では、何か新しい粒が何年に一度ではなく、毎月ぐらい生まれてきます。店舗という単一的な粒ではなく、コンサルティングをした会社が新しいブランドを立ち上げた等、次元の違うものを同次元に並べてその関係性を見せていきたいです。一つ一つの次元は違えど、マトリックス状に関係性は整理できると思います。 僕が3時間かけてしゃべれば、体系は理解してもらえるでしょうが、誰もそんなことに興味はありません。でもいずれかの粒に興味があるから企業サイトを訪問する訳です。その粒を触ったら関連した周辺のものは集まるけれど、そうでないものは遠くに行くような感じを目指してリニューアルしていきたいですね。事業としては多くの人に正しく伝わっていないという問題点はあるものの、複雑になり過ぎて混乱しているということではありません。意図してやっているので、それをWebで正しく理解してもらえる状態を作りたいと思っています。「この会社、ややこしいんだな」ということが、Webで分かるようにしていきたいのです。

プロフィール

京都大学法学部卒業後、富士通株式会社を経て、2002年に家業の中川政七商店に入社。
2008年、十三代社長に就任。「遊 中川」「粋更kisara」「中川政七商店」「大日本市」などの直営店出店を加速させ、伝統工芸をベースにしたSPA(製造小売)業態を確立。
2009年からは「日本の伝統工芸を元気にする!」というビジョンのもと、業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。
波佐見焼の新ブランド「HASAMI」を大ヒットさせ、業界の注目を集める若きトップランナー。

インタビュー後記

事業を展開する上で本当に必要なものとそうでないものを判断する力、いくら予算をかけてきても必要ないと判断すれば切り捨てることができる、この中川氏の判断力こそ、若くして会社を発展させている原動力だと思います。そんな中川氏にとって、あってもなくてもどちらでもよい存在であったWebへの関心が、ここへ来て高まりを見せています。ブランドイメージの形成に商品だけでなくWebが大きく影響していることに気づかれたからです。

Webのメリットは、数字が確認しやすいことだとだれもが認めますが、中川氏の場合ブランドの浸透という明確な目標がある中で、Webでとれる数字をつなぎ合わせながら、いまのユーザーだからこそWebは大きな役割を担うという判断をされています。単にログ解析レポートの数字を見ているのではなく、Webの数字を肌感覚に収められているのです。

今後はWebと店舗との連携にも取り組んでいきたいとのこと。ブランド力を本店の売り上げで測っているように、Webの店舗送客効果のものさしを中川氏流にどのように持たれるのか注目です。

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