セミナーレポート

【ヘルスケア向け】データ駆動型マーケティングオペレーションの最適解を考える

様々な制約のもとでマーケティングを推進することが求められるヘルスケア企業。「各種ツールのデータを集約できていない」「データが散在していて、マーケティング施策を俯瞰的に分析できない」などの課題に直面している企業も少なくないだろう。

そこで注目したいのが、マーケティング先進国の米国で主流となっている「マーケティングオペレーション(以下、MOps)」の考え方だ。

当社では2023年7月26日、「【ヘルスケア向け】データ駆動型マーケティングオペレーションの最適解を考える」と題したセミナーを実施。当社マーケティングコンサルタントの山下が、ヘルスケア企業の事情に即したMOpsのあり方と海外ヘルスケア企業の事例、さらにMOpsを構築するまでの流れを解説した。本コラムでは、当セミナーの内容をまとめている。

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ヘルスケア企業のマーケティングが抱えている課題

デジタル化やデータ駆動型のマーケティングが求められる状況下で、多くのヘルスケア企業が以下に挙げたような課題に悩まされている。

・収益や処方の貢献までデータを追えていない
・組織が縦割りになっていて、上手く連携が取れていない
・蓄積された医師データを活用しきれていない
・部門や担当者によってマーケティングレベルに差がある

図表1:戦略はあっても、戦術設計が不十分なままでは成果に繋がりづらい

なぜ戦略を実行していく過程でこうした壁に直面してしまうのだろうか。原因を突き詰めてみると、実は戦術設計が不足しているケースが圧倒的に多い。
どんなに素晴らしい戦略があったとしても、その戦略をどのように成果に結びつければいいのかが曖昧なままでは、なかなか施策が思うような結果には繋がらないのだ。

戦略とマーケティングを接続する「マーケティングオペレーション(MOps) 」

「マーケティング戦略が成果に直結しない」という深刻な課題を解決する可能性を秘めているのが「MOps」と呼ばれるオペレーションの専門チームだ。

MOpsは、ツールの運用に特化したチームであると誤解されることも多いが、実はそうではない。マーケティング活動の管理体制・プロセスの構築や組織が保有するデータやシステムの活用推進をおこなうのもMOpsの重要な役割だ。

2022年におこなわれたMarketingOps.comの調査『The 2022 State of the Marketing Operations Professional “MO Pro”』によると、MOps発祥の地・米国では、すでに80%以上の企業が専任のMOpsチームを有しているという。

一方、日本国内ではまだMOpsの認知度が低いという現状がある。とはいえ、その役割を見ていくと、実はすでに多くの企業が実践している内容が含まれている場合も少なくない。MOpsは、決してこれまでの常識を覆すような革新的な概念ではなく、実はマーケティングをおこなうすべての企業にとって身近な考え方なのだ。

データ駆動型マーケティング部門の成熟度マップ

自社のマーケティングオペレーションレベルを向上させるためには、今自らの組織がどの段階にいるのかを明確にする必要がある。その理解に役立つのが、当社が作成した「マーケティング部門の成熟度マップ」だ。

図表2: マーケティング部門の成熟度マップ

この成熟度マップに目を通した時、それぞれの段階において達成できていることとできていないことが存在することに気が付くだろう。このように、分野ごとの成熟度を客観的に把握することができれば、次の段階に進むために必要なアプローチが可視化される。

海外ヘルスケア企業のマーケティングオペレーション事例

次に、海外におけるヘルスケア企業のマーケティングオペレーションに関して、2つの成功事例を見ていこう。

A社:CX施策の統一とMRへの教育

まず紹介するのが、米国A社がCX施策の統一とMRへの教育を成功させた事例だ。

図表3:米国A社の成功事例

この企業では、MRに顧客体験(CX)のスキルを浸透させるため、現場に「CXイネイブラー」と呼ばれる専門スタッフを配置した。CXイネイブラーはMRに対し、戦略に基づくオフライン・オンラインの顧客体験スキルを提供する。MRは実際にそのスキルを活用した結果や顧客の反応をCXイネイブラーにフィードバックする。

さらに、本社には戦略立案を担う「CXイネイブラー・リード」も設置した。彼らはCXイネイブラーを通じて現場のフィードバックを拾い、それを次の戦略に活かしていく。

CXイネイブラーがMRと本社を繋ぐ中心的な役割を担うことで、戦略改善の好循環が生まれた好例といえる。

B社:医療機器に蓄積されたデータから最適なコンテンツを提供

次に紹介するのは、米国の医療機器メーカーB社のデータ活用事例だ。

図表4:米国B社の成功事例

B社では、図表4のように医療機器の利用データをデータウェアハウスに蓄積し、マーケティングチームがいつでもチェックできる環境を整備した。さらに、間違った機器の使い方をしている利用者情報を抽出した場合、該当する医療従事者に対して改善を促すためのコンテンツ配信もおこなった。その後も、データのモニタリングを継続し、使い方が改善されたかどうかを把握するようにした。

このように、データを活用しながら常にターゲットとの最適なコミュニケーションを図っていくこともMOpsの重要な役割の1つだ。

A社とB社が取り組んだ内容をマーケティング部門の成熟度マップにあてはめてみると、図表5のようになる。2社はともに「データ」「業務プロセス」「組織」「顧客体験」の4つの分野から、自社の状況に合わせて優先的に取り組む事項を決定し、課題解消に努めた。

図表5:データ駆動型のマーケティング部門の成熟度マップ

すべての要素においての最適化を一気に目指すのではなく、必要に応じて部分的に次のステップを目指した取り組みを進めていくとよいだろう。

ヘルスケア企業のマーケティングオペレーションに必要な4つの要素

実際にMOpsに取り組もうとした時、一体何から始めていいのかがわからないという方も少なくないだろう。一般的に、MOpsに必要とされるのは以下の4つの要素だ。

・マーケティングテクノロジーの選定、導入、管理
・マーケティングプロセスの改善
・データの管理と分析
・チームのマネジメント

ここからは、それぞれの項目について詳しい内容を紹介していく。

マーケティングテクノロジーの選定、導入、管理

データを収集・分析し、施策を実行するためのマーケティングテクノロジーの選定・導入・管理はMOpsの中心的な業務となる。まずは、多くのテクノロジーの中から自社に最適なものを見つけ出して選定する。ツールの運用を開始した後は、情報システム部門と協力しながらオペレーション、データの保護・管理のマネジメントをしていく。

マーケティングプロセスの改善

マーケティングプロセスの改善も重要な役割の1つだ。企業や医療従事者に向けたキャンペーンの「型」を作ることができれば、顧客とのコミュニケーションが向上し、医療従事者から取得するデータの増加にも繋がる。さらに、データ量が増えることで顧客のニーズを深掘りするような分析もしやすくなる。

データの管理と分析

収集したデータを活用していくために欠かせないのが、データの統合と分析だ。集めたデータを1つのデータウェアハウスに蓄積していくためには、データ連携ツールの導入が必要となる。データウェアハウスにデータを統合する際には、できるだけ手動の工程を作らず、リアルタイムで自動的にデータが集約されるような流れを設計しておきたい。散在したデータが統合されることで、自然とデータの活用もスムーズに進んでいくだろう。

チームのマネジメント

マーケティングチームだけでなく、情報システムや営業・MRをはじめとする組織全体のマーケティング知識を底上げする教育環境作りもMOpsが担う役割だ。これからチームのマネジメントに乗り出す場合は、図表2の成熟度マップも参考にしながら、今できていることとできていないことを整理する必要があるだろう。自社の現在地を把握できたら、優先順位の高い項目から順番に取り組んでいこう。

マーケティングオペレーション構築のためにまずやるべきこと

最後に、マーケティングオペレーション構築のためにまずやるべきことを紹介する。MOps推進に取り組む際の参考にしていただきたい。

データ分析とマネジメント

データ活用を進めるための最初の課題となり得るのが、データの連携だ。マーケティングオートメーションとCRMが連携できていない場合は、両者を繋ぎ合わせ、データ連携を自動化する仕組み作りから着手してほしい。MAとCRMのデータを自動連携できると、MR活動を加味したシナリオをMAで実行できるようになる。

MAとCRMのデータを連携したあとは、基幹システムや会計システムに蓄積している購買/処方のデータを統合させると良い。MA/CRMに蓄積しているマーケティング/営業データと購買/処方データを統合できると、マーケティング活動やMRの活動が収益にどの程度貢献しているのかを俯瞰して分析できるようになる。

キャンペーンとナレッジのマネジメント

キャンペーンを一気通貫で管理できる「型」を作成し、各製品で展開していくキャンペーンマネジメントも優先的に取り組むべき事項といえる。

ツールを駆使し、顧客とコミュニケーションを取れる状況が出来上がれば、それが1つの成功シナリオとなる。一度「型」を作り出せたら、それを1つの製品だけでなく、様々な製品へ展開していくことで効率よく成果を挙げられる。

マーケティングオペレーションの共通認識を作成する

戦略と戦術をテキストとしてまとめ上げ、メンバー全員の共通認識を作ることも重要だ。アメリカでは、実際にアメフトのプレイヤーが持つPlaybookのようなドキュメントを作成することも珍しくない。マニュアルのように業務内容をすべて明文化する必要はないが、関係者全員が同じ認識で施策を実行できるようにするような「見える化」の工夫をしたい。

社内でマーケティングオペレーションの役割を明確化させる

MOpsで成果を出していくためには、1人1人の役割意識や目的意識が欠かせない。そのためには、それぞれの担当者の役割を明確化させていくことが必要となる。

組織内での役割や、戦略を実行するためのプロセスがはっきりとすれば、各人が今後1年間で取るべき行動も可視化されるだろう。「目先の課題をクリアできたら、次のステップに移る」を繰り返すことで、組織全体のマーケティング成熟度も高まっていくはずだ。

戦略と実行を紐づけ、マーケティング組織を強化する

日本企業は米国企業と比べて、戦略と実行を紐づけるための「戦術設計」が弱いといわれている。逆にとらえると、戦術設計を強化することで、日本企業のマーケティング組織力を大きく向上させられるともいえる。

医師やエンドユーザーである患者の顧客体験を改善し続けられるマーケティング組織を、MOps推進を通じて作り上げていってほしい。

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