1984年に創業し、『美と健康と環境の分野で社会に貢献する』という企業理念のもと、男性向け、女性向けウィッグの製造・販売から理美容サービスまでを手がける株式会社スヴェンソン。主力製品となるスヴェンソン式増毛法(編み込み式増毛法)を採用した男性向けファッション用ウィッグを月額制のサブスクリプション方式で提供するなど、競合他社との差別化を図りながら顧客のニーズに応える経営戦略を展開しています。"ウィッグ"という、顧客にとってデリケートかつ高価な商材を扱う株式会社スヴェンソンが、近年取り組みを始めたデジタルマーケティング戦略について、Men's事業部広告販促チーム兼サポートセンター シニアマネージャーの圷 陽太郎氏にお話をうかがいました。
当社では、ウィッグ増毛の定額制プランの提供を行っています。ウィッグは、日常的に生活していると痛んでしまうものです。人の髪と違って自然と生え替わるものではないので、定期的なメンテナンスや買い換えが必要となり、その度に費用がかかってしまいます。ウィッグ業界は製品単価が高いにもかかわらず料金体系が不明確であるため、新しいウィッグを購入する際に消耗を気にして毛量を多めにしてしまい、スタイルが不自然になるお客様も少なくありません。本来は"カッコよくなりたい"ためにウィッグを購入するはずが、コストを優先してスタイルが二の次になっているのです。これは利用者にとってはもちろん、業界全体にとっても大きな問題です。 こうしたお客様の不満を解消して、より豊かなライフスタイルを実現するために、月額料金制のサブスクリプション方式を採用しています。ベーシックなプランでは月額費用20,000円で、抜けたら増毛したり必要に応じて取り替えたりと、ウィッグを常に良好な状態で利用することができます。当社が特許を取得しているスヴェンソン式増毛法(編み込み式増毛法)は、24時間付けっぱなしが可能で、お風呂やプール、台風でも利用できる「ずれない」「ムレない」「外れない」が特長です。利用開始後は月に1回程度のスパンでご来店いただき、お客様お一人にスタイリストが1名ついて、メンテナンスや編み直し等きめ細かく対応します。当社は、男性向けファッション用ウィッグ業界では3番手ですが、サブスクリプション方式については、競合他社は対応できず差別化要素になっています。
私が所属するMen's事業部広告販促チームが、男性用ウィッグをはじめとした増毛製品やカットサービスの新規顧客獲得におけるマーケティング活動を担っています。まずはお客様に自社ならびに製品を認知してもらい、さらに店舗誘導までのナーチャリングがタスクです。ウィッグ製品は、契約前にお客様に店舗に来ていただきフィッティングやスタイリング、装着方法等をご説明する必要があります。来店して実際に見て、体験することで納得いただけ、また、カットサービスまで間口を広げることで、どのサービスがご自身に合っているのか判断いただくことができます。よって、いかに店舗へ誘導できるかが重要で、マーケティングの成果でもあります。 現在、当社のウィッグを愛用いただいている漫画家のやくみつる氏を起用したテレビCMで認知拡大を図り、店舗へ誘導するためにWeb広告やWebサイト本体の制作、チラシ作成を行っています。また、お客様からの相談を受けるサポートセンター(コールセンター)もチーム内に配置されています。人員は広告が4名、サポートセンターが5名という体制です。広告担当は、主にクリエイティブ制作を行う2名と、マーケティングオートメーション(以下MA)をはじめとしたデジタルマーケティングのツール、システム周りを担当する2名に分かれています。MAはMarketo(マルケト)を導入しています。導入当初は私含め2名体制で運用していたのですが、途中から私1名になり、最近また2名体制に戻りました。2名と1名では大違いです。Marketoの導入・運用にあたっては、パワー・インタラクティブの週1~2回のコンサルティングやMarketoユーザー会での情報共有に助けられています。
5~6年前まで、店舗への誘導は新聞広告やラジオが主流でした。しかし、ITが生活に浸透してきたことでお客様の接するチャネルがWebへと変化してきました。マーケティングの評価や効果測定についても、バナーやランディングページのABテストが実施できたりヒートマップで測定できたりと、細かい数字を見ることができるため、Webへの移行を進めていきました。新聞広告主体に戻ることはありません。デジタルマーケティングによってターゲティングができるようになり、クリエイティブの良し悪しが評価でき、お客様がどんな情報を欲しているかが見えるようになりました。 当社の2019年3月時点の数字では、新規のお客様の継続率は95.2%とほとんど解約なしです。そうなると、いかに新規のお客様を増やすか、「新規顧客の獲得」が事業の最重要指標になります。デジタルマーケティングでは新規顧客獲得を推進しています。
以前は半々の割合だったのですが、現在は新規ユーザーが8割、競合商品からの転換ユーザーが2割となっています。これまで既存のウィッグ愛用者が、よりよい商品を探していく中で当社の商品を知ってもらうケースが多かったのですが、やくみつる氏のTVCMで認知が高まり、その後のナーチャリングがデジタルマーケティングによって整備できたことが、ウィッグ未経験の新規ユーザーが増えてきた要因だと考えています。(図1参照)
テレビCMの効果をどう測るかは各社それぞれのやり方があると思いますが、当社では「指名検索」を指標としています。例えば、CMを入れないときに比べると倍増します。1件の契約に対して指名検索がどれくらいあればいいのか測れるようになり、契約へブレークダウンできるようになりました。Web広告では、CPA(顧客獲得単価)を重視しています。
「資料請求」と「来店予約」の獲得数をKPIとして見ています。いずれもゴールは「来店」になるのですが、「来店予約」の場合は1週間ほどで来店になる一方、「資料請求」は概ね2週間~1ヶ月ほど検討してからの来店となり、途中で検討を止めてしまうケースも少なくありません。「資料請求」と「来店予約」は6:4の割合で「資料請求」が多く軽視できない中、Marketoを導入することで、資料請求者へ適したタイミングでコミュニケーションをとれば、来店促進、契約率向上の効果が得られることが明らかになりました。特に、資料請求2週間後にメールで「検討状況はいかがですか?」と送ることが効果的で、メールの開封率は40%、さらにメールを見て来店した人の契約率は通常の1.5倍と確認できました。 なお、当社では「アナログの力」も積極的に活用しており、Marketoを導入する以前から、サポートセンターのスタッフが直筆で手紙を書いてお客様へお送りしています。契約への最初のハードルが高い商品なので、お客様にとっては来店すること自体に勇気が必要です。サポートセンターのスタッフは全員当社のウィッグの愛用者で、電話や手紙などのアナログな手段でお客様の悩みに向き合っています。Marketo導入後は、手紙の合間にメールを入れるようにし、資料請求の1週間後と1ヶ月後は手紙、その間の2週間後はメールという間隔でコミュニケーションをとっています。(図2参照)
当初はメール配信停止希望があれば手紙も送れなくなると抵抗がありましたが、1年続けてみて配信停止は4名のみでした。資料請求者は高齢者から若い人まで幅広く、メールはすぐに届いて、家族に見られることなくお客様自身のみで見ることができ、直筆の手紙はあたたかみがあるといった、それぞれの良さがあります。
当社では、最近Webカタログの提供を始めました。紙の資料は郵送に時間がかかり、来店まで2週間~1ヶ月ほどかかっています。Webカタログは、こうした時間を短縮できるだけでなく、カタログのどの箇所を見ているかといった確認も行えます。Marketoでトラッキングできるため、Webカタログを申し込んで1週間後にメールを送信するといったフォローも自動化できました。まだ始めたばかりですが、紙の資料請求が減るわけではなく、Webカタログの申し込み数がそのままプラスになっています。今後は来店までの遷移率を上げるための取り組みを進めていく予定です。 また、店舗から好評なのが「ウィッグのお手入れ動画」の閲覧データです。動画の配信対象は、契約済の顧客と2週間のお試しユーザーで、使い方に慣れていただくために動画で解説をしています。シャンプーの仕方や乾かし方等の30秒動画を多数作り、来店前のお客様が見ている動画によって何に困っているかを確認し、来店時のフォローに活用しています。
以下の3つのツールで、Marketoで対応できない機能を補完しています。 ①Web接客ツール「KARTE(カルテ)」 ②SMS配信ツール「アクリート」 ③CRMツール「kintone(キントーン)」 ①Web接客ツール「KARTE(カルテ)」 でフォーム誘導 「KARTE」では、テレビCMなどからWebサイトへ流入してきたMarketoにタギングできていない匿名状態のお客様へ、Webカタログを薦めてMarketoのフォームへ誘導する動線を設定しています。マーケティング部門は、ある程度の自走は必要という考えで、制作会社に頼んでクリエイティブを作ってもらうのではなく、シンプルなバナーを自分たちで作ってKARTEでスピーディにメッセージを配信しています。
②SMS配信ツール「アクリート」で電話番号のみリードへメッセージ発信
Marketoはメールアドレスがなければアプローチできないため、「アクリート」を使って電話番号のみ取得しているリードへ、ショートメッセージを配信しています。コールセンターを持つ当社の基幹システムには、電話番号だけのリードが数多く存在します。メールよりもショートメッセージのほうが気づいてもらいやすく効果的です。これまで来店前日のアラートメッセージは一文字ずつ打っていましたが、自動配信に切り替えて業務効率化を図ったり、来店者や契約できなかった方へアンケートをとって契約しなかった本音を聞いたりしています。チャネルを広げることで幅広くお客様が見えるようになりました。
③CRMツール「kintone(キントーン)」でデータ一元化へ
Marketoでさまざまなデータが取れるようになり、広告販促チームはメリットを充分感じているのですが、店舗側からは、Marketoの表記は英語やURLなのでわかりにくく、日本語に直せないのかという声があがってきました。そこでkintoneを使って日本語で情報共有できるよう整備しました。また、店舗でとっている紙のカウンセリングシートの記入内容や基幹システムデータ、Marketoデータもkintoneに集約し一元管理する環境を整えようとしています。(図3参照)
店舗へはkintoneにアクセスして自由にデータが見えるようにし、来店者がどの商品のページを見ているかも把握できるようにしています。ただし、店舗に対しては、見える環境を作ったからといってだれもが利用してくれるとは限らず、今後はメールやスラックを使ったアラート対策をどう打つかが課題だと認識しています。
今後は、マーケティングシナリオパターンをもっと増やしていきたいと考えています。特に、契約から漏れた人や、来店予約をしたけどキャンセルし、次の予約を入れていない人へのシナリオを投入していきたいです。デジタルマーケティングの取り組みを進めたことで、お客様個々の動きが可視化できるようになりました。セグメントの多様性も広がって分析が行いやすい状況になり、新たな"気づき"を数多く得ることができています。これから重要なのは、お客様1人1人の文脈をどう捉えるかです。お客様に寄り添うサービスを提供するためにも、デジタル・アナログ双方のチャネルを有効活用して、パーソナライズの精度を上げていきたいと考えています。
2016年株式会社スヴェンソン入社。Men's事業部 広告販促チームに配属となり、マーケティングオートメーションツールMarketo導入時から運用に携わる。以来、デジタルマーケティングを推進し、2018年より同部門マネージャー兼サポートセンター長に就任。
株式会社スヴェンソン https://www.svenson.co.jp/
メンズスヴェンソン https://www.mens-svenson.net/
スヴェンソン様では、Marketo導入を機に、今までオフラインがメインだった施策に、新たにオンラインという武器が加わり、積極的なマーケティング展開を実施されています。私自身も一緒に体験させていただき、とても勉強になっています。今後は他のITツールとの連携も控えており、まだまだ進化が続きます。来年にはさらに1歩、2歩先に進んだ事例インタビューがお届けできるのではと楽しみにしています。
圷様をはじめとしたスヴェンソンメンズ事業部様の強い思いは、お客様はもちろん社内や弊社を含むパートナーをも、つき動かす原動力になっています。見えない見込み客を深く知り、オフラインとオンラインで最適なコミュニケーションをとることにより、スヴェンソン様の魅力を充分に発信できるよう努めていきたいと思います。
インタビュー実施日:2019年8月28日
マーケティングコンサルタント
山下 智
マーケティング戦略策定
Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!
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