コロナ禍で訪問規制が強化され、MRが医師と面会することが以前にも増して難しくなった。そのため、多くの製薬会社がMRの活動をサポートするために、デジタルマーケティングの強化を図っている。
デジタルで医師との関係を構築するには、データをもとに医師の関心ごとを推測し、適切なコンテンツを届けることが求められる。それを実現するためには、マーケティングオートメーション(以下、MA)が欠かせない。
2022年9月28日、製薬業界での導入実績が豊富なMAツール『Adobe Marketo Engage(以下Marketo)』を提供するアドビ社と共催でセミナーを開催した。本コラムでは、弊社コンサルタントの山下が担当した第1部講義の内容を紹介する。
※セミナー内容がより詳細にわかる※
セミナー資料をダウンロード
製薬業界のデジタルマーケティング推進には、大きく分けて3つの課題がある。
●MRの活動量が低下し、求められる活動の質が上がっている
●医師と適切なコミュニケーションが取れていない
●様々なデータを連携・活用できていない
コロナ禍でMRによる病院訪問の難しさが加速した一方、デジタルマーケティングの推進によって面談内容を記録することを求められるようになった。活動量が減りつつ、求められる活動の質が上がったことで、MRは成果を上げるために苦慮している。
デジタルマーケティングが浸透したことで苦しんでいるのはMRだけではない。医師のもとには各社から数多くのメールが届いており、製薬業界のマーケティング担当者が適切なコミュニケーションを取る難易度は年々上昇している。
また、データの活用にも課題がある。
製薬会社はほとんどの場合、会員サイトを保有している。加えて外部医師データを付与している場合もある。
多くのデータを保有しているものの、有効活用できている企業はそう多くない。データ量が増え、活用方法が多様化するなかで、宝の持ち腐れになっている場面を数多く見てきた。
技術が進化し、競合他社もデジタルマーケティングを推進していることで、これまで通りのマーケティングが通用しなくなっている。製薬業界でのデジタルマーケティングは、考え方を大きく転換する必要がある。
前述した3つの課題を解決するには、以下4つを明確にしておく必要がある。
●目標設定
●スケジュール
●体制
●他部門の巻き込み方
目標は、中長期と短期に分けて設定するのが望ましい。短期目標の達成が中長期目標の達成につながるよう、線を意識して設計することが重要である。
製薬業界のデジタルマーケティングでは、「処方への貢献」や「会員サイトの活用」を目標として掲げることが多い。しかし、この目標を打ち立て、周知したところで、どれだけの人が達成イメージを描けるだろうか。
「処方への貢献」や「会員サイトの活用」といった中長期目標を1~2年かけて達成するために、3〜6ヶ月で達成できるような短期目標を立てておくと良い。達成イメージの湧く目標設定が周囲の協力を集め、チームメンバーのモチベーションになる。
短期目標には、メール効果の向上やウェビナーの活用など、今までやってきたWebマーケティングの成果を向上させるようなものを据えることをおすすめする。短期目標は達成イメージが湧き、中長期目標の達成に近付けるものであることが重要だ。
スケジュールを設計するときは、会社の方針や全社目標、マーケティング目標を考慮する必要がある。そのため、中長期目標と短期目標の設定完了後にスケジュール設計をおこなう。
スケジュールを設計する時は四半期ごとに区切り、テーマを設定しておくと良い。テーマがあることでチームメンバーや関係部署からの協力を得やすくなり、施策の実施をスムーズに進められる。
製薬会社で組むべきデジタルマーケティング推進体制は、MA導入初期と軌道に乗った後で異なる。
MA導入初期は、マーケティング部内で以下5つの役割を担う必要がある。
●MAツール設定
●製品ごとのコンテンツ管理
●Webサイト運用
●医師データ管理
●情報システム
始めは1人で導入を進める場合もあるが、3ヶ月〜半年経った時点で「考える人」と「手を動かす人」を分けることをおすすめする。MAの操作やコンテンツ制作は、プロジェクトリーダー以外の人に任せたい。
考える人が手を動かすことにリソースを割いてしまうと新しい施策に着手しづらくなり、中長期目標の達成に向けた動きを取りづらくなってしまうためだ。
MA活用が軌道に乗り、デジタルマーケティング推進を本格化するときは、マーケティング部門だけでなく、製品・営業部門やシステム部門と連携することが重要になる。
デジタルマーケティング推進はマーケティング部門だけで完結するものではない。製品・営業部門と協力しなければ売上の拡大につながらないし、システム部門と協力しなければデータ連携や管理が上手くいかなくなる。
MA導入初期は少人数で複数の役割を兼務していても、関係部署を巻き込みながら徐々に役割分担し、協力し合える体制をつくることが肝要である。
他部門との間に溝があると、様々な問題が生じる。
●予算確保や追加開発がおこなえない
●マーケが育成した医師に対してアクションを取ってくれない
●製品へのマーケ活動を許可してくれない
●コンテンツを作成してくれない
●データを渡しても分析してくれない
●どんなデータがあるか把握に時間がかかる
●ツールの導入や開発がスムーズに進まない
他部門との連携を強めるためには、積極的にコミュニケーションを取ることが重要。コミュニケーションについては、以下のポイントを押さえておくと良い。
●MA導入プロジェクトのキックオフから他部門の部長クラスに同席してもらう
●3ヶ月、6ヶ月の段階でデジタルマーケティング推進の進捗を共有する
●MRや製品担当からマーケティング活動に対するフィードバックをもらう
●他部門の要望を積極的にヒアリングする
●社内と外部の懸け橋となり、各パートナーとベンダーが連携できる状態を作る
部門間の溝によってデジタルマーケティング推進が鈍る製薬会社を目にしてきた。積極的にコミュニケーションを取り、デジタルマーケティング推進の関係者にしてしまうのが得策だろう。
デジタルマーケティングにおけるデータ活用は、以下の流れで推進すると良い。
1. データの種類を確認する
2. データを集約する
3. ツール・データを連携する
4. データを運用・活用する
5. もう一歩先の活用を考える
はじめに、自社で保有しているデータの種類を確認する。製薬会社が保有しているデータは大きく以下の5つに分類できるだろう。
【自社データ】
●マーケティングデータ:マーケティング活動を通じて得たデータ
●医師データ:自社で保有している医師に関するデータ
●営業データ:MRの営業活動を通じて得たデータ
●製品/処方データ:製品や処方に関するデータ
【外部データ】
●医師データ(3rdPartyデータ):医師データベースなど、社外から得ている医師データ
自社が持っているデータを知ることが、データ活用の第一歩になる。
データの種類を確認した後は、社内で散らばっているデータを集約させる。
多くの会社で、既存の環境にツールを付け足し続けるという事象が起こっている。しかし、データ環境の整理がなされないままツールを増やし続けると、ツール同士が複雑に絡み合い、管理しきれない状況に陥る。管理できないものは活用もできない。
データ環境は可能な限り、シンプルにまとめるのが良い。シンプルにしておくことで管理工数を削減できるうえ、レポーティングやレコメンド、分析などにデータを活用しやすくなる。
デジタルマーケティングの中長期目標を達成するためには、医師がどのような行動するのかを考え、購買プロセスに落とし込む必要がある。購買プロセスを整理することで、実施するべき施策案が出てくる。
処方への貢献」をデジタルマーケティングの目標とした場合、下図のようなステージに落とし込めるだろう。
医師に限らず、初めから購入する気持ちで情報収集するとは限らない。具体的な検討段階には入っていなくても、漠然と情報収集している場合もある。
購買プロセスの段階によって医師が求めるコンテンツは異なる。受け取りやすい提供方法も異なる。
それらを加味して用意すべきコンテンツを洗い出し、提供方法を整理しておくと、医師が欲しい情報を欲しいタイミングで、受け取りやすい方法で届けられるようになるだろう。
医師への情報提供の方法は様々だが、MA導入初期はメールの活用に注力するのが良い。MA活用におけるメールは大きく分けて、以下の5つに分類できる。
●お役立ち情報メール
●製品メール
●アクション促進メール
●課題把握メール
●サイト活用メール
メールはただ配信すれば良いものではない。医師の関心にあったメールを適切なタイミングと適切な頻度で届けることが求められる。購買プロセスに合わせて上記5つのメールを使い分けることで、数多くのメールを受け取っている医師から一目置かれるようなコミュニケーションを実現できる。
※セミナー内容がより詳細にわかる※
セミナー資料をダウンロード
パワー・インタラクティブでは、MAを核としたデジタルマーケティング推進を成功させるために、3つのサービスを提供しています。
MAを活用してデジタルマーケティングの成果を上げるには、以下の3つが重要です。
●MAを有効に活用すること
●マーケティング活動の成果を見える化すること
●滞りなく施策を回すこと
弊社はMA導入・活用支援に加えて、マーケティング成果の可視化やオペレーション構築の面でも貴社をサポートします。
MAを核としたデジタルマーケティング推進でお悩みの方は、お気軽に弊社へご相談ください。
マーケティングコンサルタント
山下 智
マーケティング戦略策定
Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!
2024.11.26
2024.11.25
2024.11.22