米国では約70%の企業がマーケティングオペレーション(MOps)の専門組織を持っているのに対し、日本では約9%の企業しかMOps組織を持っていない*1*2。「日本企業のマーケティング組織は生産性が低い」といわれる所以は、MOps組織の有無にあるといっても過言ではないだろう。
本コラムでは、日本企業がMOps構築において米国企業から遅れを取っている理由を解説する。日本企業と米国企業の違いを知ることは、MOps構築の助けになるかもしれない。
日本企業がオペレーションの専門組織である「MOps」の構築で米国企業に遅れを取っている背景には、4つの理由があると考えられる。
マーケティングの概念は基本的に米国から輸入しているものであり、当然米国よりも遅れて日本企業に浸透していく。そのため、米国企業と日本企業のマーケティングレベルは常に差が生じている。
米国企業は顧客行動をもとにマーケティング戦略を設計するのに対し、日本企業はWebサイト運用やSNS、広告などプロモーションが中心で、企業都合のアプローチが主流になっている。日本でもデジタルマーケティング推進によって顧客行動をもとにしたマーケティング戦略を設計する企業は増えているものの、現在もプロモーション中心でマーケティングを実施している企業が多い。
米国でMOpsという概念が生まれた背景には、マーケティングテクノロジーの爆発的な増加がある。2011年には150程度だったマーケティングテクノロジーは年々増加の一途をたどり、2020年には8,000まで増大した。
米国で生まれたマーケティングテクノロジーは、米国である程度浸透した後日本に上陸する。デジタルマーケティング推進の核であるマーケティングオートメーションツールの「Adobe Marketo Engage」は、2007年に米国で誕生し、2014年に日本へ上陸した。このように、マーケティングテクノロジーの日本進出には数年のタイムラグがあり、それが日本企業のマーケティングレベル向上の遅れにもつながっている。
参考:マーケティングオートメーション大手の米Marketo、日本法人を設立
米国ではマーケティングへの期待値が高く、マーケティングへの投資が積極的におこなわれている。米デロイトトーマツコンサルティング社が2021年2月におこなった調査『CMO Surbey』によると、コロナ禍で一次的にマーケティングへの投資が縮小したものの、例年5~7%程度マーケティング投資が増加している。
日本企業ではマーケティングの収益貢献を見える化できていないがゆえに「マーケティング部はコストセンター」と認識されていることが多い。そのため、マーケティング部には常にコストカットの圧力がかかり、積極的な投資を引き出しにくい面がある。
日本と米国には言語の壁があり、米国で流通している情報が日本に入ってきにくい。昨今はDeepLなど高精度な翻訳ツールによって言語の壁が低くなっているが、これまで情報の流入を阻んでいたことは間違いないだろう。
日本企業と米国企業では、オペレーション改善に対する考え方が異なる。この違いを生んでいる要因は主に以下3つ。
●要因1:変革への意識の差
●要因2:労働慣行の違い
●要因3:文化の違い
歴史的背景や教育システムの影響により、米国企業の社員は変革への意識が強い。挑戦して失敗しても、そこから学びを得てまた挑戦するという文化が自然に根付いている。一方、日本企業は失敗を善しとしない風潮があり、挑戦することのリスクが相対的に大きい。失敗することで人事評価に悪影響を及ぼすことも考えると、挑戦しない方が妥当な判断ということになってしまう場面も多い。
労働慣行の違いもオペレーション改善への考え方に影響を与えている。米国企業は基本的に成果主義で評価されるため、成果を上げるためにオペレーションを改善するという意識が働く。一方、日本企業は「頑張り」や「前向きな姿勢」など定性的な評価が主体であることが多く、オペレーション改善に意識が向きにくい。
米国と日本の間にある文化の違いもオペレーションへの意識の差を生んでいる。米国には多様な人種や広大な土地、格差社会といった社会背景があり、ルールや定義を明確にする必要性に迫られてきた。その結果、オペレーションが整備されている。一方、日本は米国と比べると国民全体の同一性が高く、「阿吽の呼吸」「空気を読む」といった個々人の察しの良さによって社会が回っており、ルールの明文化が必要なオペレーション整備が進んでこなかった。
すべてにおいて米国企業が優れていて日本企業が劣っているというわけではないが、これらの要因がMOps構築に影響を与えているのは間違いないだろう。
本コラムでは、日本企業が米国企業と比べてMOps構築で遅れを取っている理由を解説した。何か問題を解消するには、問題が生じている原因を把握することが重要である。本コラムで解説している内容は一般論だが、思い当たる節が少なからずあったのではないだろうか。
日本企業のマーケティング組織にとって、オペレーションは明確な弱点といって差し支えない。MOpsを構築してオペレーションを設計することで、マーケティングにおける弱点を克服する一助になれば嬉しい。
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関連記事:MOps(マーケティングオペレーションズ)とは、戦略と実行を紐づける組織である
*1:米国でBrandMakerが実施したアンケート調査『THE 2021 STATE OF MARKETING OPERATIONS』より引用
*2:パワー・インタラクティブが実施した『MOps(マーケティングオペレーションズ)に関する実態調査』より引用
コンテンツ編集長
岩野 航平
コンテンツ戦略策定
新卒で株式会社ネオキャリアに入社し、新規オウンドメディアの立ち上げに従事。ネオキャリアを退職し、数カ月間飲食店で働いた後、パワー・インタラクティブに入社。マーケティング、インサイドセールスを担当したのち、コンテンツ編集長に就任。パワー・インタラクティブで発信するコンテンツ全般の企画やコンテンツ計画策定などをおこなう。
2024.10.09
2024.08.27
2024.04.08