創業10年を迎える法人向けネット通販を営むA社。全国あらゆる地域の企業・団体を対象に、単価1000円〜数千円の商品をECで販売している。一回の発注額は数万円〜数十万円という売上規模で、月々の定額販売は行っておらず、企業側は必要な時に必要な個数を注文する。そのためBtoB事業ではあるが、ビジネスモデルはBtoCの物販ECとほぼ同じといえる。 必要な時に購入するという商材のため、顧客がECサイトを訪れた時に発注に至らないと、そのまま失注してしまう。また定期購買ではないため、売上を上げるにはリピート顧客を増やす必要がある。だが、いつ発注があるかわからない商材を扱い、かつ競合もあるなか、どうすれば失注を防ぎ、リピート顧客を増やせるのかわからない状態だった。
商品をカートに入れたまま発注しない「カゴ落ち状態」を打破するため、リマインドメールを送っていたが、思うような効果は上げられなかった。また既存顧客へのコミュニケーションも、不定期にキャンペーンメールを送付するだけだったので、必要がなければ発注につながらず、リピート顧客への引き上げには至らなかった。 顧客と定期的にコミュニケーションを行い、自社へのエンゲージメントを強化するため、A社は2017年にマーケティングオートメーションツールMarketoを導入した。Marketoを使って、自動化された定期的なメール配信を行うことで、顧客との関係性が強化されたという実感はあったが、目に見える成果にはつながらなかった。 最大の理由は、MAツールをどう活用すればリピート顧客へ引き上げられるのかわからなかったことだ。MAツールは中長期的に顧客と関係を築いて商品やサービスへの理解を促すことが得意なので、顧客のライフサイクルに応じた段階(ステージ)分けがポイントとなる。そして、各ステージに応じたコミュニケーションをMAツールで行うことで、ステージを引き上げていく。だがA社の場合、顧客層をステージ分けするといっても、「未購入者」「購入者」の2段階でしか分けられず、最終的にリピーターになってもらうために、どのようなシナリオを立てれば良いのかわからなかった。
A社は2018年1月にMAツールの成果向上プロジェクトがスタートし、パワー・インタラクティブのMarketo活用コンサルティングの「Quick Leverage Pack」を活用してテコ入れを行なった。パワー・インタラクティブでは、最初の1カ月はマルケトを一切利用せず、まずA社の事業と顧客の特性を理解するため、事業のSWOT分析を行うことに集中した。 その後の2カ月は、SWOT分析の結果を踏まえ、A社の顧客ライフサイクルをモデル化し、施策立案に従事した。具体的には、実際の顧客の状況に沿ったライフサイクル設計を行い、その中の各ステージに適したコミュニケーション戦略を企画、実施していった。
顧客のステージを単純に分けると「未購入者」「購入者」の2段階だが、未購入者のなかでもCookie情報と紐付けできているリードもあれば、会員登録したばかりのリードもある。一方、購入者については、購入金額や頻度などの条件でエンゲージメント度合いを評価できる。こうしてパワー・インタラクティブは、A社と週1回ミーティングを重ねながら未購入者・購入者の両方について、現在のステータスや利用頻度、金額などから顧客ライフサイクルとステージを設計していった。 一例を挙げると、「直近6カ月間で●回以上購入し、平均購入金額が×万円以上」を最高ステージ、「直近6カ月で●回未満購入、平均購入金額が△万円」が次点、そして「1年以上購入なし」を休眠ステージと設定。未購入者については「閲覧」「会員登録」「初回発注(既存顧客へ引き上げ)」というステージ分けを行った。 ライフサイクルを定義するうえでポイントとなるのは、「ステージをあまり細かく設定しすぎない」ことにある。ライフサイクル内のステージを細分化すると、メールを配信するターゲットの母数が少なくなり、売上インパクトにつながりにくい。MAツールの設定や運用工数もかかる。A社のケースでは、このバランスを考えて「細かくしすぎず、リードの状態を把握する」ことを念頭にライフサイクルのステージを定義していったことが、次に述べる成功をもたらした。
こうして顧客ライフサイクルとステージの再定義を終え、MAツールの利用を再開した。パワー・インタラクティブのコンサルタントは、ステージごとの、トリガーメールを配信することを提案した。トリガーメールとは、MAで予め設定した条件(属性・行動)に合致した瞬間に配信されるメールのことだ。 限られた期間内で成果を上げるため、最初に行ったのは「特定のステージに該当」「東京エリア」で「一定金額以上の高額商品」を検索したものの発注に至らなかったユーザーに発注を促すメールを送信する施策だった。顧客はA社のECサイトを訪問した時点でニーズはすでに熟しているので、その機を逃さずにトリガーメールを配信すれば、発注につなげやすい。また金額条件を高額に設定したのは、売上へのインパクトを大きくする狙いがあった。
初めて送付したトリガーメール施策は大きな成果をもたらし、配信後の受注が急増。1週間で数十万円、1カ月では数百万円の売上増につながった。 メール施策で効果が出たため、A社からはその後3カ月コンサルティングの延長申請があった。この3カ月のなかで、パワー・インタラクティブはA社に今後実施していくべき施策のアイディアや企画の立て方をレクチャーした。また、最初のトリガーメールと同じように、その後も各ステージ層に応じていろいろなコンテンツを配信し、その効果を検証していった。 メール施策においては、コンテンツを再利用して制作を効率化することで、限られた期間内で実績を積み上げていった。こうして何本も施策を行うことで、パワー・インタラクティブが持つ企画の立て方やコンテンツ設計のポイントもA社と共有することになり、A社側にMAツール活用ノウハウが蓄積されていった。 現在A社では、このプロジェクトで得た経験を踏まえ、1社当たりの売上増やリピート顧客発掘の施策立案・実行を推進している。
2024.07.01
2024.06.21
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