マーケティング部門の業務範囲が広がり続けるなか、各社のマーケターは悲鳴を上げ始めている。営業プロセスのなかでマーケティング部門に求められる範囲が広がり、それに準じて利用するマーケティングテクノロジーが増えていけば、マーケターの学習が追い付かなくなるのも無理はないだろう。
日本ではまだ馴染みがないが、米国では多くの企業が「MOps(マーケティングオペレーションズ)」というオペレーション専門の組織を有している。日本企業と米国企業の間にある生産性の差は、オペレーションの差によって生じているといっても過言ではない。
今後日本企業に求められる「MOps」について、パワー・インタラクティブ社内で議論し、本コラムを作成した。今後避けては通れないMOpsについて理解を深める助けになれれば幸いだ。
MOpsとは、マーケティングにおける戦略と実行の間をつなぐ役割を持った組織のことである。緻密なマーケティング戦略を立案したとしても、それを実行しきれている組織は極めて少ない。その背景には、以下のような問題があるだろう。
●マーケティングの領域が拡大・複雑化している
●施策がバラバラで管理され、全社的に評価できない
●組織が縦割りで協力体制を組めていない
●利用するマーケティングテクノロジーが増え続け、各担当者の学習が追い付かない
●実行した施策を正しく検証できるようにデータが統合されていない
上記のような問題を解消するために、MOpsが存在する。MOpsは単なるマーケティングツールの操作を指すものではなく、戦略と実行をつなぐ組織を指すものである。
MOpsは日本ではまだ馴染みがないが、米国では多くの企業が当たり前のように取り入れている。Dimentional Research社が2021年に米国でおこなった調査では、約70%の企業がMOpsを専門の組織として持っていると回答した。
MOpsがこれほどまでに米国で浸透した背景には2つの要因がある。
■要因1:マーケティングテクノロジーの爆発的な増加
Chief Marketing Technologist社は毎年カリフォルニア州で開催されるカンファレンス「MarTech」にて、「Marketing Technology Landscape」を発表している。
2011年には150程度だったツールは年々増加の一途をたどり、2020年には8,000まで増大している。これほど発達しているマーケティングテクノロジーを、マーケター自身が自助努力でキャッチアップし続けるのはほとんど不可能と言ってよい。
■要因2:マーケティングが担う領域の拡大
営業プロセスにおいてマーケティングが担う領域が広がっていることは、日本にいても感じるところだろう。かつてはプロモーションのみを担っていたマーケティングは、今や商談に至る前工程のすべてを担うように変化している。
MOpsは主に以下4つの役割を担う。
データ統合:各所に散在するデータを統合し、分析できる環境を整える
業務プロセスの整理:業務プロセスを自動化・最適化し、効率性を高める
部門間連携の橋渡し:マーケティング部門と他部門の連携を強化する
顧客体験の向上:パーソナライズされた顧客体験を実現できるための環境を整える
日本企業は各事業部にマーケティング機能が散在している。そのため、ナレッジを共有できていない、部門をまたいだ協力ができない、データが分散していて俯瞰した分析ができないといった問題を抱えている。
また、情報システム部門など、他部門との折衝にも課題がある。マーケティング部門と情報システム部門で議論しながらテクノロジーを導入したものの、実際の運用が難しい仕様で実装されてしまったという事例は少なくない。
MOpsはマーケティング部門と他部門との間に立ち、オペレーションを整備する組織だ。MOpsが上記4つの役割を担うことで、マーケティング活動を阻むオペレーション上の問題を解消することができる。
MOps組織を構築することでマーケティング活動を阻むオペレーション上の問題を解消することはできるものの、一足飛びにMOpsを企業に定着させることはできない。順を追って進める必要がある。
企業がMOps推進を段階的に進めるには指針が必要だと考え、MOps成熟度マップを作成した。
MOps構築の進行度合いを横軸、MOpsが担う4つの役割を縦軸として整理した。
当マップと照らし合わせると、ほとんどの企業はステージ1またはステージ2に該当するだろう。我々もステージ4には程多いのが現状だ。
MOps成熟度マップは、これからどのようにMOps構築を進めていくのかといった視点で活用してほしい。
日本企業は世界の経済成長に後れを取り、衰退の一途をたどっていると語られることも多い。その大きな要因として挙げられるのが「標準化」である。オペレーションとはすなわち標準化のこと。業務を標準化して遂行することで、誰がやっても同程度の業務品質を担保できるようになる。
多くの日本企業はこれまで、属人化して業務を回してきた。テクノロジーの発達が遅く、終身雇用制が一般的であった頃はそれでも良かったが、現代では標準化が求められる。業務範囲が日々変わっても、人が入れ替わっても素早く対応できるようにするには、標準化が必要不可欠だ。
企業の成長に直結するマーケティングを標準化させ、生産性を向上させることができれば、日本企業は大きく飛躍できるかもしれない。企業の命運を握るMOps構築を支援するために、パワー・インタラクティブは引き続き学習を進めていく。
MOps(マーケティングオペレーションズ)に関する実態調査資料
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マーケティングコンサルタント
山下 智
マーケティング戦略策定
Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!
コンテンツ編集長
岩野 航平
コンテンツ戦略策定
新卒で株式会社ネオキャリアに入社し、新規オウンドメディアの立ち上げに従事。ネオキャリアを退職し、数カ月間飲食店で働いた後、パワー・インタラクティブに入社。マーケティング、インサイドセールスを担当したのち、コンテンツ編集長に就任。パワー・インタラクティブで発信するコンテンツ全般の企画やコンテンツ計画策定などをおこなう。
2024.08.19
2024.04.08
2024.02.13