コラム

Playbookとは、経験からの学びをまとめた”成功のための指南書”である

「新しく人が入るたびに同じことを教えていて非効率に感じる」
「一度話しただけでは伝わらない。皆で同じ方向へ進みたいが思い通りにいかない」

こんな悩みを抱えているマネージャーは多いだろう。これらの問題は、組織が持っている戦略やナレッジを言語化できていない、共有できていないことに起因する。戦略やナレッジを言語化・共有しなければ、マネージャーはメンバー教育に過剰な時間を費やし続けることになる。

米国では一般的に、組織が持つ戦略やナレッジを「Playbook」として共有している。チームに所属するメンバーはことあるごとにPlaybookに立ち返りながら業務を遂行する。これが米国企業と日本企業の生産性の差につながっているとも言えるだろう。

ビジネスにおける非効率を解消する「Playbook」について、パワー・インタラクティブ社内で議論し、本コラムを作成した。自チームでのPlaybook作成の助けになれば幸いだ。

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マーケティングにおけるPlaybookとは

多くの日本企業は、マーケティングに関するナレッジを共有できていないという問題を抱えている。ナレッジを共有できていないがゆえ、過去に失敗した施策を知らぬ間に繰り返していたり、成功例があるにも関わらず良い方法を闇雲に模索したりといったことが起こっている。いわば、車輪の再発明をしようとしているような状況にある。

Playbookとは、経験からの学びをまとめた”成功のための指南書”である。マーケティング組織に置き換えると、成果につながりやすいマーケティング施策の型をまとめたものといえるだろう。

米国企業で働いたマーケターは「Playbookなしでマーケティングするなんて考えられない」と断言する。マーケティング先進国の米国では、それだけPlaybookが当たり前に活用されている。

図表1:Playbookがある組織とない組織

アメリカンフットボールにおけるPlaybookの役割

「Playbook」という概念はアメリカンフットボールの場で生まれたとされている。

アメリカンフットボールは攻守交代制の競技である。4回の攻撃権のなかで10ヤード(9.14m)以上進むことで、追加で4回の攻撃権を得ることができる。そのため攻撃側は、10ヤード以上進むために相手の裏をかく緻密な戦略を描く。激しいタックルが印象的なことから肉弾戦のイメージが強いが、実は高度な頭脳ゲームでもあるのだ。

相手の裏をかくために、各チームは数十~数百個の戦術を持っている。それらをリストとしてまとめたものが「Playbook」だ。Playbookを通じて戦術の型を各選手に共有し、一体となって動いている。

戦術の型は以下のような形でまとめられている。

日本でも、将棋の世界では「戦法」として型をまとめた書籍が販売されている。将棋を極めようとする人は、まずは戦法を学ぶことから始めるようだ。

Playbookがマーケティング組織にもたらすメリット

Playbookを共有している日本企業のマーケティング組織は多くないが、Playbookを共有することはマーケティング組織に大きなメリットをもたらす。

メリット1:マーケティング戦略やナレッジを共有できる

日本企業はマーケティング機能が各所に分散していたり、ナレッジを蓄積する文化がなかったりするゆえ、マーケティング戦略やナレッジの共有に弱みがある。そのような課題はPlaybookを作成し、共有することで解消できる。

成果を出すためのナレッジがすでに確立されている施策について、ナレッジを共有できていないがために暗中模索するのは時間とリソースの無駄遣いである。マーケティング戦略と確立されたナレッジを共有するPlaybookは、マーケティング組織の生産性を向上させるだろう。

メリット2:メンバーの教育工数を削減できる

マーケティング戦略やナレッジをドキュメント化できていない組織では、以下のような事象が頻発する。

 ●新メンバーが入るたびに何時間もかけて資料を準備し、マーケティング戦略を解説している
 ●成果が出るまで長期間かけて、OJT(On the Job Training)でナレッジを継承する
 ●すでに成果を出す法則が見えている施策について、失敗を繰り返しながら学習する

これらの教育方法にも利点は多くあるものの、膨大な教育工数を要してしまう。定期的にメンバーが入れ替わる組織であれば、メンバー教育がマネージャーの時間を過剰に圧迫してしまうだろう。

Playbookにマーケティング戦略やナレッジをまとめ、Playbookを用いて解説することでメンバー教育にかける工数を大幅に削減できる。

メリット3:最新情報を共有できる

社内勉強会や事例共有会を通じて、ナレッジを共有する文化を醸成している企業も多い。しかし、各人がそれぞれ資料を作成していくと情報が分散し、どこを見ればナレッジにたどり着けるのか、どれが最新情報なのかわかりづらくなってしまう。

Playbookは戦略やナレッジを1つのドキュメントに集約したもの。そのうえ、一度作成して終わりではなく、常に最新の状態に更新していく。Playbookに立ち返れば、すぐに最新の情報にたどり着けるようになっている。Playbookは、共有したナレッジを有効活用することに長けている。

メリット4:成果を定量評価できるようになる

場当たり的にマーケティング施策を実施していると、以下のような問題が起こるだろう。

 ●どのように成果を測定するのかその都度決めており、同じ施策でも測定方法が異なることがある
 ●成果測定に必要なデータを取得できていないことに後から気付く
 ●測定方法が決まっていないゆえ、測定者や評価者の感覚をもとに不確かな評価をしてしまう

Playbookには、施策実行までのプロセスと成果の測定方法を記す。測定方法をあらかじめ決めたうえで施策を実行するため、上記のような問題が生じるのを防ぐことができる。

データ活用が成否を決するマーケティングの世界では、データをもとに定量評価し、スピーディーに施策を改善し続けることが求められる。Playbookは、施策改善のための定量評価においても役立つ。

Playbookとマニュアルの違い

Playbookについて議論すると、決まって出てくる問いがある。

「Playbookとマニュアルは別物なのか」

Playbookとマニュアルは似て非なるものである。両者は大きく分けて4つの要素において違いがある。

  Playbook マニュアル
目的 戦略やナレッジをチームに共有して成果を出すこと 特定のタスクを遂行するための手順を指示すること
柔軟性 組織の成長や編成に合わせて柔軟に変えられる 固定的な手順をまとめているため、柔軟性に欠ける
構成要素 戦略やナレッジ、利用ツール、チーム編成など、組織全体に関わる様々な要素を盛り込む 特定のタスクのみについて記載している
更新頻度 組織状況や市場環境の変化に応じて都度更新する タスクの実行プロセスが変更されたときのみ変更する

両者は良し悪しではなく、目的に応じて使いわける。チームで1つのプレイブックと複数のマニュアルを持つような形が望ましい。

失敗リスクを抑えたPlaybook作成の手順

Playbookは一度完成すれば組織に多くのメリットをもたらすが、完成させるまでに多くの労力を要する。組織にまつわる包括的なナレッジを1つのドキュメントにまとめるのは簡単なことではない。関係者が増えれば増えるほど、「定常業務で忙しい」と無下にされてしまうことも多くなるだろう。

失敗リスクを抑えたPlaybook作成を進めるために、以下の手順で進めることをおすすめする。

1.現状を分析する
Playbook作成にあたる前に、ナレッジ共有について抱えている課題を調査・分析する。その過程で、Playbookの有用性を啓蒙する。

2.小規模なPlaybookを作成する
まずは小規模なPlaybookを作成し、最小単位のチーム内で共有する。この時点では、Playbookの記載内容は限定的なもので構わない。Playbookをもとに何らかの成果を出し、他チームにも発信できるとより良い。

3.段階的にPlaybookの記載内容と共有範囲を広げる
記載内容を追加し、Playbookの共有範囲を広げる。より多くの人にPlaybookを共有すると有効活用できる機会が増えるが、共有範囲を広げ過ぎると各人にとっての有用性が下がる懸念がある。Playbookの有用性を損なわない最適な共有範囲を探るためにも、共有範囲は少しずつ広げると良い。

4.Playbookの内容を更新する
Playbookは一度作成して終わりではない。組織状況や市場環境に応じて、都度更新する必要がある。組織に属するメンバーが更新しやすいよう、更新ルールを作っておくと良い。

マーケティング組織のPlaybookに記載すべき項目

Playbookに記載する項目は自由に選択できるが、一般的に押さえておくべきポイントというものは存在する。Playbookを作成するときは、以下の項目について記載するのがおすすめだ。

 ●マーケティング組織の目標(売上、リード獲得数、ブランド認知度など)
 ●マーケティング戦略
 ●ターゲット市場
 ●顧客セグメント
 ●利用するチャネル(ウェブサイト、検索エンジン、SNS、テレビ、新聞など)
 ●実行する戦術(コンテンツマーケティング、SEO対策、SNSマーケティング、メディアアプローチなど)
 ●施策実行までの手順
 ●施策成果の測定方法(利用するツールと確認する指標、確認方法を記載する)
 ●チーム構成
 ●各メンバーの役割
 ●予算計画
 ●リスク管理方法
 ●利用ツール一覧
 ●各ツールを利用するためのテンプレート
 ●新メンバーの教育フロー

小規模なPlaybookを作成する際は、上記のなかから有用性が高いと考えられるものをピックアップして記載すると良い。Playbookの形は組織によって千差万別である。

Playbookがマーケターの生産性を高める

Playbookは作成の過程で多くの労力を要するが、共有することでマーケターの業務工数を削減できるうえ、短い時間で成果に導くことができる。組織が大きくなればなるほど、その効果は大きくなっていくだろう。

オペレーションが精錬された強い組織には、そのオペレーションを実現するためのPlaybookが存在する。属人的なマーケティングから脱して組織として成長していくために、Playbook作成に勤しんでほしい。

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山下 智

マーケティングコンサルタント

山下 智

マーケティング戦略策定

Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!

岩野 航平

コンテンツ編集長

岩野 航平

コンテンツ戦略策定

新卒で株式会社ネオキャリアに入社し、新規オウンドメディアの立ち上げに従事。ネオキャリアを退職し、数カ月間飲食店で働いた後、パワー・インタラクティブに入社。マーケティング、インサイドセールスを担当したのち、コンテンツ編集長に就任。パワー・インタラクティブで発信するコンテンツ全般の企画やコンテンツ計画策定などをおこなう。

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