全社横断のマーケティング部門は、各事業部のマーケティング担当者をサポートする役割を担うことが多い。そんななか、「施策の実行結果や顧客データを複数部門間で上手く共有できていない」「オペレーションが属人化してしまっている」といった課題に悩まされることも少なくない。
2023年10月11日、マーケティングコンサルタントの山田が講師として登壇し、『【横断マーケティング部門向け】全社のマーケティングレベルを高めるためにやるべきこと』と題したセミナーを開催した。本稿では、当セミナーの内容をまとめている。
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本講義で取り上げる「横断マーケティング部門」とは、商材ごとに決められた担当者に対して施策の提案や定例ミーティングを通じたマーケティング支援をおこなう部門を指す。
横断マーケティング部門に求められる役割は大きく以下の4つに分類できる。
1.マーケティングテクノロジーの強化
マーケティングテクノロジーの選定・導入・管理の一連の流れに携わる
2.各部門・チームごとに分散しているデータの統合と活用
各種データの管理と分析までをおこなう
3.組織全体でのナレッジ共有
データ分析を通じて得たインサイトを共有したり、マーケティング業務を遂行するプロセスを共有したりする
4.チームのテクノロジー教育
マーケティング担当者のフォローや研修の実施により、テクノロジー利用の活性化を目指す
このように、組織全体のマーケティング施策を最適化するために様々な方面からサポートをおこなうのが、横断マーケティング部門に与えられたミッションといえる。
横断マーケティング部門が組織のマーケティング力強化を目指すなかで陥りやすい悩みとして、以下の3点が挙げられる。
1.部門間でノウハウの共有ができていない
各商材の担当者間で成功事例・失敗事例などのノウハウが上手く共有されていないと、「同じような失敗が繰り返されてしまう」「ある製品の施策で上手くいった方法があるにもかかわらず、ほかの製品担当者は従来通りのやり方を続けてしまう」といった現象が起こりやすい。このようにマーケティング施策のノウハウを共有できていない状況では、マーケティングの精度がなかなか高まらない。
2. 取得している顧客データの形式が部門・ツールごとに異なり、活用できない
例えば、顧客に対してアンケートを実施する際、部門ごとに質問の回答方式が異なれば、集計後に各部門のデータを比較分析することが困難になる。このように、横断的なデータの評価分析が困難な状況では、当然マーケティングプロセスの改善も難しくなる。
3. 商材担当者ごとに知識レベルにバラつきがあり、教育設計が難しい
様々なキャリアやバックグラウンドを持つメンバーが商材担当者として施策に関わる場合、担当者ごとにマーケティングやデータ分析への理解に差があることも少なくない。リテラシーに個人差がある場合、研修を実施する際のテーマやレベルの設定に悩むこととなる。
上記の課題は、サポートする商材担当者の人数が多ければ多いほど深刻になっていくという特徴がある。実際に、上記のような課題に直面している認識はあるものの、状況が打開できずにいるという横断マーケティング部門担当者は多いだろう。
ここからは、パワー・インタラクティブの支援事例を紹介しながら、上記の課題をどのように解決していけばよいのかを考えていこう。まず紹介するのは、取り組み共有会の開催とPlaybookの活用によって全社でのナレッジ共有に成功した事例だ。
ソフト開発・販売事業を展開するA社では、営業統括グループの配下にマーケティング部門を設置。支援をおこなう事業部ごとにさらに3つのチームにわかれる組織構成となっている。
しかし、A社のマーケティング部門では、各チーム間での連携や情報共有ができておらず、ほかの人が何をしているのかが見えづらい状況だった。コロナ禍に入るとその傾向は顕著となり、部署内で同じようなミスが繰り返し発生する問題も起こった。
この課題を解決するために、パワー・インタラクティブは取り組み共有会の開催とPlaybookの活用を提案。担当者一人ひとりが持つナレッジをチーム全体に公開し、組織のマーケティング力強化を目指した。
「取り組み共有会」は、実施したマーケティング施策の成功事例・失敗事例を共有することを目的として半期ごとに開催する会議だ。参加者は、各マーケティングチームのメンバーとマーケティング部長。加えて、コンサルタントである山田が司会進行役として同席した。
90~120分間の会議のなかでは、各チームが実施した施策の詳細や成果、ほかのチームに共有したいことを発表していく。さらに、各チームの発表後にはほかのチームからの質問に回答する。
マーケティング部のメンバーが一堂に会する取り組み共有会は、MAの運用ルールを周知し、Playbookの更新箇所について案内する場としても活用した。
ほかの担当者の成功事例やノウハウを共有する時間を定期的に作ることで、A社ではMA施策の質向上をはじめ、展示会やセミナーなどオフライン施策のプロセス統一化を進めることにも成功した。また、思わぬ副産物として、参加者から「社内に相談相手が見つかった」という声も聞かれるようになった。
A社のマーケティング部門では、取り組み共有会の開催によって担当者同士のつながりが深まりつつあった。しかし、気軽に会話がしやすい状況になると、今度は同じ内容の質問が特定の人に集中するという新たな課題に直面した。
この状況を改善するために、担当者それぞれのナレッジを集結させ、誰でも必要なタイミングで情報を参照できる「Playbook」の作成を提案した。Playbookに含まれる内容は以下の通り。
・Playbookの趣旨と使い方
・マーケティング用語集
・デジタルマーケティングノウハウ(ウェビナー運用のポイント、メールのクリック率向上方法、SEOに効くコンテンツ作成方法など)
・マーケティング施策の取り組み事例(成功事例・失敗事例、使用した資料の保管場所)
・マーケティングテンプレート集(メール配信・Webサイト公開前のチェックシート、社内説明資料など)
・MAのプログラムの雛形解説、MA運用ルール
・インシデント発生時の運用フロー(レポートライン、報告時の連絡項目)
初稿の作成はパワー・インタラクティブが担当し、それ以降は各チームの施策が終わる度にA社側で内容の更新をおこなうようにした。現在、このPlaybookは100ページを超えるボリュームとなっている。
Playbookを作成したことで、担当者の異動や退職によって組織のマーケティング力が低下するリスクは低減された。さらに、作成したPlaybookはチームに新しいメンバーが加入した際の教育資料としても活用されている。
もしすでに取り組み共有会とPlaybookのどちらか一方のみを実施している場合は、ぜひ2つの取り組みを同時に進めることを検討してほしい。
すでに取り組み共有会を実施している場合は、その場で発表された成功事例・失敗事例をPlaybookに記載するようにする。そして、Playbookに記載されている情報同士を上手く連携させながら新しいナレッジを生み出し、現場で施策を実施する。さらに、その実施内容を取り組み共有会で発表し、Playbookに掲載することを繰り返していけば、自然とナレッジの蓄積と共有のサイクルが生まれるはずだ。
次に、商材担当者一人ひとりが自発的に必要なアクションを実行できる状況を目指し、マーケティング成熟度マップの作成と運用に取り組んだB社の事例を紹介しよう。
SI・自社ソフト販売・代理店業など、幅広い事業を展開するB社の組織構成は、図表4の通り。商材を扱う事業部内に並列的にマーケティング部門が配置されている。
事業部内の各本部では、1名の担当者が1つの商材を担当。マーケティング部門は、担当者の活動をサポートする役割を担っている。しかし、サポート対象の商材担当者の数が非常に多いうえに、それぞれの経験や知識量に差があることから、個別対応で必要なサポートを一人ひとりに提供することが難しい状況にあった。
そこでパワー・インタラクティブがB社に対して提案したのが「マーケティング成熟度マップ」の活用だ。
マーケティング成熟度マップとは、いわばBtoBマーケティングのロードマップのようなもの。図表5のような表を用いながら各商材の現状を整理・把握し、それをもとに目標を定める。さらに、その目標を達成するためのタスクとスケジュールを明確にし、実際に行動に移すことで担当者がそれぞれ自発的に成果目標に向かって進める状態を目指していく。
マップの縦軸に並ぶ5つの項目は取り組みのカテゴリー、横軸の各ステージは習熟度のレベルを5つの段階に分類したものを表す。このマップをもとに、各商材担当者がカテゴリーごとの現状のレベルを自己評価し、同時に半年後の目標ステージの設定もおこなう。
成熟度マップを正しく活用していくためには、1〜5までのステージをわかりやすく定義する必要がある。
この事例では、成熟度マップを運用する前の事前準備として、各カテゴリーごとに成熟度を客観的に評価するための指標となる質問を複数用意した。商材担当者は、その質問に〇×形式で回答し、該当する質問の数から自身の現在地や目標ステージを判断できる。商材担当者がマップを完成させた後は、マーケティング部門の担当者もその内容のチェックをおこなった。
また、目標のステージに到達するために必要なタスクもマップ上に明記し、担当者がより具体的なアクションを起こしやすいようにした。
この事例においては、5つのカテゴリーについてそれぞれステージ1を除く2〜5の4ステージ分のタスクを整理し、マップ上に掲載した。
マップを使って現在地と目標を確認した後は、各担当者がタスクを実行していく段階に入る。この運用のフェーズに入った時に欠かせないのがマーケティングチームのフォローだ。
商材担当者と継続的に接点を持ち、目標達成に向けたアクションを起こしてもらうためには、日頃の進捗確認のほか、社内向けメールマガジンの配信や定例会の実施も効果的な手段といえる。一人ひとりのモチベーションを維持する工夫を怠らないようにしよう。
組織全体のマーケティングレベルを底上げしていくためには、図表8のように組織・マーケティングプロセス・ナレッジ・データ活用の4分野をそれぞれバランスよく強化することが求められる。
今回紹介したA社・B社の事例はいずれも図表8のフェーズ1からフェーズ2の段階を目指すものだが、組織のマーケティング力を高めるために必要なアクションは場合によって異なる。自社が目指したい姿と現状を明確にし、取るべきアクションを考え続けることが必要だ。
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パワー・インタラクティブでは、横断マーケティング部門が抱える課題解決に向けたソリューションの提案や施策実行のサポートをおこなっている。
チーム内でのノウハウの共有やデータ活用が不十分である場合、組織体制やツールの運用方法などを見直す必要がある。何が問題の核になっていて、どのように対処するべきかを決めるには、客観的な視点を入れた方が良いこともあるだろう。
パワー・インタラクティブは、横断マーケティング部門がマーケティング活動を押し進めていくためのコンサルティングサービスを提供している。組織的なマーケティング力強化に向けて何をすべきかお悩みの方は、ぜひパワー・インタラクティブまで相談してほしい。
マーケティングコンサルタント
山田 俊也
マーケティング戦略策定
BtoB企業を中心に、マーケティング戦略設計から施策の実行までサポート。Marketo Engageを使ったコンサルティングの実績を多く持つ。
社外に向けた無料・有料セミナーの企画、講師も担当。のべ50回以上の登壇実績。Adobe社が提供するMarketo Core Concepts Ⅱの講師を勤める。
育児のための長期休暇を取得、仕事復帰後は子育て奮闘中。
2024.11.25
2024.10.09
2024.08.27