AI×インテントデータ活用で変わるこれからのMOps戦略
マーケティング活動全体を支える存在として日本国内でも関心が高まるマーケティングオペレーション(以下、MOps)。AI技術の進化と、マーケティング施策から得られる顧客・行動データの急増により、その業務内容や役割にも変化が生じています。
本コラムは、ゼロワングロース株式会社 取締役 廣崎依久氏をゲストに招いて開催したセミナー『AIとインテントデータが切り拓く次世代MOpsの可能性』第一部内容をもとに、弊社セミナー事務局が制作しました。
MOpsはマーケティング組織のバックボーン
MOpsは、マーケティングの生産性と再現性を高めるうえで、中心的な役割を果たす存在です。
アメリカと日本におけるMOpsの普及状況
MOpsは、マーケティング組織を支える基盤的役割を担う存在として、欧米では15年以上前からその重要性が認識され始めました。『State of the Marketing Ops Professional Research | Trends for 2025(MarketingOps.com)』によると、アメリカでは、約97%の企業が専任または兼任のMOps体制を整えており、すでに標準的な組織として定着しているといいます。

図表1:米国企業におけるMOps普及状況
一方、日本でMOpsが注目され始めたのはここ3〜4年のことです。国内での普及は限定的ではあるものの、大手企業を中心に導入が進みつつあり、今後の広がりが期待されています。
MOpsが担う4つの主要業務
MOpsは、マーケティングの再現性を高め、継続的に成果を上げていくために欠かせない役割を担っています。実際の業務は多岐にわたりますが、主なものとしては次の4つが挙げられます。
・マーケティングテクノロジーの管理
マーケティングオートメーション(MA)やCRMなどのツールの選定・導入・運用
・キャンペーン支援とプロセスの自動化
マーケティング施策の実行支援とプロセスの自動化
・データ管理・分析
集約された顧客データの統合・可視化・分析を通じた経営層の意思決定支援
・知見の蓄積とナレッジの共有
施策の成果を記録・体系化し、組織全体の学習と再現性向上につなげる取り組み
これらの業務を通じ、MOpsはマーケティング組織の運営を支えながら成果の最大化に貢献しています。
AIで引き出すインテントデータの可能性
特に近年では、インテントデータを軸にしたAI活用が、MOpsの役割をより高度にするテーマとして注目されています。
取得するデータの量と質を向上させることも重要(データエンリッチメント・インテントツール)
インテントデータを効果的に活用し、MOpsを機能させていくためには、扱うデータの質と量の両面を高めることが不可欠です。米国のMOps担当者を対象とした調査『State of the Marketing Ops Professional Research | Trends for 2025(MarketingOps.com)』では、「データエンリッチメント」と「インテントツールの活用」が今後最も投資したい分野として挙げられています。

図表2: MOps担当者の投資希望先分野
データエンリッチメントとは、既存の顧客データに新たな属性情報を加えることで、顧客理解を深める取り組みです。一方、インテントデータとは、見込み顧客の購買意欲や関心度合いを示す情報を指します。
両者を活用しながら取得するデータの量と質を向上させることにより、ターゲティングの精度やパーソナライズの効果は大きく向上します。
インテントデータを組み合わせ、アプローチの精度を高める
一般的に使用されるインテントデータには以下の種類があります。このほかにも、場合によって、セカンドパーティのインテントデータを保有しているケースもあります。
・ゼロパーティデータ
顧客が自ら提供する情報(アンケート、登録情報など)
・ファーストパーティデータ
自社Webサイト上での行動データ(閲覧履歴、クリック履歴など)
・サードパーティデータ
外部ベンダーが収集・提供する情報(業界メディア、比較サイトでの閲覧データなど)

図表3: インテントデータとは
これらを組み合わせることで、見込み顧客の「今まさに情報収集をしている」「購入を検討している」というシグナルを見逃さずに捉え、精度の高いアプローチにつなげることができます。
ABMにおけるインテントデータの重要性
ABMにおいては、「誰を狙うか」だけでなく、「いつ狙うか」が成果を大きく左右します。適切なタイミングを見極めるために、インテントデータは欠かせない情報源といえます。
近年では、購買に関わる関係者が増え、1人のリードだけでは購買グループ全体の動きを把握するのが難しくなってきました。実際に、関与者が1人増えるだけで購買率が低下するという調査結果もあります。
さらに、購買プロセスの約90%が自社のサイト外で進行しているとされる今、複数のステークホルダーに対して適切なタイミング・適切なメッセージを届けるには、より精緻なインテントデータ活用が求められます。

図表4: ファーストパーティのみでは見えない顧客像
インテントデータを活用することで、個人単位ではなくアカウント全体の動きを把握でき、購買グループ全体に対して最適なアプローチを実施できるでしょう。
インテントデータとAIを活用したQualtrics社のケーススタディ
Qualtrics社は、ファーストパーティデータとサードパーティインテントデータを組み合わせることで、ABM施策の精度を飛躍的に高めました。
同社はABM施策に取り組むなかで、従来型のファネル施策との併用や、手作業によるパーソナライゼーションに限界を感じていました。そこで、施策の精度とスケーラビリティを高めるために、同社はインテントデータとAIの活用に踏み切ります。

図表5:Qualtrics社インテントデータ活用事例
まず、ファーストパーティやゼロパーティのデータに加えて、6senseやBomboraといった外部ツールを活用し、サードパーティのインテントデータを収集。これにより、自社サイトの行動データだけでは捉えきれなかった潜在顧客の動きを可視化し、アプローチ対象を大幅に拡大しました。
さらに、AIを用いて、ターゲットごとに最適化されたLPや広告、メールを自動生成。マーケティング活動の自動化と高度なパーソナライゼーションを同時に実現しています。
これらの施策は、営業やインサイドセールスとの連携、COE(Center of Excellence)設置による全社的な体制整備とともに展開され、単なる施策の実行にとどまらず、Land & Expand型の成長戦略へとつながっています。
MOps業務に広がるAI活用の波
マーケティングオペレーションの現場では、AIの活用が進むことで、業務のあり方そのものが変わり始めています。
AIの活用はコンテンツ生成からプロセスの自動化へ
BtoBマーケティングにおけるAIの活用は、動画やメールといったコンテンツ生成にとどまらず、マーケティングプロセス全体へと広がりを見せています。
これまでMOpsが主導してきたリードスコアリングやプロセスの最適化、予測分析といった業務は、今ではAIで行うのが当たり前になりつつあります。
先進的な企業では、マーケティングの各プロセスにAIを組み込み、業務の効率化と精度向上の両立を実現しています。
ABM施策からアウトバウンド活動までを自動化したCopy.ai社の事例
米国のCopy.ai社は、AIネイティブなマーケティング組織として注目される企業です。同社はABM(アカウントベースドマーケティング)を軸に、従来のファネル型とは異なるアプローチを展開しています。

図表6:Copy.ai社のAI活用事例
具体的には、ターゲットアカウントに関する情報をAIが自動で収集。Web上のアカウント情報や業界動向、所属コンタクトの情報をもとに、自社の提供価値(バリュープロポジション)に合わせたカスタマイズコピーを生成しています。
これにより、LP(ランディングページ)やメール、広告などのコンテンツをターゲットごとに自動生成し、パーソナライズされたアプローチを叶えています。
さらに、リードスコアリングや顧客の購買行動の予測と分析、施策の管理といった、従来のMOps業務もAIが担っており、ABM施策からアウトバウンド活動までの一連のプロセスを自動化しています。
こうした取り組みによって、コンテンツのパーソナライゼーションはかつてないほど高度化され、効率と成果の両立が実現しています。
競争はテックスタックからデータレイヤーへ
AIの活用が一般化するにつれ、企業間での施策の差は小さくなりつつあります。どの企業も一定水準の取り組みが可能になるなかで、マーケティング施策そのものによる差別化は難しくなってきました。
こうした状況では、テクノロジーの導入そのものではなく、「どのようなデータを保有し、どれだけ正確に活用できるか」が競争優位性を左右する要素になります。いわば、競争軸がテックスタックからデータレイヤーへと移行しつつあるのです。

図表7: 競争はデータレイヤーへ移行
この新たな競争環境に対応するには、データを活かせる体制づくりが不可欠です。
そのためには、精度の高いデータを整備し、部門をまたいだ運用体制を構築することが欠かせません。マーケティング部門だけでなく、営業やカスタマーサクセス、その他関連部門も含め、企業全体で一元管理されたデータ環境を整備したうえでAIを活用していくことが今後のスタンダードとなっていくでしょう。
日本企業におけるAI×インテントデータ活用の展望
日本でもAIとインテントデータを活用したマーケティング変革の兆しが見え始めており、今後の発展が期待されています。
国内でのインテントデータ活用の現状と展望
日本では2018年頃からインテントデータが活用され、現在ではSales MarkerやuSonar、ITreviewといった国内ベンダーもサービスを提供しています。特にITreviewのように、比較検討段階での企業の動きを把握できるデータソースの登場により、インテントデータを用いた高度な施策が現実味を帯びてきました。
今後は、インテントデータとAIを組み合わせることで、マーケティング施策の自動化や最適化がさらに進んでいくと考えられます。その実現に向けては、CDPやDWHなどのデータ基盤の整備に加えて、営業やカスタマーサクセスなど他部門との連携体制の構築が欠かせません。
これからのMOpsに求められるもの
今後のMOpsには、単なるツール運用や施策支援ではなく、より戦略的な役割が期待されます。特に、以下の4点はAI×インテントデータの活用を実現するうえで欠かせない視点です。

図表8:今後MOpsに求められること
・データ活用環境の整備
AIやインテントデータを活用するためのCDP、DWHの設計と運用体制構築
・データ分析とガバナンスの強化
BIツールやSQLの活用、データ運用に関するルール整備によるガバナンスの確立
・部門横断の連携体制
営業、CS、製品部門など関係部門と戦略・データを共有する仕組み
・AI活用を前提とした組織変革
人材育成、業務設計、評価基準の見直しなどを含む構造改革
これらに取り組むことで、MOpsはAIとインテントデータ活用を前提とした組織へと進化していけるのです。
競争優位性の鍵は「データ」と「組織力」
AIの活用が当たり前となりつつある今、BtoB企業が競争力を保つためには、「どんなデータを保有し、どう活かすか」、そして「それを支える組織体制を整えられているか」が鍵となります。
テクノロジーの進化とともに、MOpsに求められる役割も確実に変化しています。AIやインテントデータを軸に、データドリブンなマーケティング体制をいかに整備できるか。まさに今、多くの企業にその姿勢が問われています。
パワー・インタラクティブは、マーケティングデータ基盤整備サービスを通じて、お客様が収益への貢献をもとにマーケティング活動を評価し、意思決定するための支援をしています。マーケティング組織をプロフィットセンターへと変革したいと考えている方は、当社サービスの利用をご検討ください。

パワー・インタラクティブ セミナー事務局