コラム

「決裁者が見えない」を解決する——購買グループ可視化でBtoB商談を前進させた実践と成果

【執筆者】嘉山 翔大 | マーケティングコンサルタント

「窓口担当者と毎週話しているのに、なぜか商談が進まない。決裁者が誰かも分からない。気づけば競合にひっくり返されていた」

「購買グループ」という概念は、決して抽象論ではない。私たちパワー・インタラクティブ自身が、まったく同じ壁にぶつかってきた。

本稿では、理論の話ではなく、自社で実際に起きた問題と、それを乗り越えるために取り組んだ実践を率直に語りたい。「購買グループ可視化」がどのように機能し、組織をどう変えたか——BtoBマーケターとしての私たちの実体験を、そのままお伝えする。

私たちが直面した「2つの壁」

パワー・インタラクティブは、エンタープライズ企業を主要ターゲットとする伴走型コンサルティングを事業の核としている。受注はゴールではなくスタート。プロジェクト進行中に様々な関係者が参加し、次の課題・別プロジェクトへと繋がっていく——そういうビジネスモデルだ。

このモデルの特性上、「最初の窓口担当者」の先に広がる組織内の関係者との接点を、いかに網羅的かつ継続的に把握するかが、成長の鍵になる。しかし現実には、2つの深刻な壁が立ちはだかっていた。

壁① 隠れたキーマン情報の取りこぼし
オンラインミーティングに複数の参加者がいても、メールアドレスを取得しにくい。同席した決裁者や担当者の情報がCRMに蓄積されず、アプローチの機会を逃していた。さらに、コンサルタントが手作業でCRMに入力しており、業務のボトルネックが発生していた。

壁② 「案件が読めない」現象
窓口担当者1人とのやり取りしか見えず、先方社内でどんな議論が起きているか把握できない。「熱量は高そうなのに商談が前進しない」「突然トーンが冷めた」——これらはすべて、購買グループの動きが見えていないことから生じていた。

新たな接点が生まれているのに、データとして蓄積されていない状態。そして、窓口担当者1人だけ見ていても、先方社内の動きが見えない状態。——この2つが、私たちの「見えない損失」だった。

打ち手①:接点取得の自動化——Ask One Online Meeting Gatewayの導入

壁①を突破するために導入したのが、『Ask One』Online Meeting Gatewayだ。Web会議URLの発行から、参加者情報の自動取得、Salesforceへの即時連携までを一連のフローで自動化する仕組みだ。

これにより、「オンラインミーティングへの参加」という接点が、属人的な手入力に依存せず、確実にCRMデータとして蓄積されるようになった。オフライン接点をSansanが担い、オンライン接点をAsk Oneが補完する体制が整った。

Step 1
Web会議URL発行
Step 2
Ask One
参加者情報の取得
Step 3
Salesforceへの連携

導入効果:数字が示した「見えていなかった世界」

導入後に現れた数字は、私たちにとって衝撃的だった。

0 → 62件
新規リード登録数(受注クライアント内)
約20%
新規登録リードに占める役職者の割合
0 → 156件
既存リードのラストタッチ把握件数

「受注済みのクライアント」の中だけで、これほどの接点が可視化されていなかった。62名の新規リードのうち約20%が役職者——つまり、キーマンが同席していたにもかかわらず、これまではその存在すら把握できていなかったのだ。

さらに156件の「ラストタッチ把握」は、既存の接点に対して「今、その人がどう動いているか」を読める状態になったことを意味する。これは単なるデータ件数の話ではない。商談の温度感を判断するための、根本的なインテリジェンスの獲得だ。

打ち手②:購買シグナルのAI可視化——「点」から「面」へ

接点データが蓄積されるようになった次の問いは、「そのデータをどう読むか」だ。個人の行動履歴を個別に眺めるだけでは、「アカウント全体として今どういう状態か」は見えてこない。

私たちは、Webアクセスログ・MAデータ・営業履歴(SFA)・顧客情報(CRM)をBigQueryに集約し、Claude(AI)とGAS(Google Apps Script)を活用して購買シグナルの可視化を内製した。非エンジニアが主体となって構築した点も、一つの発見だった。

「個人の点」から「組織の面」への変換——これが私たちの可視化設計の核心だ。一人の行動データではなく、アカウント内の複数メンバーの動きを統合し、「組織としての検討の熱量」を読む。

4つの購買シグナル

このダッシュボードが検知する購買シグナルは、次の4つだ。

🔥
組織熱量 アカウント内の複数メンバーが同時期にアクティブになっている。検討が組織的に広がっているサイン。
休眠覚醒 長期間動きのなかったアカウントやリードが、突然行動を再開した。検討の再燃・担当者交代の可能性。
👤
決裁者の登場 これまでアクセスのなかった上位役職者の行動が検知された。稟議フェーズへの移行を示す最重要シグナル。
🔄
関心軸の変化 閲覧コンテンツのカテゴリが変化した。課題認識フェーズから比較・選定フェーズへの移行を示す。

これらのシグナルは、MAの「開封率」や「クリック率」では決して検知できない。一人の担当者の行動ではなく、アカウント全体の動きのパターンを読むことで初めて浮かび上がる情報だ。

特に「決裁者の登場」は、従来の営業では見落としがちな瞬間だ。担当者とのやり取りに集中していると、決裁者がサイトを閲覧して情報収集している事実に気づかない。このシグナルを検知できるようになったことで、「商談の転換点」を先取りする動きが可能になった。

ラストタッチの再定義

この可視化プロジェクトで重要だったもう一つの論点が、「ラストタッチ」の定義の見直しだ。

従来の定義
ファーストタッチ=どの施策(チャネル)から来たか
ラストタッチ=どの施策がコンバージョンに効いたか
購買グループ分析での再定義
ファーストタッチ=どの施策(チャネル)から来たか
ラストタッチ=「今の動きを読む」ためのアクティブ指標

従来のラストタッチは「過去の施策評価」のための指標だった。私たちはこれを「今、誰が、何に関心を持って動いているか」を読むための現在進行形の指標として再定義した。定例ミーティングごとにラストタッチが更新されることで、アカウントの「今の体温」がリアルタイムで把握できるようになった。

経営層から現場まで——役割に応じた活用が変えたもの

購買シグナルのダッシュボードが価値を発揮したのは、それが「特定の担当者だけが見るツール」ではなく、「経営層から現場まで、同じデータを同じ指標で見る共通基盤」になったからだ。

経営 月次レビューで受注/見込/失注トレンドを把握。パイプ期待値の偏りによるリソース調整。Tier分布の変化で戦略整合性を確認。 営業マネージャー 担当者別のパイプ残高とバランス点検。取りこぼし率の前月比。ホットアカウントのバランス率。 インサイドセールス 朝イチ:コンサル未対応リストから当日コール先を即決。行動履歴+関心軸から温度感を判定。 フィールド / コンサル 訪問前10分:企業分析→トーク→メール下書き。商談関連メンバーでリーチ決裁層を特定。

特にインサイドセールスの変化は大きかった。「今日、誰に連絡するか」という判断が、担当者の経験と勘からデータに裏付けられた判断へと変わった。MQL一覧でホットなリードを把握し、行動履歴と関心軸から温度感を判定する——これが毎朝の日常になった。

インサイドセールスの活用効果:Before/After

課題 Before After
MQL対応の属人化 担当者ごとに判断がバラバラ スコア・方針・行動履歴で統一判断
情報収集・分析の工数 1件あたり手作業で10〜20分 ダッシュボード・AI活用で15分/件の削減
取りこぼし Web行動があっても対応が漏れる コンサル未対応リードを自動検知
バトンタッチ漏れ IS/コンサル間の対応領域が不明瞭 担当を並列表示して境目を可視化
購買グループの可視化 決裁者・影響者が見えない 商談ごとにリードを自動グルーピング化

組織全体の変化:「点」から「面」へ

一連の取り組みを通じて、私たちの組織が最も大きく変わったのは「見え方」ではなく「判断の構造」だった。

Before(可視化前) After(可視化後)
視界・アプローチ 窓口担当者1人(点) 購買グループ全体(面)
提案後の状況把握 ブラックボックス(反応待ち) ファースト/ラストタッチで動きを解読
アクションの基準 営業個人の「経験と勘」 組織としての「検討の動き」に基づく判断
指標の役割 マーケティング施策の評価 購買グループの構造と状態の分析

「営業判断を個人の勘から、データに裏付けられた組織的判断へ」——この変化は、ツールを入れたから起きたのではない。購買グループという視点を持ち、それに合わせてデータ・プロセス・役割を再設計したことで実現した。

実践から得た「3つの転換」——理論を超えて

一連の実践を通じて、私たちが確信したことを3つの転換として整理する。これはパワー・インタラクティブだけの話ではなく、エンタープライズを相手にするすべてのBtoBマーケターに共通する構造的な問いだ。

転換①
ターゲットの転換

「個人リード」から「組織」へ。一人の担当者を追うのではなく、そのアカウント内の購買グループ全体をカバーすることが、起点となる。
転換②
プロセスの転換

「リレー型」から「並行型」へ。マーケはトスアップで終わらない。商談フェーズ以降も、購買グループの空白メンバーへのアプローチを継続する。
転換③
武器の転換

「見えない決裁者」の可視化へ。購買シグナルを検知し、組織熱量・休眠覚醒・決裁者の登場・関心軸の変化を読む。これが「先手」を打つための武器になる。

中でも「リレー型から並行型へ」というプロセスの転換は、マーケと営業の関係性そのものを変える。「マーケティングと営業が分断される時代は終焉。両者が全フェーズで顧客に寄り添う」——これは理想論ではなく、購買グループ可視化が実現する構造的な変化だ。

私たちの実践をサービスとして提供する

私たちがこの一連の取り組みで学んだことは、再現可能なメソッドとして体系化できる。自社の実体験をもとに、「購買グループ可視化」を支援するサービスを提供している。

STEP1
接点取得・即時連携

AskOneを活用し、展示会・受付・ヒアリング・オンラインMTG・商談前後の入力情報をデジタル化。CRM/SFA/MAへ即時連携し、抜け漏れや属人化を防止する。
STEP2
購買グループ可視化

統合したデータをもとに「購買グループ可視化ダッシュボード」を構築。組織熱量・休眠覚醒・決裁者の登場・関心軸の変化を定量的に把握する。
STEP3
次アクション実行

「誰が関わっているか」「今どの段階か」「次に誰に何をすべきか」を判断し、営業・マーケ・インサイドセールスの最適アクションへ接続する。

支援の入り口となるのが、4週間の診断プログラムだ。Week 1でキックオフ・情報収集、Week 2でヒアリング・現状分析、Week 3でシグナル設計・構想整理、Week 4でロードマップ報告と次段への合意形成を行う。「まず現状を整理したい」という段階から着手できるよう設計している。

おわりに:理論から実践へ

本稿の要点を整理する。

① オンライン接点の自動取得による隠れたキーマンの可視化
Ask Oneによるオンライン接点の自動取得により、「見えていなかったキーマン」が可視化された。結果として、受注クライアント内だけで新規リード62件・ラストタッチ156件が蓄積された。

② 購買シグナル可視化による「組織の面」への転換
BigQuery × Claude × GASによる購買シグナル可視化で、「個人の点」から「組織の面」への転換が実現した。組織熱量・休眠覚醒・決裁者の登場・関心軸の変化の4シグナルが、先手を打つための強力な武器になった。

③ データの共通化による組織的な意思決定への進化
経営から現場まで同じデータ・同じ指標を見ることで、「属人的な勘」から「データに裏付けられた組織的判断」へシフトした。結果として、組織全体の意思決定の質が大きく変わった。

④ エンタープライズBtoBに共通する3つの構造的転換
ターゲット(個人→組織)・プロセス(リレー→並行)・武器(不可視→可視化)という3つの転換。これらは、エンタープライズBtoBに取り組むすべての組織に共通する構造的な問いだ。

私たちは今も、この仕組みを改善し続けている。完璧な状態で始めたのではなく、課題に直面するたびに設計を見直してきた。重要なのは「完璧なシステムを待つこと」ではなく、「最初の一歩を踏み出すこと」だ。
「購買グループが可視化されると、何が変わるのか」——この問いへの答えは、私たちの実体験が証明している。

購買グループ可視化に関心をお持ちの方へ
パワー・インタラクティブでは、本コラムで紹介した「接点取得の自動化」「購買シグナルAI可視化」「次アクション設計」を一体で支援しています。4週間の診断プログラムから始められます。自社の課題に照らして話を聞いてみたいという方は、お気軽にご相談ください。
▶ 無料相談・お問い合わせはこちら https://pages.powerweb.co.jp/consultant.html

嘉山 翔大

マーケティングコンサルタント

嘉山 翔大

マーケティングオートメーション活用支援

事業会社でインサイドセールス、Adobe Marketo Engageの導入・定着・オペレーションを経験した後、パワー・インタラクティブに入社。BtoB企業を中心に、マーケティング戦略設計から施策の実行まで幅広くサポート。実務経験を生かしユーザー視点を持った顧客のニーズに応じた支援を行う。

TOP