コラム

機械・FA・産業機器メーカーの展示会データ活用|設備更新のタイミングを捉え、長期案件を商談につなげる

執筆:マーケティングコンサルタント 久道 真之介

機械・FA(Factory Automation:工場の生産工程を自動化・効率化する仕組み)・産業機器メーカーにとって、展示会は重要な顧客接点のひとつです。設備の自動化、省人化、生産性向上、品質改善などの課題を持つ生産技術や製造部門の担当者と、具体的なテーマについて直接会話できる機会でもあります。

一方で、「展示会では多くの相談があったが、すぐに商談になる案件は少なかった」「興味を持ってもらったものの、その後の導入時期が分からずフォローが途切れた」といった課題も起こりやすい領域です。

その背景には、機械やFA、産業機器ならではの長い検討プロセスがあります。展示会で製品に強い関心を示したとしても、すぐに設備投資が決まるとは限りません。既存設備の更新時期、生産ラインの改修計画、予算化、工場内の優先順位など、さまざまな条件が整って初めて具体的な導入検討へ進みます。そのため展示会で把握すべきなのは、単に「製品に興味があるか」ではなく、「どの工程に課題があるのか」「何を改善したいのか」「いつ設備投資を考えているのか」までのデータです。

さらに、設備導入には、生産技術や製造担当者だけでなく、保全、品質、調達、情報システム、工場責任者など複数の関係者が関わる場合があります。こうした購買・投資の意思決定に関与する関係者群を Buying Group と呼びます(Buying Group の基本的な考え方は、本連載の第1回「電子・電気・半導体メーカーの展示会データ活用」で詳しく紹介しています)。そこで、個人リードだけではなく、案件とBuying Groupを組み合わせてアカウント全体を見る視点も必要になります。

本記事では、展示会で取得すべきデータから、設備更新・導入タイミングの把握、Buying Groupの可視化、長期案件の進捗を測るKPIまで、機械・FA・産業機器メーカーにおける展示会データ活用について考えます。

「製品に興味あり」だけでは、設備投資の可能性は分からない

展示会では、「ロボットに興味あり」「画像検査装置を検討」「自動化設備に関心あり」といった情報を取得することがあります。もちろん、こうした製品への関心も出発点になります。

しかし、機械・FA・産業機器の場合、同じ製品に興味を示していても、顧客の背景は大きく異なります。

たとえば、「人手不足を背景に組立工程を自動化したい」「既存設備が老朽化しており、次年度に更新を検討している」「不良率を下げるために検査工程を見直したい」「新工場の立ち上げに合わせて設備を選定している」といったケースがあります。

展示会で残っている情報が「製品Aに興味あり」だけであれば、その後の営業担当者は、なぜ関心を持ったのか、いつ具体的な設備投資が起こりそうなのかまで把握できません。その結果、展示会後にカタログを送付し、その後は「何かございましたらご連絡ください」で終わってしまうこともあります。

機械・FA・産業機器メーカーの展示会では、製品への関心ではなく、「設備課題」と「導入・更新の背景」まで取得することが重要です。

機械・FA・産業機器メーカーが展示会で取得したい情報

展示会で取得したい情報は、大きく「関心製品・設備」「対象工程・用途」「設備課題」「導入・更新時期」「検討ステージ」「本人の役割」に整理できます。

(図表1)展示会で取得・整理したい主なデータ

特に重要なのが、対象工程・設備課題と導入・更新時期です。
たとえば、「画像検査装置に興味がある」という情報だけでなく、「目視検査の人員不足を背景に、来年度のライン改修に合わせて画像検査の自動化を検討している」まで分かれば、その後のフォローは大きく変わります。

類似工程の導入事例を案内する、現場条件を確認する、デモやテストを提案する、来年度の予算化に合わせて営業から再度アプローチするなど、顧客の設備投資計画に沿ったコミュニケーションが可能になります。

「HOT・WARM・COLD」だけでは、設備投資の時期が読めない

展示会後のリード管理では、「すぐに見積もりが必要」「半年以内に導入予定」といった顧客を優先することがあります。この判断自体は合理的ですが、機械・FA・産業機器では、短期案件だけを追うと有望な将来案件を取りこぼす可能性があります。

たとえば、展示会で担当者から「導入は来年度以降です」と言われたとします。現在の商談確度だけで見れば、優先順位は低いかもしれません。

しかし、その背景が「既存設備が老朽化しており、次年度の定期更新で入れ替える」「新工場の稼働に合わせて設備導入を予定している」といったものであれば、数カ月後には有望案件になる可能性があります。

逆に、「すぐに情報が欲しい」という来場者でも、単なる市場調査や競合比較であり、具体的な投資計画が存在しない場合もあります。

したがって、機械・FA・産業機器の展示会では、単純なHOT・WARM・COLDだけでなく、設備投資が発生する「トリガー」と「時期」を把握することが重要になります。

「導入予定時期」だけでなく、案件ステージを見る

設備投資を管理する場合、「導入予定はいつか」だけを聞くケースがあります。しかし、同じ「来年度導入予定」であっても、案件の現在地によって商談化の可能性は異なります。

そこで、設備投資案件をひとつの長いプロセスとして捉え、現在どのステージにいるのかを継続的に更新することが求められます。

(図表2)展示会を起点に設備投資案件の「現在地」を追う

展示会(情報収集) → 構想・課題整理 → 仕様検討 → デモ・テスト → 予算化・稟議 → 導入

展示会で対象工程や設備課題を把握した後、構想・課題整理、仕様検討、デモ・テスト、予算化・稟議を経て導入へと進みます。各ステップで、導入時期だけでなく、案件ステージや関与部門を更新していくことがポイントです。

たとえば、同じ「来年度導入予定」でも、まだ構想段階なのか、すでに仕様検討まで進んでいるのかでは、営業が取るべきアクションは異なります。

情報収集や構想段階であれば、事例や課題解決の考え方を提供する。仕様検討段階であれば、技術担当者を交えて要件や現場条件を整理する。デモ・テスト段階であれば、評価条件や検証結果を管理する。予算化段階であれば、導入効果や費用対効果を整理する、といった形です。

「いつ導入するか」と「現在どのステージにいるか」をセットで管理することが、長期案件を追ううえでのポイントです。

展示会後の行動から、設備投資のシグナルを捉える

展示会当日の会話だけで、案件の可能性をすべて判断する必要はありません。展示会後の行動にも、顧客の検討状況を示すシグナルがあります。

たとえば、製品仕様書をダウンロードする、導入事例を閲覧する、CADデータを確認する、デモを依頼する、現場診断を申し込む、技術相談を行う、見積もりを依頼するといった行動です。

展示会で「搬送工程の省人化を検討している」と聞いていた企業が、その後、自動搬送設備の事例を閲覧し、さらにデモ依頼を行ったのであれば、案件が一段進んだ可能性があります。

こうした行動を単純な個人スコアとして見るだけでなく、設備投資テーマが具体化しているシグナルとして、展示会時のヒアリング情報と組み合わせることが重要です。

個人ではなく「設備投資テーマ」を中心に見る

機械・FA・産業機器の案件では、展示会で接点を持った一人の担当者だけを追っても、設備導入の全体像が見えないことがあります。

たとえば、展示会では生産技術担当者と接点を持ち、その担当者が設備の技術仕様を検討していたとしても、その後には製造現場、保全、品質、調達、情報システム、工場責任者などが関与する可能性があります。

そのため展示会データを、「個人 × 関心製品」だけでなく、「アカウント × 設備投資テーマ × 関係者」へ広げることが求められます。

たとえば、「A社の生産技術担当者がロボットに興味あり」だけではなく、次のように整理します。

アカウント:A社
設備投資テーマ:組立工程の自動化
背景課題:人手不足・生産性向上
関心設備:協働ロボット
導入予定:来年度
現在のステージ:構想・候補探索
接点あり:生産技術
未接点:製造、保全、調達、工場責任者

ここまで整理できれば、営業が次に取るべき行動も明確になります。

Buying Groupで「設備導入に必要な関係者」を可視化する

こうした複数の関係者をBuying Groupとして捉えます。

機械・FA・産業機器では、案件によって異なりますが、生産技術、製造、保全、品質、調達、情報システム、工場責任者などが関与する可能性があります。

ポイントは、すべての案件に同じ役割を当てはめることではありません。自社商材の設備導入に、通常どの部門・役割が関与するのかをあらかじめ整理しておくことです。

たとえば、生産技術とは具体的な仕様検討を進めていても、実際に設備を運用する製造部門との合意が取れていなければ、案件が止まる可能性があります。設備をネットワークにつなぐ場合には、情報システムやOT(Operational Technology:工場の設備・制御システムを支える技術領域)関連部門との調整が必要になることもあります。技術的な評価が終わっていても、投資承認を行う工場責任者や調達との接点が不足していれば、導入まで進まないかもしれません。

また、商社や販売代理店、システムインテグレータ(SI)を経由して導入が進む案件では、これらのパートナーが工場側の窓口を持っていることもあります。Buying Groupを整理するときは、自社が直接持っている接点だけでなく、パートナー経由の接点も含めて確認します。

Buying Groupを見ることで、「誰が興味を持っているか」から、「設備投資を進めるために誰との接点が足りないか」へ視点を変えることができます。

展示会後は「誰にフォローするか」から「案件がどこで止まっているか」へ

機械・FA・産業機器メーカーの展示会フォローでは、すべてのリードに同じメールを送り続けるよりも、案件の現在地に応じてアクションを変える方が有効です。

たとえば、A社は来年度のライン更新に向け、すでに仕様検討へ進んでいる。B社は自動化に興味を持っているものの、具体的な対象工程が決まっていない。C社は技術評価を終えているものの、設備投資の予算化ができていない、とします。

同じ「展示会で関心あり」というリードでも、次の打ち手は異なります。

A社には、技術担当者と要件を具体化して見積・検証へ進める。B社には、現場課題を整理するためのヒアリングや事例を提供する。C社には、導入効果や投資対効果を整理し、次回の予算化タイミングを確認する。

展示会フォローでは、「何回連絡したか」ではなく、「案件がどのステージで止まっているか」を把握することが重要です。

展示会当日にすべての情報を取得する必要はない

設備課題、導入時期、予算化状況、Buying Groupまで把握したいとなると、展示会アンケートの質問項目を増やしたくなるかもしれません。しかし、すべてを展示会当日に確認する必要はありません。

展示会ではまず、関心設備、対象工程、設備課題、導入・更新の目安、本人の役割など、案件の入口となる情報を取得します。

その後、営業が把握している商談・予算情報、技術担当者が持つ仕様・評価情報、サービス・保全部門が持つ既存設備情報、商社・代理店やSIが持つ工場側の接点情報、MAやWebサイト上の行動データなどを組み合わせていきます。

押さえておきたいのは、展示会で顧客情報を完成させることではなく、展示会を設備投資案件の情報を蓄積し始める起点にすることです。

営業に渡すのは「名刺」ではなく「設備投資案件の現在地」

展示会後の営業連携も、単なるリード情報から一段深めることができます。

従来であれば、

「A社○○様。協働ロボットに興味あり」

だったものを、

「A社の組立工程自動化案件。人手不足と生産性向上が課題。来年度のライン改修を想定しており、現在は候補設備の探索段階。展示会後に導入事例を閲覧。生産技術とは接点あり。製造、保全、調達、工場責任者は未接点」

という形で共有します。

営業担当者が知りたいのは、「この人が何に興味を持ったか」だけではありません。「どの設備投資テーマが動いていて、いつ頃動き、現在どこまで進み、次に何をすべきか」です。

展示会情報、行動データ、Buying Groupを組み合わせることで、営業に設備投資案件の現在地を渡せるようになります。

展示会KPIも「フォロー件数」ではなく、設備投資案件がどこまで前進したかを見る

機械・FA・産業機器メーカーでは、名刺獲得数、営業フォロー件数、デモ件数、見積件数などを展示会KPIとして管理することがあります。これらも必要な指標ですが、活動量だけでは重点アカウントの設備投資がどこまで進んだのかは分かりません。

見たいのは、「何件フォローしたか」ではなく、「設備投資案件を次のステージへ何件進められたか」です。

(図表3)設備投資案件の状態に応じてKPIと次の打ち手を変える

このように、KPIを案件の状態と結びつけると、数字を見る目的が「展示会結果の報告」から「次の打ち手を決めるための診断」へ変わります。

たとえば、「展示会後に100件営業フォローした」という実績だけでは十分ではありません。「重点アカウント20社のうち、設備課題を把握できた企業が15社、導入時期まで確認できた企業が10社、仕様検討へ進んだ案件が6件、予算化へ進んだ案件が3件」と見れば、どこで案件が停滞しているのかを判断できます。

展示会KPIを3つのレイヤーで捉える

展示会全体のKPIは、3つのレイヤーに分けて考えると整理しやすくなります。

1.活動・獲得のKPI 来場者数、名刺獲得数、技術相談数、デモ依頼数、営業フォロー数など、展示会を起点に発生した活動量を測ります。

2.案件・アカウント進捗のKPI 設備課題・用途把握率、導入・更新時期把握率、案件化率、仕様検討移行率、Buying Group充足率、重点アカウント内の接点人数・接点部署数など、設備投資案件がどこまで具体化したかを測ります。

3.ビジネス進捗のKPI 予算化移行率、有効商談化率、案件ステージ進行率、受注、パイプラインなど、事業成果につながる動きを測ります。

重要なのは、1の活動量だけで展示会を評価しないことです。活動・獲得 → 案件の具体化 → Buying Groupへの接点拡大 → 予算化・商談 → 受注までつなげて見ることで、展示会が設備投資案件をどこまで前進させたかを評価できるようになります。

まずは重点アカウント3〜5社の設備投資テーマを可視化する

すべての展示会リードを最初から詳細に管理する必要はありません。まずは、展示会で具体的な設備課題や更新計画が確認できた重点アカウントを3〜5社程度選び、設備投資テーマを可視化するところから始める方法があります。

1.重点アカウントを選定する
2.対象工程・設備課題を整理する
3.導入・更新時期と現在の検討ステージを確認する
4.接点のある人物を部署・役割別に整理する
5.Buying Groupで不足している関係者を確認する(パートナー経由の接点も含める)
6.営業・マーケティング・技術部門で次のアクションを決める
7.案件ステージと接点状況を定期的に確認する

このプロセスを実際の案件で回すことで、「展示会で何を聞いておくべきか」「CRMにどのような情報を持つべきか」「営業・技術部門と何を共有するべきか」が見えてきます。

最初から大規模なシステムを構築するのではなく、重点案件で運用を試し、必要なデータやKPIを整理しながら対象を広げていく方が現実的でしょう。

まとめ:展示会データを「製品への興味」から「設備投資のタイミング」へ広げる

機械・FA・産業機器メーカーの展示会データ活用では、まず、対象工程、設備課題、導入・更新時期、検討ステージといった情報を取得することから始めます。

展示会時点で「今すぐ導入」ではなかったとしても、設備更新、新ライン立ち上げ、人手不足、老朽化など、将来の設備投資につながる明確な背景があれば、有望な案件になる可能性があります。

さらに、設備投資が具体化していく過程では、生産技術だけでなく、製造、保全、品質、調達、工場責任者など複数の関係者へ視点を広げていく必要があります。

つまり、データを見る範囲を、個人リード → 設備課題・投資テーマ → 導入・更新時期 → Buying Group → 予算化・商談 → 受注へ広げていくということです。

機械・FA・産業機器メーカーの展示会データ活用で目指したいのは、「展示会で何件リードを獲得したか」だけではなく、「将来の設備投資案件をどれだけ早く発見し、適切なタイミングで前進させられたか」を把握することです。

展示会を単なるリード獲得の場として終わらせず、設備更新や生産改革のタイミングを捉える起点にする。そのために、展示会で取得する情報、その後の行動データ、Buying Group、案件ステージ、KPIまでを一体で設計することが、機械・FA・産業機器メーカーにおける展示会データ活用を一段進めるポイントです。

久道 真之介

EM部 部長

久道 真之介

マーケティング戦略策定

通信会社で法人向けの営業を8年経験。その後起業を経験し、2010年にパワー・インタラクティブに入社。Webサイト制作のディレクションからリスティングの運用、アクセスログの分析など現場での業務を経験し、現在はマーケティングコンサルタントとして、BtoB・BtoCのデジタルマーケティングの戦略立案から伴走支援までを行う。

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