コラム

マーケティング・ダッシュボード 7つの構築ポイント

事業開発顧問/マーケティングコンサルタント 中嶋 正生【文責】

ダッシュボードはデータを活用し、効率的にPDCAを回すしくみづくりの一環を担います。しかし闇雲にデータを取得し可視化しても、意味がありません。今回は「マーケティング・ダッシュボード」を構築するポイントを7つにまとめました。

マーケティング・ダッシュボードとは?

わたしたちはマーケティング・ダッシュボードを、データドリブン・マーケティングを実現する手段と位置づけています。FACTデータを直観的に表現し、ボトルネックを浮き彫りにすることで、実施すべきマーケティング施策を立案でき、ゴールまでの道標となるのがマーケティング・ダッシュボードであると考えます。

どこから手を付けるべきか

今あるデータを使って、先ずは可視化して、現時点のデータを客観的に観ることが大事です。データが正しく入っていないのであれば、入力時のルールを作り、これを徹底し、時間をかけて浸透させる必要があります。データが正規化されていなければ、クレジングする必要があります。マイルストーンを設定して、計画的にクレンジングしましょう。上流(データ)が汚れていては、下流でいくら仕掛け(施策)をしても無駄です。データのクレンジングは毎日行う必要があります。毎日できなれば、定期的にメンテナンスすることをお薦めします。

どんなダッシュボードから作成すべきか

マーケティングに携わる立場によって求められる「見える化」のレベルが異なります。わたしたちは、これを「見える化の深度」と形容しています(図表1参照)。責任者であれば、全体を俯瞰した数字の把握が必要です。マネージャーであれば、施策ごとにデータを注視しなければなりません。また、担当者であれば、施策単位で、毎日、数字のモニタリングが求められます。つまり、受け手が求めるものを提供しないと効果的なダッシュボードにならないということです。

図表1:立場による見える化のレベル

例)

優先度 立場 見える化の深度 ダッシュボード
1 責任者(CMO) 観える化(全体を俯瞰して見る) マーケティング活動全体を俯瞰するレポート
2 管理者(マネージャー) 視える化(注意深く見る) 施策毎に評価するレポート
3 担当者 診える化(細部まで見る) 施策単位で毎日モニタリングするレポート

ダッシュボードを構築する順番としては、マーケティング全体の数字を把握することを目的とした、ダッシュボード(全体俯瞰)を構築し、次に、マーケティング施策による効果測定ができるようなダッシュボード(セグメント別売上推移、ステージ別売上推移)を構築します。最後に、ボトルネックを解消するための目的別のダッシュボード(インサイドセールス、セミナー、ABM、etc.)を構築することをお薦めします。可視化することでボトルネックが浮き彫りになり、マーケティング施策の打ち手のスピードがあがります。

誰のためのダッシュボードなのか

誰が、いつ、どれぐらいの頻度で、どんなシーンで、ダッシュボードを利用するのかを予め決める必要があります。また、同時に、比較するデータ(昨対、目標値、etc.)があれば、揃えておきます。

図表2:ダッシュボード別役割一覧

名称 利用者 目的 利用シーン 評価軸
全体俯瞰 マーケティング部責任者 / マネージャー 全体のマーケティング施策を俯瞰して観る 定例ミーティングでの報告 目標値×実数×達成率
ABM 営業マネージャー / 営業担当 企業単位での接触状況や深耕度を把握する 営業&マーケティング戦略会議 / 営業全体会議 深耕率×接触率
インサイドセールス インサイドセールスマネージャー / 担当 ターゲット企業にコンタクトして商談を進める インサイドセールスが架電する前のルーティン業務 属性×行動履歴×スコア

ダッシュボードを作っても、現場が使ってくれなければ意味がありません。自発的かつ、協力的な部門ないし個人に協力をあおぎ、アドバイザーとしてプロジェクトに参画してもらい、味方になってもらいましょう。ダッシュボードを実際につくるまえに、画面レイアウトを作成し、プロジェクトメンバー全員でまずは「イメージ」を共有します。

データをどう集めるか

断片的でも良いので、ExcelやGoogleスプレッドシートに、見たいデータを集約して、無償の可視化ツール(Googleデータポータル、PowerBI)などで実際にダッシュボードを構築し、プロトタイプとして、プロジェクトメンバーにみてもらい、意見を集約します。

コンセンサスが得られたら、データの集約をどうやって実現するか、また、どうやって自動化するかを検討します。この自動化の作業が、難題極まりないのですが、SQLの知識がなくても、データのクレンジングやデータの結合、および、データの変換をしてくれる便利なツールがETL(Extract Transfer Lording)です。ETLツールを利用することで、飛躍的にデータ集約の工数を削減することができます。目的(データソースの拡張性、データ転送の効率性、スケジューリング機能、etc.)に応じて、最適なETLを選びます。データ集約に関しては、技術的にもハードルが高いです。自社で対応が難しい場合には、外部のシステム開発会社やETLベンダーに協力を仰ぐことも検討しましょう。

分析用のデータマートは必要なのか

見たいデータが社内外のあちらこちらに散在しているというケースはよくあります。これらデータを可視化ツール上で統合することも可能ですが、わたしたちは、分析用に特化したデータマートを構築することを推奨しています。散在するデータを1つのテーブルに集約できれば、多少の表現は違うにせよ、どんなツールを使っても簡単に可視化することができ、可視化ツールへの依存度が低くなります。また、マーケッターならば、データの加工に時間をさくより、データの切り口(軸、セグメント、etc.)にフォーカスすべきだと考えます。

ガイドラインは必要なのか

ダッシュボードを作成する場合の画面レイアウトの標準規格(ガイドライン)を策定することをお薦めします。ガイドラインを明確化することで、誰が実装しても、ある程度の品質を担保でき、また、作業効率も格段に向上します。

まとめ

マーケティング・ダッシュボードでどのぐらい売上が伸びるのか、という上司に対して、どのように説得すればいいか。「見える化」だけしても、売上は伸びません。わたしたちが考える、マーケティング・ダッシュボードの効果とは、次の3つです。

(1)マーケティング施策の効果測定ができます。

社内外に散在するデータを自動収集し、分析用のデータを蓄積するしくみを構築し、マーケティングのプロセスを可視化することで、スピーディーにマーケティング施策のPDCAを回すことが出来ます。

(2)レポート作成業務が限りなくゼロになります。

マーケティング担当者を煩雑な報告書の作成業務から解放することで、本来の業務であるマーケティング施策の立案に割り当てる時間を確保することが容易になります。

(3)組織をより活性化することができます。

ダッシュボードの活用により、リアルタイムで結果を数字で示し、意思決定の精度を高め、ブレをなくすことで組織をドライブすることができます。

また、ダッシュボードを定着させるためには、目標設定→現状把握→課題発見→施策立案のサイクルを日々のルーティン業務に落とし込みことが重要です。

考えてばかりで、手を動かさなければ何もはじまりません。まずは、自社に今、存在するデータで、ダッシュボードを構築してみましょう。

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