遺伝子異常で男性も乳がんに。アストラゼネカが患者のBRCA遺伝子検査への不安を対話型人工知能WEBアプリ「ブルーカ」でサポート!

近年、製薬業界で盛んに謳われるようになったPatient Centricity。「患者中心」を意味する概念です。患者中心の医療を実現する活動が注目される背景には、分子標的薬といった特定の遺伝子異常をターゲットとした薬や患者数は少ないが高額な希少疾患に対する薬など、創薬のあり方が変化してきたことで、患者一人ひとりのニーズに耳を傾けることが重要視されるようになったことが挙げられます。

つい最近バブルガムブラザーズのブラザー・コーン氏が乳がんを公表したことで、男性も乳がんになることが広く知られることとなりましたが、男性乳がんを引き起こす主な原因として考えられるのがBRCA1/2という遺伝子の異常です。遺伝性乳がんの約6割がBRCA1/2遺伝子の異常とされています。

BRCA遺伝子異常が陽性であるか否かは遺伝子検査で調べることができますが、結果が家族にも影響する遺伝子検査への患者の不安は大きく、また遺伝子検査後のフォローアップ体制も整っていないのが日本の現状です。そこで登場したのが、アストラゼネカが開発した対話型人工知能WEBアプリ「ブルーカ」。AIゆるキャラのブルーカが患者さんのBRCA検査への不安に対話で答えるというものです。

乳がんを遺伝子レベルで理解するための基礎知識とともに、Patient Centricityの好事例ともいえるブルーカをご紹介します。

乳がんの基本と遺伝性乳がん

乳がんは日本人の9人に1人が罹患し、女性のがんでは罹患数が最も多いがんです。比較的若い女性が罹患するため、40代以降から増加し、閉経後の60歳台前半で再びピークを迎える傾向があります。遺伝性乳がんの場合には、比較的若い年齢での罹患が多く見られます。若い女性に多いイメージもありますが、実際は50代以上が3/4を占め、60代〜70代の患者も多いがんです。自分で発見できることが特徴で、早期発見で、手術や抗がん剤を使わないやさしい治療の可能性が高まります。乳がんの治療の歴史は、手術で拡大切除する方向から手術箇所を縮小・温存する方向へ、さらには機能・整容性を重んじる方向へと進歩が目覚ましく、乳がんをきっかけに以前よりもきれいな乳房、患者本人の満足する乳房を再建し、前向きな人生を歩んでもらおうというポジティブな治療の流れも生まれています。10年後には、患者さんによっては一層手術が不要になってくると考えられます。

現在、日本で承認されている乳がんの薬は35種類程度あります。 乳がんの種類は大きくは、ホルモン受容体が陽性か陰性か、HER2が陽性か陰性かの4通りにわかれます。

図表1:サブタイプ/諸因子と薬物療法選択

<出典:乳がんを遺伝子レベルで理解することの重要性~遺伝性乳がん治療における課題とは~|アストラゼネカ株式会社主催メディアセミナー>

HER2は陽性か陰性かだけでなく、中間の低発現もわかってきており、PDL-1、BRCA遺伝子といった項目も含めると、4通りは14通りとなり、その中から乳がんのタイプに合わせて35種類の薬が使いわけられるようになってきました。効かない薬は使わず、効果のある薬を選択し、薬の副作用を眼科や皮膚科など科を超えて連携してマネジメントしていくこと。病気だけでなく、生活、仕事、お金も含めた患者全体を多職種でみていくこと。こうしたPatient Centricity、患者中心の医療の中に、遺伝子検査も含まれています。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは

アンジェリーナ・ジョリーが乳房と卵巣卵管を予防的切除したことで世界中に知られることになったのが、BRCA1/2遺伝子を原因とする遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)です。遺伝性の乳がんのうち約6 割がBRCA1/2 遺伝子の異常によるものとされています。日本人の乳がんにおける遺伝子異常のグラフからもBRCA1/2 遺伝子の異常が多くを占めること、また遺伝子異常のある患者では若年で乳がんを発症しやすいことがわかります。

図表2:日本人乳がん7,051人における遺伝子異常

<出典:乳がんを遺伝子レベルで理解することの重要性~遺伝性乳がん治療における課題とは~|アストラゼネカ株式会社主催メディアセミナー>

以下は、HBOCの女性の乳がん・卵巣がん発症リスクを示したグラフです。

図表3:乳がん・卵巣がんの発症リスク

<出典:乳がんを遺伝子レベルで理解することの重要性~遺伝性乳がん治療における課題とは~|アストラゼネカ株式会社主催メディアセミナー>

男性では前立腺がんの発症リスクを高めます。また男性で乳がんを発症する原因となります。他にも男女ともに膵臓がんの発症リスクでもあります。若くしてがんになるだけでなく、再発や複数のがんを罹患しやすいといったHBOCならではの特徴があります。

HBOCとBRCA1/2遺伝子検査

HBOCは、BRCA1/2遺伝子検査で診断することができます。また、BRCA1/2遺伝子検査ではPARP阻害薬の適応を決めるためのコンパニオン診断が可能です。下記の条件のいずれかに当てはまれば、保険適用となります。

・45歳以下の発症
・60歳以下のトリプルネガティブ乳がん
・2個以上の原発乳がん発症
・第3度近親者内に乳がん、卵巣がん、または膵臓がん発症者がいる
・男性乳がん
・近親者にBRCA1/2遺伝子変異がある

乳がんと診断されていなくても保険適用

・卵巣がん、卵管がんあるいは腹膜がんのいずれかを発症

また、治療薬の選択を目的としたBRCA1/2遺伝子検査ではPARP阻害薬の適応を決めるためのコンパニオン診断として検査を受ける場合にも保険適用が可能となります。

2020年4月からは、BRCA1/2遺伝子検査によって陽性と認められた乳がんあるいは卵巣がん患者が、再発するリスクや新たながんを発症するリスクを低減するために行う乳房切除術、乳房再建術およびリスク低減卵管卵巣摘出術も保険適用となり、BRCA1/2遺伝子検査の意義は高まっています。

BRCA1/2遺伝子検査の課題

HBOCの的確な診断や治療、将来のリスク軽減、ひいては患者のQOL向上に役立つBRCA1/2遺伝子検査ですが、子どもから孫へと家族にも影響する遺伝子情報が判明する遺伝子検査は、社会的な不利益を受ける可能性も否定できず、患者の不安が大きいのも事実です。欧米と比較し、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーの数が少なく、患者の安心納得が得られる説明やフォローアップを提供できる施設が少ないという現状もあります。

BRCA1/2検査が受けられる認定施設は、一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)のHPで確認できます。九州や北海道では3施設、四国2施設と数が少なく、地域差があることも課題です。

参考:認定施設一覧|JOHBOC

アストラゼネカの対話型人工知能WEBアプリ「ブルーカ」がチャットでサポート

「‘わかりましたか?’と聞くと患者さんは‘はい’と答えるので医療者は安心してしまいますが、本当はわかっていないことが多い。‘困っていることはありますか?’と聞いても‘大丈夫です’と返ってくる。患者さんから「大丈夫です」が出てきたときは、まず大丈夫ではないと考えたほうがいい」と語るのは、「情熱大陸」やNHK「きょうの健康」などへのTV出演でも知られる相良病院院長の大野真司先生。

「乳がん患者さんは治療を受ける過程で、乳房を切除するのか、全摘の場合再建をするのか、手術と抗がん剤どちらを先にするのか、妊孕性温存はするのかと、BRCA1/2遺伝子検査以外にも数多くの意思決定を迫られます。説明書はBRCA1/2遺伝子検査だけでも3枚、もしガイドラインまで読むならば膨大な量の情報を理解しなくてはなりません。診察室では説明に十分な時間を取ることはできず、患者さんが十分に理解することは難しい」(大野先生)

「遺伝子検査をした後のフォロー、サポートがあってこその医療」と、大野先生はアストラゼネカの対話型人工知能(AI)WEBアプリ「ブルーカ」の開発に携わりました。

患者さんのBRCA1/2検査やHBOCへの理解を促す「ブルーカ」の機能

「ブルーカ」では、大野先生を始めとする複数の医師による60名の患者との遺伝子カウンセリングにおける会話を解析し、AIに学習させることで生まれたゆるキャラのブルーカがチャットで患者をサポートします。

解析から得られた、「知りたいことの傾向(よくある質問)」「患者さんは恐れ・悲しみの感情が強い」「患者さん自身が質問を考えることは困難」という3つの知見を基に、ブルーカには3つの機能が搭載されています。

ブルーカの機能①
実際に医療現場で感謝さんがした質問とその回答データを基に回答。

ブルーカの機能②
患者さんの質問に共感を示し、ブルーカの色味や表情を変えて回答。

ブルーカの機能③
患者さんの“沈黙”を察知し、ブルーカに集積されている“よくある質問”を患者さんへ例示。

AIアプリ「ブルーカ」に質問してみました

「ブルーカ」は、BRCA1/2検査やHBOCの基本的な知識がない場合はブルーカの提示する質問に答える形で順に理解を深めていくこともできれば、ある程度知識があり知りたいことがある場合はダイレクトに聞きたい質問をすることもできます。一度で理解ができなくても、繰り返し聞くことも可能です。患者本人のスピードで、しっかりと理解できるよう設計されています。

試しに、「家族への影響が心配です」と質問にならない声かけをしてみると、「質問を貰っているのは“BRCA遺伝子の病的バリアントが伝わるのは子どもまでの話ですよね?で良かったかな?」と、ブルーカが質問の意図を汲み取ってくれました。「はい」と答えると、「子どもまでとは限らないよ。もしあなたがBRCA遺伝子に病的バリアントを保持している場合、孫やひ孫にも遺伝子の病的バリアントが引き継がれる可能性があるんだ。」との回答が得られました。

「実際の現場をそのままAIと一緒につくっていったツール」と大野先生が紹介するブルーカは、患者の理解を促し、安心を与える強力なサポーターになってくれることが期待できます。

図表4:ブルーカの実画面

まとめ

がん治療においてますます期待が高まる遺伝子検査と遺伝子に基づく治療。乳がんにおいても大切な選択の一つとなっていますが、BRCA1/2検査やHBOCに関する情報の多さ、間違った情報、誤った認識が、患者の意思決定のハードルになっています。適切な治療につなげるためにも、正しい情報を正しく適切に伝えていくことが欠かせません。患者とのコミュニケーションツールとして、いかにAIを活用していくのかが製薬企業にも問われています。

アストラゼネカのAIを使った患者の意思決定をサポートするAIアプリ「ブルーカ」。Patient Centricityの時代における製薬企業好事例として紹介するとともに、今後の製薬企業の取り組みに期待が高まります。

この記事を書いた人

今村美都

がん患者・家族向けコミュニティサイト『ライフパレット』編集長を経て、2009年独立。がん・認知症・在宅・人生の最終章の医療などをメインテーマに医療福祉ライターとして活動。日本医学ジャーナリズム協会会員。