- AI技術を知っている人は、AIへの期待が高い
- オタフクソース:AIによるパッケージ選定で売上1.3倍
- サッポロビール:AIが革新的な缶チューハイ飲料を提案
- 伊藤園:「商品デザイン用画像生成AI」を業界で初めて活用
- AIを活用したブランディングの未来
近年、AI(人工知能)技術は企業の商品開発やブランド戦略において急速に重要性を増しています。オタフクソース、サッポロビール、伊藤園などの企業がAIを活用し、市場競争において優位性を築いています。これらの成功事例を通じて、AIがブランド戦略に与える影響を考察します。
AI技術を知っている人は、AIへの期待が高い
一般消費者はAIにどのような印象を抱いているのでしょうか。
消費者庁の「消費者のAIに関するイメージ調査」によれば、AIに対するイメージはさまざまです。
多くの人がAIを使って「生活を豊かにする」や「生活に良い影響を与える」とポジティブに捉えていますが、一方で「不安」や「何となくこわい」とネガティブに感じている人もいます*1。
また、各製品・サービスがAI技術を利用していることを知っている人は、知らない人よりもAIに対する期待が高いことが分かりました*2。
現実に、私たちの日常生活ではAIが使われており、ますます身近な存在となっています。いくつかの事例を見てみましょう。
オタフクソース:AIによるパッケージ選定で売上1.3倍
オタフクソースは、新しい「お好みソース大人の辛口」のパッケージデザインを刷新する過程でAIを活用し、新デザインがターゲットの興味を引くかどうかの確認と、デザイン開発の効果検証に役立てました*3。
AIで既存のデザインと新デザイン5案を比較し、「辛口」の特徴を明確に伝えるデザインを選ぶため、「特徴がわかりやすく」「目立つ・印象に残る」という評価基準を重視しました。
その結果、2つのデザインが高評価を受け、最終的な選択肢に絞り込まれました。
さらに、オタフクソースは公式SNSで人気投票をし、最終的なデザインを決定しました。AIによる評価では、新デザインが「特徴がわかりやすい」という点で、既存デザインに比べて2.2倍の高評価を得ました。
AIを活用したパッケージ変更の結果、売上は半年間で1.3倍になりました*4。営業担当の社員にも取引先からAIに関する質問が寄せられ商談の話題となるなど、ビジネスにプラスの影響を与えています。
サッポロビール:AIが革新的な缶チューハイ飲料を提案
サッポロビールから数量限定で発売した「男梅サワー 通のしょっぱ梅」が話題です。国内ビール業界で初めてAIを活用して開発された缶チューハイだからでしょう。
「男梅サワー」ブランドの担当者は、「しょっぱい味」を高める新しいフレーバーを考えていましたが、これまでの試みでは従来の商品との明確な差別化が難しかったと述べています*5。
そこで、サッポロビールは日本アイ・ビー・エムと共同で開発した商品開発AIシステム「N-Wing★」を初めて導入しました。
このシステムは、過去の商品開発データから学習し、新商品のコンセプトや情報を入力すると、原料の組み合わせや配合量を瞬時に予測し、推奨レシピを提供します。
今回、通常では考えられないような食材の組み合わせが提案され、新しい発想が生まれました。
通常、「しょっぱさ」は塩からくる味覚ですが、AIは新しいアプローチを提案しました。それは通常、清涼感をもたらす味でした。試してみた結果、塩分をほとんど変えずに、梅干しの風味としょっぱさを引き立てることに成功しました。
これまでとはまったく違うアプローチで商品開発し、新しい味の創造が可能になった好例です。
伊藤園:「商品デザイン用画像生成AI」を業界で初めて活用
伊藤園は、新しい「お~いお茶 カテキン緑茶」を発売にあたり、画像生成AIを初めて採用しました。この取り組みは、商品開発において中身だけでなく、見た目も魅力的にするために行われたものです。
AIが生成した画像を参考に、デザイナーはイラストやデザインを再作成し、それによって商品デザインが完成しました*6。
AIの助けを借りて、わずかな時間で多くの異なるアイデアを大量に生み出すことができるようになりました。
また、デザイン開発の初期段階から具体的なデザインを確認できるため、短期間でデザインの方向性を共有でき、意思決定の迅速化、デザイン開発の期間を大幅に短縮できます。
デザイン開発の流れ
1. AIでデザインを生成
2. 生成したデザインを見ながら、方向性のディスカッション
3. デザイナーによるデザイン作成
4. パッケージデザインAI(商品デザインに対する消費者の評価を予測するAI)で評価し、デザインを絞りこむ
5. デザイナーによるデザインのブラッシュアップ
※1~5の作業を複数回繰り返し、最終的な商品デザインが決定
AIは、従来のデザインとは一線を画す、鮮やかな色彩と視認性の高い新しいデザインを生み出しました。
AIがマーケターやデザイナーの創造性を拡げ、より洗練された効果的なデザイン開発を実現できることがわかります。
AIを活用したブランディングの未来
事例の3社が単に「消費者に訴求する」パッケージデザインや味覚を目指しているのであれば、今回のようにAIを使ったことを公表する必要はありません。
今後、AIを活用した商品開発やデザインは一般的になっていくと思われますが、現時点ではAIを活用したことを公表することは注目すべきことであり、先進技術を活用した企業というブランドイメージに貢献します。
また、AIはブランドメッセージの一貫性を保つのに役立ちます。
既存の商品やブランド・ガイドラインを分析することで、AIアルゴリズムはブランドのトーン、スタイル、価値観を学習し、確立されたブランド・アイデンティティに合った新しい商品やデザインをスムーズに生成できます。
この一貫性は、ブランドの印象を強化し、市場での認知に役立ちます。
AIは、企業が競争力を維持し、成長するために不可欠なツールです。今後、AI技術はさらに進化し、商品開発やブランド戦略においてますます重要性を増していくでしょう。
企業はAIを積極的に活用し、市場の変化に柔軟に対応できる戦略を立てる必要があるかもしれません。
*1:第1回消費者意識調査結果(AIに対するイメージについて)|消費者庁 p1
*2:第1回消費者意識調査結果(AIに対するイメージについて)|消費者庁 p6
*3:オタフクソースが「大人の辛口シリーズ」で当社パッケージデザインAIを活用|PR TIMES - 株式会社プラグ
*4:AIを取り入れたパッケージ選定で売上1.3倍に 商品愛とファン愛あふれるオタフクソース流の活用術|ECzine
*5:商品開発AIがデビュー 「えっ、この原料を?」 先入観と無縁、新たな可能性広がる サッポロビールがRTDで着手|食品新聞
*6:業界初!『商品デザイン用画像生成AI』を活用したデザインで伊藤園「お~いお茶 カテキン緑茶」リニューアル発売|PR TIMES - 株式会社プラグ