大手情報通信企業のA社は組織再編に伴い、デジタルマーケティングを推進する横断的な部門を新設しました。しかし、部門内にデジタルマーケティングの知識やノウハウが十分に蓄積されていないことから、マーケティング戦略の策定から実行に至るプロセスについて、具体的なイメージを持てずにいたといいます。
パワー・インタラクティブは2021年より、同社のデジタルマーケティング推進およびダッシュボード構築の支援を開始。Webサイトの立ち上げ支援やリード獲得目標の設定など前提の整理から着手し、事業部間の連携強化、Marketing Cloud Account Engagement(以下、Account Engagement)とSalesforce Sales Cloud(以下、Sales Cloud)の連携などを段階的に進行しました。
本稿では、同社の支援を担当するコンサルタントの久道に、これまでの取り組みの経緯や成果、今後の展望についてインタビューした内容をまとめています。
A社はグループ企業の合併により大型の組織再編をしていました。組織再編後、全社的なデジタルマーケティング推進を目指し、横断的なマーケティング部門を設立しました。
しかし、新設された横断マーケティング部門には、マーケティング戦略の立案から実行に関するノウハウがありませんでした。まずは何から着手すればよいのか、どんな手順でマーケティングを推進すべきなのか、どうしたら社内の協力を得ながら進んでいけるのか。このようなことを一から相談できるパートナーを探している状況だったのです。
このような課題を抱えていたため、弊社に支援を依頼していただきました。
担当者にヒアリングした結果、A社のマーケティング体制を強化するためには主に5つの課題を解決する必要があるとわかりました。
・全社的なマーケティング戦略を立案する
・適切な目標と評価指標を策定する
・各部門との連携および協力体制を構築する
・導入済みのAccount Engagementを有効活用する
・会議運営体制を見直す
そこで当社は、A社に対してデジタルマーケティング戦略設計から基盤構築、実行支援まで、包括的にサポートすることを提案しました。
支援開始後は、 4つのステップに沿ってマーケティング推進体制の構築を目指しました。
1.Webサイトの立ち上げと全社向けのデジタルマーケティング勉強会の実施
2.Account Engagementの活用とメール配信の体制構築
3.Sales Cloudダッシュボードの構築による新規リード獲得数の可視化
4.商材別のリード管理とMQL創出数の可視化
はじめの6ヶ月間は、各部門にヒアリングを重ねながら、会社の看板となるWebサイトを構築していきました。同時に、2ヶ月に1度のペースで全社向けのデジタルマーケティング勉強会も開催しました。
この勉強会の狙いは、デジタルマーケティングの現状と今後の方針を説明することです。デジタルマーケティングに対する共通認識を持ち、協力関係を構築するために、デジタルマーケティングの現状と今後の方針を共有しました。
Webサイトの構築と勉強会の開催後は、Account Engagementの活用支援に着手しました。
メール施策の開始に向けた準備として、まずはA社における顧客データの登録状況を確認しました。すると、個々の営業担当者が別々に顧客データを管理しており、Account Engagement外に多くの顧客データが存在していることがわかりました。これを受け、顧客データの管理方法および運用方法を整理し、周知徹底をおこなっていただきました。
データの整理と並行して、デジタルマーケティングの目標設定と数値データの見える化も進めました。初年度は「新規リードの獲得数増加」を目標に掲げ、社内にあるもののSales CloudおよびAccount Engagementに格納できていない顧客データの収集、展示会などでの新規リード獲得の強化を実行。全社の売上目標を前年度比115%としていたため、それにあわせてリード獲得数の目標も前年度比115%としました。
当初はExcelでリード情報を管理しており、手入力での管理によってリード情報の重複が発生している状況でした。データの重複を防ぐため、私たちはSales Cloudのレポートやダッシュボードを活用し、リード情報を正確に、リアルタイムで把握できる状態を目指しました。Salesforceの設定や社内調整に取り組み、約9ヶ月後には新規リードの獲得状況を可視化するダッシュボードの構築が完了しました。
2年目からは新規リード獲得数だけでなく、「商材別のコンテンツ接触回数」や「MQL創出数」といった指標の測定を目指しました。キャンペーンの命名ルールを決めて運用することで、各商材に関連するコンテンツへの接触回数、施策単位でのMQL創出貢献度を見える化することに成功しました。
BtoB向けの商材を扱うある部門では、支援開始後に展示会への出展やウェビナーの開催、セミナーレジュメを活用したリードの再接点獲得、広告LPの作成など、様々な施策を順次実施してきました。その結果、これまでほとんど発生していなかった新規の商談が、この1年で累計20件以上生まれています。1件で数千万円から億単位の規模の金額が動く商材であるため、これは大きな成果といえます。
ダッシュボードを構築したことで「リードの状況をリアルタイムで正しく把握できるようになった」という喜びの声をいただいています。現場で動いている社員の方々だけではなく、マネジメント層のデータ活用も進んでおり、意思決定のスピードが向上したと伺っています。
MQLの創出状況が見える化されると、マーケティング活動におけるボトルネックの所在も明確になります。これにより、具体的な打ち手を検討できるようになったことは、大きな成果だと考えています。
A社の場合、MQL創出後のフォロー体制の改善が課題として見えてきたことを受け、MQLをフォローするインサイドセールス部門が新設されました。現在は、横断マーケティング部門がピックアップしたいくつかの注力商材で、新たなプロセスをテストしている段階です。この取り組みによって、リードの獲得からナーチャリングまでの一連のプロセスの最適化を目指しています。
A社におけるデジタルマーケティングをさらに推進するには、各事業部が施策を考え、横断マーケティング部門と協力しながら実装するサイクルをつくるのが理想的だと考えています。そのため、事業部から新たな企画が上がった際には、横断マーケティング部門とのミーティングの場を設け、その施策の立ち上げ支援をおこなっています。
また、受注から逆算したマーケティング施策設計にも取り組んでいます。見込みのある顧客層を明確化し、その顧客が持っているニーズを言語化することで、受注に繋げやすい企画立案へと役立てています。
今後の支援では、Sales Cloud上の顧客データ整備をさらに進め、ダッシュボード上でマーケティングのROIを確認できるようにするのが1つの目標です。
また、これまでデータ活用を進めてきた事業部では、効果的なマーケティング施策のパターンが固まってきました。今後はこれを横展開し、全社的なデータ活用を推進したいと考えています。
A社のケースでは、横断マーケティング部門の関係者だけでなく、情報システム部門の方も積極的にプロジェクトに参加してくださいました。システム改変について意思決定する場としてIT戦略会議を活用したことも、スムーズなプロジェクト推進に寄与したと考えています。
デジタルマーケティング推進においては、マーケティング戦略設計や施策の実行だけでなく、部門間で連携して適切に意思決定することも重要です。本プロジェクトを支援したことで、部門間連携の重要性を再確認できました。
コンサルティング第1部 部長
久道 真之介
マーケティング戦略策定
通信会社で法人向けの営業を8年経験。その後起業を経験し、2010年にパワー・インタラクティブに入社。Webサイト制作のディレクションからリスティングの運用、アクセスログの分析など現場での業務を経験し、現在はマーケティングコンサルタントとして、BtoB・BtoCのデジタルマーケティングの戦略立案から伴走支援までを行う。