教育業界を中心に事業を展開し、BtoB市場においても強固な事業基盤を有する株式会社ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)。同社の法人事業領域では、組織の拡大と市場フェーズの変化に伴い、従来の成長曲線をさらに引き上げるための「オペレーションの標準化」および「マーケティング費用対効果(ROI)の可視化」が急務となっていました。
同社はこれらの課題に対し、MAとSFAのデータ統合や業務プロセスの再設計を推進し、MOps(マーケティングオペレーション)を構築、パワー・インタラクティブもパートナーとして、その活動を支えてきました。
本稿では、転職早々にMOpsの立ち上げに着手し、現在は「MOps&Contentsグループ」のグループリーダーを務める千葉氏へインタビューを実施。同社のBtoBマーケティングのしくみづくりの取り組みや成果、今後の展望について詳しく聞きました。
千葉氏:私がベネッセに入社した2025年4月当時、法人マーケティング課内にMOpsの担当者はいませんでした。 マーケティング活動においては、企画担当者が本業の傍らでMAツールのAdobe Marketo Engage(以下、Marketo)の運用を兼務している状態でした。
それまでは、組織自体も少人数かつ、その体制でも機能していました。しかし、組織の拡大に伴い成長曲線を次のフェーズへ引き上げるにあたって、マーケティング効果の可視化やオペレーション整備が強く求められるようになっていました。そうした背景から、私が最初のMOps担当として着任したかたちです。
入社当初の名刺には「MOps」という表記はなく、あくまでMarketoの管理者という役割でした。実際の現場に入り業務を進める中で、オペレーションやデータ基盤を根本から整えないと課題が解決しないことが見えてきました。そこで、まずは実務の改善から着手しつつ、社内へ「MOps」という言葉を意識的に発信・浸透させていきました。その結果、今年2026年4月には「MOps&Contentsグループ」が正式に発足し、私がグループリーダーを務めることになりました。今では社内でも「MOps」に対する一定の認知が得られるようになったと感じています。
千葉氏:定義を明文化していたわけではありませんが、自分の中では「MA(Marketo)やSFA(Salesforce)の基盤をベースに、マーケティングの業務フローやデータを整備し、その先の費用対効果や施策のインパクトがわかる状態を実現すること」と考えていました。
ただし、実態が伴わないまま言葉だけ一人歩きしても定着しません。最初から「MOps」という言葉を掲げるのではなく、まずは現場の基盤整備から着手しました。
入社して最初の1カ月間は、あえて新しい施策には着手せず、現場の把握に徹しました。マーケティング担当者だけでなくインサイドセールスなども含め、「どのようにデータが流れているか」「誰がどう操作しているか」といった現状のキャッチアップに専念したのです。さまざまな部署や役職者にヒアリングを行い、「何が課題なのか」と「なぜそれが解決できないのか」を紐解いていきました。
千葉氏:入社1カ月後、課題解決に向けた3つの大きな柱を立て、部長へ提案・承認を得ました。
1つ目の柱は「Marketo内のデータ整備」です。当時は、新規リードの識別や職種などの属性情報を、マーケティング活動に十分活用できる状態ではありませんでした。そのため、リードの質をより適切に評価できるよう、データ整備から着手しました。
2つ目の柱は「インサイドセールスのコール基盤のSalesforceへの移管」です。当時はインサイドセールスの活動情報を一元的に蓄積・可視化できる状態ではありませんでした。そのため、Salesforce管理者がオーナーとなり、Salesforce上でコール業務や結果を一元管理できる運用へ切り替えました。
そして3つ目の柱が、その先にある「商談と施策を紐付けたROIの可視化」です。
この3本の柱を掲げましたが、私だけでできることは少なかったため、それぞれに対してプロジェクトを組成する承認を得て、関係者で対応を進めました。
千葉氏:まずは自分の担当領域で完結し、クイックに成果を示せる取り組みから着手しました。リードの属性や行動履歴などをマーケティングやインサイドセールスへ共有、コールしてもらうといった数字にすぐつながることを実施しつつ、本丸である仕組みの構築も進めていきました。
私自身はMarketo以外のMAツールの経験はあったので、「何をどの順番で進めるべきか」は描けるのですが、Marketoでそれを”どう”実装するかまでは専門的な知見が別途必要でした。MAは思想が強いシステムだからこそ、単に機能を動かすだけでなく「全体最適のあるべき姿」から逆算して要件定義・設計・実装を行う必要があります。そこでパワー・インタラクティブさんに相談し、2025年8月から伴走支援をスタートしてもらいました。
御社を選んだ理由は2点あります。1つ目は、御社のブログやセミナーなどの発信からMarketoの技術・ノウハウが豊富であることを知っていた点。2つ目は、Marketoに止まらずSalesforceやBIツールによるダッシュボード構築まで網羅して支援いただける点です。MA単体しか扱えないベンダーでは、今後の領域拡張に対応しきれなくなると見えていたため、御社であれば一貫して任せられると判断しました。
千葉氏:2025年8月〜2026年1月までの半年間は、御社の支援のもと商談と施策を紐づけるファネルの設計や、ROI可視化のためのシステム間連携を構築しました。それと並行し、私のほうでMarketoのアクセス権限整理など、社内で行うべき業務フローの整備を推進しました。取得すべきデータの整備を御社と進めつつ、それを実現するための業務改修を私が担うことで、3つの柱の実現を図りました。
具体的な取り組みは以下の5点です。(図表1参照)
1) 顧客データの標準化とWebフォームの最適化
これまでテキスト入力による表記揺れが多かった属性データ(職種・役職等)を統一・標準化するロジックを構築しました。また、顧客の入力ストレスとなっていたWebフォームの項目数を最適化し、リード獲得率の向上と高精度なデータ取得を両立させました。
2) マーケティングプロセスの標準化と運用の集約・効率化
企画担当によってばらついていた施策立案から実行までのフローを見直し、企画担当は「施策の企画立案からターゲットの具体化」までとし、「Marketoの設定・操作」はMOps側で対応するよう役割分担を明確化しました。特に課題となっていたウェビナー運用についてはツール導入も実施し効率化を図りました。
3)Marketo運用の標準化
Marketoでは、ウェビナーや展示会などの施策ごとの種別設定がなく、全てデフォルトでプログラム設定されていました。そこで、施策別の命名ルールを策定し、Marketo運用の標準化を図るとともに、施策ごとの成果を可視化できるようにしました。さらに、施策別標準テンプレートを作成・定着させることで、属人的な運用を排除しました。
4) リードステージの再定義と遷移判定の自動化
商談化までのステップを明確にし、MQL(Marketing Qualified Lead:有望リード)やTAL(Teleprospecting Accepted Lead:アプローチ対象リード)を再定義することで、ファネル設定を実現しました。その後、一部Excel管理していた運用から、システムベースで自動判定できる運用へ切り替えることができました。
5) 統合データ基盤とダッシュボード構築によるROI可視化
MarketoやSalesforceのデータをSnowflakeに統合し、PowerBIにて施策成果や商談貢献度を可視化できるダッシュボードを構築しました。さらに、ドメインまたぎによるWeb行動データの断絶も解消し、各種マーケティング施策から商談化、費用対効果(ROI)に至るまでのプロセスを可視化できる環境を整えました。
| No. | 取り組み内容 | 課題解決 3本柱 | パワー・インタラクティブ支援 | Before(従来の状態) | After(取り組み後の状態・成果) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 顧客データの標準化とWebフォームの最適化 | ①データ整備 | — | ・職種/役職がテキスト入力で表記揺れが多発 ・フォーム項目数が多く離脱の原因に |
・ロジック構築により属性データを統一・標準化 ・項目数の最適化で離脱防止とデータ取得を両立 |
| 2 | マーケティングプロセスの標準化と運用の集約・効率化 | ①データ整備 ②Salesforce一元化 |
— | ・企画担当ごとにMarketo操作の範囲が異なり統制が取れていない状態 ・商談データが一元管理できていない |
・「企画立案」と「Marketo設定・操作」の役割境界を明確化 ・Salesforce上での商談データ一元管理により、施策と商談の紐づけを実現 |
| 3 | Marketo運用の標準化 | ①データ整備 | 支援 | ・施策種別のテンプレート設定はなく、全てデフォルト設定 ・コピペによる設定ミスが発生、運用が属人化 |
・命名ルール策定、施策別標準テンプレートで設定ミス防止 ・Salesforceと連携し、営業側も施策把握可 |
| 4 | リードステージの再定義と遷移判定の自動化 | ➂ROI可視化 | 支援 | ・商談化までのステップやリード定義が曖昧 ・一部ステータス管理をExcel手動で運用 |
・MQL・TALの再定義により適切なファネル構造を確立 ・システムベースでのステータス自動判定・連携へ移行 |
| 5 | 統合データ基盤とダッシュボード構築によるROI可視化 | ➂ROI可視化 | 支援 | ・施策ごとの効果やコンバージョン貢献度が不透明 ・別ドメイン遷移時のWeb行動データが断絶 |
・Snowflake+PowerBIで統合基盤を構築 ・Web行動から商談化、ROIに至るプロセスを可視化 |
図表1:MOps構築の取り組み
千葉氏:一番大変だったのは「業務フローの見直しによる影響範囲の確認」でした。Marketoは法人マーケティング課だけでなく複数の関連部署で利用されていたため、各部署の利用状況や業務への影響を一つひとつ確認する必要がありました。
千葉氏:意識したのは「相手の業務を徹底的に知ること」と「自分たちのあるべき姿から逆算すること」の2点です。
「相手の業務を知る」というのは表面的な業務内容ではなく、出社してどのPC画面を開き、どう操作しているかという“作業レベル”まで把握することです。インサイドセールスの業務理解においても、マネジャーへのヒアリングに止まらず、現場担当者の操作画面を横で見せてもらい、「自分が代わりに業務を行えるレベル」まで解像度を上げました。ここまで理解すると、変更を依頼する際にも無理のない現実的な相談が可能になります。
また、各部署から改修要望をもらうことが多いですが、「その要望は全体最適の観点から見て"正しい"といえるのか」は常に考えるようにしています。「このシステムをこう変えたい」と要望をもらった際、そのまま対応するだけなら簡単です。ですがそれを積み重ねると最終的に統制のとれていないシステムが出来上がってしまいます。システム管理者として全体最適に対する責任があると考えているので、多少動きが遅いと思われたとしても、相手の課題をきちんとくみ取ったうえで、全体最適に沿ってどう対応すべきか会話することを心がけています。
苦労した点では「MOps」の社内浸透もあげられます。当時はMOpsの活動範囲があまり理解されていない状態だったので、社内向けの提案資料へ意識的に「MOps」という言葉を入れたり、上司との会話の中で「オペレーション思考が不可欠です」と『MOpsの教科書(著者:ゼロワングロース株式会社丸井達郎、廣崎依久)』を勧めたりと、泥臭い啓発活動も行いました。後日、上司が部内向けの発表資料で「MOps」という言葉を自然に使っているのを見た時はうれしかったです。
企画担当へもシステムの仕組みを理解してもらうべくMarketoやSalesforceの資格取得を推奨した結果、着任当初1名だった部内の有資格者が7〜8名まで増加しました。
千葉氏:本当に感謝しかありません。規模範囲が幅広かったため、社内メンバーに支援してもらってたものの、幅広い領域を短期間で整備する必要があったため、Marketoの専門的な知見を持つパートナーとして、その間に入っていただきました。
こちらの状況に合わせて柔軟に対応していただき、Marketo単体だけでなく、周辺のSalesforceやBIダッシュボード構築まで見据えた、アーキテクチャ・実装を支援してもらったことが大変助かりました。
週1〜2回のオンラインミーティングとBacklogでの迅速なやり取りで、制約の多い弊社の環境下でも1年でここまで整理しきることができました。
千葉氏:最大の成果は、MAやSFAを軸にしてデータが集約されるようになった点です。業務フローが整っただけでなく、データが集約され、商談と施策の紐付けもできるようになってきました。何より、マーケティングとインサイドセールスが同一プラットフォーム上で協働できる体制が整った点が大きいです。また、Marketoを軸として、以前より効率的なマーケティング活動が実現できました。
千葉氏:この1年半の取り組みで、ようやくMOpsのスタートラインに立てました。より事業成長に寄与するマーケティングを実現するため、今後はこれまでの取り組みをもとにして高度化を進めていきたいです。
具体的には、マーケティングの観点だけでなく、経営層の意思決定に資するデータの整備や、より案件に寄与するための仕掛けを進めていきたいと考えています。
プロフィール
千葉 貴大 氏
株式会社ベネッセコーポレーション
法人事業企画部 法人マーケティング課
MOps&Contentsグループ グループリーダー
ソフトバンク株式会社にて法人営業を経て、Field Marketingに従事、リード獲得・ナーチャリング・IS連携などを担当。その後マーケットワン・ジャパン合同会社へ移り、MA・SFA導入支援のプロジェクトマネジメントに携わる。2025年4月より現職。MOpsの立ち上げやMarketo運用、Web改善、業務プロセスの再設計を推進。現在はMopsだけでなくコンテンツ領域も含めたグループリーダーを務める。
インタビュー実施日:2026年9月15日
今回のプロジェクトを通して、何よりも千葉様の卓越した「社内調整力」に大変驚かされました。入社わずか1カ月で課題解決に向けた3つの柱を立てて部長の承認を得たスピード感はお見事でした。上司に『MOpsの教科書』を勧めるなど泥臭い活動を通して上層部にも積極的に掛け合い、組織全体を上手に巻き込んでいく姿勢が非常に印象的です。 また、困難な他部門調整においても、担当者のPC操作画面を見るレベルまで相手の業務を徹底的に理解した上で、着実に合意形成を図られていました。 千葉様の圧倒的な推進力があったからこそ、基盤整備が実現できたと確信しております。
マーケティングコンサルタント
山田 俊也
マーケティング戦略策定
BtoB企業を中心に、マーケティング戦略設計から施策の実行までサポート。Marketo Engageを使ったコンサルティングの実績を多く持つ。
社外に向けた無料・有料セミナーの企画、講師も担当。のべ50回以上の登壇実績。Adobe社が提供するMarketo Core Concepts Ⅱの講師を勤める。
育児のための長期休暇を取得、仕事復帰後は子育て奮闘中。
今回のプロジェクトでは、ベネッセ様が描く「あるべきMOps像」を、実際の現場で無理なく運用できる形へ落とし込むことを意識してご支援しました。
特に、仕組みを作ること自体が目的にならないよう、そして日々の運用が必要以上に煩雑にならないことを念頭に置き、また、特定の担当者に依存せず、誰が対応しても一定の品質で再現できる状態を目指して、ルールや仕組みを設計しました。ただし、事業や組織の変化によって今後方針が変わる可能性もあると思います。その際に、現在の手法ではできない状態にならないよう柔軟に変更できる方法を選択することも意識しました。
データやツールの整備だけでなく、部門をまたぐ業務プロセスまで含めて、一緒に最適な形を考えながら進められたことが印象に残っています。今回整備した基盤が、今後さらに高度なマーケティング活動へ発展していく土台になればうれしく思います。
マーケティングコンサルタント
鍋山 百香
マーケティングオートメーション活用支援
営業と管理者の2軸で、人材・教育・旅行・広告・コールセンター・保険とさまざまな業界を経験。うち、楽天・リクルートなど大手企業での業務経験もあり。東南アジアでの海外就労経験も有し、様々な経験と柔軟な対応でお客様へのコンサルティングを行っている。
社内第一号の「キャリアと子育てを両立するママ」を目指す。

2026.10.16

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