デジタルソリューション事業を展開するA社は「マーケティング施策がなかなか成果に結びつかない」という問題に直面していました。MAツールを活用しきれていないことに原因があると認識していた同社。しかし、問題の本質は、自社が誰に、何の価値を提供しているのかを明確にできていない点にありました。
パワー・インタラクティブは2024年2月より、同社に対してバリュープロポジション企業研修サービスの提供を開始。座学と実践を組み合わせた2ヶ月間の研修により、同社は自社の提供価値を見出すことに成功しました。
本稿では、A社の支援を担当するコンサルタントの山田に、これまでの取り組みの経緯や成果、今後の展望についてインタビューした内容をまとめています。
MAツールを活用したマーケティング施策を実施していたA社は、思うような成果をなかなか発揮できないことに頭を悩ませていました。
A社からMA活用に関するご相談を受けた当初、私たちはMAの設計を見直すご提案をしようとしました。しかし、支援を開始するにあたって詳しい状況を聞き取った結果、2つの問題が明らかになりました。
・サービスのターゲット、提供価値を明確化できていない
(例)セミナー企画と集客施策が連動していない
・マーケティングと営業の2部門間で、ターゲットや提供価値に関する認識の相違がある
(例)営業が求めているリードとマーケティングが獲得しているリードの属性の間にズレがある
さらに、組織全体で統一された戦略やビジョンを設計できていないことから、各担当者や部門が感覚に頼った判断によって施策を実行している状況にあることもわかりました。
A社の状況から、まずはMA基本設計よりもバリュープロポジション設計を優先すべきだと判断しました。また、戦略の立案から実行までの一連のプロセスを伴走させていただくことで、本質的な問題解決につなげられるとも考えました。
そこで当社は「バリュープロポジション研修」によってA社が提供できる価値とターゲットを見直し、言語化したバリュープロポジションをMAの基本設計に反映させることを提案。A社はこの提案を受け入れてくださいました。
バリュープロポジションを一言で表すと「企業が顧客に提供する価値をシンプルに表したもの」です。顧客が求めているもののうち、競合企業には提供できない自社製品・サービスならではの価値を指します。
バリュープロポジションを設計することによるメリットは主に3つ挙げられます。
・社内の共通言語を作れる
自社の提供価値とターゲットに関する認識を揃えることで、あらゆる議論がスムーズに進む
・発信するメッセージを統一できる
対外的に発信するメッセージを統一することにより、一貫したブランドイメージを醸成できる
・価格競争からの脱却
お客様は自社の提供できる価値に費用を払うため、価格競争から脱却できる
バリュープロポジションを明確にすれば、描くマーケティング戦略や実施する施策が、顧客ニーズに合ったものへと進化します。
約2ヶ月間にわたって、全5回のバリュープロポジション研修を実施しました。この研修には、商談にご参加いただいたリード戦略チームのリーダー、リード育成のリーダー、セールスチームのリーダー、さらにそれぞれのチームのメンバーも加えた計8名が参加しました。
第1回:バリュープロポジションの概要説明と現状の棚卸し
バリュープロポジションの定義やメリット、設計の手順を学ぶ座学を実施。現在のバリュープロポジションに対する認識を共有しながら、現状の棚卸しをおこなう。
第2回:ターゲット顧客の属性とインタビュー項目の検討
ターゲット顧客の属性を議論し、顧客像を具体化するワークショップを実施。あわせて、第2回の研修終了後に実施するn=1インタビューの質問項目も検討する。
【宿題:n=1インタビュー実施】
選定した顧客属性の方々に対して、抱えている課題を把握するためのインタビューに挑戦する。
(リサーチ会社経由で選定した顧客に近い属性の方を対象に、インタビューを実施)
第3回:n=1インタビューの考察と課題の深掘り
n=1インタビューの結果を共有し、その特徴について考察する。また、課題解決意欲の高い顧客の特徴や、顧客を抽象化したペルソナを作成。次回の競合調査に向けて、調査対象とする競合他社の選定も実施する。
【宿題:競合他社の調査】
選定した競合他社の調査を進める。競合製品・サービスや導入先の特徴、価格感や顧客の声を分析する。
第4回:競合調査の共有と自社の強み・提供価値の整理
競合他社の調査結果を共有。その上で、顧客の課題に対して自社が提供できる価値は何か、その価値を支える自社の資産・強みは何か、競合との差別化ポイントは何かを議論し、自社の強みと提供価値を整理する。
第5回:バリュープロポジションの言語化とマーケティング施策への落とし込み
顧客が抱える様々な課題の中から、競合と比較して優位性のある課題を選定し、その課題に対するバリュープロポジションを言語化。あわせて、策定したバリュープロポジションをマーケティング施策にどのように反映させるかについても議論する。
【宿題:バリュープロポジションの社内説明資料の作成】
設計したバリュープロポジションについて社内で説明するための資料をまとめる。資料作成にあたっては、過去の宿題やワークショップの内容を空欄に埋めるだけで資料が完成するテンプレートを配付。
この研修の特徴は、座学による知識の習得だけでなく、ワークショップや課題を通じた実践的な学びにも重点を置いている点にあります。
バリュープロポジションは、実際の施策に反映させてこそ意味を成すものです。そのため、策定したバリュープロポジションを今後の施策に活用していただくことを意識した構成となっています。
研修を通じて、A社は「リアル店舗のデータ活用に強い」という自社の強みと提供価値を明確化しました。この提供価値を基に、現在はリアル店舗のデータ活用に価値を感じる企業の特徴を意識したターゲット設計や企画の支援を進めています。
このような結果につながったのは、研修にご参加いただいた皆さまが真摯にワークショップや課題に取り組んでくださったおかげだと考えています。最後に提出いただいた社内資料の課題を拝見しても、皆さまが真剣に自社の提供価値や顧客が抱える課題に向き合っていることが一目瞭然でした。
研修にご参加いただいたメンバーからは「バリュープロポジションを明確化したことで、社内に共通言語ができた」「上層部・営業部・マーケティング部の認識が統一された」といった感想をいただいています。チーム全体で議論を重ねた結果、1つの答えにたどり着けたことは素晴らしい成果だと考えています。
また、「ターゲット顧客と近い属性の方と話をする良い機会になった」「インタビュー相手から、意外な話を聞けた」と話す参加者もいました。「お客様のことを本当に理解できているのか、確信を持てない」と悩むマーケティング担当者の方は意外と多いものです。研修を通じて顧客解像度を高められたことも成果の1つといえますね。
もちろん、研修を通じてバリュープロポジションの策定を達成することは重要です。しかし、顧客にヒアリングする際のコツやバリュープロポジションの決定プロセスなど、一連の流れを体験的に学ぶ機会を提供できたことは良かったと感じています。
今回策定したバリュープロポジションがどんなに素晴らしいものであっても、市場の変化によって再度バリュープロポジションを見直すべきタイミングは訪れます。そんな時、今回の研修で学んだ知識と経験は必ず役に立つはずです。一連のプロセスを体験し、自身でバリュープロポジションを設計する力を身に付けてもらったことにも、大きな意味があるのではないでしょうか。
バリュープロポジション研修の終了後に開始した3ヶ月間のMA基本設計も、現在終盤に差し掛かっています。明確化されたバリュープロポジションを施策にしっかりと反映できるよう、引き続き支援を続けてまいります。
バリュープロポジションを起点にマーケティング戦略を立案し、MA基本設計でそれを具体的な施策に落とし込む。この一気通貫の支援を通して、A社のマーケティング活動が大きく前進するようお力添えできればと思います。
バリュープロポジションは、マーケティング戦略の根幹をなすものです。A社の事例のように、各施策を見直す前にバリュープロポジションを固めることは、中長期的にマーケティング成果を挙げていくための有効なアプローチだと考えています。
お客様がすでに認識している課題だけでなく、その根底にある潜在的な課題を分析すること。表面化している課題と潜在的な課題の両方に対して最適な解決法を提示することが、私たちの重要な役割です。今後もお客様の本質的な課題解決につながるような支援内容のご提案とサポートに取り組んでいきたいです。
マーケティングコンサルタント
山田 俊也
マーケティング戦略策定
BtoB企業を中心に、マーケティング戦略設計から施策の実行までサポート。Marketo Engageを使ったコンサルティングの実績を多く持つ。
社外に向けた無料・有料セミナーの企画、講師も担当。のべ50回以上の登壇実績。Adobe社が提供するMarketo Core Concepts Ⅱの講師を勤める。
育児のための長期休暇を取得、仕事復帰後は子育て奮闘中。
2024.08.20
2023.09.15
2023.06.29