事例

全社で挑んだ「キーメッセージ再構築プロジェクト」。短期完遂を支えた伴走型PMO

全社で挑んだ「キーメッセージ再構築プロジェクト」。短期完遂を支えた伴走型PMO

ブラックライン株式会社
マーケティング本部長 大徳 貴子 氏
ビジネスディベロップメント レプレゼンタティブ マネージャー 桑野 泰輔 氏

経理・財務業務、特に「決算業務」のデジタル化・自動化に特化したクラウド型プラットフォーム「BlackLine」を提供しているブラックライン株式会社(以下、ブラックライン)。同社は、提供ソリューションの拡大と市場フェーズの変化に伴い、日本独自の「キーメッセージ」と「事業ドメイン」の再構築プロジェクトを実施。パワー・インタラクティブもパートナーとして、その活動を支えてきました。

本稿では、「プロジェクトマネージャーオフィス」としてプロジェクトを牽引したBDR(ビジネスディベロップメントレプレゼンタティブ)マネージャーの桑野氏と、「プロジェクトマネージャー」を務めたマーケティング本部長の大徳氏へインタビューを実施。新たな「キーメッセージ」と「事業ドメイン」が誕生するまでの取り組みと今後の展望についてうかがいました。

100社導入を経て迎えた「市場フェーズの転換期」

今回「キーメッセージ」と「事業ドメイン」の再構築に取り組んだ背景を教えてください。

桑野氏:弊社は2019年に日本市場へ本格参入し、今回のプロジェクトを立ち上げる前の2022年にもメッセージ策定を行い、事業ドメインを「経理業務変革プラットフォーム」と定義していました。 当時はコロナ禍の真っ只中ということもあり、顧客である大手企業では、「リモート決算の実現」や「在宅勤務での決算対応」が求められ、強烈な追い風がありました。ターゲットもIT感度や変革意識が極めて高い、いわゆる「イノベーター」や「アーリーアダプター」と呼ばれる層でした。彼らに刺さるような、尖った言葉や市場定義を採用していたのです。

課題1:顧客層の拡大に伴う「価値説明」のアップデート

桑野氏:そこから3年が経過し、市場のフェーズは次の段階へと移行しつつありました。初期の顧客層は、「米国の大手企業で広く使われている実績あるSaaSツールだ」というグローバルな信頼感や、メインのパートナーである監査法人/コンサルティング会社からの紹介によって、機能の詳細を確認する以前の信頼で、検討/導入を進めるケースもありました。

しかし、導入企業が100社を超え、一般的な大手企業や中堅企業へと広がりを見せる中で、お客様との会話の質は少し変化してきました。システム設計の少々抽象的な会話から、「具体的にこのシステムは、我々の普段の業務のどこをどう楽にしてくれるのか?」という、具体的なプロセスに係る質問をいただく機会が増えてきたのです。
それと同時に、マーケティングや営業活動の現場からも「BlackLineが結局何をしてくれるツールなのか、顧客にいまひとつ伝わりきれていない」という声があがり始めました。これは、私たちが提供するサービスの認知やコミュニケーションのスタイルを、市場の成熟度に合わせてアップデートしなければならない明確なサインでした。

「何ができるシステムなのかわからない」という声が増えた本質的な要因はどこにあったのでしょうか?

桑野氏:BlackLineが提供する価値が、日本の経理市場における従来のシステムの常識から外れた領域にあることが最大の要因です。企業が経理のシステム化やDXを検討する際、まず頭に浮かぶのは基幹システムである(ERP)や会計システムです。その他にも、固定資産管理や連結会計など、特定の目的に特化したシステムは数多く存在します。

しかし、BlackLineがカバーするのは、それら「既存システムの隙間」に埋もれている膨大なアナログ領域です。具体的には、単体決算業務における日々の勘定照合やタスク管理、そして監査対応のためのエクセルを用いた手作業での管理領域などが該当します。

手作業で行うのが当たり前とされてきた領域、ということですね。

桑野氏:その通りです。日本の多くの企業、歴史のある大手企業でさえ、この領域は「エクセルと目視を使い、人の手で泥臭く回すのが当たり前」だと信じ込まれていました。そもそも「この業務をシステム化して自動化・標準化する」という概念自体が、これまでの日本市場に存在していなかったのです。

そのため、国内に明確な競合システムが存在せず、他社との比較や機能の優劣といった検討土台に載せることが困難でした。お客様からすれば、比較対象がないため「自分たちの業務のどこがシステム化され、どんな具体的メリットがあるのか」がピンとこない。これこそが「よくわからない」と言われていた本質的な理由でした。

課題2:BlackLineの価値を共通言語化

桑野氏:さらに、内部環境の変化もありました。日本法人立ち上げ当初は、BlackLineが持つ機能の一部(1~2つ程度のソリューション)に焦点を当てていましたが、現在ではCFO組織の課題を広くカバーする「プラットフォーム」へと進化を遂げています。

その結果、提供できる価値が「自動化」「属人化の解消」「経営管理基盤の強化」と多岐にわたり、またカバーする業務範囲も単体決算から連結決算、グループ経営管理と昇華されていきました。提供可能な「顧客価値」が多様化するにつれ、社内のメンバーが語る「BlackLineの価値」がバラバラになり始めていたのです。それぞれが語る価値はすべて正解なのですが、組織としての推進力を高めるためには「基盤となる共通言語」が必要不可欠でした。営業コストや説明コストを下げ、日本市場にフィットする形でカテゴリーを再定義する。そして、数年後の「新しい当たり前」を創り出す。それこそが、今回のメッセージ再構築の真の目的です。

本プロジェクト推進体制

本プロジェクトの推進体制について教えてください。

大徳氏: 本プロジェクトは部門横断の全社プロジェクトです。その為、プロジェクト責任者は弊社代表取締役社長の宮﨑に据え、マーケからCSまでcustomer facingするGTM部門の各リーダーを招集し、プロジェクト体制を構築しました。(図表1参照)

図表1:プロジェクト体制図

本プロジェクトのリーダー(PMO)はBDR Managerである桑野が推進しました。「顧客の一次情報」に組織で最も精通しているのはBDRですので、まだBlackLineを知らない、あるいは関心が薄い潜在顧客に対し、日々ダイレクトに対話を重ねています。
顧客から投げかけられる「BlackLineって何ができるの?」というストレートな問いに対し、どう切り込めば価値が伝わるのか、あるいは何がボトルネックになって伝わらないのか。その最前線で日常的に思考錯誤している桑野こそ、今回のメッセージ再構築に不可欠な「市場のリアルな生の声」を誰よりも把握していると判断しました。

4つのフェーズで進めた「キーメッセージ再構築プロジェクト」

プロジェクトはどのように進められたのか、具体的な進行プロセスを教えてください。

桑野氏:パワー・インタラクティブさんから、バリュープロポジションを定義するためのフレームワークとスケジュールを提示してもらい、それに沿って大きく4つのフェーズで進行しました。(図表2参照)

図表2:本プロジェクトの進め方

【フェーズ1】声を聞く:社内のバイアスを削ぎ落とす「現状把握」

桑野氏:最初に取り組んだのは、社内にある「バイアス(思い込み)」を徹底的に削ぎ落とす作業です。営業やマーケターは、どうしても直近で提案して好感触だったお客様の反応や、目先の成功事例に意見を引っ張られがちです。「顧客の課題はこれだ」と、視野が狭くなってしまうのです。

そこで、主観を排除した「ファクト(事実)」をベースにするため、100社以上の既存顧客へのアンケートと、5社へのインタビューを実施しました。さらに、導入を担う主要なパートナー企業や社内メンバーにもアンケートをとり、多角的な視点から現状を把握しました。

【フェーズ2】共に創る:職種をシャッフルした全社ワークショップ

桑野氏: 次に、集まった顧客の一次情報をベースに、全社員と徹底的に議論するる場を設けました。10月中旬、四半期に一度の全社ミーティング枠を約3時間活用し、全社員約50名が参加する大規模なワークショップを敢行しました。

チーム編成は工夫しました。1テーブル8〜9名のチームを組む際、営業やマーケティングといった同職種で固まらないよう、全職種をシャッフルして配置しました。ワークショップでは、各テーブルに顧客の一次情報を配り、事実をベースに「顧客は何に困っているのか」「なぜ困っているのか」「何を解決すべきなのか」をディスカッションしました。

職種シャッフルの効果は絶大でした。営業が見る「導入前の姿」とカスタマーサクセスが見る「導入後の姿」が融合するなど、多面的な視点から深い議論が生まれたのです。各テーブルからは「ゼロ日決算を求めている」「決算という業務自体をなくしていきたい」「サステナブルな経理プロセスを実現したい」といった本質的な意見が次々とあがってきました。

全員が薄々気づきながらも言語化できていなかった「顧客の本当の痛み」が、職種を超えた議論によってクリアになりました。社内のマインドが一つにまとまった、非常に熱量の高い3時間でした。

CFOのインサイトから導き出した「AOH(ハブ)」という事業ドメイン

ワークショップ後は、どのようにして言葉を収束させていったのですか?

【フェーズ3】価値を定義する:全社の熱量を「戦略」へ昇華させる

桑野氏: ワークショップで全社員から出された膨大なアウトプットを、パワー・インタラクティブさんと整理しました。言語化されたエッセンスを「As-Is(現状の課題)」と「To-Be(あるべき姿)」の軸でプロットし、約20〜30のコア要素へと凝縮しこれが次の意思決定における羅針盤となりました。大変ありがたいLeadでした。

ここからの絞り込みは、社長の宮﨑をはじめ、各部門のリーダー(営業、プリセールス、カスタマーサクセス、パートナーアライアンスなど)が集まり、膝を突き合わせて行いました。「CFO視点でリアルタイムにグループの連結データを抽出できる」や「高いセキュリティとガバナンス統制能力」といった自社の提供価値は、すでに共通認識がありました。よって、これらをワークショップで抽出された顧客のどの課題と組み合わせるべきかを徹底的に検証し、バリュープロポジションを固めていきました。

さらに議論の精度を上げるため、海外のプロダクトリード責任者や、お付き合いのある戦略コンサル、大手監査法人の有識者といった「外部の視点」も導入し、メッセージが机上の空論にならないよう、何度も壁打ちを繰り返しました。

【フェーズ4】言葉を磨く:全社を二分した「事業ドメイン」を巡る決戦投票

桑野氏: 最終段階として、日本市場においてブラックラインが名乗るべき「事業ドメイン(市場カテゴリー名)」の策定に入りました。最初は50以上の候補が机上に上がりましたが、議論を重ね、最終的に2つの案による全社投票を行うところまで絞り込みました。

A案:AOH(Accounting Operations Hub / アカウンティング・オペレーション・ハブ)
B案:DAW(Digital Accounting Workspace / デジタル・アカウンティング・ワークスペース)

全社投票では、経理業務の新しい作業空間を想起させる「DAW」を推す声も多く、社内の意見は真っ二つに割れました。

そこで、既存顧客のCFOや大手監査法人のパートナーなど、日本の経理財務領域のトップリーダーたちにどちらの言葉が市場に響くかをヒアリングしました。

結果、視点による明確な違いが現れました。現場の改善を重視する層は「DAW」を評価したのに対し、企業の経営層やCFOが強く共感したのは「AOH(ハブ)」でした。 経営層が真に欲していたのは、単なるデジタル作業スペースではありません。望むタイミングでスピーディーに実績値を把握し、グループガバナンスを効かせるための「すべての決算データと業務が集約される拠点」だったのです。

「月次実績の確定が遅い」「地方子会社の属人化」といった日本企業のリアルな課題を根本から解決し、迅速な意思決定基盤を提供する。その存在意義を示すため、私たちは「AOH」の選択を確信しました。

こうして直訳ではない、日本独自のメッセージが決定しました。「決算変革領域(AOH)といえばBlackLineと言われる世界を作る」という社長・宮﨑の強い想いが、まさにこの言葉に具現化されています。

短期決戦を支えたパワー・インタラクティブの「PMO力」

日常業務を抱えながら、わずか半年(実質的な言語化のチューニングは1ヶ月半)という短期間でプロジェクトを完遂できた成功要因はどこにありますか?

大徳氏: まず、2月25日の自社イベントで新メッセージを発表するという「絶対に動かせない締め切り」がありました。しかし、11月・12月は年末の超繁忙期です。自社リソースだけでは目先の業務に追われ、スケジュールも中身も妥協せざるを得なかったでしょう。

救いとなったのが、パワー・インタラクティブさんの存在です。ワークショップ設計やヒアリング調整などの実務を裏側で一手に巻き取ってくれました。さらに、社内のパワーバランスで議論が左右されそうになったときも、「フレームワークに則ってここを決めましょう」と論理的にレールを敷き戻してくれたのです。この客観的なPM(プロジェクトマネジメント)があったからこそ、迷わずに最短距離を走りきれました。

桑野氏:プロジェクトリーダーを務めた私にとっても非常に心強かったです。今回のメンバーは各部門のLeader達を集めたので 私より経験豊富なシニア層ばかりで、数年後の市場の”当たり前”になる「新事業ドメイン」を創造するという熱量は共通しているものの、其々の立場や日々見ている視点の違いから、ゆえに意見がぶつかり合っているときもありました。 パワー・インタラクティブさんが論理的な土台を整えてくれたおかげで、私は「なぜこの変革が必要か」を説きながら合意形成を図り、チーム全体で推進することができました。を引っ張ることに集中できました。もしこれがなければ、意見調整だけで力尽きていたはずです。リソースを最小限に抑え、最大の成果を出せたことに感謝しています。

「AOH」を世界標準へ。BlackLineが挑む経理の未来

新メッセージが公開されてからの、社内外の反響や今後の展開について教えてください。

大徳氏:2月25日のイベントでのお披露目以降、Webサイトから営業用の提案マスタースライドにいたるまで、あらゆる顧客接点への実装を急ピッチで進めています。

https://www.blackline.jp/

全社を巻き込んで生み出した言葉だからこそ、社内から「なぜこの言葉なのか」という声は一切ありません。むしろ「一日も早く市場に浸透させよう」という高い当事者意識が全社に満ちています。社長の宮﨑が全社集会やCFO面談の場で、率先してこのメッセージを使い続けていることも大きな浸透インセンティブになっています。

しかし、プロジェクトの本当のゴールは言葉の決定ではなく「数年後の市場の姿」にあります。 経理財務の世界で「お宅の会社、決算変革のための『AOH』の仕組みはもう入れてる?」という会話が、ごく当たり前に交わされるようになること。それこそが目指す未来です。

マーケティングの世界で求人要件に「Marketoが使える人」と書かれるように、実は経理の世界でも、すでに大手企業の採用要件に「BlackLineを扱える方」と記載されるケースが出始めています。「BlackLineを使いこなせること」が経理パーソンのスキル証明になり、市場価値を高める武器になる。私たちが創出した「AOH」という新しい市場カテゴリーを、日本の経理業務における新たな「世界標準」として根付かせるまで、これからも走り続けていきます。

プロフィール

大徳 貴子 氏
ブラックライン株式会社 マーケティング本部長

2020年8月より現職。日本におけるマーケティング活動全般の責任者。IT業界、大企業向けのマーケティングとして、年間プランの策定と実行、業績管理、広報やユーザーグループの運営など業務は多岐に渡る。

プロフィール

桑野 泰輔 氏
ブラックライン株式会社 ビジネスディベロップメント レプレゼンタティブ マネージャー

2021年5月より現職。前職ワークスアプリケーションズでは、約5年間大手エンタープライズ企業向けにコンサルティング提案を担当。その後、グローバルERP導入プロジェクトにPMOとして参画し、経理業務のBPRプロジェクトを推進。2021年、ブラックラインに入社後は日本市場の立ち上げに携わり、新規パイプライン構築管掌するインサイドセールス部門の責任者。

インタビュー実施日:2026年4月14日

担当コンサルタントの声

ブラックライン様とは2019年からご一緒していますが、今回「事業ドメイン・キーメッセージの再構築」という、まさに経営の根幹に関わるプロジェクトにお声がけいただいたことを、本当に嬉しく思っています。

短期間で部門横断プロジェクトをとりまとめるプレッシャーがある中で、お客様の声をベースに、ぶれない議論をリードし続けた桑野様の推進力は本当にすばらしかったです。また、桑野様を信頼して任された大徳様、そして職種を超えて熱く議論を交わした全社員の皆様の姿を間近で見て、組織の強さをあらためて実感しました。

ブラックライン様は「AOH」という強力な共通言語のもと、変革を成し遂げるものと確信しています。この素晴らしい挑戦に伴走できたことは、私自身の大切な財産です。

山下 智

マーケティングコンサルタント

山下 智

マーケティング戦略策定

Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!

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