コラム

電子・電気・半導体メーカーの展示会データ活用|用途・技術課題を捉え、Buying Groupから商談を見極める

執筆:マーケティングコンサルタント 久道 真之介

電子・電気・半導体メーカーにとって、展示会は重要な顧客接点のひとつです。新製品や技術を探している設計・開発担当者など、普段のマーケティング活動では接点を持ちにくい人と直接会話できることは、展示会ならではの大きな価値です。

一方で、「多くの名刺を獲得したものの、その後の商談につながらない」「営業にリードを渡したが、誰を優先してフォローすべきか分からない」といった課題も少なくありません。

電子・電気・半導体分野の展示会では、会社名や部署、役職といった名刺情報だけで、有望な顧客を判断することは困難です。まず必要なのは、「何を実現しようとしているのか」「どのような技術課題を抱えているのか」「どの開発・評価段階にいるのか」という検討のシグナルを取得することです。

さらに、電子部品や半導体のような複雑商材では、設計担当者一人だけで採用が決まるとは限りません。設計責任者、品質部門、調達部門、事業責任者など、複数の人物が意思決定に関与します。そこで必要になるのが、個人リードだけではなく、Buying Group(購買・採用の意思決定に関与する関係者群)として顧客企業を見る視点です。

本記事では、展示会で取得すべきデータから、Buying Groupを活用したアカウント攻略、その進捗を測るKPIまで、電子・電気・半導体メーカーにおける展示会データ活用の考え方を紹介します。

「製品に興味あり」だけでは、その後の営業につながらない

展示会では、「どの製品に興味を持ったか」「商談意向があるか」といった情報をアンケートや接客記録として取得することがあります。もちろん、こうした情報も必要ですが、電子・電気・半導体関連の商材では、もう一段深い情報が求められます。

たとえば、同じ製品に関心を持った来場者でも、「次期製品の小型化を検討している」「消費電力を抑えたい」「放熱対策に課題を抱えている」「車載用途への採用を検討している」「現在評価中の部品から切り替え候補を探している」など、その背景は異なります。

展示会で残っている情報が「製品Aに興味あり」だけだった場合、営業担当者は「なぜ興味を持ったのか」まで把握できません。その結果、展示会後のアプローチも、「先日は弊社ブースへお越しいただきありがとうございました」「製品Aの資料を送付します」といった一般的なものになりがちです。

展示会後の活動につなげるためには、製品への興味だけでなく、興味を持った背景までデータ化することが重要です。

電子・電気・半導体メーカーが展示会で取得したい情報

では、具体的にどのような情報を取得すればよいのでしょうか。軸になるのは、「製品」「用途・開発テーマ」「技術課題」「開発・評価ステージ」です。加えて、その後のBuying Group管理を考えるのであれば、接点を持った人物が意思決定の中でどのような役割を持っているのかも把握しておきたいところです。

(図表1)展示会で取得・整理したい主なデータ

この中で特に重要なのが、用途・開発テーマと技術課題です。たとえば、「製品Xに興味がある」という情報だけではなく、「次期車載モデルの放熱対策として製品Xを検討している」まで分かれば、その後のフォローは大きく変わります。

車載用途の事例を紹介したり、放熱に関する技術資料を案内したり、FAE(Field Application Engineer:顧客の技術課題や製品評価を支援する技術担当者)から技術相談を提案したりと、顧客の検討文脈に沿ったコミュニケーションが可能になります。

「HOT・WARM・COLD」だけでは有望案件を取りこぼす

展示会後のリード管理では、「HOT」「WARM」「COLD」といった分類がよく使われます。しかし、電子・電気・半導体分野では、この温度感だけで判断すると、有望案件を取りこぼす可能性があります。

たとえば、展示会で「今回は情報収集です」と言われたとします。この回答だけを見れば、COLD、あるいはフォロー優先度の低いリードと判断するかもしれません。しかし、詳しく聞いてみると、「来年度発売予定の新製品で小型化が課題になっており、現在候補部品を調査している」という状況かもしれません。

今すぐ商談になるわけではなくても、数カ月後には有望な案件になる可能性があります。つまり、展示会で見るべきなのは単なる「現在の温度」だけではありません。将来の案件につながるシグナルをどれだけ取得できたかが判断の起点になります。

展示会で取得したデータと、その後の行動を組み合わせる

展示会当日の情報だけで、すべての有望顧客を判断する必要もありません。展示会後には、製品ページの閲覧、技術資料のダウンロード、用途別事例ページの閲覧、技術ウェビナーへの参加、評価ボードの利用、FAEへの技術相談、サンプルや評価依頼といった行動が発生します。

たとえば、展示会で「車載用途で放熱に課題がある」と聞いていた担当者が、その後、車載向けの放熱技術ページを繰り返し閲覧していれば、検討が進んでいる可能性があります。展示会で取得した情報は、その後のデジタル行動を解釈するための文脈になります。

このため、展示会データを名刺管理ツールやExcelだけに閉じ込めるのではなく、MA(マーケティングオートメーション)やCRM上のデータとつなげていくことが重要です。

個人ではなく「アカウント・開発テーマ」を中心に見る

ここまでは、一人の来場者について「どのようなデータを取得するか」という話でした。しかし、電子・電気・半導体メーカーの展示会データ活用では、ここでもう一段、視点を広げる必要があります。なぜなら、展示会で会った技術担当者一人だけで、製品の採用が決まるとは限らないからです。

半導体や電子部品などのDesign-In(顧客の設計段階で自社製品を組み込んでもらい、採用を確定させていくプロセス)では、案件に応じて、設計・開発担当者、設計責任者、品質保証、調達・購買、事業責任者など、複数の関係者が意思決定に関わります。

電子・電気・半導体のような複雑商材では、技術担当者とは接点を持てていても、設計責任者や事業部門責任者まで接点が広がっていないという状況が起こりがちです。また、個人リード単位で情報を管理しているだけでは、同じ企業の中で誰が案件に関与し、検討がどこまで進んでいるのかを把握することも難しくなります。

つまり、展示会で会った技術担当者は貴重な接点ですが、それだけを追うのでは十分でない場合があります。展示会で得た一人の接点を、その企業の意思決定構造へ広げていく。ここでBuying Groupという考え方が必要になります。

Buying Groupで見ると、展示会データの意味が変わる

Buying Groupとは、製品やサービスの購買・採用に関わる複数の関係者をひとつのグループとして捉える考え方です。この視点を加えると、展示会データの管理単位も変わります。

従来の「個人 × 関心製品」という管理から、「アカウント × 案件・開発テーマ × Buying Group内の役割」へと広げていきます。

(図表2)展示会データを「個人リード」から「Buying Group」へ広げる

たとえば、「A社の開発担当者が、次期車載モデルの放熱対策として製品Xに関心を持っている」という展示会情報があったとします。従来なら、「A社/開発部/製品Xに興味あり」というリード情報になります。

Buying Groupの視点を加えると、「アカウント:A社」「開発テーマ:次期車載モデル」「技術課題:放熱」「関心製品:製品X」「現在のステージ:候補製品探索」「接点あり:設計担当者」「未接点:設計責任者、品質、事業責任者」という形で捉えられます。

ここまで見えると、「この人に次は何を送るか」だけではなく、「この案件を進めるために、次に誰との接点をつくる必要があるか」を考えられるようになります。

Buying Groupを活用するうえでは、まず自社商材の採用・購買プロセスに、どのような役割の人が関与するのかをあらかじめ整理しておくことがポイントです。設計担当、設計責任者、品質、調達、事業責任者など、必要な役割を定義したうえで、「現在どこまで接点を持てているか」「どの役割との接点が不足しているか」を確認します。

展示会で獲得した個人リード数だけでなく、重点アカウント内の接点カバレッジを見るという考え方です。

展示会後は「誰を営業へ渡すか」から「誰が足りないか」へ

一般的な展示会フォローでは、「獲得したリードの中から、誰を営業へ渡すか」を考えます。Buying Groupの視点を取り入れると、問いは「この企業のこの案件について、どの役割との接点が不足しているか」へと変わります。

たとえば、ある案件について、「設計担当者は展示会で接点あり」「設計責任者は未接点」「品質部門は未接点」「調達部門は営業が接点あり」「事業責任者は未接点」という状態だったとします。

この場合、展示会後の活動は設計担当者だけをナーチャリングすることではありません。設計責任者には、より上位の設計要件や採用実績を伝える。品質部門には、評価・信頼性に関する情報を提供する。営業が持っている調達担当との接点を、同じ案件情報に紐づける。このように、個人へのフォローから、アカウント全体を前進させる活動へ広げることができます。

そのためには、個人リードに単に「関心製品」や「温度感」を付けるだけでは不十分です。「どの企業の」「どの案件・開発テーマの」「どの役割の人物なのか」まで整理しておくことで、案件に必要な関係者の充足状況を可視化できます。

展示会当日にBuying Groupのすべてを把握する必要はない

ここで注意したいのは、「展示会アンケートの質問項目を大幅に増やせばよい」という話ではないことです。来場者に対して「設計責任者は誰ですか」「品質担当者は誰ですか」「事業責任者は誰ですか」と、すべてを展示会の場で確認するのは現実的ではありません。

展示会ではまず、製品、用途・開発テーマ、技術課題、開発・評価ステージ、本人の役割といった、その後の案件把握につながる情報を取得します。そして展示会後に、マーケティングが持つ行動データ、営業が持つ商談・顧客情報、FAEが把握している技術・評価情報、代理店が持つ顧客接点を組み合わせていきます。

ここで押さえておきたいのは、Buying Groupに必要な情報は、マーケティング部門だけが持っているわけではないということです。マーケティングは展示会来場やWeb閲覧、資料ダウンロードなどの行動データを持っています。営業は商談情報や調達・購買部門との接点を把握しているかもしれません。FAEは設計担当者が抱えている技術課題や評価状況を詳しく知っているでしょう。代理店を介した販売であれば、代理店側にも貴重な顧客接点があります。

これらの情報を、「アカウント × 案件・開発テーマ」単位でつなぐことによって、Buying Groupの接点状況や案件の現在地を把握しやすくなります。つまり、展示会ですべての情報を取得するのではなく、展示会をアカウント情報をつなぐ起点にするという考え方が重要です。

技術接点を「単発のリード獲得」で終わらせない

電子・電気・半導体分野では、展示会後すぐに商談へ進まない顧客も少なくありません。開発期間が長く、技術評価を繰り返しながら採用に至るケースもあります。

そこで着目したいのが、展示会後の技術接点です。技術資料のダウンロード、評価ボードの利用、技術ウェビナーへの参加、FAEへの技術相談、サンプル・評価依頼などを、単なる「新しいリードの獲得」として見るだけではなく、顧客企業の中で特定の設計テーマが動いていることを示すシグナルとして捉えていきます。

たとえば、展示会でA社の設計担当者と接点を持ち、その後、その担当者が技術資料をダウンロードし、さらに同じA社の別の担当者が技術ウェビナーへ参加し、FAEへの技術相談が発生したとします。

この状態は、単に「一人のリードスコアが上がった」ということだけではありません。A社の中で、この設計テーマへの関与者が増えている可能性があります。だからこそ、個人の行動だけでなく、アカウント全体で発生している行動を見る必要があります。

営業に渡すのは「名刺」ではなく「案件の現在地」

こうした考え方を進めると、営業への引き渡し方も変わります。

従来は、「A社の○○様。製品Xに興味あり」という情報だったものを、「A社の次期車載モデル案件。放熱が技術課題。展示会で設計担当者と接点。現在は候補製品の探索段階。展示会後に関連技術資料を閲覧。調達とは既に営業接点あり。一方、設計責任者と品質部門は未接点」といった形で共有できるようになります。

営業担当者が本当に知りたいのは、単に「誰が興味を示したか」ではありません。「この企業で何が起きていて、案件を前進させるために次に何をすべきか」です。展示会データをBuying Groupと組み合わせることで、その「案件の現在地」を伝えやすくなります。

展示会KPIも「活動件数」ではなく、アカウントがどこまで前進したかを見る

展示会データの見方を変えるのであれば、KPIの設計も見直す必要があります。もちろん、来場者数、名刺獲得数、メール配信数、営業フォロー件数、MQL数、商談数といった従来の指標も必要です。しかし、これらの数字だけを見ても、重点アカウントの攻略が実際に前進しているのかは分かりません。

特に電子・電気・半導体のような複雑商材では、展示会後すぐに商談化しないケースも多くあります。そのため、「何件活動したか」だけではなく、「アカウントがどの状態から、どの状態へ進んだか」を見ることがポイントになります。

たとえば、展示会で技術担当者との接点を獲得したものの、案件に関与するキーパーソンが分かっていないのであれば、次に見るべきなのは「キーパーソンをどこまで特定できたか」です。キーパーソンが分かっていても接点を持てていなければ、「接点化できたか」「Buying Group内の必要な役割まで到達できたか」を見ます。

(図表3)アカウント・案件の状態に応じてKPIと次の打ち手を変える

このように整理すると、KPIは単に成果を報告するための数字ではなく、「次に何をすべきか」を判断するための指標になります。

たとえば「展示会後の営業フォロー件数が100件」という数字だけでは、その100件が有効だったのかは分かりません。一方、「重点アカウント20社のうち、設計責任者まで接点を広げられた企業が8社」「Buying Groupの必要な役割を3つ以上把握できた企業が5社」といった形で見ると、アカウント攻略がどこまで進んでいるかが見えてきます。

また、すべてのアカウントに同じKPIを当てはめる必要もありません。人物をまだ特定できていない企業と、すでに設計・品質・調達まで接点を持っている企業では、当然、次に見るべき指標は異なります。

「今、このアカウントはどの状態なのか」「次の状態へ進むためには何が不足しているのか」を確認し、その状態に応じたKPIを設定することがポイントです。

展示会KPIを3つのレイヤーで捉える

展示会全体の評価では、KPIを大きく3つのレイヤーに分けて考えると整理しやすくなります。

1.活動・獲得のKPI 来場者数、名刺獲得数、資料ダウンロード数、フォロー件数など、展示会施策そのものの活動量を測ります。

2.アカウント攻略のKPI 用途・開発テーマ把握率、キーパーソン特定率、連絡可能化率、接点化率、キーパーソン到達率、Buying Group充足率、重点アカウント内の接点人数・接点部署数など、企業内でどこまで攻略が進んだかを測ります。

3.ビジネス進捗のKPI 有効商談化率、評価ステージの進行、Design-In進捗、パイプラインなど、最終的な事業成果につながる動きを測ります。

重要なのは、1の「活動・獲得のKPI」だけで展示会を評価しないことです。活動量 → アカウント攻略 → ビジネス進捗までつなげて見ることで、展示会が重要アカウントの案件をどこまで前進させたのかを評価できるようになります。

展示会を評価する問いを、「何枚の名刺を獲得したか」から、「重要アカウントを次のステージへ何社進められたか」へ広げる。これが、Buying Groupを意識した展示会KPI設計のポイントです。

まずは重点アカウント3〜5社から始める

とはいえ、すべての展示会リードにBuying Group管理を一度に適用するのは現実的ではありません。最初から大規模な仕組みを構築する必要もありません。

まずは、展示会で接点を持った重点アカウントを3〜5社程度選び、Buying Groupを可視化するところから始めてみるのも一つの方法です。

1.展示会で接点を持った重点アカウントを選定する
2.用途・技術課題・開発テーマを整理する
3.接点のある人物を部署・役割別に整理する
4.Buying Groupの不足している役割を確認する
5.マーケティング・営業・FAE・代理店が持つ情報を棚卸しする
6.次に広げるべき接点とアクションを決める
7.Buying Groupの充足とDesign-Inの進捗を定期的に確認する

対象を絞ることで、「どの情報が足りないのか」「営業やFAEと何を共有すべきなのか」「MAやCRMにどのような項目を持たせるべきなのか」を、実際の案件を通じて確認できます。そのうえで、成果や運用上の課題を確認しながら対象アカウントを広げていく方が、現実的に進めやすいでしょう。

まとめ:展示会データを「個人の興味」から「企業の意思決定」へ広げる

電子・電気・半導体メーカーの展示会データ活用では、まず、製品、用途・開発テーマ、技術課題、開発・評価ステージといった情報を取得することから始めます。これらは、将来の商談を判断するためのシグナルになります。

しかし、複雑商材ではそれだけで終わりではありません。展示会で接点を持った技術担当者を入口として、「この案件には他に誰が関与しているのか」「誰との接点が不足しているのか」まで視点を広げる必要があります。

つまり、個人リード → アカウント → 開発・設計テーマ → Buying Group → Design-Inと、データを見る範囲を広げていくということです。

さらに、その進捗を評価するときも、名刺獲得数やフォロー件数といった活動量だけではなく、「キーパーソンを特定できたか」「Buying Group内の接点が広がったか」「評価・採用ステージが前進したか」を見ていく必要があります。KPIをアカウントの状態と結びつけることで、結果を確認するだけでなく、次の打ち手を決めるためのデータとして活用できるようになります。

電子・電気・半導体メーカーの展示会データ活用で目指したいのは、展示会で得た個人接点という「点」を、企業内の複数の関係者という「面」へ広げていくことです。そして、その企業で動いている案件・開発テーマと関係者を紐づけながら、Design-Inまでの進捗を継続的に捉えていきます。

展示会を単なるリード獲得施策として終わらせず、重要アカウントのDesign-Inを前進させる起点にする。そこまでを見据えて、展示会で取得するデータ、その後の営業・マーケティング・FAEの情報連携、そしてアカウントの前進を測るKPIまで一体で設計することが、電子・電気・半導体メーカーにおける展示会データ活用を一段進めるポイントです。

久道 真之介

EM部 部長

久道 真之介

マーケティング戦略策定

通信会社で法人向けの営業を8年経験。その後起業を経験し、2010年にパワー・インタラクティブに入社。Webサイト制作のディレクションからリスティングの運用、アクセスログの分析など現場での業務を経験し、現在はマーケティングコンサルタントとして、BtoB・BtoCのデジタルマーケティングの戦略立案から伴走支援までを行う。

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