「AIエージェント」自律型AIとは?実用化は目前に
2023年頃から始まった生成AIのブームは記憶に新しく、私たちの働き方や創造性に大きな影響を与え続けています。そして今、AI技術は新たなステージへと進化を遂げようとしています。その主役となるのが「AIエージェント」です。2025年は、このAIエージェントがビジネスの現場で本格的に活用され始める「AIエージェント元年」になると言われています 。従来のチャットボットや単機能の生成AIが、より自律的に思考し行動するエージェントへと進化を遂げ、既にビジネスで実用可能なレベルに達し、導入事例も急増しているのです 。
本コラムは、2025年3月26日(水)に開催したセミナー「2025年はAIエージェント元年!「DeepResearch」で理解する今年のAIトレンドとは?」の内容を元に、AIエージェントが一体何であり、私たちの働き方やビジネスをどのように変革していくのか、その可能性と向き合い方について解説します。
※関連ナレッジ資料※
生成AIで会議効率化!『文字起こし』と『議事録作成』始め方ガイド をダウンロード
AIエージェントとは、自ら考え行動するパートナー
AIエージェントを一言で定義するならば、「自律的に環境とやり取りしながら、複数のステップを通じて目的を達成するソフトウェア」と言えるでしょう 。これは、従来のAIと一線を画すいくつかの決定的な違いを持っています。
まず「自律性」です。AIエージェントは、与えられた指示の意図を深く理解し、目標達成のために自ら計画を立案します 。次に「環境とのインタラクション」能力が挙げられます。これは、ユーザーが許可した範囲内で、パソコン内のExcelやWordといったアプリケーション、さらにはSalesforceのような外部のクラウドサービスを操作できることを意味します 。そして、複雑なタスクを細かく分割し、段階的に処理していく「複数ステップの実行」能力も特徴です 。さらに重要なのは、途中で問題が発生した場合に別のアプローチを試したり、時にはユーザーに「この方法ではうまくいきませんでした。どうしましょうか?」と問いかけたりする「試行錯誤と学習」の能力です 。
では、私たちが接するAIが「真の」AIエージェントであるかを見極めるには、どのような点に注目すればよいのでしょうか。それは、例えば、前述の「自律性」や「高度な計画と推論能力」、そしてその頭脳となる「大規模言語モデル(LLM)の活用」、さらには経験から学び改善を続ける「継続学習」の仕組みなどが挙げられます 。
AIエージェントがビジネスにもたらすインパクトは計り知れません。
例えば、DeNA代表取締役会長 南場 智子氏は、現在約3000人で行っている事業をAIエージェントの活用によって半分の人数で遂行可能にし、そこで生まれたリソースをAI関連の新規事業展開に充てると述べています*1 。また、海外ではAI関連企業「Cursor」社が、創業からわずか2年という驚異的なスピードで年間経常収益1億ドルを達成した事例も報告されており *2、AIエージェントの潜在能力の大きさを物語っています。
AIエージェントの可能性と、乗り越えるべき「限界」
AIエージェントは、私たちのビジネスに大きな可能性をもたらします。
定型的な業務や情報収集・分析といったタスクをAIエージェントに任せることで、大幅な業務効率化と生産性の向上が期待できます。これにより、人間はより創造性が求められる業務や戦略的な意思決定といった、より付加価値の高い仕事に集中できるようになるでしょう。そして、それは新たな事業アイデアの創出やイノベーションの促進にも繋がるはずです。
AIエージェントの限界
AIエージェント。この有望な技術を最大限に活用するためには、その「限界」についても正しく理解しておく必要があります。
まず、「環境へのアクセス権限の壁」です。AIエージェントは非常に高度な処理能力を持ちますが、その活動範囲はユーザーが許可したデータやツールに限定されます 。つまり、AIエージェントの能力を十分に引き出すためには、適切な情報アクセス権限の設計が不可欠となるのです。
次に、「センシング技術の制約」も無視できません。現在のAIは、テキスト、画像、動画、音声の認識においては目覚ましい進歩を遂げています 。しかし、人間の持つ五感、特に嗅覚や触覚、あるいはその場の雰囲気を察知するといった高度な状況理解能力は、まだ持ち合わせていません 。
また、「自律的な意思決定の範囲」にも限界があります。AIエージェントは多くの判断を自律的に行えますが、複雑な倫理的判断や、企業の将来を左右するような最終的な経営判断といった、高度な責任を伴う意思決定は、依然として人間の重要な役割です。
人間によるファクトチェックは不可欠
そして最も重要な点の一つが、「完璧ではない出力とファクトチェックの重要性」です。AIエージェントが生成する情報は非常に高度で多岐にわたりますが、そこには誤りが含まれる可能性が常に存在します。そのため、AIの出力を鵜呑みにせず、特に重要な情報や公式な発表に利用する際には、人間によるファクトチェック、つまり事実確認が不可欠です 。
これらの限界を深く理解し、人間がAIエージェントを適切に管理・監督し、それぞれの強みを活かして協調していく体制を構築することが、AIエージェント時代を成功に導く鍵となるでしょう。
AIエージェントを使いこなし、未来の働き方を手に入れるために
では、この革新的なAIエージェントを効果的に活用し、未来の働き方を手に入れるためには、何が必要なのでしょうか。
データマネジメントの重要性

最も重要な基盤となるのは「データマネジメント」です。
いきなりAIを導入する選択肢もありますが、その前に使えるデータ基盤を構築しましょう。そうすることで、適切なデータをAIに提供可能になります。
AIエージェントがその能力を最大限に発揮するためには、AIが理解し活用できる「使えるデータ」が整理・蓄積されていることが絶対条件となります 。Google WorkspaceやNotionといった、AI活用を前提としたサービスを利用してデータを一元管理するなど、AIにとって親和性の高いデータ基盤を構築しましょう。これで、人間にもAIにも優しい最適な環境を構築でき、成功への第一歩となります 。
今後、AI SaaSやAIエージェントサービスが多数登場しますが、契約には注意が必要です。データマネジメントとツールはセットであり、AIフレンドリーではないツールを選んでしまうと、AIエージェントの自社活用が難しくなり、ツールに縛られてしまいます。
AIドリブンな組織体制の構築
次に、「マネジメント手法の進化と人間の役割の変化」も求められます。
AIエージェントに任せられる業務は積極的に委譲し、人間はより戦略的で創造性が求められる領域へとシフトしていく必要があります 。例えば、10個のAIエージェントを管理し、それぞれのAIエージェントがさらに10個のAIツールを動かしたり、10個のAIエージェントを動かしたりする、といったツリー構造を形成することで、一人で千人分の仕事をこなすことも可能になります。そうすることで意思決定のスピードが上がり、文化も変わり、圧倒的な競争優位性が生まれます。
AIエージェントを単なるツールとして使うのではなく、「管理し、育成する」という新しいマネジメントの視点を持つことを意味します。人間とAIがそれぞれの強みを活かし、互いに補完し合うような新しい組織文化を醸成していくことが重要です。
AI活用トレーニングの実施
そして、「AI活用トレーニングの継続的な実施」も欠かせません。新しいAIツールやサービスが次々と登場する中で、自社にとって最適なものを選択する能力や、AIの出力を批判的に吟味し、その信頼性を判断するリテラシーを向上させることが不可欠です 。自社が抱える課題に対して、AIエージェントをどのように活用すれば最大の効果が得られるのかを見極めるための知識習得が、これまで以上に重要になります。
実際にAIエージェントの導入を進めている企業の事例も参考になります。例えば、富士通は製造・物流向けのソリューションとして「Fujitsu Kozuchi (AI Platform)」というAIエージェントを開発し、サプライチェーンの最適化、運用コストの低減、顧客満足度の向上を実現しています。*3 。また、Salesforceは、CRMデータと連携し、複数のチャネルで顧客対応を行うAIエージェントを開発し、対応スピードの向上などを図っています*4 。コールセンター業務においては、ベルシステム24が、通話データからナレッジベースを自動生成するAIオペレーターを導入し、応対品質の向上に繋げている事例もあります *5。
まとめ:AIエージェントと共に創る、新たなビジネスの地平
AIエージェントは、単に業務を効率化するツールという存在を超え、ビジネスプロセスそのものや、私たちの働き方を根本から変革するほどの力を持っています。それは、企業に圧倒的な競争優位性をもたらす可能性を秘めていると言えるでしょう 。
最近注目されている「生成DX」、つまり生成AIを活用したデジタルトランスフォーメーションを実現するためには、AIエージェントが持つ可能性と、そして限界を正しく理解し、自社の状況や目的に合わせた活用法を粘り強く模索していくことが何よりも重要です。
特にマーケティングの文脈においては、「AIに優しいデータ基盤作り」が最重要ポイントであり、これは「DX」など、これまで何度も議論されてきた内容と重なります。AI時代のマーケティングにおいてデータ基盤の価値はより高まることは間違いなく、今すぐに取り組むことができるAI活用の第一歩と言えるでしょう。
AI先進国であるアメリカ・中国では、AIエージェントが実用的な段階に入っており、実体経済に大きなインパクトを与え始めています。生成DXは未来の話ではありません。
AIエージェント時代の本格的な幕開けは、もう目前に迫っています。今こそ、この新しい技術について積極的に学び、実際に試すことで、未来への大きな一歩を踏み出す時ではないでしょうか。
<参考・参照>
*1 DeNA南場智子が語る「AI時代の会社経営と成長戦略」全文書き起こし | フルスイング by DeNA
*2 Cursor at $100M ARR | Sacra
*3 Fujitsu to offer AI agents that can both collaborate and engage in high-level tasks autonomously : Fujitsu Global
*4 Agentforce:強力なAIエージェントを作成 - セールスフォース・ジャパン
*5 ベルシステム24、国内初の通話データからナレッジベースを自動生成する機能を搭載した、コンタクトセンター自動化ソリューション「Hybrid Operation Loop」を開発開始 | 株式会社ベルシステム24

パワー・インタラクティブ マーケティング推進室