コラム

「レポートを作る人」から「打ち手を考える人」へ――AIに分析を任せる前にやっておく一つのこと

執筆:マーケティングコンサルタント 今西 涼

「自然言語で話しかけるだけで、AIが分析してくれる」。

最近、こういう言葉をよく目にするようになりました。聞くと便利そうですが、同時に少し身構える方も多いと思います。専門的なデータの知識がないと使いこなせないのではないか。結局うちのデータはバラバラだから無理なのではないか。そもそも、本当に「話しかけるだけ」で何かが変わるのか。

先に正直なことを書きます。ツールを入れただけでは、たいして変わりません。変わるのは、その手前で一つだけ準備をしたときです。

今回は、私たちが提供している「PowerROI-AI Navi」というサービスを題材にしながら、AIに分析を任せると現場の何が変わるのか、そしてその効果を本当に引き出すために何をすればいいのかを、できるだけかみ砕いて書いてみます。データの専門知識は前提にしません。

毎週レポートを作っているのに、考える時間がない

たとえば、こんな一日に心当たりはないでしょうか。

午前中、上から「で、先月と比べて結局どうなの」と聞かれる。数字ならすぐ出せます。GA4を開いて拾い、MAの配信結果を別の画面で確認し、CRMの商談データと突き合わせる。Excelに落として整えて、グラフにして、なんとか会議に間に合わせる。でも、「なぜそうなったのか」「だから次どう動くのか」を一言で返せたかというと、自信がない。数字は出した。でも、戦略を語れた気はしない。

しかも、その集計を自分でやっています。マネージャーになっても、結局いちばんツールを触っているのは自分。メンバーには「作業より、考えて動いてほしい」と言いたいのに、当の自分が毎週同じ集計に半日を溶かしている。「先週もこれやったな」と思いながら、また同じ手を動かす。腰を据えて考えるのは、だいたい全部終わった夜になってからです。

ツールは入っている。データも溜まっているはずなのに、手作業だけが増えていく。これは能力の問題でも、ツールの性能の問題でもありません。「分析する」という仕事の中に、まだ人がやらなくていい作業がたくさん残っている、というだけのことです。

国内の調査でも、マーケターが扱うデータ量は数年前から大きく増える一方で、半数以上が「十分に分析する時間がない」と答えています。データが増えても人は増えない。だから考える時間は、むしろ減っていく。多くの現場で起きているのは、この詰まりです。

MCPは「AI専用の取扱説明書」

ここで出てくるのが「MCP」という言葉です。アルファベット3文字でいかにも難しそうですが、中身はそんなに身構えるものではありません。

ふだん私たちがAIに何かを頼むとき、AIは自社のデータを見ていません。だから一般論しか返ってきません。MCPは、そのAIに「うちのデータはここにあって、こういう意味で、こう使っていい」と教えてあげる仕組みです。言ってみれば、自社のデータとツールの使い方をAIに渡す「AI専用の取扱説明書」のようなものです。

ここで大切なのは、MCPそのものが成果を出してくれるわけではない、ということです。MCPは、AIが自社のデータやツールにアクセスしやすくするための仕組みです。ただし、マーケティングの現場で本当に使える状態にするには、「どのデータを見るべきか」「どの指標をどう判断するか」「どの問いを投げれば次の打ち手につながるか」まで設計する必要があります。

PowerROI-AI Naviが支援するのは、まさにこの部分です。GA4、MA、CRM、広告データなどを単につなぐだけでなく、BtoBマーケティングの実務に即した問いに落とし込み、現場が分析結果を次の施策判断に使える状態をつくっていきます。

このような設計があることで、AIは自社のGA4やMA、CRMのデータを参照しながら、現場の問いに沿って答えられるようになります。「先週、問い合わせが落ちたページと流入経路を教えて」と聞けば、評論家のような一般論ではなく、自社の数字を見たうえでの答えに近づける。それがMCPをマーケティング実務に活用したときの状態です。

しかも、データを一カ所に集め直す大がかりな準備はいりません。いま使っているGA4、MA、CRM、広告管理画面などに必要な範囲で接続し、活用できるデータから確認していくことができます。

もちろん、個人単位の行動データと商談データを正確につなぐには、ID連携やデータ設計の確認が必要です。ただ、「うちのデータはバラバラだから無理」と最初から諦める必要はありません。いまあるデータで何が見られるのか、どこから整えればよいのかを見極めるところから始められます。

いま使っているツールに、必要なときだけつないで聞く。だから「うちのデータはバラバラだから」と諦めていた現場でも、入口に立てるようになりました。

ツールより先に、自分の仕事を「判断」と「作業」に分ける

ここからが、今日いちばん書きたかったことです。

「AIに話しかけるだけで分析が返る」と聞くと、ツールを入れれば明日から楽になる、と受け取りたくなります。でも実際にやってみると、効く現場と効かない現場がはっきり分かれます。違いは、ツールの前に一つの整理をしたかどうかです。

その整理とは、いまの分析業務がどんな流れで回っているのかを一度書き出して、その中身を二つに仕分けることです。

ひとつは、人がやるべき仕事。どのセグメントに賭けるか、この数字をどう読むか、次に何を打つか。こうした判断は、人の仕事です。もうひとつは、任せていい作業。データを探す、集める、整える、集計する、グラフにする。手順が毎回ほぼ決まっているものは、AIに渡してかまいません。

たとえば、毎週のレポート作成であれば、「GA4から数値を取得する」「MAの配信結果を確認する」「CRMの商談データと突き合わせる」「Excelで整える」といった工程は、作業に近い領域です。一方で、「どのセグメントを優先するか」「どの施策を止めるか」「次にどの打ち手を試すか」は、人が判断すべき領域です。

PowerROI-AI Naviでは、この仕分けを導入前後の重要なステップとして扱います。いきなりAIにすべてを任せるのではなく、まず現場の分析業務を棚卸しし、AIに任せられる作業と、人が担うべき判断を整理する。ここを明確にすることで、AIが単なる便利ツールではなく、現場の意思決定を支える仕組みとして機能し始めます。

この仕分けをせずにAIを入れると、「で、結局AIに何を聞けばいいんだっけ」となって止まります。逆に、自分の一週間の仕事を「判断」と「作業」に分けておくと、任せる先がはっきりして、AIがちゃんと働き始めます。地味な作業ですが、ここを飛ばすと、たいてい途中で止まります。

任せたあとに残るのは、考える時間

仕分けをして、手順の決まった作業をAIに渡す。すると、何が起きるか。

これまでレポート作成に使っていた時間の一部を、数字の意味を読み解く時間や、次の打ち手を考える時間に振り向けられるようになります。その空いた時間が向かう先こそ、このサービスの一番うれしいところだと私は思っています。

データを探して集計する時間を減らし、出てきた数字を見ながら、自社のマーケティングをどう改善するかに時間を使えるようになります。次の施策を練る。データから「これはやる、これはやめる」を決める。マーケターが本当はやりたかったはずの仕事に、時間を戻せます。

集計が仕事の中心だった状態から、考えることと動くことが中心の状態へ。「レポートを作る人」から「打ち手を考える人」へ。AIに作業を渡す目的は、人を減らすことでも、判断をAIに明け渡すことでもありません。人が判断と施策に集中できる状態をつくることです。

時間が浮くことより大きい、「気づけなかった打ち手」

ここまで「時間が空く」話をしてきました。でも、AIに分析を任せて本当に大きいのは、その先にあります。

人が毎週同じダッシュボードを見ていると、見る切り口も毎週同じになります。いつもの指標を、いつもの並びで眺める。だから、そこに映っていない動きには、そもそも気づけません。これは担当者が優秀かどうかとは関係なく、人が同じ画面を見続けるかぎり起きることです。

AIを活用すると、人が普段見落としがちな組み合わせや、毎週の定型レポートでは確認しきれない切り口を発見しやすくなります。たとえば「評価の低かった層からの申込が、件数では実はいちばん多い」「特定の業種だけ、検討の温度がまわりの数倍高い」といった具合に。ダッシュボードを眺めているだけでは、まず出てこない切り口です。

ここが大事なところです。気づけていなかった切り口は、たいてい打てていなかった施策とイコールです。そして打てていなかった施策は、取り逃していた売上です。作業時間が減るのは、目に見えるわかりやすい効果です。でも、もっと大きいのは、これまで取りこぼしていた打ち手が見つかること。中長期で差がつくのは、こちらだと考えています。

重要なのは、「楽になる」ことだけではありません。これまで気づけていなかった変化を見つけ、取り逃していた可能性のある打ち手を減らしていくことです。マーケティング部門が、コストを使う部署ではなく利益を生む部署として見られるようになるかどうかも、結局はこの一点にかかっています。AIに分析を渡す価値の本丸は、時間ではなくこちらにあります。

「話しかけるだけ」が実際どう返ってくるか

広告の振り返りで。

「先週、Meta広告のCPAが悪化した要因を教えて」と聞くと、媒体・配信面・クリエイティブ別に分解したうえで、たとえば、媒体・配信面・クリエイティブ別に変化を分解し、「どの要素がCPA悪化に影響していそうか」「どの配信やクリエイティブを見直すべきか」といった判断材料を整理できます。数字だけでなく、止める施策と増やす施策がセットで出てくる、というのが従来との違いです。

Webサイトの改善で。

「CVRが落ちたページと流入経路を見つけて」と聞けば、CVR低下が見られるページや流入経路を確認し、影響の大きい箇所から改善候補を整理できます。単に数値を見るだけでなく、「どこから手をつけるべきか」を考える材料として使えるのがポイントです。

会議の準備で。

「今週の変化と打ち手を3つにまとめて」。これだけで、KPIが動いた要因を要約し、そのまま会議で使える形に整理して出してきます。月曜の朝にレポート作りで消耗する、という光景が変わります。

どれも、設定画面を行き来したり関数を組んだりする必要はありません。聞けば返る。GA4やMAを毎日触っている人ほど、この「聞くだけ」のありがたみは大きいはずです。

データが分散していても、まずは活用可能性を確認できる

「うちはツールごとにデータが分かれていて、つながっていないから」という声をよくいただきます。

PowerROI-AI Naviでは、最初からすべてのデータを統合しきることを前提にせず、いま使っているGA4、MA、CRMなどのデータを必要な範囲で参照しながら、横断的な分析の可能性を確認していきます。

たとえば、Webサイト上の行動、MA上のセグメント情報、CRM上の商談情報を組み合わせることで、「どの接点が商談につながっているのか」「どのセグメントの反応が高いのか」といった問いに近づけます。ただし、その精度はID連携やデータ設計の状態によって変わります。そのため、導入前に現在のデータ状態を確認し、どこまで分析できるかを見極めることが重要です。

もちろん、誰がサイトを見て誰が商談になったかを正確につなぐには、データ側の準備が必要な部分もあります。そこは無理に背伸びせず、いまある状態からできる範囲を一緒に見極めていく、というのが私たちの進め方です。

「入れたけど使われない」を防ぐ、6ヶ月の伴走

ツールを入れる話になると、いちばん不安なのはここだと思います。せっかく入れたのに、結局使われずに終わる。ダッシュボードを作ったのに、いつのまにか誰も開かなくなった。そんな経験をお持ちの方も、少なくないはずです。

PowerROI-AI Naviは、つないで終わり、ではありません。導入後の6ヶ月間、現場が自分で使えるようになるまで一緒に走ります。

具体的には、現場が成果を出せる「聞き方」をテンプレートにして渡し、広告・Web・CRMそれぞれの定番の質問を用意します。週に一度、実際にどう使われているかを一緒に見ながら、聞き方や分析の切り口を直していく。最初にだれもがつまずく「何を、どう聞けばいいのか分からない」を、伴走しながら一つずつ消していきます。

私たちが重視しているのは、AIの使い方を教えることだけではありません。現場の業務に合わせて、「毎週の会議前に確認すべき問い」「広告改善で見るべき問い」「Webサイト改善で見るべき問い」「商談化を確認するための問い」を一緒に整えていきます。

つまり、PowerROI-AI Naviの伴走は、プロンプトの使い方を覚えるための支援ではなく、マーケティング業務そのものをAIと一緒に回せる形に変えていくための支援です。

目指すのは、6ヶ月後に、私たちがいなくても、現場が自分で質問し、データから示唆を引き出して、施策に活かせている状態です。ツールを渡すことではなく、使われる状態を残すことを仕事にしています。メンバーに「考えて動いてほしい」と言える。その地点まで、ここで一緒に持っていきます。

なぜ「いつか」ではなく「いま」なのか

「いずれは、とは思うけれど、いま急ぐ話だろうか」。そう感じる方もいるかもしれません。でも、先送りにするほど不利になる理由が、二つあります。

一つは、手作業の負債が毎月積み上がること。データは月を追うごとに増え、それを人手で集計する時間も増えていきます。来年やるより今年やったほうが、AIに移せる作業も、取り戻せる考える時間も多い。迷っているあいだも、詰まりは静かに大きくなっていきます。

もう一つは、始める入口が下がったこと。これまで、自社のデータでAIを動かすには、データを一カ所に集め直す大がかりな準備が必要でした。MCPは、その準備なしに、いまあるツールにつなぐだけで始められます。大きく構えなくても試せるようになった、というのが「いま」の新しさです。

そして、同じようなAI活用の環境には、競合もいずれ手が届きます。だからこそ、早い段階で自社の業務に合った使い方を見つけ、現場に定着させておくことが重要です。先に「考える時間」を取り戻したチームほど、打ち手の数と改善スピードで差をつけやすくなります。

まず、いまの業務を一緒に見てみませんか

ここまで読んで、「面白そうだけど、うちのデータで本当に動くのか」。そう感じた方もいるはずです。

PowerROI-AI Naviでは、本格的に入れる前に、お客様のデータがそもそもAIで活用できる状態かどうかを軽く確認する、短い事前チェックを用意しています。30分から1時間ほど、対象のデータと使いたい場面をうかがって、活用できそうかの見立てと、注意しておきたい点を整理してお返しします。

いきなり大きく構える必要はありません。まずは、いまの一週間の分析業務を「判断」と「作業」に分けるところから。そのうえで、どの作業を任せられそうかを一緒に見ていく。そこから始められます。

パワー・インタラクティブは、累計250社を超えるBtoBマーケティングの支援で積み上げてきた実務知識をもとに、戦略の策定からデータ基盤の整備、データ分析とAIの活用までを支援しています。机上の理屈で終わらせず、現場で実際に動く形に落とすところまでが私たちの仕事です。「レポートを作る時間」を「打ち手を考える時間」に変えたい方は、一度ご相談ください。

今西 涼

マーケティングコンサルタント

今西 涼

生成AIを活用したマーケティング業務の効率化・高度化支援

広告代理店でのアートディレクターを皮切りに、不動産営業、大手人材企業でのデータエンジニア・事業企画、ソフトウェア企業でのパートナーサクセスと、複数の業界・職種で成果を重ねる。
1,500名規模の営業組織にTableauを導入し、データドリブンな意思決定の定着を主導。ビジネス課題をデータとAIで解く実行力と、技術を経営成果に翻訳する力を武器に、マーケティングコンサルタントとして従事。
愛犬をカメラで追いかけるのが週末の楽しみで、お菓子作りも得意。

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