Adobe Marketo Engageの再設計と再構築のベストプラクティス
パワー・インタラクティブ マーケティング推進室(文責)
Adobe Marketo Engage(以下、Marketo)を導入したものの「思うように活用できていない」「施策の効果を測りきれていない」といった問題に直面する企業は少なくありません。
こうしたお悩みに応えるべく、パワー・インタラクティブでは、収益貢献の最大化を目指したプログラム設計・構築・運用の実践方法を紹介する『Adobe Marketo Engage チャンピオン実践講座』3回シリーズのセミナーを開催。
第2回では、ウイングアーク1st株式会社 Digital Marketing部 部長の日高 康成氏をお招きし、Marketoの再設計と再構築のベストプラクティスについてお話しいただきました。
本稿では、セミナーの内容を基に、Marketo運用改善のヒントをお届けします。
Marketoを活用する目的と課題
Marketoを導入する企業は多いものの、その本来の価値を十分に引き出せていないケースも目立ちます。
Marketoを運用する本来の目的とは
Marketo運用の本来の目的は「顧客エンゲージメントの拡大」と「マーケティングが収益に与える影響の最大化」にあります。
これらの目的を達成するには、顧客との接点をデジタルで管理し、商談に貢献している活動を可視化することが求められます。
リード獲得から商談化、受注に至るまでの一連のプロセスを把握することで、はじめてマーケティング活動の投資対効果を最大限に高められるのです。
多くの企業ではMarketoを活用しきれていない
しかし、Marketoの機能を活用しきれていない企業も多く、顧客データの管理プロセスでは以下のような問題に直面しがちです。
・売上(円)、商談数(件数)、リード数(人数)など、それぞれ単位の異なるデータがバラバラに管理されているため、マーケティング活動が売上にどのように貢献しているのかを正確に把握できない
・部門ごとに異なるデータ管理が行われているため、全体像の把握が難しい

図表1:顧客データの一貫性を保たなければ、成果の可視化は難しい
Marketoを最大限に活用するには、顧客データの整備が必須
Marketoの本来の価値を引き出すためには、まず「売上」「商談数」「リード数」など、異なる単位のデータを「リード」を軸として紐付け、各顧客がどのような接点を経て商談や受注に至ったのかを可視化する、顧客データの一元管理が不可欠です。

図表2:Marketo活用には顧客データの整備が必要不可欠
この取り組みにより、マーケティング施策の投資対効果を正確に測定し、各部門が最適なタイミングで適切なアプローチをできるようになります。
Marketoを活用する上で直面しやすい3つの問題
次に、Marketoを活用する上で企業が直面しやすい3つの問題について具体的に見ていきましょう。
1.Marketoの単独運用
顧客データやマーケティング活動の成果を正しく把握するには、SalesforceなどのCRMやSFAとの連携が欠かせません。
以下のような状況ではMarketoの価値を十分に引き出すことが困難となります。
・ツール同士の連携が不十分なまま運用している
・マーケティング・営業・CSなど関連部門全体を見渡してツールの活用方法を設計できる人材が不在
2.アウトプットを見据えた設計の不足
部門やチームごとに異なる利用方法や目的が存在している場合は、以下のような問題が発生しやすくなります。
・リード情報が重複する
・同じような項目が複数作成されている
・部門ごとにデータの定義が異なる
たとえば「氏名」欄の名称が「姓名」「氏名」「名前」と部門ごとに異なる名称で作成されていたり、「会社名」を「企業名」「法人名」など複数の項目で管理したりしていれば、データの一元管理や効果測定が難しくなります。
3.独自の運用の過剰化
「このようなメールを送りたい」「この項目を追加してほしい」といった各部門からの個別の要望に応じて改修を重ねていった結果、以下のような問題に直面するケースもあります。
・カスタム項目の増大
・独自のデータコピーやリレーションの発生
・管理が困難なプログラムの増加
・ライセンスの問題による複雑な権限設定
個別の課題解決のために実施するカスタマイズは、システム全体を複雑化させ、運用コストの増大やデータの可視性低下の原因となるため、注意が必要です。
Marketo運用上の問題解決に向けた3つのアプローチ
Marketoの価値を最大限に引き出すには、組織的な取り組みが必要です。ここでは、課題解決につながる3つの解決アプローチを紹介します。
1.共通認識の確立
Marketoの活用目的やKPIについて、関係者との間で認識を合わせることが課題解決の第一歩です。
まずはマーケティング・営業・CSなどの各部門がそれぞれ成果をどのように定義し、どのようなデータを必要としているのかを明確にし、組織全体にとっての理想的なMarketo運用のあり方を見出しましょう。
2. 求めるアウトプットを見据えた全体設計
最終的にどのようなアウトプットを得たいのかを明確にした上で、それに合わせた全体設計をおこなう考え方も大切です。
マーケティング活動においては、顧客獲得から商談化までの過程でどの施策が効果的だったのか、どの段階に課題があるのかを把握し、施策改善に活かすための分析が欠かせません。
このようなレベニュープロセス全体を俯瞰した分析を実現するためには、組織全体でどのようなデータフローを構築するのかを構想し、管理・運用し続けることが重要です。
3."Fit to Standard"の実践
「Fit to Standard」とは、個別最適化された独自運用ではなく、ツールの標準設計に合わせた使い方を基本とする考え方です。この実践により、以下のようなメリットを得られます。
・データ連携の簡素化
・運用負荷の軽減
・保守性の向上
・コストの適正化
カスタマイズが必要な場合でも、まず標準機能でどこまで実現できるかを検討し、最小限の改修に留めるようにしましょう。
Marketo活用最大化のためのグランドデザイン
Marketoとその他のツールをどのように連携させ、データをどう管理していくのかが重要になります。ウイングアーク1st社の事例を挙げながら、効果的なシステム構成とその実践方法について解説します。
1."Fit to Standard"に向けた、カスタム運用の最小化
テクノロジースタックの設計は、Marketo活用の成否を大きく左右します。
以前のウイングアーク社では、複数のツールの個別運用や、手作業によるデータ連携により、データの重複が多発していました。

図表3:ウイングアーク社のテクノロジースタック(改善前)
問題の解決に向けて、同社では以下のような改善に取り組みました。
・オンラインの効果測定、動画配信、アンケートなどのデータをMarketoに一本化
・メールアドレスなど、顧客を特定できる情報を使った入口の一本化
・名刺データ(Sansan)や企業データ(FORCAS)との連携
・Salesforceとの連携によるデータの一元管理
これにより、お客様がどのチャネルから入ってきたか、どのような活動をしているかを正確に把握できるようになりました。

図表4:ウイングアーク社のテクノロジースタック(改善後)
2.顧客データの整備と活用
顧客データの整備において特に注意したいのが重複データの問題です。
データフローを全体俯瞰せずにツールを導入していくと、以下のような状況が発生しがちです。
・展示会、セミナー、資料ダウンロードなど、施策ごとに重複リードが発生
・複数のツールを介することによる重複データの増加
・CSの活動による新規リードの作成

図表5:運用を考慮しないツール導入は、リード重複の原因となる
このような問題に対し、同社はデータの入り口をMarketoに一本化。イベント管理システムのSHANONで取得したデータも、一度Marketoに集約してからSalesforceの標準コネクタを通じて連携する仕組みを構築しました。
また、SansanやFORCASといった名刺データや企業データとも連携。データを一元管理することで、チャネル別の顧客の活動履歴を正確に把握できるようになりました。
重複データの整理では、申し込み日時が最も古いものをマスターデータとして設定し、その他の重複データはここにマージしていく方法が採用されています。
この作業により、以降の新規データは適切に紐付けられ、重複のない形で管理できるようになりました。

図表6:重複リードは日時が古いものをマスターデータとして設定
また、セミナーや展示会などで使用される企業の共有メールアドレス(info@など)での登録に対しては、メールアドレスと氏名を組み合わせた独自のユニークキー(重複を判定するための識別子)を設定。
これにより、同じメールアドレスでも異なる参加者として正しく管理できる仕組みも実現しています。

図表7:メールの重複を許可した状態で、リードの重複を排除
3.キャンペーン管理と自動化
データ整備により運用効率化が進んだことで、同社ではキャンペーン管理の自動化にも着手しました。
キャンペーン管理を自動化する前は、展示会を開催するたびにMarketoプログラム、Salesforceキャンペーン、AskOneアンケートフォームを手動で作成・連携していました。それぞれのプロセスは工数が多く、展示会前の準備に複数人のリソースを多く割かなければならない状況となっていました。
こういった問題を解消するために、AskOneでキャンペーンリクエストフォームを作成し、Marketoのプログラムを自動生成するようなフローを構築。また、SalesforceとAskOneの連携も工数を削減できるような設定コピー機能を実装しました。
その結果、展示会用プログラムの修正からフォローアップメールの準備といった一連の作業を自動化することに成功しました。

図表8:キャンペーン管理業務の自動化
Marketoを有効活用するには
収益に繋がるマーケティング活動を実現するには「Fit to Standard」を基本に、Marketoの標準機能を最大限に活用することが重要です。
部門間で運用プロセスの共通認識を持ち、シンプルなデータフローを構築することで、Marketoは本来の価値を発揮します。まずは基本に立ち返り、マーケティング活動の成果を正しく把握できる運用体制を目指しましょう。
パワー・インタラクティブでは、Marketoを活用して効率的なマーケティング活動の実現を目指す企業の支援をしています。
詳しくは『Adobe Marketo Engageテクニカルサポート』詳細ページをご覧ください。
パワー・インタラクティブ マーケティング推進室(文責)