コラム

処方増への道:製薬マーケティングオートメーションのROIを「見える化」し、効果を最大化する秘訣

文責:マーケティングコンサルタント 山下 智 

MAの成果、「見えない」ままですか?

製薬マーケティングマネージャーの皆様、マーケティングオートメーション(以下、MA)を導入し、メール配信やウェビナー管理、リードナーチャリングに日々取り組んでいらっしゃる方も多いでしょう。しかし、その活動が最終的に「どれだけ収益に貢献しているのか」を明確に測定することに、難しさを感じていませんか?

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「処方数への直接的な影響が見えにくい」「MRとの連携が不十分で、医師アプローチ後が追えない」「結局、MAが単なるコストセンターになっているのでは…」といった課題は、多くの製薬企業で共通の悩みです。

MAの真の価値は、単なる自動化ツールではなく、マーケティング活動全体の収益管理にあります。しかし、その「収益貢献」が可視化されなければ、MAへの投資は正当化されにくく、さらなる戦略的な活用も進みません。

MAの成果は、決して「見えない」ままではありません。この記事では、製薬マーケティングの特殊性を踏まえつつ、MAの「見えない貢献」を可視化し、ROIを最大化するための実践的なアプローチを具体的にご紹介します。

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処方数だけが全てではない:MAの成果を測る「中間指標」の重要性

製薬業界において、MAが直接的に処方数に影響を与えることは稀であり、その測定は非常に困難です 。だからこそ、MAが最終的な収益に間接的に貢献していることを示す「中間指標」や「先行指標」をKPI(重要業績評価指標)として設定することが不可欠です。

KGIとKPIを明確にし、「なぜ」を共有する

MA導入の失敗例として最も多いのが、「目的・目標が明確でないまま導入してしまう」ケースです。何を最終ゴールとするのかが見えないままでは、日々の運用に追われ、MAの有効性を測定できません。

・KGI(最終目標)の明確化
まずは、マーケティング活動が最終的に目指す「KGI」を明確にしましょう。例えば、「薬の処方量を増やす」「特定の疾患領域における市場シェアを拡大する」などがKGIとなり得ます。

・KPI(中間指標)の設定
次に、そのKGIを達成するために、MAが直接的に貢献できる「中間指標」をKPIとして設定します。重要なのは、単なる活動量ではなく、KGIに紐づく「質」を測る指標を選ぶことです。

-エンゲージメントの質を示すKPI
--Web講演会開催数、出席者数、視聴完了率、フォロー反応率
医師がどの程度、貴社の提供する情報に深く関心を持っているかを示します。
--eメール送付数、開封率、クリック率
医師がメールコンテンツにどれだけ反応しているか、特に重要なリンクのクリック率は興味関心の高さを示します。
--Webサイトコンテンツ作成数、特定ページ(製品詳細、疾患情報など)の閲覧数・滞在時間
医師が貴社のWebサイトでどのような情報に興味を持ち、深く探求しているかを示します。
--資材ダウンロード数
医師が特定の情報に対して能動的に行動した証拠であり、興味関心の高さを示します 。
--動画の視聴時間
製品関連動画などを最後まで見ているかも興味の高さを示します
-MR連携の質を示すKPI
--MA経由の有望医師数
MAのスコアリング機能で「MRに引き渡すべき」と判断された医師の数。これは、MAが営業活動に貢献できる「質の高い見込み医師」を創出していることを示す重要な指標です。
--MRへの情報提供アラート数
MAが医師の行動変化を検知し、MRにタイムリーなアプローチを促した回数。
--MRからのフィードバック数
対応してくれたあとのフィードバックが多いと、MA活動に興味を持ち積極的に行動してくれたという指標になります。
-メディカルアフェアーズ(MA)活動のKPI:
--キーオピニオンリーダー(KOL)訪問回数、Insight収集数
専門性の高い医師との関係構築と、そこから得られる市場インサイトの量。
--論文・学会発表数、アドバイザリーボード開催回数
貴社の科学的情報提供活動の活発さを示す指標。

・「なぜ」そのKPIなのかを共有する
KPIを設定する際には、「なぜこのKPIを追うのか」「このKPIが最終的な収益にどうつながるのか」というストーリーを社内で共有することが不可欠です。
これにより、マーケティング部門だけでなく、営業部門や経営層も共通の目標に向かって協力しやすくなります。BCGが提唱する「ノーススターKPI」のように、異なる部門間で共通の成功定義を持つ指標を設定することで、組織全体の連携を強化できます*1。

ROI測定フレームワークの導入:MAの投資対効果を「見える化」する

MAのROI(投資対効果)を直接的に測定することは難しいという課題はありますが、適切なフレームワークを導入し、継続的に改善サイクルを回すことで、その貢献度を「見える化」できます。

ROIの基本と製薬MAへの応用

ROIの基本的な計算式は「利益 ÷ 投資した費用 × 100(%)」です。MAのROI(%) = (MAによって増加した売上 – 売上原価 – MAへの総投資額) ÷ MAへの総投資額 × 100で求められます。

製薬MAの場合、直接的な「売上増加」をMA単体で測定するのは困難なため、以下のようなアプローチでROIを捉えることができます。

・MAが創出した「質の高いリード」の価値
MAが創出した有望医師が、その後MRの活動によってどれだけ商談化し、契約に至ったかを追跡します。例えば、「MA経由の有望医師からのMRアプローチ結果の集計額」を算出することで、MAが間接的に生み出した収益貢献を可視化できます。

・効率化によるコスト削減効果
MA導入によって、手作業で行っていたメール配信やウェビナー管理、リードの優先順位付けなどの業務がどれだけ効率化され、人件費や工数削減につながったかを算出します。これは直接的な「利益」としてROIに貢献します。
合わせて、医師とのコミュニケーション数としてMAからのメール配信数なども検討できます。MRが送っているメール数と比較することでコスト効率よくコミュニケーションが取れている証明ができます。

・マーケティングミックスモデル(MMM)の活用
より高度な分析手法として、MMM(マーケティングミックスモデル)の導入も有効です。MMMは、媒体ごとの投資額と売上データを用いて、各マーケティングチャネルのROIカーブを算出できる手法です。
これにより、MAを含む各マーケティング活動が、どの程度売上や処方数に貢献しているかを定量的に把握し、予算配分の最適化を図ることが可能になります。

継続的な改善サイクルを回す

ROI測定は一度行えば終わりではありません。継続的な改善サイクルを回すことが、MAの投資対効果を最大化する鍵です。

・MR部門からのフィードバックの活用
マーケティング部門からMR部門に引き渡した有望医師が、その後どうなったのか(アプローチ可否、継続ナーチャリングの必要性など)を、MR部門から定量的にフィードバックしてもらいましょう。このフィードバックは、MAのスコアリング基準(送客ルール)やナーチャリングシナリオの精度を検証し、改善するために不可欠です。

・PDCAサイクルの確立
「計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)」のPDCAサイクルをMA運用に組み込みましょう。KPIの達成状況を定期的に評価し、その結果に基づいて施策やシナリオを改善していくことで、MAのパフォーマンスを継続的に向上させることができます。

・小さな成功事例の積み重ねと共有
MAがもたらした小さな成功(例:特定のシナリオが医師のエンゲージメントを大きく高めた、MA経由の医師からの勉強会などの相談がが向上したなど)を社内で積極的に共有しましょう。具体的な成功事例は、MAへの理解を深め、さらなる投資や部門間連携を促進する強力な説得材料となります。

今すぐ始めましょう製薬MAのROI可視化

MAの成果測定とROI向上は、一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、一歩ずつ着実に、データに基づいたアプローチを進めることで、貴社のマーケティング活動は確実に進化します。

1.KGIとKPIを明確にし、社内で共有する
まずは、貴社のマーケティング活動が何を達成したいのか、そのために何を測定すべきかを具体的に定義し、関係者全員で共有しましょう。

2.MAのレポート機能を最大限に活用する
MarketoなどのMAツールには、豊富なレポート機能が備わっています。これらの機能を活用し、医師の行動やコンテンツへの反応を詳細に分析しましょう。

3.MR部門との連携を強化する
定期的なフィードバックの仕組みを構築し、MAが創出した有望医師の「その後」を追跡しましょう。この連携が、MAの精度向上とROI可視化の鍵となります。

4.小さな成功から始める
最初から完璧なROI測定を目指すのではなく、まずは中間指標の改善や、特定の施策の効果検証から始めましょう。小さな成功を積み重ねることが、大きな変革につながります。

これらの取り組みを通じて、貴社のMAは単なる自動化ツールから、真に収益に貢献する戦略的なプラットフォームへと進化するでしょう。

もし、貴社がMAの成果測定やROI向上、データマネジメントの推進において、専門的な知見や実践的な支援を求めていらっしゃるのであれば、ぜひパワー・インタラクティブにご相談ください。貴社のデジタル変革を力強く後押しし、収益最大化への道を共に切り拓きます。

詳しくは「ヘルスケア企業支援」のページをご覧ください。

引用元
*1 Six Steps to More Effective Marketing Measurement | BCG - Boston Consulting Group

山下 智

マーケティングコンサルタント

山下 智

マーケティング戦略策定

Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!

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