大切な社員が介護離職する原因は? 予防策として会社は何を支援すべき?

高齢者の人口は増え続けており、要支援・要介護認定者数はますます増加する傾向です。

高齢化が進んでいる日本の企業においては、従業員が仕事と介護の両立をしやすい支援をすることが今後ますます、重要になるでしょう。

そこでこの記事では、介護離職の実態や、企業が策定する両立支援対応モデルの例、企業の取り組み事例などを厚生労働省のデータに基づき解説します。 ぜひ参考にしてください。

これからの企業は「仕事と介護の両立支援」が必要

大切な社員が介護離職しないよう、これからの企業には「介護に直面する前から」介護離職を予防するためのさまざまな対策が必要です。

ここでは、「要介護高齢者」や「介護離職者」の現状について見ていきましょう。

介護を必要とする「要介護高齢者」が増加

厚生労働省が調査した介護保険事業におけるデータでは、要支援または要介護の認定を受けた人は2016年度で618.7万人となり、2007年度の437.8万人から右肩上がりに増えています。(下図1)

どの介護レベルでも認定される人が緩やかに増加し、将来的にもさらに介護を必要とする人は多くなる傾向です。

図1

<出典:内閣府「第1章 高齢化の状況(第2節 2)」>

実際に介護をする人は同居している家族が58.7%であり、身近にいる家族が介護を担うのが多い結果となりました。(下図2)

年齢的には男女ともに、全体の7割にあたる60歳以上の人が介護をしており、いわゆる「老老介護」の実態が浮き彫りになっています。性別では女性の介護者が多い状況です。

家族の中では配偶者が介護を担う割合が一番多く25.2%で、次に多いのは子供の21.8%となっています。子供の配偶者は9.7%と少なめで、近年では「息子のお嫁さん」など子供の配偶者が介護する例は少なく、実子が介護をする傾向です。

厚生労働省の調査(子世代の介護者のみ)によると、2001年では「息子の妻」が介護をする割合が31.0%で最多でした。しかし、その後は緩やかに減少し、2019年には13.2%と半分以下になっています。

代わりに娘や息子など「実子」の割合が増え、2019年度では娘が20.4%、息子が17.8%となっています。したがって、将来的に娘以外にも「介護する息子」は増える見込みであり、働き盛りの男性だからといって、介護から遠ざかるというわけには行かないのが現状です*1

図2

<出典:内閣府「第1章 高齢化の状況(第2節 2)」>

2020年度の介護離職者は7万人

厚生労働省の雇用動向調査では、2020年に個人的理由で離職した人は約515.2万人(全体の75%)でした。

その中でも「介護・看護」を理由とする人は約7.1万人(2%)で、男性は約1.8万人、女性は約5.3万人と女性のほうが多めです*2

共働きが主流になったとはいえ、まだまだ女性のほうが家庭における役割が多いといえます。
介護離職者の数は2013年になると急激に増加し、以降は緩やかな増減を繰り返している現状です。
2017年には介護離職者が9万人でしたが、2020年には7万人になり2万人減っています。

図3

<出典:内閣府「介護離職の現状と課題」 P4>

仕事と介護の両立に不安を感じる男性は74.4%、女性では79.8%

介護は精神的負担も重く身体的にも疲れるため、辛いと感じるのが普通です。

しかも、仕事と介護の両立ができなくなり離職をしてしまうと、経済的にも大きな打撃を受けてしまいます。
そうならないためにも企業は、従業員が仕事と介護の両立ができるような支援に取り組むことが必要です。

下図4は、厚生労働省が調査した「仕事と介護を両立することに対する不安(40 歳代・50 歳代正社員)」ついての回答結果です。仕事と介護を両立することに不安を感じている社員は、男性は74.4%、女性では79.8%と大多数を占めました。(下図4)

図4

さらに、実際に親の介護をしている人や、あるいは介護をする状況になった場合、現在の職場で仕事を続けることは、「できないと思う」または「わからない」と回答した人は 77.4%にもなっています*3

したがって、現在綱渡りのような状況で親の介護をしている人や、将来的に介護を控えている人は、非常に不安定な気持ちであると言っても過言ではありません。

しかし、介護についての相談先は家族や親族、ケアマネジャーなどでほぼ半数を占めており、勤務先に相談した人は 7.6%とかなり少ない割合となっています*4

企業に求められる社員の「仕事と介護の両立支援」への取り組み

厚生労働省では下図のように、仕事と介護の両立支援対応モデルを提唱しています。

図5

<出典:厚生労働省「仕事と介護の両立支援ガイド」P5>

ここでは、これからの企業に求められる従業員の「仕事と介護の両立支援」への取り組みについて解説をします。

(1)従業員の仕事と介護の両立に関する実態把握

最初に行うことは全社的にアンケートやヒアリングをして、従業員が抱えている介護の有無や仕事と介護の両立に関する不安などを把握することです。

アンケートやヒアリングを実施することにより、従業員が介護について勤務先で相談しやすい雰囲気を実現できます。従業員が悩んでいる問題をつかむことで、自社における介護休業制度などの方針も打ち出せるようになります。

(2)制度設計・見直し

アンケートなどで従業員の実態を把握した後は、従業員が介護をしながら働ける職場環境を構築します。具体的には、各従業員の状況に応じてフレキシブルに働ける制度を設計したり、現在の介護休業規定を見直したりすることです。

例えば、「介護休業の日数を増やす」「出退勤時刻を調整できる」「勤務時間を短縮できる」など、従業員の介護状況によって選択できるようにします。

制度を設計する際は、従業員や労働組合と意見を交換し、法定の基準を満たしているかなど、細かい点にも留意しながら変更しましょう。

(3)介護に直面する前の従業員への支援

実際に、現時点ではまだ介護をしていない従業員にも、事前に「直面したときの」情報を提供することが重要です。子育てとは違い、介護に直面する時期はいつ始まるのか予想がつきません。突然介護をすることになっても慌てないように、あらかじめ仕事と介護の両立ができる支援制度について周知しておきます。

具体的にはセミナーを開催したり、ハンドブックを作成したりして、従業員自身がいつ介護に直面しても大丈夫なように手助けをします。

(4)介護に直面した従業員への支援

まず最初にすることは、介護に直面した従業員には介護が始まった段階で相談を受け、当面の働き方や休暇の取得などについて調整することです。

次に親の介護プランが策定されたら面談を実施して、仕事と介護を両立できるような体制を構築します。最後に構築した両立プランに沿って取組みを行い、介護状況が変化したら必要に応じて働き方を再度見直します。

(5)働き方改革

仕事と介護を両立するには、職場全体で働き方改革を実行することが重要です。
長時間労働を見直したり、有給休暇を取りやすくしたりと、社内の介護制度を使いやすい社風をつくり上げます。

それには経営陣が深い理解を示し、管理職が率先して介護と仕事が両立できる職場にすることが必要です。上司が柔軟な働き方を提唱することによって、介護をしている従業員が働きやすい職場が実現します。

企業の介護離職予防の取り組み事例

厚生労働省では、「仕事と介護を両立できる職場環境」を整備するために、「トモニン」というチャーミングなシンボルマークを作成しました。
社会的問題に取り組んでいるということで、企業のイメージアップにつながります。

図6

  • 社員が仕事と介護の両立をしやすい職場環境を整備している企業が使用できる
  • 従業員の募集や会社案内、公式ホームページなどに掲載してアピールできる
  • 企業のイメージアップを図れる
<出典:厚生労働省「仕事と介護の両立支援ガイド」P1>

ここでは、介護離職予防に取り組んでいる企業の事例について解説をしましょう。

花王株式会社

花王の取り組み事例は以下の通りです。

項目 内容
1 実態把握 ・2009年11月に『介護に関するアンケート』を実施
・全国の事業所でヒアリングを実施
2 制度の設計・見直し ・法定以上の介護休業、休暇制度、短時間勤務制度等、柔軟な働き方に関する制度を整備
3 事前の情報提供 ・両立支援ガイドブック、介護ハンドブック、介護相談対応マニュアルを作成
・介護セミナーを全国で開催
4 介護に直面した従業員への利用支援 ・共済会による介護サービスに対する補助金
・相談体制を充実
5 働き方改革 ・本人の意向を重視しながら、仕事の仕方を工夫する
・マネージャー全員を対象に介護を含めたダイバーシティマネジメント研修を実施
<図7)参考:東京都産業労働局「事例4:花王株式会社」>

従業員が働きやすい職場環境づくりを会社全体で構築しています。

コマツ(株式会社小松製作所)

コマツの取り組み事例は以下の通りです。

項目 内容
1 介護休業制度 家族の介護で最大3年間取得することが可能
2 介護休暇 要介護家族1人につき年間5日、2人以上は年間10日の介護休暇(有給)が取得可能
3 介護個別相談の実施 ・2018年から社外の介護専門家による個別相談会を月2回実施
・一人ひとりの介護状況に対応したアドバイスを提言
4 セミナーの開催 ・介護専門家によるセミナーを開催
・介護の心構えを学び、仕事との両立を考える機会を提供
<図8)参考:東京都産業労働局「事例4:事例12:コマツ(株式会社小松製作所)」>

2018年には「介護個別相談会」を設置し、介護体制を整えるためのサポートや、個々の介護状況に適した対応ができる取り組みを進めています。

ミニメイド・サービス株式会社

ミニメイドの取組み事例は以下の通りです。

項目 内容
1 実態把握 介護以外にも業務について自由に書けるアンケートを毎年1回実施
2 制度の設計・見直し ・1時間単位での有給休暇を実施
・パートスタッフは自分の都合に合わせて勤務体制を選べる
3 事前の情報提供 ・会社の新たな制度やお知らせは毎月1回、会報を配布
・自社オリジナルの介護に関するパンフレットを作成
4 介護に直面した従業員への利用支援 有給休暇で消化しきれなかった休暇を積み立てした自「復活休暇」を設置
5 働き方改革 ・子どもが小学校3年生終了時までは、時短勤務の取得が可能
・メンターメンティー制度で先輩と後輩が協力し合える体制を構築
<図9)参考:東京都産業労働局「事例7:ミニメイド・サービス株式会社」>

会社スタッフの9割が女性なので、介護に直面しても長く働ける職場環境づくりを進めています。

まとめ

高齢化が進み、共働き世帯が増えるにつれて、介護は誰もが避けられない課題となっています。「仕事と介護の両立」を実現するには個人だけの力では限界があり、勤務先の企業全体で従業員が働きやすいように支援する必要があります。

企業としても優秀な社員が介護をするためにキャリアを諦めることは、大きな損失です。
社会全体で仕事と介護を両立できるようなシステムをつくることが必要といえるでしょう。

この記事を書いた人

矢口美加子

ライター・宅地建物取引士・整理収納アドバイザー。宅建・整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を取得済みです。不動産・リフォーム・不動産投資・転職・整理収納関連の記事を複数のメディアで執筆。ライター業の他に、家族が経営する投資用物件の入居者管理もこなしています。