サイトのドメイン名にも注意が必要 医療機関が遵守すべき広告ガイドラインとは

昨年12月、厚生労働省が医療機関の広告についてガイドラインの最終改訂版を公表しました。

背景にあるのは美容医療に関する相談件数が増加したことですが、美容に限らず医療機関全体のウェブサイトなどについても規制の対象になっています。

ガイドラインでは、虚偽広告はもちろんのこと、誇大広告などについてどのようなものが該当し禁止されるのかが具体的に示されています。
これまではそう珍しくなかった広告表現についても、詳細な規制が記されています。

今回は、この概要についてみていきましょう。

禁止される広告の基本的な考え方

まずガイドラインには、禁止する広告内容の大枠が次のように記されています。禁止される広告の種類は、大きく分けて5つあります。

(ⅰ) 比較優良広告
(ⅱ) 誇大広告
(ⅲ) 公序良俗に反する内容の広告
(ⅳ) 患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告
(ⅴ) 治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等の広告

<出典:「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン) 」厚生労働省 p1>

(2)の誇大広告、(3)公序良俗に反する内容、といったものはある程度想像はつきそうですが、特に(1)の「比較優良広告」については何が該当するのかの判断が難しいところです。

ここでは、まずこの「比較優良広告」からご紹介します。

医療機関における比較優良広告とは

比較優良広告とは、特定あるいは不特定の他の医療機関を比較対象にすることで、自分たちの医療機関が優位であることを示すものです。

厚生労働省は「最高」「日本一」など最上級の表現を用いたものだけでなく、さまざまな形で自らの病院等が他よりも優れているとする内容は医療に関する広告としては認められない、としています。

意外なものも事例に含まれています。

比較優良広告の代表的事例

まず、下のような「最上級の表現」は広告として規制されます(図1)。

図1:最上級の表現による比較優良広告

この「最上級の表現」は、例えそれが客観的な事実であったとしても禁止される表現にあたります。

また厚生労働省は、「最新の治療法」「最新の医療機器」といった表現については、それが医学的、社会的な常識の範囲で事実と認められるものであれば必ずしも禁止されるものではないとしています。
ただし、

  • より新しい治療法や医療機器が定着したと認められる時点においても「最新」の表現を使うこと
  • より新しい治療法や医療機器が存在しない場合でも、十数年前のものである場合など

については、「最新」という表現が虚偽広告や誇大広告にあたるおそれがあるとの見解を示しています*1

次に、他者との比較については、下のようなものが規制対象です(図2)。

図2:他者との比較による比較優良広告

明らかな他者との比較です。名指ししてもしなくても、こうした広告表現は禁止されます。

ただ、一方でガイドラインでは、

最上級を意味する表現その他優秀性について著しく誤認を与える表現を除き、必ずしも客観的な事実の記載を妨げるものではないが、求められれば内容に係る裏付けとなる合理的な根拠を示し、客観的に実証できる必要がある。調査結果等の出典による広告については、出典、調査の実施主体、調査の範囲、実施時期等を併記する必要がある

ともしています。上記に図でご紹介した事例はわかりやすいものですが、中には判断の難しいものも出てくることでしょう。その際には、医療機関を所管する地方自治体や保健所に相談するのが良いでしょう。

事実であっても禁止される表現

そして注意すべきは、「事実であっても広告に使用してはならない」という項目があることです。以下に挙げていきます。

まず、著名人が患者である場合です。著名人との関係を強調するものは、それが事実であっても広告としては禁止されます*2
他の医療機関より著しく優れているとの誤認を与えるおそれがあり、患者等を不当に誘因するおそれがあるため比較優良広告にあたる、というのが厚生労働省の認識です。

また比較優良広告でなくても、以下のようなものは省令により禁止されます。

まず、体験談の掲載です。医療機関のスタッフが書いたものだけではなく、患者本人が書いて医療機関に寄せたものであっても、掲載は省令により禁止されます。口コミサイトからの体験談の転載も規制対象です。

さらに、ビフォーアフター写真についても、説明のないものは禁止されます。下のようなものです(図3)。

図3:ビフォーアフター写真禁止の事例

この場合、写真についての説明を詳細に加筆することでビフォーアフター写真の掲載は可能になります(図4)。

図4:ビフォーアフター写真の掲載可能事例

また、手術などの実績については、件数のみの表現は禁止されます(図5)。

図5:手術件数の禁止表記事例

この場合は、対象期間を示した上で、年ごとの集計を記載する必要があります。

「◯◯センター」はNG?

次は、誇大広告についてです。

ガイドラインでは、「施設について誤認させる広告」になることを理由に、医療機関の名称として「◯◯センター」を表記することを禁じています(図6)。

図6:「◯◯センター」の表記禁止事例

これには筆者も出会ったことがありますが、ひとつの医院があたかも公的な団体、あるいは研究機関であるような印象を受けたものです。

実際に「◯◯センター」の表記が許されるのは、以下の2つの場合です*3

  • 法令の規定又は国の定める事業を実施する病院又は診療所であるものとして、救命救急センター、休日夜間急患センター、総合周産期母子医療センター等、一定の医療を担う医療機関である場合
  • 当該医療機関が当該診療について、地域における中核的な機能や役割を担っていると都道府県等が認める場合

公的機関に認定されているかどうかがポイントです。

医療機関が提供する医療の一部を担当する部門名として患者向けに院内掲示しているものをそのまま利用するという形であれば認められますが、「◯◯センター」という言葉を安易に使うのは避けましょう。
実態を伴わない「研究所」という言葉も禁止事項です。

また、このガイドラインを遵守していることを文字の大きさや色などで強調することも禁じています(図7)。

図7:ガイドライン遵守を強調するサイト記載例

ガイドラインを遵守していることを表記して何が悪いのか?と思われるかもしれません。
しかし禁止する理由の主旨は、ガイドラインの遵守は当然のことであって、それをことさら強調するのは誇大広告にあたる、という厚生労働省の認識です。

ホームページのドメイン名にも注意

また、「紛らわしいドメイン名」についても禁じられています。

以下のような事例です。

① www.gannkieru.ne.jp
ガン消える(gannkieru)とあり、癌が治癒することを暗示している。治療の効果に関することは、広告可能な事項ではなく、また、治療を保障している誇大広告にも該当し得るものであり、認められない。

② nolhospi@xxx.or.jp
「nolhospi」の文字は、「No.1Hospital」を連想させ、日本一の病院である旨を暗示している。「日本一」等は、比較優良広告に該当するものであり、認められない。

こうした、Web広告ならではの規制にも注意が必要です。

関係者はガイドラインの一読を

ガイドラインでは他にも、使用する薬剤を名前をあげて紹介することが禁じられているほか、医師の肩書きなどについても制約が設けられています。
広告として表示してはいけない場合、表示できる場合の条件などの詳細がガイドラインに表記されていますので、医療機関の関係者は一読しておきたいものです。

なお、ガイドラインは下のURLにあります。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001041462.pdf

これに関するQ&Aも公表されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/000371812.pdf

また、判断に迷った時は独断することなく、自治体や保健所に相談するのがベストでしょう。
実際に、近年発売され始めた治療薬を利用している医院が、その治療薬の効果等についてのブログを更新し続けた結果、県から注意の連絡を受けたというケースについても筆者は聞いたことがあります。

数あるサービスの中でも、医療は利用者の命や健康に直接関わるものです。
すべてにおいて、「一部だけを切り取った」ような広告表現は認めないというのが今回のガイドラインの意図とも言えます。

ガイドラインを遵守し、利用者と確かな信頼関係を構築していきたいものです。
なお、違反するものについては、広告の製作者にも行政処分などが下される可能性があります。
関連法案に理解のある企業などに、広告制作を頼むのが良いでしょう。

この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。