「静かな退職」はなぜ起こるのか?世代別価値観の違いと対話の重要性を確認しよう

「Quiet Quitting(静かな退職)」という考え方が広がっています。

「静かな退職」は、仕事に対する意欲やパフォーマンスを低下させる現象であり、企業にとって損失やリスクをもたらす可能性があることは否定できません。

どのような世代が「静かな退職」を経験しやすいのでしょうか。

今回は、米国のリーダーシップ開発コンサルタント会社の創業者が『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表した論文を参考に、「静かな退職」の問題、なぜ起こるのか、どう対処すべきかを考察します。

「静かな退職」とは

「静かな退職」とは、仕事に対して消極的で、最低限の仕事量で収入を得る働き方です。組織に属していながら、心は仕事から離れているような安らぎを感じているのです*1

特に米国でトレンドとなっているキーワードで、仕事とプライベートの間に明確な線を引き、仕事は仕事と割り切り、充実感や自己実現を求めません。

マイクロソフト社のレポートによると、世界の労働者の40%以上が「退職を考えている」といいます*2

また、日本でも厚生労働省が発表した「新規学卒者の就職率と就職後3年以内の離職率」を見ると、平成27年以降、就職率は比較的高い水準で推移しているものの、離職率は依然として30%を超えていることがわかります*3

これらの数字は、「静かな退職」の広がりを示す一つの目安になるのではないでしょうか。

■新規大学卒者の就職率と就職後3年以内離職率

世代で異なる「静かな退職」の価値観

世代によって「静かな退職」に対する考え方が異なる場合があるため、組織内で「静かな退職」の対応に取り組むには、各世代の働き方や価値観を相互に理解することが必要です。

肯定的なZ世代やミレニアル世代

Z世代やミレニアル世代は、「静かな退職」に肯定的または理解を示す人が多いと考えられます。

デジタルネイティブである彼らは、インターネットやSNSを通じて多様な情報や価値観に触れてきた世代です*4

そのため、仕事に対しても楽しいことを優先したり、ワークライフバランスを重視したりする傾向があります。

マイナビの「2023年卒業の大学生の就職意識調査」によると、卒業予定の全国の大学3年生と大学院1年生の就職観は、「楽しく働きたい」が37.6%(前年比2.8pt増)と最も多く、次いで「プライベートと仕事を両立したい」となっています*5

■就職観の推移(10年卒~23年卒)

<出典:2023年卒大学生就職意識調査|マイナビ p10>

また、BIGLOBEでは、Z世代の仕事と育児に関する意識調査を実施し、「仕事よりも大切なものがある」という質問に対して、「あてはまる」(38.2%)、「ややあてはまる」(35.4%)と回答した人が合計7割以上いることがわかりました*6

■Z世代の仕事観

また、ミレニアル世代は、社会問題への関心や貢献意識が高い人も多く、自分の仕事が社会にどんな影響を与えるのかを考える人も多いでしょう。

そのため、「静かな退職」は、自分の価値観に合わない仕事や組織から距離を置くことで、自分らしく生きるための手段として捉える人が多いと思われます。

否定的なX世代やベビーブーム世代

一方、X世代やベビーブーム世代は、「静かな退職」に否定的・批判的な人が多いと考えられます。

なぜなら、彼らは終身雇用や年功序列といった制度がまだ残っていた時代に育ってきた世代だからです。

そのため、組織に対する忠誠心や責任感が強く、仕事とプライベートの区別がはっきりしている人が多いと思われます。

また、仕事における成長や達成感、評価や報酬の向上を重視し、自分のキャリアを積極的に築こうとする人も多いのではないでしょうか。

経団連が発表した「2022年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査」では、「エンゲージメント」を「働き手にとって組織目標の達成と自らの成長の方向性が一致し、『働きがい』や『働きやすさ』を感じる職場環境の中で、組織や仕事に貢献する意欲や姿勢を表す概念」と定義しています*7

調査結果によれば、X世代やベビーブーム世代に相当するシニア層、ミドル層の管理職で高いエンゲージメントが示されています。

■エンゲージメントが高い層

これらの世代の多くは、「静かな引退」を、仕事に対する情熱やプロ意識の喪失、組織やチームへの貢献度の低さとして捉えるかもしれません。

「静かな退職」の原因はダメ社員ではなく、ダメ上司

『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載された論文の著者による分析では、「静かな退職」の一因は上司にあるとされています*8

2,801人の上司が13,048人の直属の部下から評価されたデータによると、最も評価の低い上司は、最も評価の高い上司と比較して、約4倍の数の部下が「静かな引退」をしていることがわかりました。

  • 最も評価の低い上司:部下の14%が「静かな退職」者であり、努力を惜しまない部下は20%
  • 最も評価の高い上司:部下の3%が「静かな退職」者であり、努力を惜しまない部下は62%

私たちの多くはキャリアを積むある時点で、「静かな退職」に向かわせる上司のもとで働いた経験があります。これは、過小評価されている、評価されていないと感じることからくるものです。

上司が偏見を持っていたり、不適切な行動をとったりしていたのかもしれません。社員のやる気のなさは、上司の行動への反動です。

また、多くの中堅社員は、「目標や目的を達成するために最善を尽くす」という強い意志を持った上司のもとで働いた経験があるのではないでしょうか。

彼らが時に遅くまで働いたり、早朝から仕事を始めたりすることを恨まなかったのは、上司が常に鼓舞してくれたからなのです。

「静かな退職」を防ぐために上司ができる3つの行動

もしあなたが上司だったら、「静かな退職」をしている部下がいたらどうしますか?

解決策は簡単で、部下に「自分は大切にされている」と思ってもらえるような努力をすることです。

前出の研究では、113,000人以上の上司のデータを分析し、高く評価される上司は部下から「信頼」を得ていることを明らかにしました*9

上司として、部下から信頼を得るための3つの行動を紹介します。

1.直属の部下全員と良好な関係を築く

部下とつながることを楽しみにし、彼らとの対話を楽しむことを意味します。共通の興味はお互いを結びつけ、違いは刺激になります。

関係づくりが難しい部下もいますが、これは、年齢、性別、民族性、政治的指向などの違いに起因していることが多いものです。このような部下との共通点を探し、発見して、相互信頼を築きましょう。

2.一貫性を持つ

2つ目のポイントは、いつも一貫性を持つようにすることです。上司は、正直であるだけでなく、約束したことをやらなければなりません。ほとんどのリーダーは、自分は他の人が思っているよりも、一貫性があると信じています。

3.プロフェッショナルである

あなたは自分の仕事をよく理解していますか?自分の仕事について、何か最新の情報を持っていますか?あなたの意見やアドバイスは、他の人から信頼されていますか?

プロフェッショナルな人は、物事をはっきりと見せたり、進むべき道を示したり、信頼を築くための適切な考えを持っているものです。

上司が上記のような方法で信頼関係を築くことで、部下による「静かな退職」の可能性の多くを排除できます。

世代が違えば、働き方や価値観も違ってきますが、それは正解でも不正解でもありません。大切なのは、お互いが相手への期待を理解し、尊重することです。

そうすることで、「静かな退職」を防ぎ、より働きやすく、よりエンゲージメントの高い職場環境が作れるのです。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。