時代が求める幸福のカタチ ウェルビーイングと消費行動の変化

最近、さまざまな場面で「ウェルビーイング」(well-being)という言葉を耳にすることが多くなってきました。

SDGsでも、目標3として「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」が掲げられているのをご存じでしょうか*1

世界では関連ビジネスが拡大し、米国では750兆円の市場規模があると言われています*2

日本でも、これからの時代を担うミレニアル世代(Z世代)がこの価値を重視し*3、日本社会に深く根付いていくことが期待されています。

ウェルビーイングとは一体何なのでしょうか?

ウェルビーイングとは

直訳すると「幸福」「健康」という意味があります。

世界保健機関(WHO)憲章の前文にある一節を引用しましょう。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the  absence of disease or infirmity.

健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、 精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。

<出典:世界保健機関(WHO)憲章とは | 公益社団法人日本WHO協会>

つまり、ウェルビーイングは心身の健康だけでなく、精神的に幸せを感じたり、社会的に良い状態にあったりと、すべてが満たされていることを含めた広義の「健康」と読み取れます。

「幸福(Happiness)」は一時的な幸福感を指す言葉であるのに対し、ウェルビーイングは継続的に満たされた状態を指す言葉です。

また、ウェルビーイングと似た言葉に、医療・福祉分野で使われる「ウェルフェア(welfare)」があり、こちらは「福祉」という意味を持っています。

どちらも同じように使われますが、特徴的な違いは、ウェルビーイングは目的、ウェルフェアは手段として使われることが多いことです。

日本におけるウェルビーイングの現状

日本のウェルビーイングの実態はどうなっているのでしょうか。

内閣府が日本のウェルビーイングの動向を知るために実施した調査報告書によると、「生活満足度」の全体平均は5.76ポイントと、前回比0.02ポイントの差で横ばいとなりました*4

男女別では、男性は前回より0.05ポイント減少し、女性は0.08ポイント増加しています。過去3回の調査と同様、男性より女性の方が指数の水準が高いのが特徴です。

■生活満足度の推移と前回調査からの変化(男女別)

<出典:満足度・生活の質に関する調査報告書2022~我が国のWell-beingの動向~2022年7月 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)p3 >

また、生活満足度を若年層(15-39歳)、ミドル層(40-64歳)、高齢層(65-89歳)の年齢層別に見ると、高齢層の水準が高く、ミドル層の方が低い傾向にあることがわかりました。

ただし、ミドル層の生活満足度は前回調査で大きく低下しましたが、今回調査では0.1ポイント上昇し、回復しています。

■生活満足度の推移と前回調査からの変化(年齢階層別)

<出典:満足度・生活の質に関する調査報告書2022~我が国のWell-beingの動向~2022年7月 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)p4 >

地域別に満足度の推移を見ると、デルタ株感染者の急増と自粛期間の長期化により、前回調査時に生活満足度が低下していた東京圏が、今回は0.22ポイントの上昇を見せました*5

三大都市圏は、地方圏よりも高い生活満足度を示しています。

■生活満足度の推移と前回調査からの変化(地域別)

<出典:満足度・生活の質に関する調査報告書2022~我が国のWell-beingの動向~2022年7月 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)p4 >

つまり、日本の生活満足度は、男性よりも女性の方が高い状態が続いており、その上昇幅は40~64歳の年齢層と東京圏でより大きいことが、調査結果から推測されるのです。

気になるのは、ウェルビーイングに影響を与える要因は何かということでしょう。これについても、調査結果を踏まえて考察したいと思います。

働き方の変化によるメンタルヘルスの意識向上

なぜ今、ウェルビーイングが注目されているのでしょうか。

その大きな理由のひとつは、世界中に急速に広まった新型コロナウイルス感染症です。

一向に収束する気配がないこの感染症は、私たち一人ひとりの生活や価値観を大きく変えています。

例えば、働き方です。

調査結果によると、コロナ禍前と比較した場合、「勤務時間が減った」割合が「勤務時間が増えた」割合を上回りました*6

東京圏では、「通勤時間」の減少割合が大きく、「健康状態」「WLB(ワークライフバランス)」の満足度は、勤務時間が減少した男性で高くなっています。

■ワークライフバランス満足度と影響をもたらす時間の使い方

<出典:満足度・生活の質に関する調査報告書2022~我が国のWell-beingの動向~2022年7月 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)p20 >

コロナ禍以降、人々の健康に対する意識は非常に高くなっており、身体だけでなく、心の健康の重要性も認識されるようになったのではないでしょうか。

コロナ禍の新生活で、「毎日、家で家族と食事する」「テレワークの普及で通勤の必要がなくなったので、毎朝、散歩する」などの機会が増え、「自分にとっての幸せとは何か」をあらためて考えるようになったのかもしれません。

ウェルビーイングによって変化する商品の価値

多くの企業はこれまで、商品の機能的な価値に重点を置いてマーケティング活動をしてきました。

しかし、この流れは変わりつつあります。

例えば、「食品」は健康維持のための基本ですが、別の意味であらためて注目されています。

日本の20代から70代を対象にした「食の価値観や体験をテーマにした定性調査」によると、「消費者が潜在的に意識している食の5つの価値」が明らかになりました*7

【消費者が潜在的に意識している食の5つの価値】

  • 仲間・家族と楽しめる
  • 自分へのごほうび
  • 自分のパフォーマンスを最大化してくれる満足感
  • 食研究を通じた情熱が持てる
  • 自身の明日を創る


「5つの価値」から、消費者は日常生活における食を必ずしも長期的な健康と結びつけて考えておらず、食の価値を心の豊かさや楽しさ、小さな幸せ感として捉えているということがわかります。

企業は商品・サービスの開発やマーケティング戦略において「食=ヘルスケア」を連想しがちですが、消費者一人ひとりの価値から出発して、いかに食体験を提供するかという視点で、食を見直す必要があると言えます。

食の分野では今後、「料理や食事の時間がその人の人生を豊かにする」という、ウェルビーイングの価値観そのものにアプローチした新しい商品やサービスが生まれてくるでしょう。

今後、消費者の生活がどのように豊かになっていくのか楽しみです。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。