未婚率の上昇で「おひとりさま」市場はどう変わる?勝ち組マーケティングの戦い方は?

近年、日本の未婚率は上昇傾向にあり、社会にさまざまな課題をもたらしています。

しかし、この現象をビジネスチャンスととらえ、新たな商品やサービスを提供する企業も増えてきています。

今回は、未婚率上昇の背景と課題を解説し、同時に新規ビジネスの可能性についても考察します。

なぜ未婚率は上昇するのか?

近年、日本では未婚率が上昇しています。2020年には20代の未婚率が男性で72.9%、女性で62.4%に達しています*1

■年齢別未婚率の推移

<出典:令和4年版 少子化社会対策白書|内閣府p11>

なぜ未婚率は上昇しているのでしょうか。

内閣府の「令和4年版少子化社会対策白書」によると、未婚者(25~34歳)が独身でいる理由は、男女ともに「適当な相手にめぐり会わない」(男性:45.3%、女性:51.2%)という回答が最多となりました*2

次いで、男性では「まだ必要性を感じない」(29.5%)、「結婚資金が足りない」(29.1%)、女性では「自由や気楽さを失いたくない」(31.2%)、「まだ必要性を感じない」(23.9%)という理由が上位を占めています。

さらに、過去の調査と比較すると、「異性とうまく付き合えない」という理由は男女ともに増加傾向にあります。

■25~34歳未婚者が独身にとどまっている理由

<出典:令和4年版 少子化社会対策白書|内閣府 p16>

未婚の背景には、出会いや経済的事情などさまざまな理由があります。
また一方で、独身というライフステージやその自由さを肯定的に評価し、恋愛関係に抵抗感を持つ人が一定割合いることがわかります。

かつては、ある程度の年齢になると、職場や親族の仲介で結婚相手候補と出会う機会がありました。
現在は、男女ともに出会いの機会が増え、出会いの場が自由化されたことで、個人のコミュニケーション能力がより重視されるようになっています。
それが「まだ結婚する必要性を感じていない」という回答に繋がり、社会の結婚観の変化に影響している可能性があります。

未婚率上昇にともなう課題とは

未婚率の上昇に関わる課題のひとつに、少子化があります*3

少子化が進むと、労働人口が減少するため「人口オーナス」となり、経済に負担をかけることになります。

「人口オーナス」とは、生産年齢人口(15~64歳)に対する従属人口(14歳以下の年少人口と65歳以上の高齢者人口の合計)比率の上昇により、社会保障費などが増加し、経済成長が阻害されることを指します*4*5

オーナスとは「負担」「重荷」を意味する一方、生産年齢人口の比率が相対的に上昇することを「人口ボーナス」といいます。

また、急激な人口減少は国内市場の縮小やイノベーションの低下を招き、労働力不足は長時間労働やさらなる少子化を招くことが懸念されます。

さらに、地方自治体が行政機能を維持することが困難になる可能性もあります。

高齢者人口と現役世代の人口が1:1に近づく社会の到来は、医療・介護費の不均衡をさらに強め、財政破綻のリスクを高めるかもしれません。

しかし、合計特殊出生率が回復すれば、高齢者を支える生産年齢人口が増えるという指摘もあります。

未婚化による「おひとりさま」ビジネスの可能性

課題もありますが、未婚率の上昇は新たなビジネスの可能性も生みだしています。

例えば、ブライダルビジネス市場は、未婚化という逆風にさらされています。年率マイナス2%程度のペースで市場縮小が続いています*6

■ブライダル産業のマーケット推移

しかし実際には、さまざまな工夫を凝らして新しいサービスを開発し、逆風に立ち向かっている事業者も少なくありません。

例えば、東京のフォトスタジオでは、1人でウェディングドレスを着て撮影する「ソロウェディング」というサービスが人気を集めています*7

利用者の半数以上は、1年以内の結婚予定はありませんが、ウェディングドレス姿での撮影を希望する20代〜30代の未婚の女性です。

料金は、ヘアメイクやドレス込みで1万9800円から。撮影現場に友人や家族を同伴して花嫁姿を披露し、祝福を受けたり、撮影後に高級レストランで女子会を開いたりすることもできます。

「ソロウエディング」サービスは、ブライダル業界の希望のひとつになるかもしれません。

コロナ禍でも注目された「おひとりさま」市場

未婚率の増加とは別に、コロナ禍による行動制限や人間関係の疲れから、ひとりの時間を楽しむために「ソロ活」をする人が増えています*8

ソロ活の代表的なものは、「ひとり焼肉」、「ひとりカラオケ」、「ソロキャンプ」などです。これまで家族や友人と楽しんでいたイベントが、ソロ活動になっています。

ソロ活で新たなマーケットを見出した事例を紹介しましょう。

例えば、焼肉業態の弱点である「ひとりでは行きにくい」という個人客のニーズに応えたのが、一人焼肉専門店「焼肉ライク」のコンセプトです*9

店内には、無煙ロースターを1人1台備えたカウンター席があり、注文から支払いまで、ほとんど店員を介さずに利用できるようになっています*10

一般的な焼肉店では、お客様1組あたり1〜2時間の滞在が必要ですが、焼肉ライクでは、お客様1人あたりの滞在時間が平均25分と短いことが特徴です。

簡素化された店舗運営は高回転・高収益を生み出し、2020年12月の実績では、新橋店/21席で1,579万円、秋葉原店/32席で1,759万円、池袋店/21席で1,562万円と圧倒的な売上を叩き出しました。

ソロ社会のニーズから生まれるさまざまな新しい発想は、人口減少に悩む他業界にも貴重なヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

「おひとりさま」をマーケティングで活用するには

最後に、「おひとりさま」のトレンドをマーケティングに活かすヒントをご紹介します。

経営コンサルタントの大前研一氏によると、「ソロ活市場」において、パーソナライゼーションがキーワードとなっています*11

自分1人の欲求や希望を満たすことが重視され、商品やサービスを提供する側はパーソナルな発想に転換する必要があるのです。

特にファッションや美容の分野では、ユーザーに合わせた商品提供が求められることがあります。

例えば、中国発のファッション通販「SHEIN」は、従来のグローバルSPA(製造小売)型企業とは異なり、毎日数千点の新商品を投入し、超少量多品種生産で世界にわずかしかない服を販売しています*12

同じ服が世界にわずかしかないことが、パーソナライゼーションなのです。

SHEINの売上高は2021年に2兆円を超えると推定され、時価総額でユニクロやZARAを上回っています。

SHEINの取り組みは、これまでとは異なるパーソナライゼーションを重視した企業戦略として注目されています。

スマホが情報を得るメディアの主流となり、AIによる情報のパーソナライズ化が進む中、パーソナライズの重要性がますます高まることは理にかなっています。

個人に最適化されたサービスや商品を提供することで、おひとりさまの方たちがより充実したライフスタイルを送れるよう支援することは、より大きなビジネスチャンスに繋がると言えるでしょう。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。