「モノを持たない」ことがカッコよい?リキッド消費・ソリッド消費とマーケティング

昨今、モノの所有や特定のブランドへの愛着が希薄になりつつあると言えます。この現象を表現したのが「リキッド消費」という概念です。

この概念を用いることで、これまで不明瞭であった消費スタイルの変化を見ることができるかもしれません。

今回は、今後拡大が予想されるリキッド消費について、その基本を解説します。また、リキッド消費にマッチしたサービスにはどのようなものがあるのかも紹介していきます。

リキッド消費とは

「リキッド消費」は、2017年にマーケティング学者のバルディとエクハルトが提唱した言葉で、「儚さ(はかなさ)」「アクセスベース」「脱物質的」と特徴づけられる現代の消費スタイルの変化を表すものです*1

商品・ブランドと消費者の関係が短命で刹那的であることを「儚さ」、レンタルやシェアリング、サブスクリプションなど所有権の移転がない取引を「アクセスベース」と呼びます。

また、消費者の嗜好がモノからコトに移行するなど、モノの有形性に無頓着になる消費行動を「脱物質的」と表現しています。

リキッド消費と対になるのが従来型消費である「ソリッド消費」で、「永続的」「所有的」「物質的」であるという特徴があります。

ソリッド消費の場合、消費者が得る価値は、長期的な商品所有による安心感や自己アイデンティティの形成です。

一方、リキッド消費では、好きな時に気のむくまま使えるという柔軟性、効率性、利便性、コストパフォーマンスに価値を見出せます。

このため、リキッド消費は液体のようにつかみどころがありません。

消費は今、ソリッド消費からリキッド消費へと拡張しているのです。

拡大するリキッド消費

青山学院大学の久保田教授によれば、入手可能なデータから、「リキッド消費化の傾向」を把握できるといいます*2

例えば、以下のグラフは、Googleのオープンサービスである「Google Trends」のデータを用いて分析したものです。

■日本における「所有」「借りる」「コスパ」という言葉の検索量の相対的変化

上記の通り、「所有」の検索ボリュームが減少傾向にある一方で、「借りる」は増加傾向にあります。

また、「コスパ」という言葉の検索ボリュームも時間の経過とともに上昇しています。

これは、日本の消費者が「所有」よりも「レンタル」「リース」「シェア」への関心を高め、コストパフォーマンスを重視した合理的な購買行動を志向していることの表れと解釈できます。

リキッド消費なサービスとは

では、リキッド消費のサービスとは具体的にどのようなものでしょうか。

現代の消費者ニーズに対応したサービスの特徴を解説していきます。

シェアリングサービス

近年、「シェアリングエコノミー」という言葉がトレンドとして知られるようになりました。

シェアリングエコノミーとは、空間、移動、モノ、スキル、お金などを売買したり、貸し借りしたり、共同で所有したりする経済・社会モデルです*3

空間を共有する「Airbnb」、移動手段を共有する「Uber」、スキルを共有する「クラウドソーシング」、お金を共有する「クラウドファンディング」などがシェアリングエコノミーの代表例で、さまざまな共有サービスが生まれています。

■シェアリングエコノミー領域MAP

消費者側にとってのメリットは、必要な時に必要なモノやサービスを安価に利用できることです。

一方、提供する側は、自分の不動産やスペース、スキルなどを使ってビジネスを始められるため、初期費用が多くかからず、遊休資産を有効活用できるというメリットがあります。

需要があり、共有できるものであれば何でも提供できるため、事業として成立しやすいといえます。

サブスクリプションサービス

「サブスクリプション」とは、「定期購読・継続購入」という意味で、商品やサービスを所有・購入するのではなく、一定期間利用する権利に対して料金を支払うビジネスモデルのことです*4

月額課金制のサービスとしては、音楽配信サービスのSpotifyや動画配信サービスのNetflixなどが挙げられます。

■サブスクリプションサービス(B toC)カオスマップ2021

定額制は、契約期間中は使い放題で、使えば使うほどお得になるシステムです。消費者にとっては、音楽が聴き放題、動画が見放題というメリットがあります。

また、実際に商品やサービスを購入しなくても、比較的安価な月額料金で利用できる手軽さや、モノを所有しないので保管場所や管理が不要になるなどのメリットもあります。

また、提供側にもいくつかのメリットがあります。

例えば、一度契約が成立すれば、解約しない限り売上は継続されるため、ユーザー×単価による売上予測が容易になります。

また、ユーザーの利用履歴が蓄積されるため、そのデータを分析・活用することで継続的なサービス改善が可能です。

サブスクリプションビジネスは、一般的にデジタルコンテンツを配信するイメージがありますが、企業が保有する既存の商品やサービスに組み込むことも可能であり、その方法は様々です。

最近では、モノのサブスクリプションサービスも登場しています。

家具や洋服、おもちゃなど、定期的に買いたいものはサブスクリプションサービスとして提供しやすいアイテムと言えるでしょう。

リキッド消費への対応は待ったなし

デジタル時代の深化や少子高齢化社会の到来などにより、消費スタイルや所有構造も当然ながら大きく変容しつつあります。

第一に、経済的理由による倹約志向が強まり、必要なときにだけ使うという消費スタイルが出現しています。

第二に、消費の対象が変化しています。レジャー、コミュニケーション、イベントなどにお金が使われるようになりました。

若い世代ほどコト消費に重きを置く傾向があり、周囲のコミュニティを大切にするライフスタイルが影響していると推察されます*5

また、成熟した消費社会では、消費者の価値観が変化しています。安くて良いものがたくさんあり、たくさんお金を払うことがステータスだった時代は終わりました。

わざわざ物を買う必要性もなくなってきたと言えます。

従来のソリッド消費がなくなることはありませんが、リキッド消費という消費スタイルは今後も広がっていくでしょう。

これからのマーケティング戦略は、拡大し続けるリキッド消費に対応する必要があるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。