シャトレーゼ、広告なしで注目度急上昇を支えた5つの広報戦略

<出典:公式サイト|シャトレーゼ>

洋菓子メーカーのシャトレーゼは、「ブランド・ジャパン2023」の「一般生活者編」において、前年の81位から30位に順位を大幅に上げる「総合力」ランキングの躍進を果たしました*1

この成功は、テレビやSNS、出版など多様なメディアを活用した広報活動に起因しています。シャトレーゼがどのような取り組みを通じて、現在の高いブランド力を獲得したのでしょうか。

広報戦略の源はテレビ出演がきっかけ

山梨県甲府市を拠点に、洋菓子からアイスクリーム、パン、ワインまで幅広い商品を展開するスイーツブランド「シャトレーゼ」。国内750店舗、アジアを中心に160店舗を展開し、過去10年間で売上高を2倍以上に伸ばす成長を遂げています。

成長を支えているのは、創業者のアイデアと素材や製法へのこだわり、そして山梨の豊かな自然を生かした商品力です。

シャトレーゼの知名度は2010年代前半には低いものでしたが、白州工場での工場見学を通じたアイスクリーム食べ放題が人気となり、年間33万人以上が訪れるようになりました。

その時点ではシャトレーゼには「安くておいしい」というイメージしかなかったといいます。

しかし2014年、創業者がテレビ番組「カンブリア宮殿」に出演したことをきっかけに、創業者のストーリーを伝えることの重要性を痛感し、素材にこだわってきた菓子事業における同社の優位性を確信しました。

以来、同社はメディア露出の幅を広げ、消費者に同社の商品へのこだわりを理解してもらうことに広報活動の重点を置いています。

シャトレーゼ流、5つの広報戦略

広報室がかかげるミッションは、戦略的な露出を通じてシャトレーゼブランドを菓子業界のトップリーダーとして位置づけ、ブランドの認知度・理解度・好感度を高め、ファンを増やし、お客さまの購買意欲や来店意欲を高めることです*2

広報のミッションに基づく戦略は以下の通りです。

1. 創業の精神や経営理念を伝える

創業者の斎藤氏は1954年に小さな和菓子屋を設立し、夏場に人気のない和菓子から始まりましたが、アイスクリーム事業に進出し、10円のシュークリームで成功を収めました。

斎藤の既成概念にとらわれない発想力が、困難な状況をチャンスに変えたのです。

シャトレーゼは2021年に、創業者の物語を伝える『シャトレーゼBOOK』を出版し、商品紹介や豆知識、著名人のコメントを盛り込んでコアなファンを増やし、情報発信を強化しています。

株式会社シャトレーゼのオフィシャルブック

その後、幅広い層に向けたビジネス書『シャトレーゼはなぜ「おいしくて安い」のか』を出版し、メディアの注目を集め、さらに世間に認知されるようになりました。

2. 素材と製造方法へのこだわりを伝える

広報の使命は、商品の魅力を的確に、魅力的に伝えること。

シャトレーゼの商品は、"おいしさ "の源である素材と製法にこだわり、その根底に「ファームファクトリー」というビジネスモデルを据えています。

この仕組みにより、中間コストを削減し、求めやすい価格で商品を提供することが可能になりました。

ファームファクトリーでは、山梨の自然を活かし、近隣から新鮮な食材を調達。新鮮な生乳は毎朝自社工場で加工し、近隣の養鶏場から仕入れた卵も自社で加工しています。

こうした新鮮な素材を使うことで、不要な添加物を使わないおいしいお菓子が作られるのです。広報活動では、こうした特徴を強調し、発信しています。

3. ターゲット別に露出メディアを設定する

商品の魅力を伝えるには、ニュース・ビジネス系メディアと情報・バラエティ番組のバランスを考える必要があります。

スイーツは視覚に訴えるものがあり、わかりやすいため、情報番組やバラエティ番組での露出が多いものです。

しかし、トレンドだけでなく、持続的な成功を収めるためには、ビジネス・ニュース系メディアでも注目されることが重要です。

ビジネス系メディアへの露出を増やすためビジネス書を出版

また、地方から全国に話題を広げる取り組みも重視しており、全国ネットのテレビ番組で取り上げてもらえるよう、地方支社と連携しています。

4. 話題を提供する広報企画づくり

シャトレーゼの広報は商品だけでなく、他の菓子メーカーにはない話題作りにも力を入れています。

例えば、新型コロナウィルスの影響で試食会が制約された2020年には、同社初のオンラインケーキ試食会を開催。事前に参加者に商品を送り、商品開発者がネット上で説明する形式をとりました。

試みは成功し、地元メディアにネット試食会のことを伝えると、全国紙の支局を含む複数のメディアが取材に訪れました。

参加したメディアは商品に関する記事を書き、イベントを取材したメディアもまたイベントの記事を配信し、1つの企画で2つの露出を実現しました。

5. 地方における広報の強化

シャトレーゼは全国展開しているため、地域ごとの店舗が地元の顧客から支持されることを重視し、広報活動もその観点から展開しています。

広報担当者は限られているため、地方メディアからの取材依頼は店舗やエリアマネージャーに任せています。ただし、初めて出店するエリアでは、メディアや一般の人々から大きな注目を集めるため、広報が積極的にアプローチします。

コロナ禍でも、グランドオープンの前々日には、感染防止のために一社一時間という枠を設けてメディア向けの取材日を設定し、翌日から記事が出始め、オープンに向けた盛り上がりを生み出す流れを作りました。

また、オープン後にはテレビなどが再度取材に訪れ、お客様のコメントを収録して放送するケースもありました。

シャトレーゼのSNS戦略

シャトレーゼの広報戦略の5つのポイントを見てきましたが、ここで特筆したいのが同社のSNS戦略です。

2017年4月17日、シャトレーゼはツイッターでトレンドワード1位、1日約13万ツイートと急速に話題となり、新規来店客が急増しました。

シャトレーゼはもともと広告を打たず、口コミを重視する方針でしたが、SNSの力を認め、本格的に活用を始めました。ツイッターを開始した年に約60万人のフォロワーを獲得しています。

ファンがインフルエンサーとなって拡散し、同社の販促部員による真摯なツイートやこまめなコメント返信、リツイートが功を奏しました。

SNSを意識した広報を行ったところ、マスメディアとSNSの相乗効果が予想以上であることを実感しました。

マスメディアへの露出は、これまでまいた小さな情報を引き出し、大きなPR効果を生むことがわかりました。そこで、大きな話題とニッチな話題を同時に発信する必要性を認識し、「戦略的ロングテール広報」と名付けて活用しています。

シャトレーゼの広報戦略に学ぶブランド力の強化

シャトレーゼは、菓子業界で話題作りのトップリーダーを目指して広報活動を行っています。経営理念や企業情報の発信に加え、親しみやすいブランドイメージづくりに注力し、創業者のストーリーや素材へのこだわりを積極的に発信しています。

こうした取り組みがシャトレーゼの成功と成長を支え、ブランド力の強化にもつながり、2022年には「ブランド・ジャパン」に初ノミネートされ、2023年にはさらなるランクアップを果たしました。

近年、市場の変化や国際化の進展、顧客ニーズの多様化にともない、企業のリブランディングが増えています。しかし、ブランディングに継続的に取り組む企業はわずか18.5%に過ぎず、予算や人材不足、適切な相談先の不在が進展を妨げています*3

また、「第7回魅力度ブランディング調査」によると、生活者の約半数が業界をリードしビジョンを持つ企業に関心を示しています*4

特に今日の急速に変化する社会・経済環境においては、ビジョンと結束力のあるリーダーシップを持つ企業は、持続可能な成長を達成する上で魅力的に映るのでしょう。

シャトレーゼの広報戦略は、幅広い分野で使えるシンプルな仕組みです。ブランド構築やブランド強化の参考にしてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとして主にマーケティングやビジネスに関する記事を執筆しています。