サステナブルマーケティングとは?地球と共存する新しい形

「サステナブルマーケティングって何だろう?企業としてどう取り組めばいいのだろう?」 そんな疑問をお持ちかもしれません。

近年、環境への配慮が求められるなか、サステナブルマーケティングは大きなトレンドとなっています。

過去には、「環境問題を金儲けの道具にしている」と批判的に見られるケースもありました。しかし現在は、「お金の流れを、サステナブルなものに集めよう」という世界的な動きがあります。

この動向を無視すると、企業のブランドイメージ低下や市場での競争力喪失が懸念されます。

本記事では、新しい時代のマーケティング戦略を、どう形成していけばよいのか、考えていきたいと思います。

サステナブルマーケティングとは?

最初に、サステナブルマーケティングの概念と、その背後にある地球環境の課題について、確認しておきましょう。

サステナブルマーケティングの概念

サステナブルマーケティングは、経済的利益と社会的責任を両立させるマーケティングの手法です。

たとえば、企業が製品やサービスを提供する際、環境への影響を最小限に抑える工夫を実践します。リサイクル可能な素材の使用や、エコフレンドリーな製造プロセスなどが挙げられます。

さらに、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の実践もこのマーケティング手法に含まれます。

SDGsは、2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて、定められたものです。

地球の限界

人間の活動が地球システムに及ぼす影響を客観的に評価する方法として「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」という考え方があります。

以下は環境省による資料からの引用です。

「生物地球化学的循環、生物圏の一体性、土地利用変化、気候変動については、人間が地球に与えている影響とそれに伴うリスクが既に顕在化しており、人間が安全に活動できる範囲を越えるレベルに達している」 と分析されています。

SDGsが掲げられた背景には、「喫緊を要する地球環境の限界」という深刻な課題が存在します。

サステナブルマーケティングの重要性

サステナブルマーケティングは、近年の企業活動において欠かせない要素となっています。

その重要性について、3つの観点から見ていきましょう。

1.環境意識の高まりとビジネスへの影響
2. 企業の社会的責任とブランドイメージ
3. エシカル消費の台頭

環境意識の高まりとビジネスへの影響

環境意識の高まりは、金融面への影響として、顕在化しています。

欧州諸国と比較すると、サステナブル投資に後れを取っていた日本においても、サステナブル投資が加速しています。

<出典:令和3年版 通商白書|経済産業省 p131>

「サステナブルなものに、お金が集まっている」 という現状があり、その傾向は今後ますます強まっていくでしょう。

企業は、サステナブルな方針を明確にし、投資家や消費者にアピールする必要があります。

企業の社会的責任とブランドイメージ

SDGsへの取り組みは、企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)です。

CSR活動は、企業が社会に対して果たすべき役割であり、消費者との信頼関係の構築につながります。

帝国データバンクの資料によれば、SDGs達成への貢献で向上する企業価値として、「企業好感度」「社会的評価」「社員のやる気」が上位を占めています。

<出典:令和3年版 通商白書|経済産業省 p133>

近年のマーケティングシーンでは、「ブランディング(ブランド価値を高める活動)」の分野が重視されます。

企業好感度や社会的評価といったブランドイメージが、マーケティング効果に与える影響は大きなものです。

逆に、機能性や価格面で魅力的な製品を手がけていても、ブランドイメージが悪ければ、ビジネス成果には結びつきにくいといえます。

エシカル消費の台頭

エシカル消費の台頭は、サステナブルマーケティングの重要性を一層高めています。

【エシカル消費とは?】

エシカル(※)消費とは、地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のことです。
私たち一人一人が、社会的な課題に気付き、日々のお買物を通して、その課題の解決のために、自分は何ができるのかを考えてみること、これが、エシカル消費の第一歩です。
(※)エシカル=倫理的・道徳的

<出典:エシカル消費とは|消費者庁>

エシカル消費は、とくにSDGsの12番目「つくる責任 つかう責任」と関連が深い概念です。

「何を買うか考えるときの、ひとつの尺度」として、定着が進んでいます。

【参考:具体例の一部】

  • エコ商品を選ぶ:リサイクル素材を使ったものや資源保護等に関する認証がある商品を購入。
  • 寄付付き商品を選ぶ:売上金の一部が寄付につながる商品。
  • 障がいがある人の支援につながる商品を選ぶ:働きたい障がいがある人を支援している事業者の商品。
  • 地元の産品を買う:地産地消によって地域活性化や輸送エネルギーを削減。
  • 被災地の産品を買う:被災地の特産品を消費することで経済復興を応援。
  • 認証ラベルのある商品を選ぶ:FSC森林認証、MCS認証、RSPO認証 ※認証機関は他にも多数あり、これらはその一例です。
<出典:エシカル消費ってなぁに?|消費者庁>

実際、エシカル消費に対し意欲的な人の割合は増えています。

以下は、2016年と2019年を比較すると、「割高であってもエシカル消費につながる製品・サービス・サービスを選びたい」という人が増えていることを示すデータです。

<出典:令和3年版 通商白書|経済産業省 p136>

サステナブルマーケティングの実践ポイント

続いて、サステナブルマーケティングの実践ポイントをご紹介します。

ターゲット市場

ターゲット市場を選定する際に参考になるのが、今後の市場機会の動向です。以下は2030年における市場規模の見込みを示すデータです。

<出典:令和3年版 通商白書|経済産業省 p134>

次の分野が、サステナブルマーケティングのターゲット市場として、成長すると考えられます。

  • モビリティシステム
  • 新しい医療ソリューション
  • エネルギー効率
  • クリーンエネルギー
  • 手頃な価格の住宅
  • 循環経済による製造
  • 健康的なライフスタイル
  • 食品廃棄物
  • 農業ソリューション
  • 森林生態系
  • 都市インフラ
  • 建築ソリューション
  • その他

マーケティング戦略

エコロジーとエコノミーの両立は、サステナブルマーケティング戦略の核心です。企業は利益を追求する一方で、環境や社会に対する配慮を実践します。

【戦略立案のポイント】

  • ビジョンの明確化:エコロジーとエコノミーを両立させるビジョンを明確にし、全メンバーに共有することから始めます。たとえば、環境への影響を最小限に抑えつつ、高い利益を上げる方法を模索し、それをビジョンとして設定します。
  • KPI設定:ビジョンを実現するためのKPI(重要業績達成指標)を設定します。リサイクル率の向上や在庫廃棄の削減など、数値で目標を管理します。
  • 製品開発:エコロジーとエコノミーのバランスを考慮した製品開発が必要です。たとえば、リサイクル可能な素材を使い、製造過程でのエネルギー消費を抑えるような製品設計を行います。
  • コミュニケーション戦略:サステナブルなブランドコンセプトを消費者に訴求するためのマーケティングコミュニケーションを実行します。エコフレンドリーな製品であることを打ち出すだけでなく、顧客にどのようなベネフィット(便益)をもたらすか、クリアに伝えます。
  • ステークホルダーとのコミュニケーション:企業の取り組みをステークホルダーに報告し、信頼を築くことも大切です。サステナビリティレポートの公開や、第三者機関による認証を取得するなどの手段が考えられます。

サステナブルマーケティングの事例

最後に、サステナブルマーケティングの事例を2つ、ご紹介します。

ザンビアでのバナナペーパー事業(株式会社ワンプラネット・カフェ)

東京都港区の株式会社ワンプラネット・カフェは、人と地球の持続可能性の追求を経営理念として掲げ、バナナペーパー事業を行っています。

【具体的な取り組み(一部引用)】

ザンビアで、オーガニックバナナ農家から廃棄される茎を買い取り、バナナペーパー工場で雇用を生み出しながら、繊維を絞り乾かす。その後、繊維を日本の福井に送り、越前和紙の技術を活用し、少ないエネルギーや水で紙を生産している(和紙の伝統技術の継承にも貢献)。日本の印刷会社や紙製品メーカーと共に協議会を立ち上げ、様々なバナナペーパー商品を開発。ザンビアでは、シングルマザーなどの社会的弱者の雇用にも力を入れている。

この事例は、持続可能性とビジネスの相乗効果を見事に示しています。

とりわけ、ザンビアの社会的弱者の雇用と日本の伝統技術の継承が、1つのビジネスモデルで実現されている点が印象的です。

廃棄ビールからジンや消毒用アルコール(⽊内酒造株式会社)

茨城県那珂市の木内酒造株式会社は、江戸末期創業の老舗酒造メーカーです。

コロナ禍で大量廃棄されるビールを活用した取り組みが、注目を集めました。

【具体的な取り組み(一部引用)】

コロナ禍における営業自粛により、飲食店では大量のビールを廃棄せざるを得ない課題を抱えた。これを解決するため賞味期限が迫ったビールを集約、無料で蒸留を行い「クラフトジン」として返送する取組を実施。国内各所から集められたビールと飲食店等関係者の想いが、ぎっしり詰まったクラフトジンが誕生した。
(中略)
コロナ禍で工場から出荷されずに大量に蓄積されたビールを原料に、手指消毒用の高濃度エタノールを製造。県内に工場を立地するアサヒビールやキリンビールとの協力の元、両社の工場から集めたビールを当社工場にて蒸留、製造した手指消毒用高濃度エタノールには「UNITEFORIBARAKI」の名を冠し、当時消毒用アルコールの入手に苦慮していた関係各社の工場が立地する自治体や医療機関等各種機関に無償提供した。

この事例は、危機をチャンスに変える力を持つサステナブルマーケティングの優れた一例といえます。

廃棄されるビールを有効活用するとともに、地域社会へ貢献している点が評価されます。

さいごに

未来を見据え、持続可能な成長を目指す企業にとって、サステナブルマーケティング戦略は必須の道といえます。

消費者の意識の変化、環境への配慮、社会的な責任を果たす企業の役割など、多岐にわたる側面が絡み合い、時代のニーズは強まる一方です。

「サステナブル」や「SDGs」の言葉を聞く機会が急増しましたが、一時のブームと見誤ることなく、取り組みを進めていただければと思います。

この記事を書いた人

三島つむぎ

ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。