「どむぞうくん」は救世主? “絶滅危惧種”だったドムドムハンバーガーが復活したワケ

<出典:ドムドムオンラインショップ|株式会社ドムドムフードサービス>

日本で最も古いハンバーガーチェーンである「ドムドムハンバーガー」(以下、ドムドム)の人気が再燃しています。

一時期は業績が低迷しましたが、SNSで注目を集める革新的なメニューや他業界とのコラボ商品を積極的に提供することで立ち直りました。

2021年、2022年には黒字化を実現しています*1。どのような変化がドムドムで起きたのでしょうか。

ドムドムはマクドナルドよりも長い歴史を持つ

ドムドムは、マクドナルドが日本に上陸する1年前の1970年に創業しました。1990年代には全国に400店舗以上展開していましたが、親会社であるダイエーの経営危機や競合他社の影響で業績が悪化。「バーガー界の絶滅危惧種」と呼ばれたこともありました。

ところが、2017年にレンブラントホールディングスによって再生され、2年前には利益を上げるようになりました。

コロナ禍でも、ドムドムは「浅草花やしき」や「市原ぞうの国」などに新しい店舗を出店し、行列を作るほどの人気を集めました。ただし、現在の店舗数は28店舗*2で、マクドナルドやモスバーガー、バーガーキングなどと比べるとかなり少ないと言えるでしょう。

とは言え、ここ数年でドムドムは勢いを増しています。調査会社「ネットらぼ」の「一番おいしいと思うハンバーガーチェーン店」の調査では、3位にランクインし、大手チェーンにも負けない存在感を示しています。

斬新メニューを生む「社内の風通しのよさ」

ドムドムの成功には、3つの重要なポイントがあると考えられます。

1つ目は、他のハンバーガーチェーンにはない斬新なメニューの提供です。

例えば、「丸ごと!!カニバーガー」や「丸ごと!!カレイバーガー」といった特別なハンバーガーは、ユニークで目を引く要素を持ち、SNSで話題となりました。

「丸ごと!!カニバーガー」浅草花やしき店バージョン

創造的なアイデアは若い世代を惹きつけ、新たなファンを獲得する一因となっています。

メニューの斬新さの裏には、社内で積極的な提案が行える環境があります。自由な意見交換や提案を推奨する風土があり、それが価値創造を促進しています。

メニュー開発者には、おいしさを前提に付加価値の高い商品開発を求め、提案されたメニューは基準を満たしていれば採用されます。

2022年には12種類の新作と6種類のコラボハンバーガー、計18商品がリリースされました。

2019年の「丸ごと!!カニバーガー」は、わずか1ヵ月で3ヵ月分の在庫が完売するほどの大ヒットとなり、味わった読者も多いのではないでしょうか。

ドムドムらしさを活かしたコアコンセプトの再構築

ドムドムの成功における第2の要因は、ブランドの強みを理解し、ドムドムに関心を持つ人々が共感できるコンセプトで統一したことです。

社長の言葉を引用しましょう。

「社長就任から1年半で分かったのは、創業から50年間のドムドムハンバーガーを守ってくださったのはドムドムを愛してくれたお客様とスタッフだということです。
このブランドを次の50年まで育むのが私の役目。そのためには企業本位の営業施策ではなく、お客様とスタッフの人生に寄り添い、『共感共存』するブランドを構築すると決心しました」

ドムドムの社長は、自社ブランドがスタッフや顧客に深く愛されていることに気づきました。「ドムドムブランドとはこういうものだ」と自己主張するのではなく、スタッフや顧客に共感されるブランドとして再構築する道を選択しました。

ブランドコンセプトを具現化した一例が、同社のオリジナルマスコットである「どむぞうくん」のマークをあしらったマスクの製造・販売です。

コロナ禍の影響でマスクが不足するなか、同社は自社でマスクを製造し、まずはスタッフに支給、その後顧客に販売。この取り組みは話題となり、Eコマース事業の展開につながりました。

象のロゴ「どむぞうくん」のオフィシャルグッズの売れ行きが順調であり、宝島社から公式「FANBOOK」も発売された

出店戦略にも同じ考え方が反映されています。

通常、出店先は交通量や競合店などの要因を分析して決定しますが、ドムドムは社会的意義や顧客の体験価値を重要視して出店先を選定しています。

その一例が「ドムドムハンバーガー浅草花やしき店」で、社長は次のように語っています。

「コロナ禍の終わりが見えない中で、どこが回復したら日本は元気になるのだろうか? と考えた時に、観光地だと思ったんですね。定点カメラの映像に映し出されるこの観光地が元気になれば、コロナに打ち勝って元気になれると思いました。
自分たちの売り上げよりも、ドムドムの元気や勇気を社会に伝えたいと強く思ったんです。花やしきさんは日本で一番古い遊園地で、ドムドムは日本で一番古いハンバーガーチェーン、そこに親和性も感じました」

季節的な変動を見越して最小限の売上を計画していましたが、予想を上回る売上で大成功となりました。加えて、これまで接点のなかった顧客層にドムドムを認知してもらう機会にもなったといいます。

SNSのフォロワーは「大事な顧客」

ドムドムにおける成功の第3の要因は、熱心なファンを育てる姿勢にあります。

特にSNS(主にTwitter)を通じて、新商品が登場する度に、店舗へ足を運んだり遠方から定期的に訪れる熱狂的なファンが多数存在しています。

また、実際に店舗に足を運ばない人々であっても、同社のアパレル商品などに関してツイートするファンも存在します。

外食チェーンの中には、新商品の宣伝のためにリツイートキャンペーンをする場合もありますが、ドムドムはこの手法を意図的に採用していません。

なぜなら、プレゼントを目当てにしてリツイートする一部のユーザーが存在し、彼らがドムドムのハンバーガーに本当の関心を抱いていないにもかかわらずリツイートしてしまうことで、真の信頼関係の築き上げが難しくなるリスクがあるからです。

リツイートキャンペーンと比較して、SNS上でのファン作りは努力を要するものの、フォロワーが自発的にツイートを行うなど、エンゲージメントは高いとされています。

たとえば、博品館TOY PARKとのコラボ商品「どむぞうくんぬいぐるみボールチェーン」の販売において、多数のツイートや感想が寄せられ、オンラインストアではわずか2分で、実店舗ではわずか4日で完売しました。

アパレル関連の取り組みでも、ファンは自発的に情報を拡散してくれるのです。

ファッションブランド「シロップ.(Syrup.)」とのコラボレーション例

<出典:ドムドムハンバーガーとシロップ.(Syrup.) コラボレーション始動!|PR TIMES - 株式会社ドムドムフードサービス>

新たな層にブランドを浸透させるためには、他社とのコラボレーションが不可欠であり、Twitterを含むSNSとそのファンの存在が、広報手段として非常に重要です。

同社はTwitterを通じて顧客の声を集め、営業戦略や店舗運営に活かしています。ファンの魅力づけとマーケティングの両面において、Twitterは不可欠な存在となっています。

成功の秘訣は顧客志向と「思いやり経営」

コロナ禍において2期連続で黒字を達成したドムドムの施策には、共通して「固定観念にとらわれないこと」があります。

競合他社のやり方を基準にせず、「顧客本位」や「スタッフ本位」といった観点を重視し、独自のアプローチを追求したことが成功の要因となりました。

ドムドムは「人に対する思いやり、優しさ、愛情、親切さ」を「ホスピタリティ」とし、同社のコンセプトとして掲げています*3

「思いやり」が経営の根底にあるからこそ、同社は大胆な挑戦が続けられるのではないでしょうか。

これからもドムドムは、「こだわりを捨てる」姿勢と「思いやりを持つ」という理念のもと、私たちに新たな楽しい出会いを提供してくれることでしょう。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとして主にマーケティングやビジネスに関する記事を執筆しています。

*1:「ドムドムバーガー」復活を支える3つの"意外性"|東洋経済ONLINE

*2:店舗案内|ドムドムハンバーガー

*3:ドムドムとは|ドムドムハンバーガー