マーケティングの未来:生成AIが広告とコンテンツ制作を変革する

ChatGPTやGPT-4の登場で、AIがキャッチコピーを書いたりバナーのデザインを生成したりするのは珍しいことではなくなりました。

実際、クリエイターにとって生成AIは身近なものになりつつありますし、広告大手では生成AIを積極的に導入する動きがあります。

広告やマーケティングは生成AIの出現によってどのように変化していくのか、導入事例から未来像を探ってみましょう。

広告制作では3割のクリエイターが利用 その用途は?

株式会社宣伝会議が広告会社・制作会社などで働くクリエイターを対象にアンケート調査を実施したところ、何らかのAIツールを利用したことがあるという回答が3割にのぼっています(図表1)。

図表1:AIツールを使ったことのあるクリエイターの割合

そして、実際の生成AI活用事例はこのようなものです*1

【実際のAI 活用事例】
<テキスト生成>

  • ・キャッチコピー作成、メールの添削、翻訳
  • ・キャッチコピーの一次案100案出し

<企画立案>

  • ・アイデア出しや壁打ちの相手
  • ・方向性を検討するたたき台として

<画像生成>

  • ・企画書に使う参考画像の作成
  • ・参考資料画像、プレゼン資料用画像、Vコン用素材、合成用背景、美術セットプロップ

生成AIが広告の多くのステップで使われていることがわかります。

広告大手で広がる生成AIの利活用

広告大手では、すでに生成AIを積極活用する動きが見られます。

まずサイバーエージェントのケースです。
サイバーエージェントでは広告効果を予測する自前のAIシステムを利用しており、キャッチコピー文案の自動生成機能の活用を始めたことで「既存の広告に勝つ」確率を24%に引き上げました。14ポイントの改善だといいます*2

ネットが便利になるにつれ、広告の「賞味期限」がどんどん短くなっているという現状があります。
サイバーエージェントの場合、制作するバナー広告の数は3か月あたり10万本と、この2年で4割増えたといいます*3
その事態に対処するために始まったのが生成AIの利用です。
かつ、量だけではなく「勝つ」広告を作成しなければなりませんから、広告効果を予測するシステムの導入は欠かせなかったことでしょう。

また、電通デジタルは「∞AI(ムゲンエーアイ)」を用いています。これは、広告の訴求軸を見定め、クリエイティブを自動で生成し、さらにその効果予測と、効果改善までをサポートするというすべての段階に関与するAIです。AIの利用を広告効果の予測にとどめず、広告制作にかかるPDCAすべての段階に活用することによって、質と量を担保していくというものです(図表2)。

図表2:電通「ムゲンAI」の効能

これにより、配信した広告の結果を見て改善点までもAIが提案してくれるという具合です。非常に高いスピード感で「旬」な広告を生み出し続けられるというわけです。
例えばムゲンエーアイを構成する一つのAI、改善サジェストAIはこのようにはたらいています(図表3)。

図表3: 「ムゲンAI」による広告の改善提案

こうした指摘を改善し、超高速でPDCAを回して新しいバージョンとして再び世に放っていき、再びAIによってその効果が測定され、分析され、更新の方向性を提案していくというまさに無限ループです。

「てのひらを 隠して二人 日向ぼこ」

キャッチコピー案の作成やグラフィックまで、これは人間のクリエイティビティの領域にAIが隣接してきているということであり筆者も他人事ではいられません。
生成AIは表現の世界にどこまで切り込んでいくのでしょうか。

2017年に北海道大学の川村秀憲教授ら博士らによって「俳句をAIに詠ませる」という試みが始まっています。「AI一茶くん」は50万句もの俳句を学んでおり、「最初の言葉はランダムに選び、その単語の次につづきそうな単語や文字を”出現確率”とともに列挙していきます。俳句の言葉選びの特徴も心得ています。
そして「17音で読める」「季語が一つだけ含まれている」などの条件を出力の条件にしたところ、下のような句が生成されました*4

てのひらを隠して二人日向ぼこ

唇のぬくもりそめし桜かな

初恋の焚火の跡を通りけり

白鷺の風ばかり見て畳かな

裏方の僧が動きて麦の秋

筆者は素直に、最初の句はよくできていると思います。
AIは人間のように情景を思い描きながら言葉を綴っているわけではありません。「確率論」で言葉を繋いだだけの結果ですが、お互い手を握り合っていると「てのひらを隠して」という状態になることから、仲睦まじく手を繋いで、また「日向ぼっこ」という素朴で静かな時間をカップル、老夫婦、あるいは親と幼い子が共有している。
これは筆者の勝手な解釈ですがああ、良い光景だな、と感じてしまいました。

4句目以降はなんとか解釈を試み、何も浮かばなかったというわけではありませんがやはり「共感」という意味では厳しいかなと感じました。筆者の能力不足もあるかもしれませんが。

ただ、AIは語句の意味を知っているわけではありません。ただ、「つながりの確率」だけでこれらの俳句は生み出されています。ただ逆に言えば、50万句を「勉強」した人が詠む俳句とも言えます。

広告業界におけるAIと人間の共存方法

しかし広告大手の現在の動きとしては、先に述べたサイバーエージェントの場合も、デザインなどの主導権は人間にあります。AIはあくまで提案役なのです*5。博報堂DYホールディングスも似たような生成AIを利用していますが、AIが生成した見出しなどについては人間が微調整を加え、それを再学習させるという形を取っています*6

また、電通に関しても、「もっとフォーマルに」「もっとカジュアルに」といった”書き味”の指示を出す、また、元のデータベースにあたって情報を確認する「正誤判定」の機能が人間の操作領域として入っています*7

人の手の介入なしにAIを一人歩きさせているわけではありません。

実際、冒頭にご紹介したアンケートの中でも、AIを活用する上で課題や不安に思っていることが挙げられています*8

【AI を活用する上での課題や不安に思っていること】
1位 責任の所在が不明瞭……55.3%
2位 使用規制の必要性……37.4%
3位 人がつくったものか見分けがつかない……36.6%
4位 他社の制作物の無断利用……33.6%
5位 自身の制作物の無断転用……24.8%

とくに著作権の問題はクリアすべき課題といえるでしょう。

「誰に何をどう伝えたいのか」だけは忘れずに

勝つための質の良い広告を大量に生み出さなければならない、というのは大変なことです。個人のクリエイティビティに頼るのでは時間が足りない、というのが現実なのでしょう。

しかし根本は「自分達は何を伝えたいのか」ということです。

ついAIで生成されるコピーを見てしまうと、自分たちが考えるよりこちらの方が優れているのではないか、と思い込みがちです。先に紹介した俳句AI一茶くんには、字余りや字たらずの句も生成してみてほしいなあと筆者は思います。そこが「人間らしさ」だからです。

問題は「何に優れているのか」という部分です。

言葉選びが優れているのか、語呂が良いのか、ターゲットに配慮できているのか。

生成AIがもたらすのは、その「候補」や「たたき台」にすぎないという前提で接しなければ今度は逆に競合他者と似たような広告を作りかねないという危険性を孕んでいます。

さて、この記事を書くにあたって、ChatGPTにタイトル候補を挙げてもらいました。

コラムのタイトルとしては合格点です。ただ、このコラムは解説に重きを置いているのでこれで良いのですが、心情や雑感をつづるコラムの場合、こういったタイトルは馴染まないでしょう。

AIは大量の仕事をしてくれるけれど、あくまで自分の補佐役であるという主従関係は忘れないようにしたいものです。また、AIとやりとりするうちにこれまでになかったアイデアが生まれた、となるのが最も良い姿だと筆者は思います。

この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。