白血病とともに生きられる時代に求められる医療とコミュニケーション

かつては死に至る病だった白血病もいまでは多くの患者さんが生きられる時代になりました。それゆえに、新たな課題も生まれています。
そこで、「世界CML Day」に合わせて、ノバルティスファーマによるイベントが行われました。テーマは、「慢性骨髄性白血病(CML) とともに生きる〜日常生活で病気と上手に付き合っていく方法、 治療を続けながらの生活や医師、家族、友人とのコミュニケーションについて、 一緒に考えてみませんか?〜」。イベントのレポートをお届けします。

イベントは、ハレノテラスすこやか内科クリニック院長の渡邉健先生による講演「CMLの今と昔」から始まりました。

CMLとはこんな病気

慢性骨髄性白血病(CML)とは、かつては死に至る病のイメージが強かった病気です。年間約1500人が診断され、白血病全体の15%を占めます。

慢性期には、進行は遅く、病状はほとんどありませんが、移行期を経て、急性期に入ると、貧血、出血、高熱など急性白血病のような症状が出て、急速に病状が悪化します。健康診断などで白血球が増えていることから診断につながるケースも少なくありません。慢性期の間に病気を発見し、治療につなげることが重要です。

CMLは、本来は別々にあったBCR遺伝子とABL遺伝子が何らかのきっかけで一つに融合することでできるフィラデルフィア染色体(BCR/ABL融合遺伝子)を原因とします。BCR /ABL融合遺伝子からBcr -Ablタンパクが作られ、Bcr -AblタンパクにATPというエネルギーが注入されることでスイッチが入り、白血病細胞が増加し、発症します。

CMLの治療の歴史

1950〜1970年の治療は抗がん剤や放射線治療によるものでしたが、当時の医療の限界から、症状の緩和を目的として行われていました。1980〜2000年代にはインターフェロンによる治療が始まり、長期生存も望めるようになってきましたが、一方で強い副作用が課題でした。

2001年に、BCR /ABL融合遺伝子に作用するチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)という画期的な分子標的治療薬が登場したことで、患者さんの多くが病気とともに生きられるようになりました。Bcr -AblタンパクにTKIでフタをすることで、スイッチとなるエネルギー(ATP)がくっつくことを防ぎます。すると、「白血病細胞を増やせ」という指令が出せず、白血病をやっつけることができるというメカニズムの薬です。

現在はより工夫された第3世代のTKIが出ており、2022年には新たにSTAMP阻害薬も登場しています。STAMP阻害薬は、TKIが効かないCMLに対しても有効性が示されています。治療標的の部位にTKIが結合できなくなったCMLにおいて、スイッチの役割を果たすポケットをふさぐことで、ATPそのものがくっつけないようにするという新しいメカニズムの薬です。

根治のための治療としては、1950年代から始まった同種造血幹細胞移植は現在も有効な治療法です。

このようにCMLの治療目標は、「緩和からともに生きられる病気へ」、「より副作用が少なく、QOL(生活の質)を維持しながら、より深い寛解(目に見えるがんが消えた状態)を得ることへ」と変遷を遂げています。

治療しないで寛解を目指すTFR

これまではTKIは中止できないと考えられていましたが、近年では、治療を継続しないで寛解を維持できる治療不要寛解(TFR)も行われています。
BCR/ABL融合遺伝子レベルが0.01%以下の深い分子遺伝学的寛解を2年以上維持できている患者さんでは、治療中止状態で寛解を維持することが可能な場合もあります。患者さんの40〜60%で薬の再開が必要になるとされますが、再開後はほとんどの患者さんで再び深い分子遺伝学的寛解となります。
そもそも深い寛解に到達できる患者が約半数、そこから治療なしを継続できる方が約半数、おおよそ25%程度の患者がTFRの恩恵を受けられるのではないかと想定されています。
まだ患者さん全員が目指せる治療法ではありませんが、希望となる治療法が始まっています。

TFRを目指す理由に関して、海外でアンケート調査を行ったところ、次の通りの回答が得られました。アンケート以前は経済的理由が最も多いのではと考えられていましたが、実際は内服薬の副作用を回避したい(561人)、長期的な副作用の心配(429人)が多く、医師が思う以上に副作用に悩む患者さんの姿が浮き彫りになりました。経済的な理由と答えた人は想定よりは少なく10%でしたが、98人いました。高額な分子標的薬による経済毒性(治療費の負担など経済的な理由でがん患者さんや家族に経済的・心身的影響が出ること)の問題が指摘される中、高額療養費制度によって限度額が設定されているとはいえ、長期に渡り薬代を支払っていかなくてはならない負担は社会全体で考えなくてはならない課題です。

地域の中でCML患者さんをサポートするダブル主治医制

現在は外来で治療ができる病気になったCMLですが、大学病院などの大きな病院で治療を続けることが前提で、決まった曜日にしか受診できない、3時間待ち3分診療、体調が悪いタイミングで相談しづらいなど、「治療は進歩しているのに、受診形態や生活への影響は改善していないのでは?」という疑問を抱いたという渡邉先生。新しい受診方法があってもよいのではないかと、血液内科医として、ハレノテラスすこやか内科クリニックを開業しました。血液内科は開業医で診ることが難しいと考えられていましたが、病院とクリニックの病診連携、また、地域の他のクリニックとの連携も積極的に行っています。かかりつけ医と専門医のダブル主治医制を取ることで、患者さんが地域の中でCMLとより付き合って行きやすい環境の実現に取り組んでいます。

CMLという病気のことを伝える・伝わるコミュニケーション

続いて、健康診断でCMLが見つかったという患者さん2名も加わり、自治医科大学附属病院・附属さいたま医療センター血液科教授神田善伸先生を座長にクロストークが行われました。

「家族・職場・友人にCMLを理解してもらう難しさ」が異口同音に語られ、いかに第3者からは見えづらいのかが再認識されました。

「上司にどう伝えるのかが難しかった。具体的に伝えることを心がけていたが、匙加減が難しい。配慮はありがたいが、仕事を外されてしまうとまたアサインされることは難しい。
微妙なニュアンスやわかってほしい部分こそ伝わりづらい」

「しんどいときにはしんどいと伝える。治療薬の副作用と仕事の両立は、家族や直近の上司など身近なところから伝えることが両立の一歩になる。難しいが、両立は可能。家族や職場の理解を得られるコミュニケーションが大切」

と、患者さんならではの声も。

「白血病の社会的イメージとCMLが持つイメージのズレもある。CMLがどんな病気かを積極的に話していくことで理解が得られるようになっていく」と神田先生。

渡邉先生からは、「複数のチロシンキナーゼ阻害剤、STAMP阻害薬、減薬につながるTFRと治療の選択肢も増え、副作用のコントロールも進んでいる。ただし、安心と安全は異なるので、不安なことがあれば主治医や相談支援センターに相談を」とのアドバイスがありました。

CMLに限らず、がんという病気とともに生きられる時代になったからこその課題に悩む患者さんは、意外と身近にいるかもしれません。私たちみんなに、いまの時代に合った医療コミュニケーションが求められています。

取材協力:ノバルティスファーマ株式会社
2023年9月23日開催イベント「慢性骨髄性白血病(CML) とともに生きる〜日常生活で病気と上手に付き合っていく方法、 治療を続けながらの生活や医師、家族、友人とのコミュニケーションについて、 一緒に考えてみませんか?〜」より

この記事を書いた人

今村美都

がん患者・家族向けコミュニティサイト『ライフパレット』編集長を経て、2009年独立。がん・認知症・在宅・人生の最終章の医療などをメインテーマに医療福祉ライターとして活動。日本医学ジャーナリズム協会会員。